-二日後-
アルト達スカル小隊のメンバーはS.M.Sの格納庫に勢揃いしていた。
「ミハエル先輩、なんか味気ないですね」
「しかたないさ。俺達はあくまでも裏方なんだから」
ルカの言葉にミハエルが返す。
この日の為に用意されたVF-25が彼等の目の前にあった。普段彼等が乗っているカスタム機ではなく、いずれの機体も新統合軍カラーで塗られた新品である。
あくまでも新統合軍のプロモーションビデオである以上、普段のS.M.Sの機体に乗る訳にもいかず、ミハエル達はこの新品に乗る予定になっていた。
そんな二人をよそにアルトは自分の乗機を考え深げに見つめていた。
彼のVF-25はミハエル達の機体とさらに様子が違っていた。
コクピット回りが少し大きくなっており、一見するとわかりにくいものの、複座式に改造されているのだ。
機種転換訓練用のこのVF-25を乗りこなす為にアルトは昨日一日訓練に明け暮れていた。
「久しぶりね、早乙女アルト。他のお二人さんも」
聞き覚えのある声にアルト達が振り向くとパイロットスーツを纏ったシェリル・ノームがそこにいた。
「素敵ですよ、シェリルさん!」
「なんともはや、素晴らしいですね」
その凛々しい姿にルカは目を輝かせ、ミハエルはただ感嘆の言葉を漏らす。
しかしアルトの反応は素っ気ないものだった。
「あんたも相当変わり者だな」
「何が?」
「普通、いきなりバルキリーに乗りたがる素人なんていないぞ」
「いいじゃない、適正試験はちゃんとパスしてるのよ」
「けどな…!」
「私はあなたと宇宙を飛びたかったの、何か文句ある?」
「なっ!?」
シェリルの言葉にアルトは顔を真っ赤にし、言葉が続かなかった。
「アルト先輩とシェリルさん、いつも通りですね」
「まあな」
アルトとシェリルの毎回の(痴話)喧嘩に慣れっこのミハエルとルカ。
「皆さんお揃いのようね」
ちょうどそこにキャシー・グラス中尉が二人の男性を連れてやってきた。
「紹介するわ」
「新統合軍広報局のグッドスピード大尉です」
新統合軍の制服を着た男性が自己紹介する。
「デイリーフロンティアのアルベール・ジュネットです。シェリルさんの取材で来ました」
青年が続けて自己紹介。
「早速ですが私から今回の任務について説明させて頂きます」
グッドスピード大尉が大型ディスプレイを背に説明を始めた。
「皆さんには事前の打ち合わせどうりに指定された宙域で編隊飛行を行って頂きます」
「その後、射撃訓練を行い、帰還した時点で今回の任務は終了です。全ての行程を無人カメラが追跡・撮影しますので皆さんは何も気にせず飛んで頂いて結構です」
ディスプレイにシーン毎の詳細が示される。アルト達は真剣な眼差しでそれを見つめる。
「なお、不測の事態が起きた際についてですが…」
「俺達の出番だ」
キャシーの声を遮ったのはオズマだった。
「俺のVF-25と」
「我々がつかず離れずで見守っている、何かあればすぐに逃げろ。大事なゲストにケガがあってはならないからな」
オズマに続いてS.M.Sピクシー小隊のクラン・クラン大尉のが続いた。
「私も忘れてもらっては困るぞ」
スカル小隊のVB-6パイロット、カナリア・ベルシュタイン中尉の声が格納庫に響いた。
「以上でブリーフィングを終了。各員出動準備だ」
オズマの声にアルト達はそれぞれ乗り込む機体へと向かう。
「あの、早乙女アルトさんでしたよね」
アルトに声をかけた一人の女性。シェリルのマネージャーのグレイス・オコナーである。
「何か?」
「あの、シェリルのこと、よろしくお願いします」
「…安心して下さい。彼女には怪我一つさせませんから」
アルトはそう言ってグレイスに敬礼すると乗機へと駆けていった。
主座席にはシェリルがすでに乗り込んでいた。シェリルの登場シーンの多くは別撮りの為、座して待つ以外にする事がなかったのだ。
「グレイス、あなたになんて言ったの」
おもむろにシェリルが尋ねる。
「あんたの事をよろしくって言われた」
「グレイスも心配性ね。私が1番あんたの事を信頼しているのに。そうでなければバルキリーに乗りたいなんて言わないわ」
「それ、褒め言葉と受け取っていいのか?」
「…勝手にしなさい」
そうこうしているうちにアルト機の発進の出番がまわってきた。
リニアカタパルトでの発進は未経験者には相当な負荷になるため使わず、滑走のみでアルト機は飛び立っていった。
先行するミハエル機、ルカ機と合流して三機は揃って目的の宙域へと向かった。
「アルト先輩、ミハエル先輩、そろそろ目的の宙域です」
ルカの声が通信機越しに響く。
「ねえ、アルト」
「なんだ」
「事前の打ち合わせどうりに飛ぶ気?」
「当たり前だろ」
事前の打ち合わせではある程度曲芸飛行はするものの、未経験者を乗せている都合、それほど激しい飛行は予定されていなかったのだが、アルトの言葉にシェリルは不快感をあらわにした。
「ダメよ」
「なんで?」
「か弱い女性を乗せてっているとか考えてちんたら飛ばれたら、こっちがかなわないわ」
シェリルの言葉にムッとしたアルトだったが、彼自身事前の打ち合わせどうりの飛び方は大人しすぎると薄々感じていた。
「ミハエル、彼女のリクエスト聞いたか?」
「歌姫がそうおっしゃるなら付き合うのは悪くないですよ」
「ルカは?」
「あの、シェリルさんいいんですか?僕は構いませんけど…」
「女に二言はないわ!」
「あなた達、何を考えてるの!無茶は止しなさい!」
通信機からキャシーの怒鳴り声が響いたが三人とも無視を決め込んだ。
「後で泣き言いうなよ」
「えっちょっと!?」
シェリルが何か言い終わらないうちにアルトはVF-25を急降下させた。ミハエルとルカの機体もそれに続く。
「ちょっ、何これ、キャー!!」
キャシー達のいるモニタールームにシェリルの絶叫が響く。
唖然とするキャシーとグレイスの両名。ゲストに何かあってはと慌てふためくグッドスピード。そんなモニタールームの情景をジュネットは克明に記録していた。
「あいつら何をやっているんだ」
「まったくだ」
後方で控えるオズマとクランがため息混じりに呟いた。
ちょうどその頃、S.M.Sのオペレーションルームではモニカ・ラング、ミーナ・ローシャン、ラム・ホアの三人が通常の警戒任務についていた。
突然鳴り響く警報。アルト達のやり取りに夢中になっていた三人ははっと我にかえった。
「何事だ!」
艦長のジェフリー・ワイルダーが問い質す。
「デフォールド反応です、場所は…アルトさんたちがいる宙域です!!」
「まさか、バジュラか!?」
「待って下さい、バジュラにしては反応が大き過ぎます」
モニカが答える。
「これって、ゼントラーディ艦の反応ですよ!?」
データ照合を行っていたラムが叫んだ。
時を同じくして急降下から上昇に転じていたアルト達の機体がデフォールドの警報を告げた。
「なんだ!?」
「デフォールド反応、僕たちの目の前です!」
ルカが言い終わらないうちにアルト達の進行方向に何かがデフォールドしてきた。
バジュラでないことはその巨大さが証明していた。
何かの艦艇と思えたが詳細を確認する間もなく、ミハエルとルカは回避する。
しかしアルトの機体は先行していたのに加え加速がつきすぎていた為、咄嗟にガウォーク形態に変形させ、軟着陸の態勢をとった。
「アルト!」
ミハエルが叫ぶ。必死にアルトの機体を確認しようとするが相手があまりにもでかく、アルト機の視認は不可能だった。
モニタールームで一部始終を見ていたキャシー達は巨艦の出現に声を失っていた。
「この艦は…」
ただ一言、グッドスピード大尉が驚きの声をあげる
「照合終了、ゼントラーディ、ノプティ・バガニス級です」
モニカが謎の艦の正体を冷静につげた。
(つづく)
あとがき:後半から終盤への話の展開に迷ってずっと放置しておりました。ノプティ・バガニス級に関してはネットなどで調べてください。
次回でこのお話もラストの予定です。本編の方もいよいよ盛り上がってきたマクロスフロンティア、今後の展開が楽しみです。