チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲「ある偉大な芸術家の思い出」
ピアノ三重奏:スーク・トリオ
ヨセフ・スーク(ヴァイオリン)
ヤン・パネンカ(ピアノ)
ヨセフ・フッフロ(チェロ)
録音:1965年
発売:1979年
LP:日本コロムビア OW‐7769‐S
このチャイコフスキーのピアノ三重奏曲に付けられた副題「ある偉大な芸術家の思い出のために」の、ある偉大な芸術家とは、19世紀後半のロシア音楽の推進力となった偉大な指導者ニコライ・ルービンシュタイン(1835年―1881年)のことである。ニコライ・ルービンシュタインは、ピアノと作曲とを学び、1859年にロシア音楽協会の設立に尽力し、1864年にはモスクワ音楽院を創設して、自から院長となってロシアの音楽教育に多大な功績を果たした。また、ピアニストとしても活動する傍ら、指揮者として若きロシア人の作曲家の作品を積極的に紹介したのである。チャイコフスキーも、ニコライ・ルービンシュタインの指導、激励を受け、作曲家として成長を遂げていった。そのニコライ・ルービンシュタインは、1881年3月23日に、旅先のパリで客死してしまう。これを悼んでチャイコフスキーは、それまでほとんど手掛けていなかったピアノ三重奏曲を作曲したのである。これはニコライ・ルービンシュタインがピアニストであったためだと思われる。曲はピアノが主導する曲想となっている。全体は、2楽章で書かれているが、第2楽章は2つの部分に分かれており、その第1部分は主題と11の変奏からなる。変奏曲の主題はピアノ独奏だけに基づいているが、これはピアニストのニコライ・ルービンシュタインへの哀悼の意を込めたものと考えられる。これを演奏しているのが往年の名トリオであるスーク・トリオだ。3人の奏者の技量がぴたりと合い、しかも情感をたっぷりと入れ込んだ名演奏を聴かせてくれる。ヨセフ・スークのヴァイオリンが切なくメロディーを奏で、これに応えるようにヤン・パネンカのピアノが、あたかもニコライ・ルービンシュタインそのものであるかのように活発に動き回る。そしてヨセフ・フッフロのチェロが、そんな2人を静かに受け止める。ヴァイオリンのヨゼフ・スーク(1929年―2011年)は、チェコ、プラハ出身。ボヘミア・ヴァイオリン楽派の継承者として高い評価を受けていた。ピアノのヤン・パネンカ (1922年―1999年)は、チェコ、プラハ出身。1951年「スメタナ国際コンクール」で第1位。日本へは1959年の初来日以降たびたび訪れた。チェロのヨセフ・フッフロ(1931年―2009年)は、チェコ、プラハ出身。1959年「カザルス国際チェロ・コンクール」の優勝者で、抜群の安定感のある演奏には定評があった。(LPC)