旅してマドモアゼル

Heart of Yogaを人生のコンパスに
ときどき旅、いつでも変わらぬジャニーズ愛

短編集「Loving YOU~Fly to...~」<2話>

2011-10-28 | 管理人著・短編集(旧・妄想劇場)

 目を覚ました時、部屋の暗さに驚いて、私は飛び起きた。
 いったい今、何時なんだろうと、暗い部屋の中、慌てて時計のある壁の方を目を凝らして見る。時計の針は1時半過ぎを指していた。午後の1時ということはない。成田に着いたのが午後2時を回っていたのだから。
 寝ていたソファーから立ち上がった時、携帯が点滅していることに気づいた。彼からの着信履歴とメールだった。
 (おかえり。電話出ないからメールした。今から行くけど大丈夫?)
 着信にもメールにも気づかないほど、深く眠っていたということか。彼のことだから、返信がないことをOKと解釈するに違いない。浜松町のラジオ局からここまで、彼はいつもタクシーで来る。そしたらここに着くのは……
 と、ようやく思考回路が回り始めた時、玄関のドアの鍵が開く音が微かに聞こえた。私は頭で考えるより先に、ドアに向かって走っていた。
 まさかドアの前に私が来ていると思ってもいなかったのだろう。びっくりした様子の彼に私は思いきり抱きついて、ただいまと言った。彼の首筋から香る懐かしい彼の匂いに、私の体の奥の深い場所が熱くなる。そして、彼の手が私の背に触れるのを感じた途端、まるで熱病にかかったみたいに腰から下の力が抜けた。
 「どしたん。びっくりしたで。電話にもメールにも返事ないから、俺、てっきり寝てるて思てた」
 「いま起きたの」
 「ふうん、なんか感じたん?」
 「来る予感?」
 「せや」
 「予感はなかったけど、なんか起きてしまったって感じ」
 「しまったってなんやねん」
 久しぶりに至近距離で耳にする彼の笑い声に気持ちがホッとなごむ。ああ、そうか。これからは、もうこんな気持ちも味わえなくなってしまうのか・・・
 「なあ」
 「ん?」
 「お姫様抱っこしたろか」
 「えっ」
 いきなりで驚いたのと可笑しいのとで、リアクションに迷った私は声を出して笑って彼の顔を見上げた。そんな私の反応に、彼が怒ったような顔で横をぷいと向いた。
 「なんや、俺がやったら可笑しいんか」
 「だって、そういうことはわざわざ言わないでやるもんでしょ。サプライズ的に」
 「せやけど急にやったら、おまえ、なにすんねんて暴れるやろ」
 「私、そんな可愛げのない女じゃないですけど」
 そっか、と彼が体勢を変えた次の瞬間、私の足は宙にふわりと浮いていた。
 「ねえ、腰、痛めるよ」
 「おまえ、ホンマに可愛げないな」
 「腰痛持ちさんだから心配してあげてんのに」
 「俺の男としてのプライドが傷ついたわ」
 私はゴメンねと謝る代わりに、ふてくされ顔の彼の唇にキスをした。


 背後から彼の腕が私の身体を引き寄せる。私はその腕にそっと自分の手を添えた。
 イランイランの甘い香りで満ちた部屋は、間接照明の薄灯りで四隅の壁がぼんやりと光っている。ようやく静まったお互いの息づかいを耳にしながら、私は闇に浮かぶ淡い光の輪を見つめていた。
 『あのこと』を彼に話さなければ。ただこのタイミングで話すのが、果たして適切なのか分からなかった。でも、これからさらに多忙になる彼と、面と向かって話が出来る時間がどれだけあるだろう。
 「ねえ」
 「うん?」半分眠そうな彼の声が返ってくる。
 「今、やっぱり忙しい?」
 「せやな。これでヒマやったら、俺ら終わりやろ」
 そうだね、と笑った私を、彼がぎゅっと強く抱きしめる。
 「なあ、俺とあんまり会えんくなって寂しいんちゃうか?」
 「でもそれは仕事やから。我慢出来るよ」
 「おまえ、ホンマにそう思っとんのか。本当は寂しいんやろ。さっきいきなり抱きつかれてようわかったわ」
 「私、寂しいオーラ出してた?」
 「めっちゃ出しとったで」
 「やだ。ちゃんと隠したつもりだったのにな」
 端から見たら、益にも実にもならない、箸にも棒にもかからない、他愛のない会話だ。でも、そんななんでもない時間が、私にとっては、何ものにも変えられない、かけがえのないものだった。そのことを、今、思い出した。目に見えない時間という感覚は、形のない分、忘れやすいものなのかもしれない。だから、いとも簡単に手の中から砂塵のように零れ落としてしまう。
 私は彼の腕の中で体を回して彼の方に向き直った。話があるの、と言いかけたとき、
 「なあ、どこに来るん?」
 彼の笑顔が目の前にあった。音にならなかった言葉が行き場を失って、私の胸にチクリと刺さる。
 「え?」
 「ドーム。東京?大阪?」
 「うん……」
 「名古屋は?恋人たちのクリスマスイブやで」
 「うん……でも、まだ結果出てないから……」
 「そうなん?俺そういうことよう知らんから」
 「行ける所には行きたいと思ってるよ」
 行ける所……しかし、もし当選したとして果たして行けるのだろうか。パリに行く前と後では、事情がすっかり変わってしまった今となっては。
 「あのね……」
 「今度のアルバム、めっちゃええで」
 「もうレコーディング終わったの?」
 「いや、まだやけど、でもこの段階で最高やなって思うねんで。多分、おまえ好きなんちゃうかな」
 「今までのアルバムも好きだよ」
 「そらそうや。それはそれとして今回もええ曲が揃ってんねん。すごい人たちに楽曲提供してもろてるしな」
 「誰に?」
 「それはまだ言われへんな」と、ちょっと誇らしげな笑顔で言う。
 仕事の話を楽しそうに語っている彼を見ていると、本当にこの仕事が好きでたまらないんだろうなと思う。そんな彼が誰よりも大好きで、そんな彼をいつまでも隣で見つめていたい、ずっと、これからもずっと、それは変わらないと、そう思っていたのに。
 もしかしたら、私は取り返しのつかないことをしてしまったのかもしれない。あの時は前向きな気持ちで決めたはずなのに、今は後悔と不安というマイナスの感情に押しつぶされてしまいそうだった。
 「そういやおまえ、さっき何か言おうとしてたやろ」
 まさか、彼の方から話を振ってくるとは思ってもいなかった。私は動揺を悟られないように、思わず目を伏せた。そんな私の態度を、彼は違う意味にとったようだった。私の肩を引き寄せて耳元で囁いた。
 「なんや、もう一回してほしいんか」
 勘違いもいいところで、いつもなら笑いだしてしまうはずなのに、今の私はとても笑う気にはなれなかった。むしろ、それでいい、と思った。
 彼とのすべてを自分の中に留めておきたかった。それが、時の流れとともに薄れていく儚い記憶だとしても。何度もキスを交わしながら、私たちは再び、目がくらみそうな時間の中へと重なり合って落ちていく。
 この時間が終わるまで……でも、終わったら彼にちゃんと伝えなくては。
 もうすぐ、日本を離れることを。
 そして、パリで新しい生活を始めるということを。


to be continued...


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


みんな、自分が誰よりも一番、担当さんを大好きやし愛してるしと思ってる。
昨日のレコメン、聴いてておかしかった。でも、なんだかキュンとした。
短編の「私」も「彼」のことを誰よりも愛してると思うし、「彼」も「私」を愛してる・・・と思いたい(笑)

さて。とどのつまり、私はこの二人をどうしたいんでしょうかね。
こういう展開の時の書き方はどういうのがいいのか、よく分からなくて、ちょいちょい何かを匂わせながら、次の展開で種明かしみたいな感じにしてみると面白いかな?と思って書いてみたんだけど、読んでる方からすると、どうなんでしょうかね。
私は背景を知ってるので、「私」のモノローグの意味が分かるけど、読者からすると独りよがりな唐突な感じを受けるんでしょうかね。
奥歯にモノが挟まったような言い方というか、これで読者の方をストーリーから置いてけぼりにしてしまっていたら、ごめんなさい。

まあ、最後の2行で種明かしみたいになってますけども、パリで「私」に何があったんでしょうね。
ちなみに、私はパリでもマラケシュでも、なーんもなかったですけど

1話でも言いましたが、今回の連載はいつもと違って、ラストをどうするか全然決めてないんですよね。
話の展開もまったくノープランです。なので、作品としては、かなり「雑」です。そんな「雑」な作品を堂々とお披露目したりしてすみません。
今回は、ちょっと二人をイチャイチャさせてみました。というのも、次の展開が頭の中にぼんやりとあるのですが、たぶん彼との甘い日々はこれが最後・・・になるかもしれない・・・いや、自分でもわかりませんけど

でも、ラブシーン、小説なのにシーンという言い方でいいのかな?毎回、こういう場面をどこまで書けばいいのかなと悩みます。ぶっちゃけ、横山さんがベッドの中ではどんな感じかなんて知らんし。まあ、逆に知ってたら問題やけど(爆)
ただただ、大好きな彼のイメージを壊さないように、名誉棄損で訴えられない程度に、ちょっぴり冒険しながら、楽しんで(?)書いてます。
いやホンマに、妄想って楽しいですねー

というわけで、言い訳ばかりですが、お気軽に感想をお聞かせください