シューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ第1番/第3番/第2番
ヴァイオリン:ヴォルフガング・シュナイダーハン
ピアノ:ワルター・クリーン
録音:1965年1月4日~6日、ウィーン、ムジークフェライン 大ホール
LP:ポリドール SE 8010
このLPレコードに収められたシューベルトの3つのソナチネは、1816年、シューベルト19歳の時の作品である。そのころ行われていたシューベルトの家での家庭コンサートのために作曲されたものと考えられている。シューベルト自身は、この3つのソナチネを「ヴァイオリンの伴奏をともなえるピアノ・フォルテのソナタ」と名付けていた。基本的には古典的な曲ということができるが、各所に如何にもシューベルトらしさが顔を覗かせており、3曲とも実に愛すべき作品に仕上がっている。特に第2番と第3番ではヴァイオリンが重視され、進歩の跡が窺える。シューベルトは、若い頃、「自分自身をモノにしようと、私はひそかに望んでいた。しかし、ベートーヴェンの後、誰が自分自身をモノにすることができるのであろうか?」と述懐していたという。これら3曲は、何の苦労もなく完成したかのように思われるが、実態は違っていた。このようなウィーンにおける家庭的な曲では、演奏家の素質が演奏の内容をを大きく左右することになる。その点、このLPレコードで共演しているヴォルフガング・シュナイダーハンとワルター・クリーンは、この曲を演奏するには、これ以上の適役はいないと言っても過言でないほど。ヴォルフガング・シュナイダーハン(1915年―2002年)は、ウィーンでヴァイオリンを学んだ典型的なウィーンっ子。5歳で演奏会を開いて神童と騒がれたという。1933年から1937年までウィーン交響楽団のコンサートマスターを務め、1937年からはウィーン・フィルのコンサートマスターを務めた。1956年には、ルドルフ・バウムガルトナーとともにルツェルン音楽祭弦楽合奏団を創設している。一方、ワルター・クリーン(1928年―1991年)は、オーストリア・グラーツ出身のピアニスト。ウィーン音楽アカデミーでアルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリに師事。1951年と1952年のブゾーニ国際ピアノコンクールおよび1953年のロン=ティボー国際コンクールに入賞している。ウィーンの典型的ピアニストであり、ウィーンの伝統様式を新鮮な感覚で生かした演奏は、モーツァルトをはじめとして高い評価を得ている。このLPレコードにおける2人の演奏は、流麗で、しかも輝かしい光を放ち、ある時は憂いを帯びた陰影のある優美さに溢れている。一言で言えば、古きよき時代の名演奏とでも言ったらよいのであろうか。残念ながら、今ではもう、このような優美な演奏を聴くことはできなくなってしまった。(LPC)