ベートーヴェン:ピアノソナタ第4番/第5番/第6番
ピアノ:フリードリッヒ・グルダ
発売:1976年
LP:キングレコード SOL2014
ベートーヴェンは、生涯にわたってピアノソナタを作曲し、その数は32曲。中には「悲愴」「月光」「熱情」など、お馴染みの曲も含まれているが、一方、第30番、第31番、第32番など、ピアノ独奏曲の極限に挑戦するかのような、難解で哲学的な色合いが濃い作品も含まれている。言ってみれば、ベートーヴェンにとって、交響曲は“人生の応援歌”、弦楽四重奏曲は“内省的な独白”であるのに対して、ピアノソナタは、差し詰めその折々の“人生の散文詩”であるように私には感じられる。このLPレコードには、初期のピアノソナタの第4番、第5番、第6番が収められている。第4番は、「恋をしている女」とも言われることがある曲であり、情感が籠った曲。1796年か97年につくられたとされる。第5番は、作品10の3の1として書かれた初期の名作の一つ。作品10の3曲は1796年から98年に書かれたと考えられる。そして第6番は、明るく、陽気でエネルギッシュな曲。どことなくハイドンを思わせるが、エネルギッシュなところはやはりベートーヴェンそのものと言えよう。演奏しているフリードリヒ・グルダ(1930年―2000年)は、ウィーン生まれのピアニスト。バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンの演奏などを得意としていた。ウィーン音楽アカデミーで学ぶ。1946年、ジュネーブ国際音楽コンクールで優勝。1946年11月にウィーンの楽友教会ホールでデビュー・リサイタルを行い大成功を勝ち得た。1947年にはプラハの春音楽祭に出演したほか世界各地で演奏会を行い絶賛を博する。1950年にニューヨークで米国デヴューを飾り、以後その名は世界に知れ渡る。1970年頃、ジャズに傾倒し、本人はジャズ演奏家に転向を志すが周囲の反対で断念(あまりうまいジャズ演奏ではなかったという評もあった?)。これはグルダの音楽への関心がジャンルを問わなかったことを示す逸話。最も得意にしていたのはベートーヴェンであり、バックハウス、ケンプに続く、20世紀を代表する巨匠ピアニストの一人であった。1967年、1969年、1993年の3度来日しており、日本においても高い評価を得ていた。このLPレコードでは、グルダのごく若い頃の演奏様式を聴くことができる。ここでのグルダの演奏は、実に丹精であり、一音一音を丁寧に、正確に弾きこなしている。だからといって、少しもぎすぎすしたところはなく、ベートーヴェンの初期のピアノソナタの持つ、快活でかつ優雅な側面を、ものの見事に再現することに成功している。(LPC)