★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ファンの要望に応えて発売されたフルトヴェングラーとリパッティの初出録音盤

2023-12-18 09:37:27 | 協奏曲(ピアノ)


①モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番

  ピアノ:イヴォンヌ・ルフェビュール

  指揮:ウィルヘルム・フルトヴェングラー

  管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

②リパッティ名演集

  バッハ(ケンプ編):フルートソナタ第2番より
  バッハ(ブゾーニ編):衆讃前奏曲「来たれ、異教徒の救い主よ」
            :衆讃前奏曲「イエスよ、わたしは主の名を呼ぶ」
  ブラームス(ピアノ連弾):円舞曲集(Op.39)第6、15、2、1、14、10、5、6番

   ピアノ:ディヌ・リパッティ
       ナディア・ブーランジェ(ブラームス:ピアノ連弾)

録音:1954年5月15日(モーツアルト)/1950年7月(バッハ)/1937年2月(ブラームス)

発売:1970年

LP:東芝音楽工業 AB‐8125

 このLPレコードは、ドイツ出身の大指揮者、フルトヴェングラー(1886年―1954年)とルーマニア出身の名ピアニスト、リパッティ(1917年―1950年)の両ファンの熱烈な要望に応えて企画され、発売されたものである。つまり、フルトヴェングラーとリパッティの演奏を1枚のLPレコードに収めなければならない必然性は特にはない。このため、他の1枚のLPレコードように全体として一貫性のある内容とはなっておらず、当時絶大なる人気を誇ったフルトヴェングラーとリパッティを、共演ではなく1枚のLPレコードに収めること自体に意義があったのである。結果的に、このLPレコードは、音質はともかく、演奏内容の高さにおいては超一流なものとなった。まずA面のモーツァルト:ピアノ協奏曲第20番は、イヴォンヌ・ルフェビュール(1898年―1986年)の純粋な演奏内容に心が奪われる。LPレコード化の狙いは、フルトヴェングラーの伴奏指揮にあったのではあるが、結果的にリスナーは、ルフェビュールのピアノの素晴らしさを発見することになる。フルトヴェングラーの伴奏指揮は、ピアニストに何のお構いもなく、従来通りの厳格な演奏姿勢は一切崩していない。イヴォンヌ・ルフェビュールは、フランスのピアニスト、音楽教育者。ほとんど遺された録音がなく、このLPレコードが唯一の録音盤と言ってもいいほど。その唯一遺されたこのLPレコードにおけるルフェビュールの演奏内容は、如何にもモーツァルトらしい典雅さに満ち溢れ、きちっと整ったモーツァルトを聴かせてくれている。一方、B面の“リパッティ名演集”においては、リパッティが、バッハのピアノ用に編曲された作品を3曲に加え、リパッティのピアノの先生であったナディア・ブーランジェ(1887年―1979年)との連弾でブラームスの円舞曲集を弾いている。録音はあまり芳しくないが、その高貴な演奏内容は相変わらずで、リスナーの心を揺さぶらずにはおかない。ブーランジェとの連弾演奏は、聴いているだけでその楽しさが伝わってくるようだ。ナディア・ブーランジェは、フランスの作曲家、指揮者、ピアニスト、音楽教育者。今でこそ女性の指揮者はそう珍しくもないが、ブーランジェは、1912年デビューを果たした女性指揮者の先駆者といえる存在であった。さらに、音楽教育者としては、数多くの人材を輩出しており、当時の有名なピアニストの先生として、ブーランジェ女史の名前はしばしば登場していた。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇リパッティのシューマン:ピアノ協奏曲/ハスキルのベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番

2023-10-02 09:53:20 | 協奏曲(ピアノ)


①シューマン:ピアノ協奏曲

  ピアノ:ディヌ・リパッティ

  指揮:エルネスト・アンセルメ

  管弦楽:スイス・ロマンド管弦楽団

  録音:1950年2月22日、ジュネーブ、ビクトリア・ホール

②ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番

  ピアノ:クララ・ハスキル

  指揮:カルロ・ゼッキ

  管弦楽:ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

  録音:1947年6月、英国

発売:1980年

LP:キングレコード K15C‐5044

 このLPレコードは、ルーマニアが生んだ二人の天才ピアニストが弾いた、シューマンとベートーヴェンの協奏曲が1枚に収められた貴重な遺産である。二人のピアニストの名は、ディヌ・リパッティ(1917年―1950年)とクララ・ハスキル(1895年―1960年)である。ディヌ・リパッティのピアノ演奏は、純粋で透明感あるピアノの音色に特徴を持ち、その技巧は洗練され、都会的センスに溢れ、特にショパンやモーツァルトの曲を得意としていた。ディヌ・リパッティがこの録音を行ったのは、スイス・ロマンド管弦楽団の定期演奏会であり、死の9ヶ月ほど前のことであった。前日まで40度の高熱を出して病床に伏していたリパッティであったが、医師の制止を振り切り、強力な解熱剤の注射により、ようやく立ち上がることができるような状態で、よろめくようにステージに姿を現し、やっとのことでピアノのところまで辿りつくことができたという。しかし、この録音聴く限り、そんな身体の状況などは微塵も感じさせず、集中力の高いピアノ演奏には驚かされるばかりである。これほど、ロマンの香りが高いシューマン:ピアノ協奏曲は滅多に聴けるものではない。何か、リパッティがシューマンに乗り移って、幻想的な森の奥深く分け入って、平穏な一時に身を委ねているかのようでもある。夢幻的な名演とでも言ったらよいのであろう。一方、クララ・ハスキルは、古典派とロマン派を得意とし、とりわけモーツァルトの演奏では他の追随を許さぬものがあり、当時最も秀でたモーツァルト弾きとして知られていた。このほかにベートーヴェンやシューマンにも卓抜した演奏を披露。室内楽奏者としてはアルテュール・グリュミオーの共演者として名高い。クララ・ハスキルのベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番は、1947年6月に第2次世界大戦後初めて英国を訪れて録音したもの。ハスキルもリパッティと同様病弱で、脊椎カリエスを病んでいた。しかも第2次世界大戦中には脳腫瘍の手術を受けた。その後、健康を回復し、幸いにも演奏活動を再開することができたのだが、この時、ちょうど元気を取り戻した頃の録音である。それだけに、実に伸び伸びとしてベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番を演奏している様が捉えられている。こんなに詩的で麗しいベートーヴェンのピアノ演奏は、彼女以外のピアニストでは到底不可能とも思えるほどで、その緻密な演奏内容、とりわけ気品の高さが光り輝く名演となっている。

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◇クラシック音楽LP◇サンソン・フランソワのショパン:ピアノ協奏曲第1番/ピアノソナタ第2番

2023-09-04 09:37:24 | 協奏曲(ピアノ)


ショパン:ピアノ協奏曲第1番
     ピアノソナタ第2番

ピアノ:サンソン・フランソワ

指揮:ルイ・フレモー

管弦楽:モンテ・カルロ国立歌劇場管弦楽団

発売:1967年

LP:東芝音楽工業 AB‐8044

 このLPレコードは、フランス出身の名ピアニストであったサンソン・フランソワ(1924年―1970年)が遺した録音の一つで、今でもあらゆるショパンの録音の中でも一際光彩をはなっている名盤である。若い頃のフランソワの演奏を聴くと実に男性的で集中したエネルギーの激しさは、比類ないものであった。同時に瞬間的な閃きで演奏しているような即興的演奏は、ショパンをはじめ、ドビュッシーやラヴェルなど、ラテン系に属する作曲家の作品を演奏させたら右に出るものはいなかったと言っても過言ではないほどの優れたピアニストであった。このLPレコードは、そんなフランソワの若い時代の演奏とは、大きく印象が異なる。ショパン:ピアノ協奏曲第1番の演奏では、抒情的な演奏が印象的で、テンポも比較的ゆっくりと運んでおり、若い時のような一気に弾き切るといった雰囲気はない。その代わり、ショパンがポーランドを離れるに当たり、祖国への愛着と惜別の念を込めて作曲した作品を再現するには、丁度よい抒情味を巧みに再現し、若き日のショパンのほろ苦い感情を巧みに表現することに成功していると言ってよいであろう。ルイ・フレモー指揮モンテ・カルロ国立歌劇場管弦楽団も、フランソワのピアノ演奏にピタリと合わせた伴奏ぶりを聴かせている。ショパン:ピアノソナタ第2番は、この曲の持つ暗い情熱を引き出すかのように、フランソワも、一部若き頃のエネルギーを鍵盤に叩き付けるような奏法に変えている。これが、この曲の持つ何とも言えない鬱積した表情を十二分に表現し切って実に見事だ。時折見せる儚い恋心にも似た心情の表現は、フランソワの即興的演奏によってより一層効果的なものになっている。ピアノのサンソン・フランソワは、フランス人の両親の間にドイツで生まれる。1934年一家でニースに戻った時、アルフレッド・コルトーに見出されて1936年にエコールノルマル音楽院に入学、1938年にはパリ音楽院に入学。1943年第1回「ロン=ティボー国際コンクール」で優勝し一躍その名が世界に知られる。ショパン、ドビュッシー、ラヴェルなどを得意としていた。指揮のルイ・フレモー(1921年―2017年)は、フランスの出身。モンテカルロ歌劇場管弦楽団(モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団)の首席指揮者を務めた後、バーミンガム市交響楽団の音楽監督に就任。第二次世界大戦後はシドニー交響楽団の首席指揮者を務めた。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ホロヴィッツ&トスカニーニ指揮NBC交響楽団のチャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番(ライブ録音盤)

2023-05-29 09:57:05 | 協奏曲(ピアノ)

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番

ピアノ:ウラディミール・ホロヴィッツ

指揮:アルトゥーロ・トスカニーニ

管弦楽:NBC交響楽団

録音:1943年4月25日、米国ニューヨーク、カーネギー・ホール(ライヴ録音)

発売:1977年

LP:RVC(RCAコーポレーション)

 チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番は、過去から現在まで数えられないほどの多くの録音があるが、このLPレコードほど感情の激しい演奏の録音は、現在に至るまで私はあまり聴いたことがない。これは1943年4月25日、米国ニューヨークのカーネギー・ホールでのライヴ録音であるから、スタジオ録音と比べ迫力の点で自ずと違う。ホロヴィッツ(1903年―1989年)は数多くの録音を残しているがライヴ録音は少ない。しかし、チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番はもう1枚、1941年のライヴ録音盤が遺されている。トスカニーニ指揮NBC交響楽団が伴奏をしているが、トスカニーニが伴奏の指揮を執ることは現役時代ほとんどなかったようで、この意味からもこのLPレコードは貴重な録音なのである。ホロヴィッツはトスカニーニの娘婿なので特別なケースだったのであろう。このLPレコードでは全曲にわたって緊張感が持続する。ホロヴィッツのこのピアノ演奏は、第1楽章を弾く時などは、何かものに憑かれたように、力の限りを尽くして極限にまでその曲想を押し広げ、「チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番ってこんなにも激しい曲だったのだ」と聴くものに強く印象付ける。第2楽章は、さすがに少し大人しさを演出するが、その技巧の並外れた才能には脱帽せざるを得ない。鍵盤の上を指が流れるように行き来する様が髣髴としてくる。第3楽章は、また第1楽章の激情が戻ってくるが、そこにはもう力だけの世界から脱却して、もう一段高いところから見下ろすような余裕も一部感じられ、結果として第1楽章~第3楽章を通して、巧みな演出効果が生かされているのだ。ホロヴィッツはただ単に力だけで弾き通すピアニストではなく、エンターテインメントの才能にも恵まれたピアニストであることがこの録音から聴き取れる。指揮をしているのが、ホロヴィッツからすると義理の父に当るトスカニーニ(1867年―1957年)である。現役時代あまり協奏曲の伴奏をしなかったトスカニーニは、ホロヴィッツだけは例外だったようである。ある意味ではトスカニーニとホロヴィッツの音楽性には共通点があったとも言えるのかもしれない。このLPレコードでトスカニーニは、いつもの輪郭のはっきりした力強い指揮ぶりを発揮し、ホロヴィッツのピアノ演奏のきらびやかさを数倍高めることに成功している。これほどの名コンビはあまりいない、という思いを深くする録音ではある。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇バレンボイム&イギリス室内管弦楽団のモーツァルト:ピアノ協奏曲第22番/ピアノと管弦楽のためのロンドK.382

2023-05-15 09:48:17 | 協奏曲(ピアノ)

 

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番K.482
         ピアノと管弦楽のためのロンドK.382

指揮&ピアノ:ダニエル・バレンボイム

管弦楽:イギリス室内管弦楽団

録音:1971年11月25日~26日、英国、アビイ・ロードスタジオ

発売:1973年

LP:東芝EMI EAA‐80099

 アルゼンチン出身(現在の国籍はイスラエル)のダニエル・バレンボイム(1942年生まれ)は、最近は指揮者としての活躍が目立つが、もともとはピアニスト。1952年にピアニストとしてヨーロッパデビューを果たした以後、世界各国でピアニストとしての名声を高めることになる。そして、1966年からイギリス室内管弦楽団とモーツァルトの交響曲録音を開始して、指揮者デビューを果した。そして、1975年から1989年までパリ管弦楽団音楽監督に就任したのに続き、シカゴ交響楽団音楽監督、ベルリン国立歌劇場音楽総監督、ミラノ・スカラ座音楽監督に就任し、今度は世界的指揮者としての名声を不動にして行くのである。2009年に続き2014年のウィーンのニューイヤーコンサートにも登場し、テレビを通じて全世界に指揮者としての晴れの姿をアピールしたことはまだ記憶に新しい。イギリス室内管弦楽団とは、1966年からコンビを組んでいるので、このLPレコードは、コンビを組んで5年目であり、互いの気心が充分浸透している時期の録音だけに、演奏内容は充実している。モーツァルトのピアノ協奏曲第22番K.482は、第23番とセットで書かれ、1785年に完成ししている。それらは共にオーボエが省かれてクラリネットが使用されるなど、編成的にも新しい試みが見られる。全部で3つの楽章からなる。前2作の第20番、第21番に比べれば知名度は落ちるものの、オペラ序曲のような祝祭的な華やかさと共に穏やかな落ち着きをもつ魅力的な作品となっている。もう一つの曲であるピアノと管弦楽のためのロンドK.382は、モーツアルトが、1782年3月3日に開催された音楽会で、8年も前に作曲されたピアノ協奏曲K.175を取り上げたが、この時終楽章を、このロンドに代えて演奏したところ大変好評を受けたので、以後、このロンドが独立して演奏されるようになった。変奏曲形式でロンドの性質を持つ陽気で愛らしい主題と7つの変奏曲の後、カデンツをはさんで、冒頭主題を素材としコーダで曲が終了する。このLPレコードでは、バレンボイムがピアノを弾きながら指揮をするスタイルをとっているために、ピアノと管弦楽の調和がずば抜けて優れていることが大きな特徴となっている。バレンボイムのピアノ演奏は、輪郭のはっきりとした力強さに満ちていると同時に、モーツァルトらしい流麗さも合わせ持っている点が高く評価されよう。現代に我々にも強くアピールするモーツァルト演奏と言える。(LPC)

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