7月10日に投開票されると見られる第24回参議院通常選挙。今回、2013年の参院選(第23回参議院選)と2014年の衆院選のデータをもとに票の動向を探るとともに、各選挙区の事情に迫り、当落を予想。次期参院選で見るべきポイントについても指摘していく。
5回連載の最終回は四国ブロックと九州ブロックについて分析する(第1回北海道・東北、第2回北関東ブロック、東京ブロック、南関東ブロック、第3回北信越・東海、第4回近畿・中国)。「評価」は◎が安泰、○は善戦、●は苦戦を示す。
合区となった徳島・高知
鳥取・島根区とともに、次期参院選では合区となったのが徳島・高知だ。地元では選挙区をくっつけられたことにつ いての反発は大きい。昨年12月12日と13日に徳島新聞、高知新聞や共同通信などが実施した世論調査によると、徳島県内では64.4%が合区に反対で、 46.4%が「1県1選挙区に戻すべき」と回答。「選挙制度を抜本的に見直す」が38.1%だった。
一方で高知県では合区に反対が69%で、「1県1選挙区に戻すべき」が50.5%。「選挙制度を抜本的に見直す」が34.9%で、徳島県より反対する割合が大きく、激しい抵抗感が伺える。
自民党は合区として第1回目の選挙に、旧徳島選挙区選出の中西祐介参院議員を充てた。中西氏は合区に対して最も反対したひとりで、自民党内で審議された時、廊下で待つ記者らに反対をアピールしていた。高知県連が推薦した元県議の中西哲氏は比例にまわる。
野党統一候補は、弁護士の大西聡氏。共産党は候補を降ろして大西氏に推薦を出したが、大西氏側は保守票を取り込むために共産党のカラ―を薄めたい思いがあり、推薦を申請していなかった。共産党が表に出ないように調整することが、民進党のこれからの課題となっている。
自民にとって油断できない愛媛県
愛媛はどうか。民主党(当時)は2013年の参院選では、県連レベルで衆院議員だった永江孝子氏の擁立を画策した。しかし党本部はみんなの党と候補者を調整することを主導し、その結果、民主党は候補を立てることができなかった。
そのせいで県内の比例票は激減し、幹事長として選挙を仕切った細野豪志氏が7月31日に謝罪に出向いたほどだった。この時の反省もあって、次期参院選では野党統一候補が永江氏でまとまっている。
永江氏は2014年の衆院選で落選した後、いったんは政界引退を表明していたが、連合愛媛や市民団体の要請を受けて参院選への出馬を決意。自民党にとっては南海放送の元アナウンサーで全県で顔と名前が知られている永江氏は手ごわい存在で、「油断はできない」とみている。
香川は、民進党と共産党のギクシャクを調整しきれなかった。
「香川で共産党の統一候補を立てるべきだ」――。5月16日の会見で、共産党の小池晃書記局長がこう主張した。理由は32ある1人区で、ひとつくらいは共産党候補を擁立すれば、野党の選挙協力姿勢が明らかになるからだ。共産党の田辺健一氏はすでに昨年8月に立候補を表明し、県内で活発な運動を展開。前代未聞の連合訪問まで実現させている。
1981年生まれという若さに加え、このような大胆な行動力を持つ田辺氏に対しては、民進党からの評価も高い。「共産党でなければ、すぐさま公認するのに」という声も聞かれた。
結局、民進党香川県連は5月10日、県議の岡野朱里子氏の推薦を発表した。苦言とも解することができる16日の小池氏の発言は、これについてのものだった。
実は4月末に、いったんは田辺氏を統一候補にすることで合意がなされていたという。しかし民進党の県連の中で「共産党の候補では戦えない」という声が強く、ぎりぎりまで候補を探していた。そしてようやく岡野氏の擁立となったのだ。
今回、共産党を立てないならば、悩ましい問題もある。次期衆院選だ。民進党の県連関係者は、「香川のせいで、共産党が次期衆院選で民進党に協力しないと言いだせば困る」と悩ましげだ。果たして、民進党はどのような判断をするだろうか。
※追記 朝日新聞 共産系で野党統一候補へ 参院選・香川、民進が取り下げ (5/20)
福岡は自民盤石、公明が独自候補
続いて九州。福岡から見ていこう。自民党の目標は70万票。過去の実績からいって、これは不可能な数字ではない。ましてや1人擁立では、容易に達成するだろう。
公明党は定数が2から3に増員されたことをうけ、元外務官僚の高瀬弘美氏を擁立した。もともと福岡選挙区が3人区時代には、独自候補を擁立していた公明党。24年ぶりの独自候補を擁立するため、九州全土から応援部隊が集められることになっている。
引退する大久保勉参院議員の後継として民主党が公募で選任したのは、元福岡放送アナウンサーの古賀之士氏だ。福岡選挙区は2010年に比例区で当選した西村正美氏も狙っていた。夫の山本剛正元衆院議員が福岡県を地盤としていたからだ。しかし所定数の推薦人を集められなかったため、選挙区からの出馬を断念。次期参院選も比例区からの出馬の予定だ。
おおさか維新の会は32歳の森上晋平氏を擁立したが、浸透度が課題だ。2014年の衆院選では橋下徹維新の党共同代表(当時)が福岡にやってきて演説したが、現場を取材した記者によると、「立ち止まって聞く人は少なかった」という。それでも過去2回の選挙で獲得した票数は、共産党を上回る。共産党は苦しい闘いになっている。
村山富市元首相を生みだした大分は、社民党の勢力が強い。よって民主党(当時)と社民党と連合が協議し、民主党(当時)と社民党が交互に候補を出しあう「大分方式」という非自民の共闘が行われてきた。次期参院選で出馬するのは、民進党の足立信也参院議員だ。
2013年の参院選では、第3極と言われるみんなや維新も参加できる候補の擁立を試みたが、選定過程のもつれから、社民党系の候補が擁立されたものの、連合と民主党(当時)は推薦未満の支持や自主協力だった。
次期参院選も共産党から協力をもらうことの抵抗感から、共産党と社民党は推薦を出さず、彼らは足立氏に対して実質的な支援にとどめる予定だ。
地震の影響で自民党有利に
熊本では昨年12月、市民グループと野党との最初の結集として、弁護士の阿部広美氏が立候補を表明。共産党は候補を降ろしている。
2010年の参院選ではこの度改選になる自民党の松村祥史参院議員、2013年は自民党の馬場成志参院議員が勝利している。しかし2010年の参院選で野党が獲得した票を合計すると、松村氏が獲得した票より多かった。こう考えると阿部氏は善戦しそうなものだ。
ところが、4月の大震災がこれを変える。いまだに1万人近くの人が避難所での生活を余儀なくされており、一刻も早い復旧が望まれている。そういう場合に頼りにできるのはやはり与党で、自民党にとって有利な展開になる可能性がある。
与野党の対決よりも、常に自民党内での対決が見ものなのが宮崎だ。古くから中山成彬氏・江藤拓氏・長峯基氏対上杉光弘氏・坂元裕一氏の争いがあった。とりわけ長峯氏と上杉氏は同じ参院平成研にいたにもかかわらず、その争いは激しかった。
長峯氏は2期目を目指した2001年の参院選では、現職であるにもかかわらず上杉氏によって公認を外される。その仕返しが3年後の参院選で、長峯氏は自民党公認の上杉氏ではなく、かつての秘書で無所属の松下新平氏を猛烈に応援した。そのせいで上杉氏は落選したが、長峯氏も県連から除名されたのだ。
このような人間関係のややこしさは、次期参院選も続いている。野党統一候補の読谷山洋司氏は総務省出身で元内閣府参事官。読谷山氏は2010年自民党県連の公募に応募したが、松下氏に敗退。2013年も応募したが、長峯誠参院議員に負けている。そこで3度目には野党を狙い、念願の出馬となったという次第だ。
佐賀はどうか。民進党佐賀県連は奈良県で衆院議員と参院議員を務めた中村哲治氏の公認を決定した。奈良県選出の国会議員だった人物が別の県から出馬するのは異例のこと。ましてや中村氏は2012年に民主党を離党し、小沢一郎氏の日本未来の党、生活の党に合流したこともある。
そんな中村氏を佐賀県で擁立しようとしたのは、民進党の原口一博衆院議員と大串博史衆院議員だ。野党共闘ができる候補がなかなか見つからない中、奈良県では次の場が見つけにくい中村氏に白羽の矢を立てたのだ。
落下傘候補がすんなり勝てるほど甘くはないが、1874年に佐賀の乱が起こった土壌で、中村氏がどれだけ健闘できるのかが注目される。
長崎は強力な二世が立つ。統一候補の民進党の西岡秀子氏は文部大臣や参院議長などを務めた故・西岡武夫氏の長女。小柄なところが父親そっくりだ。西岡氏は学習院大学を卒業後、3年間私企業に勤務し、父の秘書を務めた。
そもそも長崎県は、衆参両院で自民党が議席を独占するいわば「自民王国」。自民党は県議会でも、議席の過半数を維持している。現職の金子原二郎参院議員は知事経験もあり、選挙に負けたことがない。98年の知事選には西岡氏の父・武夫氏と対戦し、勝利を得ている。
みどころは、西岡氏が自民党にどこまで迫れるかということと、亡父の雪辱を晴らせるかという点だろう。しかし選挙協力したとはいえ、内部には不協和音が聞こえており、4月13日の総合選対の初会合には、共産党と生活の党の関係者の姿はなかったという。
鹿児島は自民党の野村哲郎参院議員に無所属で連合出身の下町和三氏が挑む戦い。民主党(当時)鹿児島県連が、今年1月に擁立したのが皆吉稲生元衆院議員。他の野党からの調整要請に応じなかったので、社民党などが反発していた。民進党と社民党は下町氏の推薦を決めたが、共産党は表向きには推薦や支持を自粛。だが下町氏の当選に向けて、積極的に動く予定だ。
スキャンダルがどう響くか
沖縄は波乱含み。島尻安伊子沖縄北方領土等担当大臣が抱える問題は多い。まずは今年2月の会見で「歯舞」を読み間違った事件、夫の昇氏が理事長を務める文科省傘下の専門学校から寄付を受けた問題、そしてタレントの今井絵理子氏が自民党の比例区候補として擁立されたことだ。今井氏の婚約者に風営法及び児童福祉法違反で逮捕歴があったのだ。
これは今井氏個人の問題だが、島尻氏にも飛び火する可能性がある。というのも、沖縄県出身の今井氏は、選挙区と比例区で島尻氏とタグを組むことになるため、こうした犯罪を嫌う女性票が逃げてしまうことが想定される。とりわけ、自民党に強力にサポートしている創価学会婦人部は、これを許せるはずがない。その信頼をどうやって取り戻すのか。島尻氏にとって自分の問題ではないだけに、やっかいなことになる。
さらに沖縄県うるま市で女性会社員が殺害され、米軍属が逮捕された件では、1995年に起こった沖縄米兵少女暴行事件と同様に、在日米軍への批判が強まるだろう。そもそも自民党が好調だった2013年参院選と2014年衆院選ですら、与野党候補の票数が切迫しているのに、こうした事件が相次ぐと、ますますその傾向が強くなるに違いない。
安積 明子 :ジャーナリスト 安積 明子Akiko Azumiジャーナリスト兵庫県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。平成6年国会議員政策担当秘書資格試験合格。参院議員の政策担当秘書として勤務の後、執筆活動開始。「歴史は夜つくられる 「佳境亭」女将が初めて語った赤坂「料亭政治」の光と影」(週刊新潮)、「竹島動画バトル、再生回数で日本が圧倒」(夕刊フジ)など多くの記事を執筆している。