― 朝やで。おはよう。
彼の明るい声が、携帯越しに私を眠りから目覚めさせた。
携帯を手にしたまま、寝返りを打つと、ホテルの窓の外が明るくなっている。
私はモソモソした声で、おはようと返した。
(もしもーし。どなたもいないんですかー?)
「…オーラスの後なのにずいぶん早起きだね…」
(昨日、おまえに電話出来ひんかったからな。ゴメンな)
私のちょっと皮肉まじりの一言に、彼がストレートで返してくるなんて意外だった。
私は体を起こすと、枕を背に当てた。
「元旦に電話くれたじゃん」
(あれは…あれ電話言わんやろ)
カウントダウンライブの後、慌ただしい最中に電話をくれた彼だったけど、「あけおめ!ことよろ!またな!」と、一方的に言って電話は切れた。
あまりにあっという間で、私はしばらく訳がわからず、携帯を呆然と眺めていた。
「ツアーおつかれさまでした」
彼には見えないけれど、私は頭を下げた。
(おまえもありがとな)
「何が?」
(まだ寝ぼけとんのか?ツアーいっぱい来てくれたやんか。北海道から…)
彼の後を引き継いだ。
「広島…次が仙台…。あの仙台の時、風邪ひいてたやん」
(鼻水が止まらんかっただけや。風邪やないで)
「ねえ、仙台の前に一緒に海行ったでしょ。あの時、風冷たかったじゃん…」
(海行ったん関係あらへん)
「ん、じゃあ…夜遅くまで狩りしてたからかな」
(ま、そういうことにしとこか)
ホンマはそうやない思うけどな、と彼は小声で付け足した。
「東京の時は元気やったね。あ、セットリストが変わっててちょっとビックリした」
(冬っぽくて良かったやろ)
「うん。『Do you agree?』と『DIVE』が入ってたし、『ブリュレ』があってめっちゃ嬉しかった!」
(そっちか!冬とまったく関係ないやんか)
「あっそういえば『snow white』のソロパート変えてきてたね。でも違和感なかったよ。それってすごいよね」
(んー何がすごいんかわからんけどな)
東京ドームで披露したクリスマスバージョン。
日程でクリスマスに一番近かった名古屋でもやってくれたら良かったのに、と愚痴ってみた。
(あれ、そういや仕分けの時、見んかったな)
「何を?」
(名古屋でおまえが着てた、あのヒョウ柄のエッチぃな服)
「ああ、あれちょうどクリーニング出してて…」
(なんやあれ、ホンマビックリしたわ。えええっ?それおまえなん?みたいな感じやったからな。あの時、俺、めっちゃ振り返ったやんか)
「うん、ありがと、振り返ってくれて」
(アホ!めっちゃ焦るわ。あんな露出した…おまえ、楽しそうに着んなや)
「でもみんな露出が多い服の方が嬉しいんでしょ」
(そらそやけど)
おまえは別やから…照れくさそうにそう言ってくれる彼の言葉が素直に嬉しい。
(あとあれや、大阪ん時のあの服、目立ってたなー。あの大量についた安全ピン、ありえへんやろ)
「服が目立ってたんじゃなくて、席が良かっただけだよ」
(また正面おったもんな)
「あ、でも…あれ、かっこよかったよ。ロープで上がってくの。なんか、うわーアイドルやーって感じだった」
(なんや感じって。どっから見ても完璧なアイドルやろ。おまえ、馬鹿にしとんのか?)
「違うよ。ホンマに素敵やなあって見てたんだから。ねえ、きみ君って帽子とか被り物とかめっちゃ似合うよね」
(なんやどさくさに紛れて被り物て)
「お醤油!私あれが一番気に入ったかも。お寿司もみんな可愛くて、なんかのキャラクターみたいだったし、めっちゃ楽しかったよ」
「やっぱりな、あれめっちゃ評判良かったんやで。ただなあ、来年のハードルまた上がりすぎたな」
ひとしきり、その「寿司ネタ」とじゃあ来年は何やる?話で盛り上がった。
(なあ寿司もええけど、ライブの感想ほかにないんか)
「最初から最後までめっちゃカッコ良かったよ。歌もダンスもバンドも」
(いきなしまとめに入ったな)
電話の向こう側で彼が笑っている。
「黒スーツみんな似合ってて超ステキだったし。あ、でも、足を出してるきみ君も好き」
(ふくらはぎが好きなんやろ?もう、おまえが好きって言うん、音楽とぜんぜん関係ないとこばっかしやな)
音楽かあ…
「あっそだ。『って!!!!!!!』のソロのとこ。ヤスの肩に手かけて歌うじゃん。あれ、めっちゃカッコよかったよ。ヤスのギターも超カッコいいし」
最後の一言はいらんやろ、ボソッと聞こえてきた彼の言葉は無視することにした。
「後半のロックメドレー、大倉君のドラムソロから始まるじゃん。あれめっちゃヤバいって。ホンマに。大倉君のドラム、毎回進化してるよね。聴いててすっごいワクワクするの。で、マルのベースにヤスのギターが入ってセッションするでしょ。あれ、めちゃくちゃカッコいい!『Baby Baby』ん時のヤスのギターテクも痺れるくらい好きなんやけど、やっぱりね、ロックメドレーのヤスのギターがいっちばん最高って思う」
ちょっと間。
(…おまえ、なんやねん。俺の耳元でヤスヤスヤスヤスヤスヤスて。ヤスの名前連呼してなに興奮してんねん)
「えーそんな何度も言ってないでしょ」
(アホ、いま俺にはそれくらい聞こえとったぞ。もうむちゃくちゃ倍増されて聞こえてんやからな)
他のメンバーのことをカッコいいとか好きとか言うと、彼はいつもこう。
でも、メンバーを誉められて一番喜ぶのもこの人。
その証拠に、言葉尻には嬉しそうな響きが混じっている。
「あ、私ね、きみ君のシャララーンってやる時の指が好き」
(なんやそれ。そんなん指が好きとか言われても、ぜんぜん嬉しかないわ)
他の人が聞いたらどうでもいいような他愛のない会話を毎回のように交わして、気づけばもう1年の付き合い。
でも、なんでもないような言葉の端々に、相手への想いを含ませたり、照れ隠ししてみたり。
人は器用で、そして面倒くさい生き物だなって思う。
(他にどの曲好きやった?前、アルバム出た時に『モノグラム』好きや言ってたな。『泣かないで僕のミュージック』もサビ聴いた途端に泣ける言うてたやろ)
「『泣かないで』は、あの宝塚みたいな電飾ついた大階段で並んで踊るじゃん。あれすごく素敵」
でも、サビで斜めのフォーメーションになる時に、一番上の段に間に合うか、毎回気になってたんだけどって言ったら、俺もやと笑ってる。
「『ほろりメロディー』のダンスもめっちゃ好き。手の動きが超色っぽくて」
(あとダンスで好きなんは『ブリュレ』か)
「あれはヤバいよ。めっちゃテンション上がるもん。あと『モノグラム』の振付も覚えやすくて好きだな。一番最初にきみ君のソロパートもあるし」
(俺も『モノグラム』好きやな)
「あっでもね、みんな踊らなくてもカッコいいって今回初めて思ったよ。『浮世踊リビト』、ゴンドラに横並びで立ってるだけなのに、こっちから見てるとめちゃめちゃカッコいいんだよ。Jackhammerもそうやし。みんなカッコよすぎだよ」
(みんな?)
「うん、そこはみんな、って言いたいかな」
(みんな?)
まったくこの人は…
思わず苦笑が漏れた。
でも私、彼のこういう所が好きなんだな。
「ほんと言うと、きみ君しか見てなかったから、他の人どうだったかようわからんけど」
(そやろ。なあ、俺、カッコいいやろ)
「うん」
うん、という短いフレーズに、精一杯の気持ちを込めて言った。
電話越しに話しているのがもどかしい。
目の前にいてくれたら、言葉と一緒に彼を抱きしめてあげられるのに。
「でもね」
(ん?)
「オーラスの時、『浮世踊リビト』でめっちゃ泣けてきた」
(始まってすぐ?泣くとこやないやろ)
「だって、もうこれで終わりなんやなあって、このライブを生で見るの最後なんやな思ったら急に」
(最後ってまた俺らライブやるで。すぐやないけどな)
「でも今回のライブめっちゃ最高だったんだもん」
(おい、次のライブはそれを超えるで。ぜったい期待裏切らへんからな)
きっとその言葉に間違いはないだろう。
だって私の中で一番だったPUZZLEのライブを、今回の8UPPERSライブは軽々と越えてしまったから。
同じようなことはやらない、その上で昔からのファンも新しいファンも楽しませる。
そんな高いハードルを自らに課してる彼らだからこそ、最強で最高のライブを生み出せるのだと思う。
「私ね、今回の曲、全部好き」
(全部?おまえ、またまとめに入ったな)
彼の笑い声につられて私も笑いながら、そうじゃなくて、と言った。
「だって、どの曲も関ジャニ∞らしくて、関ジャニ∞じゃなくちゃ歌えない曲だって思うから」
(そうか?)
「そうだよ。『アニマル・マジック』初めて聴いた時、こんな男くさい歌、歌うようになったのかーって衝撃だったけど、ライブで歌ってんの見てたら、めっちゃ関ジャニ∞らしい曲かもって。みんなの雰囲気とか佇まいとか、この曲にぴったり合ってるような気がしたんだよね」
(うちにはアラサー3人おるからな…)
そういう意味で言ったんじゃないんだけど…
「この曲って、ドームの時、天井席近くの高いステージで歌ってたじゃん」
(あんなんぜんぜん怖ないけどな)
誰も高所恐怖症かどうかなんて聞いてないのに。
思わず笑い出しそうになるのをこらえた。
「自分のパートじゃない時、天井席に手振ってたでしょ。一人だけ『キャー』とか言われて。あれ、めっちゃいい気分だったでしょ」
(ファンサービスやろが。俺らケツ向けて歌っとるんやから。でも俺より大倉が行った時の方がキャーの声、大きかったけどな)
「本当にメンバーのことよく見てるよね。さすがゴッドファザー」
(なに言うとんねん)
「マックのイメージもあるかもしれないけど、なんか関ジャニ∞のお父さんって感じ」
(まあ一番年上やしな)
「そうじゃないよ。年齢がどうこうじゃなくて、やっぱり関ジャニ∞の要は横山裕なんだなあって思ったの」
メンバーみんな、それぞれいろいろな場所でいろんな経験を積んで成長しながら、それでもこの1年を通して一番変わったのは、たぶん彼かもしれない。
そして、グループとメンバーへの強い愛情という点で、根っこの所がまったく変わらないのも彼。
関ジャニ∞が結成されてから今まで、彼が支えて引っ張ってきたと言ってもおかしくない。
オーラスのウインクキラーゲームで、メンバー全員にラブレターを読むことになったのも、ファンはもちろん、何よりメンバーが強くそれを望んでいたからだ。
そしてツアー最後の挨拶を締めくくるのも、やっぱり横山裕しかいないだろうと思わせるものが彼にはある。
(いや、俺一人じゃなんも出来ひんし、俺がメンバーに助けられてる方がずっと多いで)
「うん、それはそうやと思うけど、でも横山裕がいるから、関ジャニ∞はぜったいに揺るがないって、みんな心強く思ってるんじゃないかな」
(なんや、おまえ、さっきから。褒め殺しか?)
「誉めようなんて思ってないよ。そんな器用じゃないし」
たぶん
好きすぎて欠点が見えてないだけ。
今回のライブだって、結局、最後の最後まで君しか見てなかったから、細かいことはあんまり覚えてない。
記憶という形のないアルバムをめくってもめくっても
全部のページを埋め尽くしているのは、大好きな君の笑顔だけだから。
ねえ、『関ジャニ∞の横山裕』に、次はいつ会えるのかな。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
2011年1月1日 京セラドーム
オーラス・セットリスト
Oriental Surfer
浮世踊リビト
Jackhammer
Do you agree?
DIVE
LIFE~目の前の向こうへ~
Baby Baby
挨拶
泣かないで僕のミュージック
ほろりメロディー
ブリュレ
アニマル・マジック
モノグラム
BACK OFF
ウィンクキラーゲーム
【テクノver.Remix】
好きやねん大阪
関風ファイティング
Wonderful World!
急☆上☆SHOW!!
ズッコケ男道
ワッハッハー
MC
関西ジャニーズJr.
Snow White
雪をください
君の歌を歌う
大阪ロマネスク
ドラムソロ
バンドセッション
ミセテクレ
って!!!!!!!
BOY
蒼写真
【アンコール】
T.W.L
無責任ヒーロー
ひとつのうた
【Wアンコール】
イッツ・マイ・ソウル
ズッコケ男道