旅してマドモアゼル

Heart of Yogaを人生のコンパスに
ときどき旅、いつでも変わらぬジャニーズ愛

短編集「Loving YOU~way home to you 君へと続く道」

2011-01-30 | 管理人著・短編集(旧・妄想劇場)

「寒っ」
タクシーを降りて外に出た途端、突き刺すような冷たい風が足元をすり抜けていった。
身を震わせる寒さに追われるように、私はマンションの入口に駆け込んだ。

もう3月も下旬だというのに、冬の寒さがずっと続いている。
2月、実家の庭の紅梅が満開に咲き誇っているのを見た時は、春も近いという感じだったのに。
クロゼットの中でスタンバイしているスプリングコートの出番は、いったいいつ来るのだろう。

エレベーターの中で私は腕時計を見た。
深夜1時を回って今はほとんど2時近い。
かなり遅くなってしまったけれど、ホテルを出る時にシャワーを浴びてきたし、このままベッドに入れば、明日の仕事に支障をきたすことはないはず。
そんなことを冷静に考えながら、数十分ほど前、別々にホテルを出た相手のことを思う。

あの人はいつも通り、石鹸とシャンプーを使わずに帰った。
前に一度、明らかに自宅のものとは違う石鹸の香りを奥様に指摘され、その言い訳にかなり苦労したらしい。
私も、その話を聞いてからは香りに気を使って、あの人と会う時は香水をつけないようにしている。

エレベーターを降りると、またひやりとした空気が体を包みこんだ。
私は、静まり返ったマンションの暗い廊下を、足音を忍ばせて自分の部屋へと向かった。

もうかれこれ3年続いている、前進も後退もない、不倫という名の関係。
つかの間の逢瀬の時だけ燃えあがる刹那的な行為。
そこにめくるめくような魅惑を感じていたからこそ関係が続いていた。

でも最近、そんな自分を覚めた目で見つめている、もう一人の自分がいる。

― あんた、何やってるの?

私の中にいるもう一人の私が、私に冷たく問いかけてくる。
理由はわかってる。それは…

思いを巡らせた時だった。
普段と違う気配を察して、私は部屋の手前で足を止めた。
私の部屋のドアの前に誰かが立っている。
こんな真夜中に誰が?と、恐怖が先に立って全身が総毛立った。
逃げようと後ずさりし始めた時、その黒い影が動いて、見覚えのある顔が夜の薄明かりに浮かんだ。
「びっくりした…何、してるの」
動揺した私の口から当たり前の質問が飛び出した。
すると、もう一人の私が突然現れ、意地悪くささやく。
― 嬉しいくせに。ずっと会いたかったんでしょ。
周りが暗くて、相手に自分の表情を見られないことに安堵した。
「あの、えらい遅いんですね。お仕事ですか?」
「あ…ええ」
ふと、自分の髪から漂うシャンプーの香りが気になった。
「あ、すんません。こんな時間にびっくりしますよね」
「ていうか…どうしたの?」
「いや…さっきラジオの仕事が終わって…それでちょっと通りがかったんで…」
人見知りだと自分で言っていた彼の声がだんだん小さくなる。
「でも、留守みたいやし帰ろうと思ってたとこで…」
最後はボソボソとほとんど聞き取れなかった。
「そう…ごめんなさい。いま…年度末でいろいろ立て込んでて…」
喉の奥に何かが詰まっているみたいに言葉が上手く出てこない。
その後の私の沈黙を彼は拒否と誤解したらしい。
「あっホンマにすんません。もう遅いし、俺、帰ります!」
と言って、あっさり行こうとする彼の背中に、待って、と私は声をかけた。
振り返った彼の横顔の美しさにドキッとしながら思う。
声をかけたのは、いったいどっちの私なんだろう。
もう一人の私は、様子を伺うように沈黙を守っている。
「帰る前に、あったかい飲み物でも飲んでって」

*******************************

お湯を沸かしながら、棚から普段は使わないマイセンのカップを取り出した。
紅茶の缶を軽く振って、キッチンカウンター越しに、リビングのソファーにかけている彼をちらりと見る。
手持ち無沙汰なのか、緊張しているのか、彼は自分の手をひたすら見つめている。

素の彼と会うのは久しぶりだった。
とはいえ、冬クールのドラマに出演していた彼を毎週テレビで見ていたこともあって、久しぶりという実感はあまりない。
こんな風にプライベートで会うのはこれで2回目、いや、最初の出会いを入れれば3回目か。

去年の12月。
仕事先の階段から転げ落ちて足を挫いた私を、たまたまその場に居合わせた彼が、病院まで連れていってくれたのが最初の出会いだった。
あの時「乗りかかった舟だから」と、彼は病院からこの部屋まで私を送ってくれた。
彼が誰なのかよく知っていたけど、あの時はあまりの足の痛みに気を遣う余裕がなくて、彼の厚意に遠慮なく甘えた。
ただ、もう会うこともないだろうと思っていたのに、1週間後、足の具合は大丈夫ですかと、会社に電話がかかってきたのには正直驚いた。
それで、お世話になった御礼にと、私から食事に誘ったのが2回目。
その時、特別何かがあったわけではない。
1月から始まる彼の出演ドラマの話、4月からのソロコンサートと楽しいメンバーの話題、そして私の仕事の話を少しだけして、お互い頑張ろうね、と健闘しあっただけだ。
ただ…
不思議と居心地が良かったことが強く印象に残った。
コンサートのプランを生き生きと語る彼の目の輝きと柔らかい声と美しい手の動きに、似たような仕事をする立場から魅了された。
そして、大好きなメンバーについて熱く語る彼の幸せそうな笑顔から目が離せなかった。

魔法にかけられた、そんな気がした。

そう、あの日からだ。もう一人の私が現れたのは。
それは、あの人と会っている時、冷ややかに語りかけてくる。

― ねえ、楽しい?この人と一緒にいて、あなた幸せ?

体と心が乖離するような感覚に襲われ、SEXの最中に吐き気をもよおしたこともある。
心ここにあらずということもたびたびあって、あの人も私の異変に気づいたらしい。
今までひと月に2回程度しか逢おうとしなかったのに、この最近は毎日のように連絡をしてきて、週一のペースで逢っている。
そんなあの人を最近、面倒くさいと疎ましく思う自分がいる。

ポコポコとお湯が沸く音がした。
私は火を止めて、沸騰した湯をティーポットに注いだ。
立ちのぼる湯気とともにダージリンの芳醇な香りが部屋に立ち込める。


「いつもこんなに遅くまで仕事なんですか?」
「いつもじゃないけど…時々ね」
部屋の温度と温かい紅茶で身体が温まったからか、ようやく気持ちが落ち着いた私は冷静に答えた。
「へえ、大変ですね」
「そっちは?もうすぐコンサートでしょ?」
「初日が大阪なんで…来週リハがあるから地元に戻るんですけど」
関西弁のイントネーション混じりの標準語。
お酒が入ると関西弁の方が多くなる。私はその方が好きだった。
「あの…良かったらコンサート、来てくれませんか?」
大阪やなくて東京のですけど、と慌てて言い添える。
私は思わず笑い出しそうになるのをこらえた。

彼には内緒にしていたけれど、彼とこんな風に出会う前から、私は彼のグループのファンクラブに入っていて、今回のソロコンサートも、長崎の公演を取っていた。
誘ってくれた東京公演は、残念なことに落選だったけど。
来てくれませんか?という言葉は、関係者席を私のために用意しておくから、という意味だと予想はつく。
でも、それは彼に対して、というより自分に対してフェアじゃない気がした。
私は普通に一人のファン、エイターの中の一人でありたかった。
「行きたいんだけど…ちょっと予定がわからないから…」
私の言葉に、彼がガッカリした様子をあからさまに見せた。
長崎に行くことを言ってあげたかったけれど、それを言ったら私がファンクラブに入っていることがバレてしまう。
出来ればそのことは秘密にしておきたかった。
「でも、もし来られそうだったら連絡くれますか?席、用意するんで」
伺うように私を見る真っ直ぐな視線にたじろいだ私は、目を伏せて、ええ、もちろんと答えた。
でも、おそらく彼に連絡を取ることは二度とないだろう。
胸の奥で、何かがぎゅっと絞られるような鈍い痛みが走った。

そのあとは静かな室内に、ティーカップとプレートが触れ合う繊細な音だけが響いた。
この前はアルコールに助けられたのもあるだろうけど、話が弾んで止まらなかったのに。
会話のきっかけを探してみたけど、ドラマの感想程度のありきたりなことしか浮かばない。
「紅茶、もう少し飲む?」
これは会話じゃなくて質問だ。
彼は空になったカップをテーブルに置いて首を横に振った。
「もう帰ります」

ドアの向こうに彼の姿が消えた。
その背中を見送った私は、知らずため息をついた。
職場の後輩が、私がため息をつくたびに「幸せが逃げちゃいますよ」と言っているけれど、本当にそうかもしれないと思う。
でも、彼は違う世界に住む人。
私が彼を求めるのは間違ってる。
たとえ向こうから歩み寄ってきたのだとしても。

カップを流しに置いて蛇口をひねった。
垂直に流れ落ちる水と一緒に、自分の中にある未練も流してしまえたらどれほどいいだろう。
カップの中に溜まった水が湧き水のように溢れ出した。
溢れた水は留まることなく排水口へと吸い込まれていく。

…未練?

この気持ちは未練なの?
まだ何も始まってもいないのに?
二人で過ごした時間は1日24時間にも届いていない。
私は蛇口をキュッと締めた。
違う。
本当に流したいものは彼への気持ちじゃない。
私は携帯をつかんで、部屋を飛び出した。
マンションの外に出た途端、凍てつくような夜の冷気をまともに浴びて、ブラウス1枚のまま出てきたことに気がついたけれど、部屋に戻る気はなかった。
私はタクシーがいつも並んでいる大通りの方に走った。
もういないかもしれないけど…
自然と足が早まる。

*******************************

大通りには彼はもちろん、人一人歩いてもいなかった。
こんな深夜遅い時間に利用者がいるわけもなく、数台停まっているタクシーもドライバーは仮眠中だろう。

寒さに震えながら、携帯を開いて1つの番号をアドレスから探す。
最初に食事をしたあの日に教えてもらった番号。
それからまだ一度もかけたことがない番号。
そして絶対かけないつもりだったはずの番号。
見つけると、ためらいなくダイヤルボタンを押した。
呼び出し音が長く感じられた。
耐えきれずに切ろうとした時、はい、と彼の声が返ってきた。
そのとき、私は彼に伝える言葉を何も考えていなかったことに気がついた。
「あの…私…わかる?」
しばらく間があって、わかりますよ、登録してありますから、と微かな笑いとともに彼が答えた。
― どうしたんですか?
「…あの…」
どうして、一番伝えたい言葉は、一番必要な時に、素直に出てきてくれないんだろう。
「…私…行くから」
― え?
声が震えてとまらないのは、寒いから?それとも不安だから?
「…行くから。長崎に行くから」
― 長崎?仕事?
「あなたのコンサート。私、長崎まで行くから」
一瞬、間があって、それから戸惑ったような彼の声が返ってきた。
― え?なに?長崎?え?なんで?
「入ってるのファンクラブ。あなたに会う前から、ずっと前から…」
― ウソ…
「ウソじゃない」
― ホンマに?
「ホンマに」
― なんで?
「なんで?」
思わずオウム返ししてしまった。
彼もすぐに自分のおかしな質問に気づいたらしい。
― あ、好きやからか
と言って笑った。
― でも、なんで今まで言わんかったんですか?

なんでだろう。
自分の気持ちのように実体のないものを説明するのって難しい。

「距離…かな」
― 何の、距離?
「あなたとの距離。近づくのが恐かったの。だから」
― それは、俺のこと好きやないってことですか?
私は首を横に振った。
どうせ彼には見えないとわかっていたけど。
「私の…独りよがりの気持ちで終わっちゃうんじゃないかって…なんか、それがすごく恐くて…」
彼からの返事はない。
「だから、何も言わないでいようって、思ったの。今まで通り、エイターの一人でいようって、思ったの。だから、あなたに連絡するつもりなんて、全然なかったの」
自分の気持ちを上手く表現できないもどかしさと、歯が鳴ってしまうような寒さで、唇が、声が、震えた。
「でも…ごめんなさい、電話しちゃった…」
電話の向こうからは、沈黙しか聞こえてこない。
急に泣き出したくなった。
いったい私は何を勘違いしてたんだろう。
「…ごめん…本当にごめんなさい…もう、もう二度と…」
電話なんかかけないから、言おうとして声が詰まった。

「風邪ひくで」

突然、彼の声がはっきりと耳元で聞こえた。
それに驚く間もなく、私の体は暖かさに包まれ、冷えきった背中に人の温もりを感じた。
肩から掛けられた彼のコートと、後ろから私を抱きしめる彼の腕を信じられない思いで見つめる。
彼はここにいないはずなのに。
私は夢でも見ているのだろうか。
「何してんねん。こんな冷たくなって。あんた、アホちゃうか」
責めるような口調の端々に、私を気遣う優しさが滲んでいる。
「…どうして…?」
彼は手に持っていたビニール袋を私の前に掲げた。
「コンビニに寄ってた」
私はマンションと大通りの間にある24時間営業のコンビニを思い出した。
「肉まんがめっちゃ美味しそうやってん」
「…肉まん…」
この奇跡はコンビニの肉まんのおかげなの?
混乱した気持ちからか、とんちんかんな考えが頭をよぎる。
「そや。半分こ、せえへんか」
不意に温かいものが自分の頬を伝うのを私は感じた。
この涙は何?
さっきまで耐えていた辛い涙?
それとも嬉しくて流れる新しい涙?
半分に割った肉まんを手渡そうとした彼が、私の涙に気づいて戸惑いながらも笑って言った。
「いや、そんな泣くほど、肉まん喜ばれても」
私もつられて笑った。
意識してなのか、無意識なのか。
彼の軽口が私の中の緊張を一気にほぐしていく。
涙をぬぐうと、ホカホカした湯気を出している固まりを、かじかんだ手で受け取った。
その温もりが冷たくなった指先をじんわりと暖めていく。
私は、彼が自分の分を口にするのを見てから、いただきますとほおばった。
「あったかいやろ」
肉まんも、彼が掛けてくれたコートも、彼の優しさも、あったかい。
笑顔で頷いた私に、彼が「ところで聞きたいんやけど…」と視線を外して問いかける。
「誰が好きなん?」
私は彼の目を見て即答した。
「みんな」
「ウソやん」
「ウソやないよ」
「いや、ぜったいウソやって」
「ぜったいウソじゃない」
そう、それは本当。
だって、私は彼のいるグループがホンマに好きだから。
でも…

「でもね…肉まんのポイントは思った以上に高いかな」
彼が小さくガッツポーズするのを見て、私は笑った。

それでも、現在進行形の恋を終わりにしようと決意するほど、あなたを好きになるなんて、思ってもいなかったけれど。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


先々週あたりからコツコツ書き溜めていたお話です。
いかがでしたでしょうか。

後半、書きながら、めちゃくちゃ肉まんを食べたくなりました(笑)
特に、会社帰りの電車の中で書いてる時とかね、肉まん食べたいモードがハンパなかったです。

さて、私のことをよくご存知の方は薄々気づいているとは思いますが、「私」は私じゃありません。
そもそも仕事の設定が違いますし、一人暮らしもしてません(笑)
というわけで、まあ、「私」は基本的に架空の人物の設定になっています。
はい・・・(笑)

でも、そうは言っても、自分の分身みたいなものですから、考え方とか行動とか、私とかぶる部分もあるんですけどね。

あ、この話は去年の3月という設定です。
たしか、めちゃくちゃ寒かったですよね。
4月の初めに、職場のあるビルが早々と暖房を切ったこともあって、「ざけんなー!」と怒りに震えた記憶があります。(イヤな記憶だな)

イヤな記憶はさておき、金曜日のマルちゃんの日記、読んでて、ますます横山さんに心動かされてしまう自分がおりました。
どうしよう、ホンマに彼のすべてがイチイチ素敵すぎて惚れてしまう。

でも…

残りあと3回でエッセイの連載を終えるしげさんに、ちゃんと感想を送ってあげたいと思うのです。
しげさんは、しげさん。
横山さんは、横山さん。
別々やし。

別々やし、という意味は自分でもよくわかんないけど。


アジアチャンピオン

2011-01-30 | ほかの話
最高の決勝戦を見せてもらいました

のっけからオーストラリアに押され気味な試合展開にハラハラさせられたけど、前後半0対0で延長戦になった時に、これはもしかしたら…と勝利を感じましたよ

いやあ

延長後半でもぎ取った李選手のゴール
長友のナイスパスにしっかり合わせてきた李のシュートに、勝利への執念と集中力を感じた、震えが来るようなゴール。

でも、ここに至るまで、GK川島が素晴らしいファインセーブで日本のゴールを守ってくれたのも本当に大きいと思う


アジアチャンピオン

なんていい響き

そして本田選手のMVP
ゴール前への正確なスルーパスはもちろん、攻守に渡って随所に活躍して存在感を発揮してたと思います

いやあ

スタジアムでも日本への応援が大きかったのも嬉しかった

対カタール戦で完全アウェーだった時とはえらい違い(笑)


表彰式が続いてますけども、あらためて優勝って気持ちいいもんですね

優勝カップを受け取る選手みんなが笑顔たまらんね

そして長谷部選手が受け取るアジアカッブ

こんな最高で感動的な光景を見られるなんて嬉しすぎる

てかなんだこの大量のゴールドの紙吹雪(笑)
花火もめちゃくちゃ上がってて、なんかスゴいな(笑)
金テと銀テも舞ってるー(笑)

カタール万歳



ということで、そろそろ寝ます

と思ったら、本田選手のインタビューだよ

発言が謙虚になったなあ…

あっ長谷部選手…

おっ川島選手…




インタビュー終わったみたいなので

では

おやすみなさい