- 松永史談会 -

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高島平三郎『教育的心理学』右文堂、明治38

2014年06月20日 | 断想および雑談

『師範学校教科用書心理綱要』に始まってこの『教育的心理学』三訂をへ、やがて『心理学綱要』に至るのが心理学者高島平三郎の歩み。ブント流の哲学的心理学を実践したが、大正15年『心理学綱要』が出されたころには我が国心理学学界の趨勢としてブントの時代は終わっていたようだ。しかし、こういうものは多かれ少なかれはやりすたれのあるもので、学者というものはよほど腹が据わっていないと目先の真新しさに振り回されてキョロキョロさせられる。その点高島は一貫して科学性(実験・観察重視)を標榜しながらも哲学的心理学の花園にとどまったのは一つの見識というか学者としての一つの姿勢であり、(あくまでも善意に解釈すればの話だが)それはそれで全然立派なこと。



訂正21版・・・教科書としてはベストセラー? 高島の文章は記述が平明で、論旨明快




覚性の心理/悟性の心理/理性の心理・・・・カント流の哲学を心理学的に追求することを、意気揚々と、心理学的研究の課題(=方法論)にした時点で高島は深刻な哲学的難題(アポリア)を抱え込んだことになるのだろ。
心理学の応用編として狂人の心理(精神病学)、犯罪者の心理(刑事心理学)、児童の心理をあげ、教育的心理学では児童を扱うと・・・・・
本書は大正5年には三訂版が出される。そして最後のバージョンが「心理学綱要」(大正15年)ということになる訳だ。こちらは『高島平三郎著作集・第六巻』に所収されている、文字通り高島心理学の集大成版だ。
覚性の心理/悟性の心理/理性の心理というのはやや大風呂敷だとは思うが、本書が目指しているところはエドワード・ホール(Edward Twitchell Hall, Jr.、1914年5月16 日 - 2009年7月20日)というアメリカ合衆国の文化人類学者著「かくれた次元( The Hidden Dimension (1966) 」やパノフスキーが主著「イコノロジー」において指摘した「絵画の意味の三つの層」などとも共通するところだが、高島の場合多様な人間の感覚とか意識(高島はアリストテレスが使った「知・情・意」の概念を援用)をひとつの統合へと導く指標を提供するものであったといえようか。
小宇宙(たとえば人体)から大宇宙(コスモス)→大中小、上中下型思考あるいは特殊から一般(普遍)、個別具体的事例(具体)から普遍的セオリー(抽象)へと至る段階的カテゴリーについての3分法は、天国/煉獄/地獄に纏わる宗教的ドグマとは同形の三位一体的統辞法の所産だが、この種の統合モードはフェルナン・ブローデルの重層する3層の時間のカテゴリー(地球時間、世界時間、生活時間)の中で地域史を再構成しようとする営為の中にもみられるもので、高島平三郎がカテゴリーとして挙げた覚性の心理/悟性の心理/理性の心理というのも方向性としては同じものなのだ。

本書には「法則」とか「原理」とかといったきわめて魅力的な言葉が躍っているわけだが、明治30年代の初期段階にこんな魅力的な心理学の教科書が上梓されていたとは・・・・
当時京都府女学校の学生であった西川文子(旧姓志知)、与謝野晶子の妹:鳳さとらはそんなハイカラな高島の講演に耳を片むけていた訳だ。

大泉は『教育的心理学』(1900)が刊行された時期の代表的な心理学概論書:元良勇次郎『心理学』(1890)、牧瀬五一郎『新編心理学講義』(1892)と目次(内容)の比較を試みているが、やはり断トツにバランスよくかつ意味深く構成されているのは高島平三郎のものだな~。

参考までに
松本孝次郎
児童心理学講義


[目次]
目次
緒論 / 1p
児童研究 / 10p
児童心理に関する著書 / 20p
新生児 / 24p
意識 / 33p
注意 / 36p
感覚 / 43p
(感覚の発達) / 46p
視覚 / 46p
触覚 / 58p
聴覚 / 61p
味覚及ひ嗅覚 / 64p
知覚 / 67p
概念 / 71p
児童の言語の発達 / 81p
観念の連合 / 85p
記臆 / 118p
想像 / 120p
童謡 / 128p
(情緒) / 136p
快不快 / 136p
慾情及ヒ恐怖 / 142p
道徳的感情 / 148p
宗教的感情 / 162p
感情ノ表出 / 171p
意志 / 175p
児童研究に関する注意 / 189p
結論 / 199p

松本孝次郎「実際的児童学」

[目次]
標題紙
目次
緒論
児童研究の必要 / 2p
本論
第一 家庭及学校と児童 / 16p
第二 児童の精神活動 / 33p
第三 感覚教育 / 61p
第四 遊戯及玩具 / 94p
第五 童話に関する研究 / 115p
第六 児童の情育 / 143p
第七 児童の類別或は典型 / 174p
第八 青年期に就きて / 208p
第九 児童の教授及び訓練に関する注意 / 220p
第十 学校観察 / 258p


高島が早くから注目したたとえば児童画について、ここにあるような1)覚性レベル、2)悟性レベル、3)理性レベルで分析し、3つのレベルの総体として児童画の意味を再構成するというあり方は、ある程度、今でも刺激的な研究として成立するかもと思うのだが・・・・さてさて




わたしが最近購入した『教育心理学』の古書には細かい文字で鉛筆の書き込みが・・・随所に。原因を「元因」と書いているのはお愛嬌だが、旧蔵者はまじめな、てか心理学の講義が面白くてほとんど講義には出席していた感じ・・・。


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