レフティやすおの新しい生活を始めよう!

50歳からが人生の第二段階、中年の始まりです。より良き老後のために良き習慣を身に付けて新しい生活を始めましょう。

<夏の文庫>フェア2023から(1)新潮文庫『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』-楽しい読書346号

2023-07-16 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2023(令和5)年7月15日号(No.346)
「週刊ヒッキイhikkii×楽しい読書コラボ企画:
 新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(1)新潮文庫
 左利きライフ研究家が読む――ブレイディみかこ
 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』」



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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2023(令和5)年7月15日号(No.346)
「週刊ヒッキイhikkii×楽しい読書コラボ企画:
 新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(1)新潮文庫
 左利きライフ研究家が読む――ブレイディみかこ
 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』」
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◇◆◇◆◇◆ 左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii ◆◇◆◇◆◇
【左利きを考えるレフティやすおの左組通信】メールマガジン
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第646号(No.646) 2023/7/15
「週刊ヒッキイhikkii×楽しい読書コラボ企画:
 新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(1)新潮文庫
 左利きライフ研究家が読む――ブレイディみかこ
 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』」
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 今年も毎夏恒例の新潮・角川・集英社の
 <夏の文庫>フェア2023から――。

 昨年同様、一号ごと三回続けて、一社に一冊を選んで紹介します。

 しかも今年は、発行日の7月15日が第三土曜日に当たり、
 私のもう一つのメルマガ
 『左利きを考える 左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
 の発行と同日になります。
 そこで、またまたコラボすることで、手抜きさせていただきます。
 毎日暑い日が続きますので、ご容赦!


新潮文庫の100冊 2023
https://100satsu.com/

角川文庫 カドブン夏推し2023
https://kadobun.jp/special/natsu-fair/

集英社文庫 ナツイチ2023 この夏、一冊分おおきくなろう。
http://bunko.shueisha.co.jp/natsuichi/
よまにゃチャンネル - ナツイチ2023 | 集英社文庫
http://bunko.shueisha.co.jp/natsuichi/yomanyachannel/


(画像:新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023 の三社の小冊子)

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 ◆ 2023年テーマ:身近な思いから ◆

  新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(1)

  新潮文庫 ブレイディみかこ
   『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』

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 ●「新潮文庫の100冊 2023」について

まずは、「新潮文庫の100冊 2023」に選ばれた作品について
見ておきましょう。

フェアの小冊子『新潮文庫の100冊 2023』(新潮文庫編集部/著)
の出版社の紹介文から――

《約3000点の新潮文庫の中から「新潮文庫の100冊」として
 厳選した作品を、「恋する本」「シビレル本」「考える本」
 「ヤバイ本」「泣ける本」の5テーマに分類しておすすめします。
 かわいいキュンタの物語もお楽しみください!》


▼5つのテーマの主な作品(私の知っている本を挙げてみました)

「恋する本」20点―『ティファニーで朝食を』『あしながおじさん』
  『こころ』『雪国』『刺青・秘密』『錦繍』『キッチン』など

「シビレル本」20点―『マクベス』『シャーロック・ホームズの冒険』
  『十五少年漂流記』『ナイン・ストーリーズ』『深夜特急1』
  『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』など

「考える本」21点―『罪と罰』『車輪の下』『センス・オブ・ワンダー』
  『蜘蛛の糸・杜子春』『塩狩峠』『沈黙』『こころの処方箋』
  『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』など

「ヤバイ本」20点―『異邦人』『変身』『月と六ペンス』
  『狂気の山脈にて』『人間失格』『檸檬』『金閣寺』『砂の女』など

「泣ける本」19点―『星の王子さま』『老人と海』『銀河鉄道の夜』
  『博士の愛した数式』『夜のピクニック』など


私の既読本は、海外作品を中心に、明治以降の国内の名作など、
全部で26点程度でしょうか。

この出版社の傾向というものもありますが、
近現代の海外ものや国内の名作小説が多く選ばれています。

少数ですが、小説以外のノンフィクションも選ばれています。

今回はまさにそういう一冊、ブレイディみかこさんの、
2019年(令和元年)に出版されるや、
あちこちで評判となり、ベストセラーとなった
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を選んでみました。

以下の文章は、私のもう一つのメルマガ
『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』の第646号と
同様のものとなります。
すでにご覧の方は、スルーしていただいて結構です。


 ●左利き研究家の観点から読む『ぼくはイエローでホワイトで~』

ブレイディみかこ
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(文庫版 2021/6/24)
です。


(画像:ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮文庫)と<新潮文庫の100冊 2023>小冊子)

(画像:ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮文庫)と<新潮文庫の100冊 2023>小冊子の該当ページ(カバー装画:中田いくみ))


(日本式にいうと)中学生の息子さんの子育てを交えた、
異文化交流のノンフィクションです。

著者は福岡生まれの日本人の母親で、英国ブライトン
(ロンドンの南方のイギリス海峡に面した町)在住、元保育士で、
配偶者はアイルランド人のトラック運転手、
二人には息子さんが一人いて、このたび地元の中学校に入学。
今まで通っていたカトリック系の小学校とは違い、
地元の様々な子供たちが通う元底辺中学校に入学。
そこで親子が体験する出来事についての考察を描く。

*続編
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2』
ブレイディ みかこ/著 中田いくみ/イラスト 新潮社 2021/9/16


 ●「はじめに」から「子どもはすべてにぶち当たる」

冒頭「はじめに」に
「老人はすべてを信じる。中年はすべてを疑う。
若者はすべてを知っている」というオスカー・ワイルドの言葉を紹介し、
そのあとにつけ加えるなら「子どもはすべてにぶち当たる」だろう、
という箇所があります。

老人となってしまった私の感覚では、
老人は「信じる」というより「信じたい」で、中年や若者はともかく
最後の「子どもはすべてにぶち当たる」という発言は、
自分の子供時代を振り返ってみて、
当たっているなあ、という気がします。

子供というものは、社会の波風のあれやこれやをみんな受け止める、
ぶち当てられる、そういう存在のように思います。

私の場合は、主に「左利き」という事例に関する偏見や差別でしたが。


 ●一番気になった部分「誰かの靴を履いてみること」

文庫本で320ページ弱、16章からなる一冊です。

この16章中で、一番気になったのが、エンパシーに関する章
「5 誰かの靴を履いてみること」。

シティズンシップ・エデュケーションの授業の試験で、
最初に「エンパシーとは何か」という問いがあり、
それに対して、息子が「自分で誰か人の靴を履いてみること」と答えた、
というくだりです。

「自分で誰か人の靴を履いてみること」というのは、
英語の定型表現だそうで、《他人の立場に立ってみる》という意味。

 《日本語で、empathyは「共感」、「感情移入」または「自己移入」
  と訳されている言葉だが、確かに誰かの靴を履いてみるというのは
  すこぶる的確な表現だ。》(p.92)

なるほど。
確かに、他の人の靴を履く、とどうなるかといいますと、
「ピッタリで気持ちよい」ということは少なく、
たいていは「なんだこりゃ」になるでしょう。
サイズは一緒でも微妙な部分で合わなかったりするものです。


 ●「左利き」に置き換えると――「靴の左右を入れ替える」

ここで、ちょっと「左利き」の話をしておこうと思います。

右利きの人が多数派で、
社会のあれこれが右利きに都合のよいものになっている
いわゆる「右利き(優先/偏重)社会」になっている中で、
左利きの人が生きていくというのは、
「靴の左右を入れ替えて履くようなものだ」というのが、私の見方です。

たとえ自分の靴であれ、やはり右足用と左足用とは形が異なり、
うまく履けないものです。
特にオーダーメイドのように、足形に合わせたものであればあるほど、
左右は形状が違い、入れ替えるとうまく履けないものです。
窮屈だったり、ちょっと嫌な思いをしたり、思うように歩けなかったり、
そもそも履いているだけで痛かったり、大変な思いをするはずです。

これが靴ではなく、スリッパのようなものなら、
左右を入れ替えてもまったくといっていいほど気にならないでしょう。
スリッパというものは、そういうふうにできている履き物で、
左右兼用できる反面、靴のように跳んだり走ったリには不向きです。

「靴」は、右利き用だったり左利き用だったり、という専用品。
「スリッパ」は、左右両用可能なものや左右共用品というところ、
専用品ほど便利ではないかもしれませんが、どちらも使えるもの。

左利きの人は、この「右利き(優先/偏重)社会」で、
左右の靴を入れ替えて履かされているようなものだ、
というふうに理解していただけるといいのではないでしょうか。


 ●多様性について

もう一度『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』にもどって、
「4 スクール・ポリティクス」で取り上げられている、
多様性について考えてみましょう。

息子が学校で多様性はいいことだと教わったというのですが、

 《「じゃあ、どうして多様性があるとややこしくなるの」/
  「多様性ってやつは物事をややこしくするし、
   喧嘩や衝突が絶えないし、そりゃない方が楽よ」/
  「楽じゃないものが、どうしていいの?」/
  「楽ばっかりしてると、無知になるから」》

すると、また「無知の問題か」と息子。
彼が道ばたでレイシズム的な罵倒を受けたとき、
そういうことをする人は無知なのだ、と母ちゃんが言ったことを受けて。

 《「多様性は、うんざりするほど大変だし、めんどうくさいけど、
   無知を減らすからいいことなんだと母ちゃんは思う」》


最近日本でも
「ダイバーシティ diversity」という言葉を聞くようになりました。
「多様性」のことですが、
「多様性」というものも案外むずかしいものです。

自分では多様性について寛容だと思っていても、
実際には、世間には様々な人びとがいて、
時に自分の知らない存在も多々あるものです。

私の経験をいいますと、右利きの人の中には、
(左手で箸を使ったり字を書く)左利きの人なんて見たことがない、
という人もいました。

「知らないものは存在しない」というわけです。

そこで、先の無知云々とつながってきます。


 ●無知な人には、知らせなきゃいけない

無知の問題について、
本書の母ちゃんと息子の会話をプレイバックしてみましょう。
「2 「glee/グリー」みたいな新学期」での会話です。

 《「頭が悪いってことと無知ってことは違うから。知らないことは、
   知るときが来れば、その人は無知ではなくなる」》p.43

と母ちゃんが言うと、あるとき、息子は、
 《「無知な人には、知らせなきゃいけないことがたくさんある」》
と。

左利きの問題も同じで、知らせていかなければいけないのです。

 ・・・

無知についていいますと、
以前、江國香織さんの『こうばしい日々』(新潮文庫)に登場する、
黒人の教師ミズ・カークブライドが、
アメリカに移住してきた日本人少年に話した、
人種差別に関しての言葉を思い出します。

 《「一つのことを、はじめから知っている人もいるし、
   途中で気がつく人もいる。
   最後までわからない人もいるのよ」》

*『こうばしい日々』江國香織/著 新潮文庫 1995/5/30

本書の場合は、教えられて気がつくというケースですね。

 ・・・

ついでに書いておきますと――

アリストテレスの
『ニコマコス倫理学』「第一巻 第四章」に引用されている
ヘシオドス『仕事と日々』の詩にある言葉、

 《あらゆることを自ら悟るような人は、もっともすぐれた人
  立派なことを語る人に耳を傾け、これに従う人も、すぐれた人
  しかし、自ら悟ることもなければ、他人の言葉を聞いて
  心に刻むこともないような人は、どうしようもない人。》

*『ニコマコス倫理学(上)』アリストテレス/著 渡辺邦夫・
 立花幸司/訳 光文社古典新訳文庫 2015/12/8


『論語』【季氏 第十六】(9)

 《孔子曰(いわ)く、生まれながらにして之を知る者は、上なり。
  学びて之を知るものは、次なり。
  困(くる)しみて之を学ぶ者は、また其(そ)の次なり。
  困しみて学ばざる、民 斯(こ)れ下(げ)と為す。

  〈現代語訳〉孔先生の教え。生まれつき道徳(人の道)を
  理解している人間が、最高である。
  学ぶことによって〔すぐに〕道徳を理解する者は、それに次ぐ。
  〔すぐにではなくて〕努力して道徳を学ぶ者は、さらにそれに次ぐ。
  努力はするものの〔結局〕道徳を学ぼうとしない、
  そういう人々、これは最低である。
   
*『論語』加地伸行/全訳注 講談社学術文庫 2004
『論語 増補版』加地伸行/全訳注 講談社学術文庫 2009/9/10

というものに、似ています。


 ●エンパシーについて――「知ろう」とする能力

再び「エンパシー」にもどりましょう。

「エンパシー」に似た言葉として「シンパシー」があるといいます。

 《シンパシーのほうは「感情や行為や理解」なのだが、
  エンパシーのほうは「能力」なのである。
  前者はふつうに同情したり、共感したりすることのようだが、
  後者はどうもそうではなさそう。》pp.94-95

 《シンパシーのほうはかわいそうな立場の人や問題を抱えた人、
  自分と似たような意見を持っている人々に対して
  人間が抱く感情のことだから、
  自分で努力しなくても自然に出て来る。
  だがエンパシーは違う。自分と違う理念や信念を持つ人や、
  別にかわいそうだとは思えない立場の人々が
  何を考えているのだろうと想像する力のことだ。
  シンパシーは感情的状態、
  エンパシーは知的作業とも言えるかもしれない。》p.95


多様性には色々な要素があり、それぞれの多様性について、
人はそのすべてを初めから知っているわけではない。

自分の属する要素については、当然理解しているし、
他の人の場合にも共感することができる。
ところが、自分に無縁の要素に関しては、知らないしわからない。
そこで、当該の人から知らせてもらう、教えてもらう必要が出てきます。

ここで「無知」とか「知らせる」とかの言葉が出て来るわけです。

で、私たちは、「無知」なのだから「教えてもらおう」とか、
「知らないこと・わからないことなので、知ろう・理解しよう」
とすることが重要になってくるわけです。

「共感」できることなら問題ないのですが、
特に共感する立場にはなくても、「理解しよう」とする姿勢、
およびその能力を「エンパシー」といい、
これからの時代に重要なことだと思われるわけです。


左利きに関していいますと、
自分は左利きではなく、この社会にあって不都合は感じていなくても、
「そういう人もいるのだ、不都合を感じることがあるのだ」
と理解することが大事だ、ということです。

 ・・・

さて、このブレイディみかこさんの
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は、
中学生の息子さんを持つお母さんと配偶者の子育て私生活エッセイ
のような、読みやすい、それでいてなかなか読み応えのある、
「ちょっと左翼っぽい」(p.159 配偶者の言葉)
――その点ではちょっとうーんと思う部分も時にありますが――
母ちゃんによる、おもしろいノンフィクションでした。

続編も機会があれば読んでみたいものです。

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本誌では、「週刊ヒッキイhikkii×楽しい読書コラボ企画:新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(1)新潮文庫 左利きライフ研究家が読む――ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』」と題して、今回は全文転載紹介です。

『週刊ヒッキイhikkii』とのコラボということで、導入部以外の本文は、9時40分発行のヒッキイの方と同じ内容です。

手抜きといえば手抜きですが、内容そのものは、かなりのものと自負しています。
素材がいいので当然といえば当然のことなのでしょうけれど、ね。

(共通する部分の本文は、ここではカットしようかと思ったのですが、やっぱり全公開です。)

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
<夏の文庫>フェア2023から(1)新潮文庫『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』-楽しい読書346号
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