5/3 魂の話 父の場合
魂ってあると思う。
人間のなにって言えばいいのかしら?
霊・れい、これかもしれない。
父がなくなってまもなく、夜中にタンスの上辺りで
ドロドロって大きな音がした。 パリでの話。
怪談で幽霊が出てくるときの音を想像してください。
そしてそれは亡くなった父の出現だった。
父の霊が出てくることは怖いとは感じなかったけど
あの幽霊の出てくるとき音は怖かった。
私は母にこの話をした。
母は私を怖がらせないでくださいって拝んだそう。
母は父の幽霊が出る話を怪しんだり、夢だよなんて
言わなかった。
それからどこにいるときも、家でも外でも背中にピッタリ何かが
くっついている感触がしていた。
ある夏の日、地方に出張していた。
暑い日で、夕方ホテルに戻ったときはクタクタだった。
着の身着のままでベッドに横たわって、明日のアポはどううしようか
それまでに治るだろうかと
ウトウトしながら考えていた。
なんとかしてって父に言った。
そして少し眠ってしまった。
今思うに熱射病状態だったんだろう。
でも、1-2時間後に目が覚めたときは
私はすっかり元気になっていた。
こういう父に助けられたのではと思うことは何度もあった。
はっきりおぼえているのはこの日のことだけで、
それは私がすごく心身ともにたいへんだったからと
今は思う。
そしてそれから何年か過ぎて夜明けだったと思う。
夢の中で私は父に何か頼んでいた。
すると、私の前にがい骨姿で、長い着物みたい衣をまとって
背丈ほどの長い杖をもった人が現れ
もう何もできないって言ったのだ。
冷たい風が吹いた。
すごい恐怖感で、もうしませんって約束をした。
あれが父だとは思いたくない。
骨も衣も杖も汚い・古い血の色だった。
でも、本当に遠くに逝ってしまったのだと思った。
父の死んだあとも昔のようにこきつかってしまった。
父は本当にもういないのだ。
遅ればせながら父が成仏するように
自分で生きないと
と、思った。
これが人には魂があると思う私の裏付けなのだ。