被害者の医療記録(カルテなど)を加害者側が取り寄せる手段として、文書送付嘱託という手段があることを以前ご説明いたしました
(→過去記事)
裁判所から病院に「文書を送付してください」というお願いがいくのですが、これは、法律上はあくまでも「お願い」ということになるので、病院が拒否した場合は、強制的に文書を提出させる事はできません。
そこで、病院が医療記録の提出を拒否したとき、加害者サイドが、医療記録を取得したいという場合は、裁判所に文書提出命令を出してもらう必要性があります。
文書提出命令がされると強制力が生じます。
もっとも、刑事事件ほどの強制力は無く、医療記録を提出しなかった病院に、20万円以下の過料という制裁が行われるだけですが。
問題は、被害者の医療記録を加害者側の申立てにより強制的に取得してしまうことが認められてしまうのか?ということです。
交通事故関係ではありませんが、参考になる裁判例があります。
千葉川鉄大気汚染公害訴訟といわれた公害訴訟についてのものです。
このケースでは、大気汚染被害にあったという住民が原告、大気汚染の原因となったとされた会社が被告となっています。
被告の会社から住民のカルテを取得したいということで、文書提出命令の申立てがなされました。
裁判所はこの申立てを認めませんでした(東京高裁昭和59年9月17日高民集37巻3号164頁)。
この裁判例を前提とすると、加害者側からの文書提出命令は認められないことになります。
いつもながら裁判所の文章は難しいですが、興味をもたれる方のために決定の主要部分を引用しておきます。
「 およそ医師が診療録を作成する目的は、診療の都度、受診者の病名及び主要症状並びにこれに対する治療方法(処方及び処置)を記載すべきことを義務付けている医師法第二四条及び医師法施行規則第二三条から判断すると、受診者の状態と治療内容の経過を一定期間保存することにより、医師自身の診療における思考活動を補助し、医事行政上の監督の実を挙げさせ、もつて、診療行為の適正を期することにあると考えられるが、副次的には、患者自身又は患者と医師若しくは医療機関との間の権利義務に係る事実の証明をも目的とするものといえよう。これは、本件文書中の診療録以外のものについても、同様と考えられる。診療録がその記載内容の性質上患者、医師等診療行為の当事者以外の者の法律上の紛争において、その者の法的地位の証明に役立つ場合のあることは否定できないが、それは、結果として生ずることにすぎないのである。
したがつて、診療行為の当事者でない本件相手方にとつて、本件文書が、その法的地位を直接証明し、又はその権利ないし権限を基礎付ける目的で作成されたものといえないことは明らかである。
以上のとおりであるから、本件文書は民事訴訟法第三一二条第三号前段の文書に該当しない」
(→過去記事)
裁判所から病院に「文書を送付してください」というお願いがいくのですが、これは、法律上はあくまでも「お願い」ということになるので、病院が拒否した場合は、強制的に文書を提出させる事はできません。
そこで、病院が医療記録の提出を拒否したとき、加害者サイドが、医療記録を取得したいという場合は、裁判所に文書提出命令を出してもらう必要性があります。
文書提出命令がされると強制力が生じます。
もっとも、刑事事件ほどの強制力は無く、医療記録を提出しなかった病院に、20万円以下の過料という制裁が行われるだけですが。
問題は、被害者の医療記録を加害者側の申立てにより強制的に取得してしまうことが認められてしまうのか?ということです。
交通事故関係ではありませんが、参考になる裁判例があります。
千葉川鉄大気汚染公害訴訟といわれた公害訴訟についてのものです。
このケースでは、大気汚染被害にあったという住民が原告、大気汚染の原因となったとされた会社が被告となっています。
被告の会社から住民のカルテを取得したいということで、文書提出命令の申立てがなされました。
裁判所はこの申立てを認めませんでした(東京高裁昭和59年9月17日高民集37巻3号164頁)。
この裁判例を前提とすると、加害者側からの文書提出命令は認められないことになります。
いつもながら裁判所の文章は難しいですが、興味をもたれる方のために決定の主要部分を引用しておきます。
「 およそ医師が診療録を作成する目的は、診療の都度、受診者の病名及び主要症状並びにこれに対する治療方法(処方及び処置)を記載すべきことを義務付けている医師法第二四条及び医師法施行規則第二三条から判断すると、受診者の状態と治療内容の経過を一定期間保存することにより、医師自身の診療における思考活動を補助し、医事行政上の監督の実を挙げさせ、もつて、診療行為の適正を期することにあると考えられるが、副次的には、患者自身又は患者と医師若しくは医療機関との間の権利義務に係る事実の証明をも目的とするものといえよう。これは、本件文書中の診療録以外のものについても、同様と考えられる。診療録がその記載内容の性質上患者、医師等診療行為の当事者以外の者の法律上の紛争において、その者の法的地位の証明に役立つ場合のあることは否定できないが、それは、結果として生ずることにすぎないのである。
したがつて、診療行為の当事者でない本件相手方にとつて、本件文書が、その法的地位を直接証明し、又はその権利ないし権限を基礎付ける目的で作成されたものといえないことは明らかである。
以上のとおりであるから、本件文書は民事訴訟法第三一二条第三号前段の文書に該当しない」