「 サッポロ軒の跡地 」
また更に時は過ぎた。私も年取ったがサッポロ軒もやや若い三代目に替わった。
覗き込んだカウンターの内側にはあの初代の百万円のレシピが貼ってあった。
今度の三代目の味は日が経つにつれてだんだん初代の味に近づいてきた。
同じ様な材料で同じレシピを使っても、味や香りが微妙に違うのだから、ラーメンと
言っても奥が深いものだ。
やがて徐々に客が戻って来て昼時などは座れないことが多くなった。
ところで私はサッポロ軒の真向かいにある糖尿病外来の医院に何十年と通っている。
先生からラーメンはカロリーと塩分の塊であり、麺は血糖値が急に上昇するもので、
糖尿病の大敵だからとラーメン禁止令が出ていた。
それでも完全には守れず回数は減ったが食べていた。極力スープは残しながら。
それが1年前位から、月に一度、当医院に見えた時だけは帰りに食べてもいい、
但しスープは残すことという条件でお許しが出た。聞けば先生も好きで時々行っているそうだ。
しかしそれから間もなくして、建物の老朽化だろうか隣の花屋とパーマ屋を一緒に解体に
なってしまった。寂しいことである。これも時の移ろいであろうか。
初代の店主は今では寝たきりで駅傍のマンションに住んでいるそうだ。三代目はどうするのか、
店の再開はどうなるのか残念ながら情報がない。
そんなにラーメン好きの私が、今では時々町のラーメン屋さんに入っても、「すいません、麺は
半分にしてください!」なんて言っているんだから情けない。
サッポロ軒の跡地は両隣を含めて更地になってしまった。再建は何時だろうか。
もしラーメン店が出来たなら、早速行ってみたいものだ。
そして「スープはそのままで、麺は半分!」なんて注文するつもりだ。