シューベルト:弦楽四重奏曲第14番「死と少女」
ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲「アメリカ」
弦楽四重奏:スメタナ弦楽四重奏団
録音:1954年(死と少女)/1958年(アメリカ)
発売:1977年7月
LP:日本コロムビア OW-7708-S
このLPレコードで演奏しているスメタナ弦楽四重奏団は、1943年にプラハ音楽院の学生のリベンスキー(第1ヴァイオリン)、コステツキー(第2ヴァイオリン)、ノイマン(ヴィオラ)、コホウト(チェロ)の4人により、最初プラハ音楽院四重奏として結成され、1945年になり、スメタナ弦楽四重奏としてデビューを果した。得意のチェコ音楽をはじめ、モーツァルト、ベートーベン、ハイドン、ブラームスやドビュッシーなど、幅広いレパートリーを持ち、世界各地での演奏活動によって多くのファンを魅了した。確固とした技巧に裏付けられた、その流れるような美しい表現力は、当時のカルテットの中でも一際抜きんでた存在であった。全員が暗譜で演奏するそのスタイルでも話題をさらったものだ。1958年には初来日し、その優れた演奏を聴かせ、以後16年間に渡り日本での演奏活動を行い、日本の多くのファンから愛されたカルテットであった。1988年最後の日本ツアーが行なわれ、翌年の1989年に解散した。スメタナ弦楽四重奏団の演奏は、全てが自然な流れの中に身を置くような演奏スタイルであり、聴いていて何の抵抗感がない。かと言って、当然ただ漠然と演奏するわけではなく、微妙なニュアンスを大切にし、幽玄の美といったような至高の芸術にまで高めることに真骨頂があった。どこか、日本的な要素もあり、日本のクラシック音楽ファンにとっては、非常に親近感が湧くカルテットではあった。そんなスメタナ弦楽四重奏団の演奏で、弦楽四重奏曲の古今の名曲「死と少女」と「アメリカ」の2曲が聴けるのが、このLPレコードである。シューベルト:弦楽四重奏曲第14番「死と少女」で、スメタナ弦楽四重奏団は、精緻を極めた演奏を繰り広げる。何と豊かで、同時にこのカルテットでしか表現しえないような静寂さが込められている演奏となっている。少しも表面的な表現に流されることはなく、常に精神の内面を覗き込むような強靭な求心力を秘めた演奏となっている。一方、ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲「アメリカ」の演奏は、シューベルトの時とはがらりと演奏スタイル変え、明るく、歌うように演奏を盛り上げる。もうこうなると、「この四重奏曲は我々の曲」とでも言いたげな雰囲気さえ醸し出す演奏だ。スメタナ弦楽四重奏団の根底には、どうも民族的音楽の情熱がたぎっているように私には聴こえる。今もって、スメタナ弦楽四重奏団を超える叙情味溢れる演奏を聴かせてくれるカルテットは存在していないと言っても間違いなかろう。(LPC)