モーツァルト:ピアノ協奏曲第26番「戴冠式」K.537/第12番K.414
ピアノ&指揮:ゲザ・アンダ
管弦楽:ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団
録音:1965年5月17日~22日、ザルツブルク、祝典小劇場
LP:ポリドール(ドイツ・グラモフォン) SE 7902
このLPレコードには、名ピアニストのゲザ・アンダが名声を得る切っ掛けとなったザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団を弾き振りし、モーツァルトの名作であるピアノ協奏曲第26番「戴冠式」と第12番が収められており、正に夢の共演盤といったところ。モーツァルト:ピアノ協奏曲第26番「戴冠式」は、1790年2月にウィーンのオーストリア帝ヨーゼフ二世が亡くなり、その秋に新帝レオポルト二世の戴冠式が行われ、集まった貴族のお金を目当てに作曲され作品で、今日「戴冠式」として親しまれている。一方、1781年、25歳のモーツァルトは、ザルツブルクの大司教と決裂し、新たな生活をウィーンで過ごすと同時にコンスタンツェ・ウェーバーと結婚したこともあり、お金を稼ぐ必要性に迫られていた。そこで、演奏会を企画し、新たなピアノ協奏曲第12番を作曲したのである。こちらの曲も、清新な生命力を持った傑作として知られている。どうもモーツァルトの作曲の切っ掛けとなるのは、お金がらみが多いように思われる。それでも、これらの曲に傑作が多いのは、さすが天才モーツァルトといったところか。このLPレコードで演奏しているゲザ・アンダ(1921年―1976年)は、ハンガリーのブタペスト生まれの名ピアニスト。ブタペスト音楽院を卒業後、メンベルベルクやフルトヴェングラーとの共演で話題となる。第二次世界大戦後に本格的な活動を開始。バルトーク、それにこのLPレコードでも共演しているザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団との共演によるモーツァルトの演奏活動などで名声を得る。残念ながら、これから円熟の境に入ろうという55歳でこの世を去ってしまった。現在では、20世紀の偉大なピアニストの一人に数えられおり、1979年からは若いピアニストに多くの演奏の機会を与える「ゲザ・アンダ国際ピアノコンクール」が開催されている。このLPレコードに収められた演奏からは、ゲザ・アンダとザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団との一身同体化した名演を聴くことができる。実に、緻密な演奏でありながら、如何にもモーツァルトらしい大らかさが全体に溢れれている。ゲザ・アンダのピアノの音色は秋空のように澄みわたり、それが真綿のようなザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団の弦が包み込んで、理想的なモーツァルトの世界を創りあげている。音楽を演奏する者と、それを聴く者とが渾然と一体化できる稀有な録音である。(LPC)