ジニーの、今日も気まぐれな感じで・・・

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村山由佳 『星々の舟』 読了

2018年05月01日 22時26分17秒 | 読書
こんばんは、ジニーです。


5月になっちゃいました。

余裕しゃくしゃくと思ってのんびり読んでたら
読み切れず、一日オーバー・・・。

4月の3冊目です。



村山由佳さんの「星々の舟」。

初見かと思ったら、以前読んだことあったみたいです。
読み進むうちに、思い出される感覚が、なんだか心地よかったです。


うん、以前読んだ時も良い作品だなと感じたような気がします。


本作は6篇の短編からなる連作短編小説です。
ある一つの家族の一人一人が交代ごうたいに主人公となり
物語が展開されます。

赦されぬ禁断の恋を忘れれられない兄妹の苦悩。
妻子ある男との恋に身を任せる女の葛藤。
家庭に居場所を見いだせない男の夢。
叶わぬ幼馴染への想いを内に秘める少女の友情。
戦争を経験し、大切なものを受け入れられない男の人生。

一つ物語をほどくごとに、一つの家族が抱え込んだ
誰にも分らない悲しみや切なさが見えてきます。

本編のあと、作者本人のあとがきに、それでも最後は救いを見出しているという
ような趣旨のコメントが寄せられていました。

これは、僕がすべての物語に共通して感じた事でした。


それぞれに苦悩を抱いているのですが、そこから一歩踏み出したところで
物語は次の物語へバトンを渡しているように感じました。


ある一つの家族に照準を当てていますが、
実はこういった切なさは、誰しもがそっと胸の中に似たものを抱えて
いるように感じます。


この6編の最後を受けるのが、
その一家の主でもある重之であり、戦争を通してうけた痛みと悲しみ
それゆえに大事なものを素直に受け止められないもどかしさが切々と
胸に迫ってきます。

正直、理解しがたいその思考と感情。
それでも、重之は重之なりに、その相容れることのできない
痛みや悲しみと折り合いをつけながら人生を歩んでいます。


なにが正しいなんてありません。
「戦争は悪」と言い切ってしまう簡単ですが、
戦争を経験したものが、その当時見たものを知らず、単純に「戦争は悪だ」と
こぼすのも、これはこれで無責任なのだろうと感じました。

作者は、ソ連崩壊時にシベリア鉄道で旅をしたこと、両親の戦争体験が背中を
推すこととなり書くことを決めたそうです。
戦争を体験した人の言葉を、知りながらテーマにしないのは
やはり無責任だと感じたのではないでしょうか。


家族とは実に暖かな響きを感じます。
人それぞれでしょうが、「帰る場所」というイメージがあります。
本作のタイトルは舟ですが、大きな船ではありません。
家族であっても、一人一人は別の人間。
人生という物語はその一人が乗り込む小さな舟で波間を渡っていくのでしょう。
なんとなくそんなことを感じました。



最後に、本作の中で最も印象的だった言葉を紹介します。
それは、先ほども挙げた重之が言った言葉。

「幸福とは呼べぬ幸せも、あるのかもしれない。」


背中合わせのようにも感じるこの言葉ですが、物語を読み進め、様々な感情を抱えながら
読むとなんとなくそのニュアンスが分かります。

人生は、生きているうちは道半ばです。
死というものを身近に感じ始めた重之がこぼす言葉であるからこそ
相容れぬ意味合いが、スッと溶け合うのかもしれません。


自分にとって幸せとは何だろう。
振り返ったときに「幸せだった」と感じる哀愁にだけ垣間見える
安らぎのようなものがあるのかもしれません。
まだ、僕にはたどり着けない領域ですが、そういうものがあるのかもしれないと
作品を通して感じることができたのは、良かったのではないかと思います。


コメント
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