30年近く寝たきりの母は人形展を見たことがなかった。
毎年カレンダーをベットの近くに飾り、月が変わると催促してめくってもらうのを楽しみにしている母だった。
展示をする為に人形は出来上がるとすぐ、展示会場に行くため、母のところにも、自分の家にもほとんど置いていた事が無かった。
そんな母に人形展を見せたくて、ずっと介護をしてくれている兄嫁に頼んだ。
一度ゆっくり自分の人形たちを母に見せたい。
兄嫁は、この時期に来て、寒さと体調を心配したが、ヘルパーさんに頼んで連れて来てくれる約束をした。
寝たきりの母の足は棒のようで、右手はねじれたように固まっている。それでも
小雪まじりの寒い日であったが、母はやって来てくれた。
入口を入ると無表情だった母は写真を見るなり興奮して涙を浮かべた。
静かな音楽が流れる中で、一つ一つゆっくりゆっくり、置かれた人形を眺めながら、言葉にならない母の表情に、しっかりと先に旅立った両親や父を重ねているようであった。

本当に・・・嬉しそうで、うめき声のような声で語りかけたり、涙は拭いても拭いても止まらないでいた。

『母の手』『赤い万華鏡』『さよならの時間』は貴方がくれた私へのおくりもの。
元気だった頃の母に甘えたい。寂しくて仕方が無い・・・・・とずっと思いながらここまで来たけれど、たとえ寝たきりであろうと、こんなにも素敵なプレゼントをくれた母が私にはいる。
会場のDVDもしっかり見ながら、いい時間を過ごさせてあげたと想う。
やっと自分でも本当の親孝行が出来た気がする。
会場に置かれた感想ノートを開いてみた。
こんな言葉が残されていた
『3度目で、ようやく母を連れて来られました。
視力もおとろえ、足腰も弱くなった母は、高橋さんの作る「母」の人形そのものになっていました。説明を加えようとする私。声が詰まってくるのを感じて、思わず遠のいていました。
「ありがとう お母さん」
あなたの様に、多くを望まずに生きて行くから・・・・・』