モーツァルト:ヴァイオリン、ヴィオラと管弦楽のための協奏交響曲K.364
オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴットと管弦楽のための
協奏交響曲K.297b
指揮:カール・ベーム
管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
トマス・ブランディス(ヴァイオリン)
ジェスト・カッポーネ(ヴィオラ)
カール・シュタインヌ(オーボエ)
カール・ライスター(クラリネット)
ゲルト・ザイフェルト(ホルン)
ギュンター・ピースク(ファゴット)
録音:1964年12月、1966年2月、ベルリン、イエス・キリスト教会
LP:ポリドール SE8009
このLPレコードにはモーツァルトの2曲の協奏交響曲が収められている。イタリアで生まれドイツでも流行った合奏協奏曲に、当時出現した交響曲の様式とを融合させたものが協奏交響曲。この協奏交響曲は、協奏曲のように独奏者を置くが、協奏曲ほど独奏を誇示せず、全体としては交響曲に近い構成をとっている。このLPレコードのA面に収められているヴァイオリン、ヴィオラと管弦楽のための協奏交響曲K.364は、1779年にザルツブルクで作曲された作品。この少し前にモーツァルトは、マンハイムとパリの旅行を行っている。この時母を亡くし、悲嘆にくれたモーツァルトであったが、両都市から受けた音楽的刺激は大きなものがあった。ザルツブルクに戻り、作曲したのが協奏交響曲K.364である。一方、このLPレコードのB面に収められているオーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴットと管弦楽のための協奏交響曲K.297bは、協奏交響曲K.364よりも前、パリに到着した1778年4月に作曲された。2週間ほどで作曲された作品だが、初演の折、指揮者が楽譜を紛失したようで、演奏されなかった。モーツァルトは、思い出しながら新たに曲を書き上げたようだ。その後、この楽譜の写本が見つかり、復活したわけだか、何故か、初版のフルートがクラリネットに置き換えられていた。このため、この写本を巡りその真偽を巡り、論争が巻き起こってしまった。現在までのところ、作品自体はモーツァルトのものにまず間違いなかろうということで、一件落着しているようだが、写本の出所が不明確など、疑問の余地が残されているのも事実。これら2曲でのカール・ベーム(1894年―1981年)の指揮は、真正面から曲に取り組み、鮮やかな指揮の冴えを見せる。このためリスナーに少しの古めかしさも感じさせない。時を超えて今曲がつくられたかのような錯覚を持つほどである。全体に軽快なテンポで終始し、さすがにカール・ベームだけのことはあると納得させられる演奏内容だ。それに加え、独奏者たちとオーケストラの結び付きが誠に濃厚なもので、一部の隙もない。全体としては、少しも堅苦しいところはなく、特に、モーツァルトがパリ旅行で身に着けた滑らかな旋律の動きが心地良い。K.364では第2楽章の憂いを含んだ表現が絶妙で、思わず引き寄せられるほど。一方、K.297bについては、真偽問題を含む作品であるが、聴いていると、やはりこれはモーツァルトの作品以外には、ちょっと考えにくいというのが正直な感想。モーツァルト特有の軽快さに溢れた曲だ。ここでもベームの巧みな手綱さばきが一際光る。(LPC)