★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ローラ・ボベスコのモーツァルト:ヴァイオリンソナタ第37番/第38番/第41番

2022-07-11 09:45:54 | 室内楽曲(ヴァイオリン)


モーツァルト:ヴァイオリンソナタ第37番
       ヴァイオリンソナタ第38番
       ヴァイオリンソナタ第41番

ヴァイオリン:ローラ・ボベスコ

ピアノ:ジャック・ジャンティ

録音:1981年1月

LP:テイチク(LIBERO RECORD) KUX-3212-L

 ローラ・ボベスコ(1921年―2003年)は、ルーマニア出身の女性の名ヴァイオリニスト。パリ音楽院で学び、15歳でベルギーの「イザイ・コンクール」(世界3大コンクールの一つ「エリザベート国際コンクール」の前身)で優勝した実力者であった。また、コンセール・イザイを主宰し、仏伊の古典音楽の権威者でもあった。ベルリン・フィルの女性ゲスト・ソリストとして最多の出演回数を誇るほどの当時人気のヴァイオリニストの一人として活躍した。演奏内容は、フランス風の上品な雰囲気が身上であり、女性ヴァイオリニスト特有の優雅な演奏は、多くのファンを魅了して止まなかった。その繊細で端正な演奏内容は、特に日本人好みでもあったようだ。しかし、一方では、その演奏内容には一本筋の通った力強さも秘められていた。そんな経緯で、当時の日本の一部の熱烈なファンが中心になり、来日公演を実現させたのだと聞く。このLPレコードは、そんなローラ・ボベスコがピアノのジャック・ジャンティ(1921年―2014年)と組んだ、モーツァルトのヴァイオリンソナタの録音のシリーズの第1集である。第37番と第38番のヴァイオリンソナタは、妻のコンスタンツェのピアノでモーツァルトが楽しんでヴァイオリンを弾くために作曲したとされる。第41番のソナタは、歌劇「フィガロの結婚」作曲中につくられた作品で、モーツァルトのヴァイオリンソナタ中の傑作の一つとされる曲。ボベスコのヴァイオリンは、あくまで優雅にしかも艶やかにモーツァルトらしい世界を披露しており、満足させられる。同時に毅然とした力強さを内に秘めた演奏内容が、一際リスナーの印象に残る。このLPレコードのライナーノートで中村稔氏はボベスコの演奏を「特級品のモーツァルト演奏」と紹介しているが、あたかも当時のボベスコブームの熱気がジャケットから伝わってくるようだ。ピアノ伴奏のジャック・ジャンティは、フランス・パリ出身。パリ音楽院で、ラザール・レヴィにピアノ、シャルル・ミュンシュに指揮法を学び、両方でプルミエ・プリを獲得。1948年にローラ・ボベスコと結婚してデュオ活動を行った。ボベスコとは10年ほどで離婚したが、離婚後もボベスコの伴奏を中心に音楽活動を行った。このLPレコードでもジャック・ジャンティは、モーツァルトのヴァイオリンソナタの優雅な世界を巧みにピアノ伴奏して、ローラ・ボベスコのヴァイオリン演奏の価値をより一層高めることにものの見事に成功させている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ネヴィル・マリナー指揮アカデミー室内管弦楽団のビゼー:交響曲ハ長調/プロコフィエフ:交響曲第1番「古典」

2022-07-07 09:41:47 | 交響曲


ビゼー:交響曲ハ長調
プロコフィエフ:交響曲第1番「古典」

指揮:ネヴィル・マリナー

管弦楽:アカデミー室内管弦楽団

オーボエ:ニール・ブラック

発売:1981年

LP:キングレコード K18C‐9203

 このLPレコードには、ビゼーとプロコフィエフのともに第1番の交響曲が収録されている。これはなかなか良いカップリングだと思う。ビゼーは歌劇「カルメン」や劇音楽「アルルの女」など、不朽の名作の作曲者として知られているが、交響曲も3曲書いたと言われている。しかし、現在残っているのは通常第1番と呼ばれている、この曲だけだ。17歳の時に作曲した草稿がたまたまパリ音楽院において発見され、日の目を見ることになった。聴いてみると若々しさに溢れた内容となっており、実に聴きやすいし、何といっても聴いていると自然に心が浮き浮きとしてくるのがいい。これはビゼーの若さの勝利であると同時に、ビゼーの天分が何の衒いもなく、自然に沸きあがってくる様が聴いて取れる。そんな交響曲をマリナー指揮アカデミー室内管弦楽団は、明快に弾むように演奏している。ビゼー:交響曲ハ長調はこういう風に演奏しなくてはならない、とでもいうような演奏内容だ。一方、プロコフィエフは、生涯で7曲の交響曲を作曲したが、このLPレコードでは第1番の「古典交響曲」が聴ける。丁度、ソヴィエト革命が起こった最中に作曲されたのがこの「古典交響曲」であり、ハイドンの交響曲を現代に再現しようとして書き上げた作品だという。内容は実に堂々とした“古典的交響曲”に仕上がっており、将来のプロコフィエフの活躍を予告するかのような秀作である。マリナー指揮アカデミー室内管弦楽団は、「古典交響曲」の持つ、奥行きの深さをたっぷりと表現しており、満足いく出来栄えとなっている。これら2曲ともにマリナー指揮アカデミー室内管弦楽団の特質にぴったりと合った選曲だ。ネヴィル・マリナー (1924年―2016年)は、イギリス・イングランド出身の指揮者・ヴァイオリニスト。王立音楽大学に学んだ後、パリ音楽院に留学。フィルハーモニア管弦楽団やロンドン交響楽団においてヴァイオリニストを務める。その後、米国メイン州ハンコックのピエール・モントゥーの音楽学校で指揮法を学ぶ。1959年にアカデミー室内管弦楽団 (Academy of St. Martin-in-the-Fields) を結成し、以後長年わたりその指揮者を務めた。そのほかロサンジェルス室内管弦楽団、ミネソタ管弦楽団、シュトゥットガルト放送交響楽団、カダケス管弦楽団などの指揮者も務めた。1985年にはナイト号を授与されている。1972年にはアカデミー室内管弦楽団と初来日を果たし、以後しばしば日本を訪れている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇アルテュール・グリュミオーのヴァイオリン名曲集

2022-07-04 09:40:27 | 室内楽曲(ヴァイオリン)


~ヴァイオリン名曲集~

クライスラー:愛のよろこび/愛の悲しみ/美しきロスマリン
モーツァルト:メヌエット
マスネー:タイスの瞑想曲                   
ドヴォルザーク:ユーモレスク                
ベートーヴェン:ト調のメヌエット
シューマン:トロイメライ
モーツァルト(クライスラー編):ロンド
シューベルト:セレナード
アルベニス(クライスラー編):タンゴ
フォーレ:夢のあとに     
ドヴォルザーク:わが母が教えてくれた歌
シューベルト:アヴェ・マリア

ヴァイオリン:アルテュール・グリュミオー

ピアノ:イストヴァン・ハイデュー

録音:1973年、アムステルダム

発売:1977年

LP:日本フォノグラム(フォンタナ・レコード) PL-23

 私は「クラシック音楽がどうして好きなのですか?」問われたら、昔はむきになって、ベートーヴェンが如何に素晴らしいかを喋り、シューベルト、ブラームス、シューマン、ショパンなどあらゆる作曲家の名を挙げ、そしてそれらの名曲について語ったものだった。しかし、今同じ質問が来たら、多分何も答えず、アルテュール・グリュミオーの弾く、このLPレコードの最初の3曲「愛のよろこび」「愛の悲しみ」「美しきロスマリン」を聴いてもらうことになるのではないかと思う。何故かというとグリュミオーの弾くヴァイオリン演奏には、クラシック音楽の持つ美しさが凝縮され、しかも誰が聴いても分りやすいからだ。それにクライスラーが作曲したこれらの曲は、郷愁にも似た感情を、聴いたものすべての者に抱かせることができる、不朽の小品だからでもある。「百聞は一見に如かず」という言葉があるが、グリュミオーの弾くヴァイオリン演奏を聴くと「百聞は一聴に如かず」という思いが自然に湧き上がってくるほどだ。これらの3曲を含んで、このLPレコードに収められたグリュミオーの演奏の素晴らしさは、筆舌に尽くしがたいものがある。グリュミオーの弾くヴィブラートはヴァイオリン演奏史上最も美しいと称される。自然なボウイングでヴァイオリンを奏で、そこから紡ぎだされる音は珠玉のように美しい。フランコ=ベルギー楽派を代表する大ヴァイオリニストなのである。アルテュール・グリュミオー(1921年―1986年)はベルギーの出身。シャルルロワ音楽学校を経た後に、ブリュッセル王立音楽院で学ぶ。その後、パリに留学してジョルジュ・エネスコに師事している。第二次世界大戦後、その名は不動なものとなり、世界的な名声を得るようになる。特に、ピアニストのクララ・ハスキルをパートナーに迎えての演奏活動は、当時の多くの聴衆を魅了した。グリュミオーは音楽界への貢献が認められ、1973年に男爵に叙爵されている。美を極限まで追求したグリュミオーのようなヴァイオリン演奏は、LPレコード特有の柔らかくも温かみのある音質によって聴くことで、はじめてその真価が聴き取れるのである。その意味でこのLPレコードは貴重な存在である。そしてピアノのイストヴァン・ハイデュー(1913年―?)との絶妙なコンビを書き落とすとしたら、片手落ちになろう。イストヴァン・ハイデューはハンガリー・ブタペスト出身。1957年にオランダに移住し、その翌年からグリュミオーの常時の共演者を務めた。(LPC)

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