★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇カール・ベーム指揮ベルリン・フィルのモーツアルト:協奏交響曲K.364/K.297b

2021-05-27 09:45:00 | 協奏曲

モーツァルト:ヴァイオリン、ヴィオラと管弦楽のための協奏交響曲K.364
       オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴットと管弦楽のための
       協奏交響曲K.297b

指揮:カール・ベーム

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
       
         トマス・ブランディス(ヴァイオリン)
         ジェスト・カッポーネ(ヴィオラ)
         カール・シュタインヌ(オーボエ)
         カール・ライスター(クラリネット)
         ゲルト・ザイフェルト(ホルン)
         ギュンター・ピースク(ファゴット)

録音:1964年12月、1966年2月、ベルリン、イエス・キリスト教会

LP:ポリドール SE8009

 このLPレコードにはモーツァルトの2曲の協奏交響曲が収められている。イタリアで生まれドイツでも流行った合奏協奏曲に、当時出現した交響曲の様式とを融合させたものが協奏交響曲。この協奏交響曲は、協奏曲のように独奏者を置くが、協奏曲ほど独奏を誇示せず、全体としては交響曲に近い構成をとっている。このLPレコードのA面に収められているヴァイオリン、ヴィオラと管弦楽のための協奏交響曲K.364は、1779年にザルツブルクで作曲された作品。この少し前にモーツァルトは、マンハイムとパリの旅行を行っている。この時母を亡くし、悲嘆にくれたモーツァルトであったが、両都市から受けた音楽的刺激は大きなものがあった。ザルツブルクに戻り、作曲したのが協奏交響曲K.364である。一方、このLPレコードのB面に収められているオーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴットと管弦楽のための協奏交響曲K.297bは、協奏交響曲K.364よりも前、パリに到着した1778年4月に作曲された。2週間ほどで作曲された作品だが、初演の折、指揮者が楽譜を紛失したようで、演奏されなかった。モーツァルトは、思い出しながら新たに曲を書き上げたようだ。その後、この楽譜の写本が見つかり、復活したわけだか、何故か、初版のフルートがクラリネットに置き換えられていた。このため、この写本を巡りその真偽を巡り、論争が巻き起こってしまった。現在までのところ、作品自体はモーツァルトのものにまず間違いなかろうということで、一件落着しているようだが、写本の出所が不明確など、疑問の余地が残されているのも事実。これら2曲でのカール・ベーム(1894年―1981年)の指揮は、真正面から曲に取り組み、鮮やかな指揮の冴えを見せる。このためリスナーに少しの古めかしさも感じさせない。時を超えて今曲がつくられたかのような錯覚を持つほどである。全体に軽快なテンポで終始し、さすがにカール・ベームだけのことはあると納得させられる演奏内容だ。それに加え、独奏者たちとオーケストラの結び付きが誠に濃厚なもので、一部の隙もない。全体としては、少しも堅苦しいところはなく、特に、モーツァルトがパリ旅行で身に着けた滑らかな旋律の動きが心地良い。K.364では第2楽章の憂いを含んだ表現が絶妙で、思わず引き寄せられるほど。一方、K.297bについては、真偽問題を含む作品であるが、聴いていると、やはりこれはモーツァルトの作品以外には、ちょっと考えにくいというのが正直な感想。モーツァルト特有の軽快さに溢れた曲だ。ここでもベームの巧みな手綱さばきが一際光る。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇フランスの一流の独奏者によるモーツァルト:協奏交響曲K.297b/協奏交響曲K.364

2021-01-11 09:47:13 | 協奏曲

モーツァルト:協奏交響曲K.297b

           オーボエ:ピエール・ピエルロ
           クラリネット:ジャック・ランスロー
           ホルン:ジルベール・クールジェ
           バスーン:ポール・オンニュ
        
モーツァルト:協奏交響曲K.364

           ヴァイオリン:ローラ・ボベスコ
           ヴィオラ:ジュスト・カッポーネ

指揮:カール・リテンパルト

室内管弦楽:ザール室内管弦楽団

LP:東芝音楽工業 AB-8105

 協奏交響曲は、18世紀の協奏曲の一種で、合奏協奏曲に倣って複数の独奏楽器が使われる。ここで言う「交響曲」の意味は、複数種の楽器の音が交わることを意味し、一般に言う交響曲とは異なる。マンハイム楽派の作曲家によって多く書かれたが、ハイドンやモーツァルトも作曲した。モーツァルトは、1777年、母とともに故郷ザルツブルグを後にして、マンハイム、パリへと向かった。パリでは、昔、父レオポルトと共に世話になった文人グリムに合い、紹介状を書いてもらい、職に就こうとしたが叶わなかった。その頃書いた曲に有名な「フルートとハープのための協奏曲」がある。その頃、父親に宛てた手紙でモーツァルトは「・・・ところで私は協奏交響曲を一曲つくります。ヴェントリンクのフルート、ラムのオーボエ、プントのヴァルトホルン、リッターのファゴットのためのものです・・・」と書いている。結局この作品は上演されず、その自筆原稿は失われてしまったが、この曲こそが協奏交響曲変ホ長調K.297bなのである。今残っているのは、フルートがオーボエに、オーボエがクラリネットに変えられた改作だが、曲の本質的な変更はなされていないようなので、現在モーツァルトの作品に位置付けられている。パリでの生活で唯一好評だったのは、交響曲ニ長調「パリ」K.297であったが、この喜びもつかの間、母が旅先のパリで病死してしまい、モーツァルトは悲嘆にくれた。そしてパリを逃げるようにしてザルツブルグへ戻る。しかし、2年後には、大司教と喧嘩をしてしまい、モーツァルトはザルツブルグを飛び出し、ウィーンへと向かう。そんな状況の中、1779年に作曲されたのが、協奏交響曲変ホ長調K.364である。この後、モーツァルトは協奏曲の分野では、もっぱらピアノ協奏曲に力を入れていく。このレコードで指揮をしているカール・リステンパルト(1900年―1967年)は、ドイツの港町キール生まれの指揮者。また、このLPレコードの独奏者は、すべて当時のフランスを代表する優れた演奏家たちであり、リステンパルトとの息もピタリと合い、緻密でしかも優雅な演奏を披露している。この2曲の協奏交響曲は、現代の感覚からすると、あまりにも古の雅な感覚が強く漂う。しかし、逆にそれだからこそ、現代人が失っってしまった美的感覚がぎっしりとつまっている曲であり、演奏なのである。もうこれからは、リスナーは、このLPレコードのような優美な演奏を耳にすることはないのかもしれない。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇リヒテルのシューマン:ピアノ協奏曲/ロストロポーヴィッチのシューマン:チェロ協奏曲

2020-11-19 09:37:27 | 協奏曲

シューマン:ピアノ協奏曲
      チェロ協奏曲

ピアノ:スヴャトスラフ・リヒテル

指揮:ヴィトールド・ロヴィッキ
管弦楽:ワルシャワ国立フィルハーモニー交響楽団

チェロ:ムスティスラフ・ロストロポーヴィッチ

指揮:ゲンナディ・ロジェストヴェンスキ
管弦楽:レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

LP:日本グラモフォン MG 2202

録音:1958年10月11日~12日、ワルシャワ,ナショナル・フィルハーモニー(ピアノ協奏曲)
   1960年9月12日、ロンドン、ウィンプレイ・タウンホール(チェロ協奏曲)

 このLPレコードは、シューマンのドイツ・ロマン派を代表するピアノ協奏曲とチェロ協奏曲を1枚に収め、しかもスヴャトスラフ・リヒテル(1915年―1997年)とムスティスラフ・ロストロポーヴィッチ(1927年―2007年)という、当時の演奏家の頂点に立つ2人が演奏している、これ以上は望めないというほどの内容が充実した録音である。シューマン:ピアノ協奏曲は、1845年に完成された、シューマンの遺した唯一のピアノ協奏曲で、初演は、1846年にクララ・シューマンのピアノ独奏によって行われた。その後、クララ・シューマンの人気とも相まって、このピアノ協奏曲は、多くの支持を集めることになる。この背景には、当時リストやパガニーニに代表されるヴィルトオーゾ風の曲の全盛時代であり、シューマン:ピアノ協奏曲の曲想は、これらとは正反対の、内省的で夢想的な、正にロマン派そのものの曲への期待が挙げられよう。一方、シューマン:チェロ協奏曲は、1850年に作曲された曲。通常3つの楽章は途切れなく演奏される。曲風は地味ながら、ピアノ協奏曲にも増してロマンの香り高い名品で、現在でもしばしばコンサートで取り上げられる曲となっている。このLPレコードにおいてリヒテルのピアノ演奏は、通常のリヒテル特有の力強いピアノタッチは鳴りを潜め、代わりに詩情豊かな柔らかいピアノタッチが響き渡る。テンポも緩やかで、思う存分シューマンのロマンの世界に浸ることができる。ベートヴェンなどで見せるリヒテルの男性的な演奏とは一味違って、ツボを心得た詩的な感情表現が誠に見事だ。わざとらしさは微塵もなく、シューマンの内省的で夢を見ているような世界を表現し、リヒテルの懐の深さを思い知らされる録音だ。一方のチェロ協奏曲は、ピアノ協奏曲が明るい夢想の世界とするなら、暗く沈み込むような夢想の世界が辺り一面に漂う曲だ。オーケストラの結び付きは、さらに緊密ととなってくる。ロストロポーヴィッチの演奏は、あたかもヴァイオリンのように軽々とチェロを奏していることにまず目を見張らされる。辺り一面に静寂さが漂い、その中をチェロとオーケストラが相互に絡み合うように曲を進める。ここには、単に技巧だけで曲を盛り上げるといった雰囲気は皆無。汲めども尽きぬ透明な泉から、真水がこんこんと自然に湧き出してくるようなみずみずしさが魅力的な演奏だ。ロジェストヴェンスキ指揮レニングラード・フィルの伴奏も、ロストロポーヴィッチのチェロ演奏に一歩も引かぬ高みに達していることが、この録音の価値を一層際立たせている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ミラン・トゥルコヴィッチのモーツァルト:ファゴット協奏曲/コゼルー:ファゴット協奏曲/ウェーバー:ファゴット協奏曲

2020-10-08 09:41:01 | 協奏曲

モーツァルト:ファゴット協奏曲K.191
コゼルー:ファゴット協奏曲
ウェーバー:ファゴット協奏曲Op.75

ファゴット:ミラン・トゥルコヴィッチ

指揮:ハンス=マルティン・シュナイト

管弦楽:バンベルク交響楽団

録音:1972年1月8日~9日、29日、バンベルク、クルトゥーアラウム

LP:ポリドール(ドイツグラモフォン) SE 8010

 これは、ファゴット協奏曲を3曲収めた珍しいLPレコードだ。ファゴットは、低音部を受け持つ木管楽器。似た木管楽器としてはオーボエがある。オーボエは、オーケストラの音合わせに使われるなど、人間に声に近く、それだけに馴染み深い感がする。一方、ファゴットは、低音部を受け持つだけに、その存在は比較的地味である。一種近寄りがたい雰囲気も漂わせる一方、時々おどけるような表現にも使われる場合もあり、さらには歌わせるような場面ではその実力を如何なく発揮し、オーケストラには欠かせない楽器となっている。モーツァルト:ファゴット協奏曲K.191は、1774年頃に作曲された、モーツァルト唯一のファゴット協奏曲。全部で3つの楽章からなり、ファゴット演奏の優れた技巧を要すると同時に、フランス趣味のギャラントな作品に仕上がっている。次の曲は、コゼルー:ファゴット協奏曲。コルゼーという人はハイドンとほぼ同世代のハンガリーの作曲家である。生涯の大半をプラハの教会で過ごし、52曲のミサ、それに400曲近い宗教曲を残している。ファゴット協奏曲は、マンハイム楽派から影響を受けた作品。3曲目は、ウェーバー:ファゴット協奏曲。ウェーバーは、ドイツオペラの伝統を継承しつつ、有名な「魔弾の射手」によってドイツ・ロマン派のオペラ様式を完成させた作曲家として知られ、「舞踏への勧誘」などの器楽曲も遺している。モーツァルトの妻コンスタンツェは、父方の従姉にあたる。ウェーバーのファゴット協奏曲は、ファゴットの音域や表情の多様な変化が巧みに捉えられた作品に仕上がっている。このLPレコードでファゴットを演奏しているミラン・トゥルコヴィッチについて、このLPレコードのライナーノートで石井 宏氏が次のように紹介している。「エールベルガーなきあと現在のウィーンのファゴットのナンバー・ワンに数えられているのがミラン・トゥルコヴィッチ(1939年生まれ)である。このLPレコードに最初に針を落とした時、私は、思わず、エールベルガーの再来かと、一瞬耳を疑ったものだった。彼は、1967年(28歳)以来、名門ウィーン・フィルハーモニーのソロ・ファゴットとして活躍しており、その名は世界各国の土の上に印されている」。このLPレコードでのミラン・トゥルコヴィッチの演奏は、如何にも軽々とファゴットを吹いていることに驚かされる。品格があり、しかもその奥行きの深い表現力は、ミラン・トゥルコヴィッチがファゴットの第一人者であることを強く印象付けられる録音だ。20年ほど前よりは指揮者としての活動を展開。(LPC) 

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