リアと娘のゴネリルとの立場が逆転した。そのことの道化は皮肉を込めて次のように評した。
'Thou wast a pretty fellow when thou hadst no need to care for her frowning; now thou art an O without a figure: I am better than thou art now; I am a fool, thou art nothing.' (娘のしかめっ面を気にせずに済んでいた頃は、おっさんも少しはかわゆげがあったが、 今のおっさんは数字なしのゼロで、今じゃ、おいらの方がまだましだ。 おいらは馬鹿(道化)だが、おっさんは何でもないからね)
ここにも「無(nothing)」が使われている。前にも述べたが、この『リア王』では主人公のリアが劇が進むにつれて全てを失い、限りなく「無(nothing)」に近づいていく。しかし、全てを剥ぎ取られ、「無(nothing)」に近づくことによって、彼自身は、むしろ自己認識を深め、自分の周囲の世界やこの世の不正や不幸といった真実が見えるようになってくるのだ。
ゴネリルの言葉は、権威に背く、地位も何もない小癪な人間に向かって言うような横柄な言葉であった。
この非難が当たっているにせよ、オズワルドに対するケントの仕打ちを彼女が根に持っていたにせよ、所詮は当初から計画であり、リアは彼女の策に乗せられていた。
'Not only, sir, this your all-licensed fool, But other of your insolent retinue Do hourly carp and quarrel; breaking forth In rank and not-to-be-endured riots.' (言いたい放題のこの道化ばかりではなく、 そのほか、お付の家来たちは暇さえあれば 喚き散らして大喧嘩を引き起こすので、 余りの事にどうにも我慢できないのです)
この非難が当たっているにせよ、オズワルドに対するケントの仕打ちを彼女が根に持っていたにせよ、所詮は当初から計画であり、リアは彼女の策に乗せられていた。
リアは、ゴネリルの物言いにショックを受ける。
ゴネリルがさらにリアを嗜めるような事を言うのを聞き、リアは激怒するよりは、むしろ唖然としてしまう。
この哀れな問いかけに、道化が答える。
'Are you my daughter ?' (おまえは余の娘か?)
ゴネリルがさらにリアを嗜めるような事を言うのを聞き、リアは激怒するよりは、むしろ唖然としてしまう。
Lear: Doth any here know me ? This is not Lear: Doth Lear walk thus ? Speak thus ? Where are his eyes ? Either his notion weakens, his discernings Are lethargied――Ha ! waking ? 'tis not so. Who is it that can tell me who I am ? リア:誰でもよい、余を知っている者はいるか? この身はリアではない。 リアはこんな風に歩くか? こんな風に話すか? 目はどこにある? 気力が弱まり、知力が鈍ったか――ハッ! これでも醒めているとでも? そうではあるまい。誰が教えてくれ、余が誰であるのかを?
この哀れな問いかけに、道化が答える。
'Lear's shadow.' (リアの影さ)