夫は好きな事をするために移住したから少し位不便な事があっても納得している。
しかし付き合わされる妻は全く違う。
虫がいるだの寒いだのは我慢が出来る気楽な問題だ。
厄介なのは人付き合い。
いきなりやってきてお茶を飲みながら長居をする客あしらいは大変だ。
帰らないのだ、年寄りは暇だから。
家事がある主婦の都合などお構いなし、朝やっと帰ったかと思ったら昼も来るなんて珍しく無い。
だって年寄りは暇だから、話相手が欲しいのだ。
もっと厄介なのが婦人会、これが定期的に色々な事をやる。
盆踊りだ、祭りの出し物だと忙しい。
中でも月一の定期会合が難関。
或る移住者が初めて月の当番になった時の事だ。
会合ではみんなでカレーを食べるのが習わしだった。
そこで移住者夫人は何時も自分の家で食べているカレーを作った。
高めのルーを使い、具を煮込んでとろとろにした自信作だ。
しかし…
「これはオラ達のカレーじゃねえ!」
婦人会のラスボスは味見をすると血相を変えた。
カレーは捨てられ新たに作り直しを命じられたのである。
地域のカレーは安物のルーを使い具はガリガリと音を立てて食べるようなカレー。
それ以外を他所者が作って出すなど許されない行為だったのだ。
この一件以来移住者夫人が地域の人と距離を置いたのは言うまでもない。
離婚したかどうかは知らないが夫の決断は妻の不満になったのだ。