私が携わっているプロジェクトに、11月から4人を追加したのだが、その中に47歳の独身女性がいる。
彼女はこのチームに入るため、栃木の山奥から名古屋入りしたのだが、30日(金)に栃木での業務をこなした後、とりあえずの身近な荷物を車に積み、そのまま高速を運転し名古屋に入ったのだ。
本プロジェクトは24時間365日稼働する基幹システムを監視/運用するのが業務のため、夜勤のある2交替制の変形労働となる。
メンバを採用するにあたり、当初私たちは女性の登用は想定していなかった。
ところが、その女性は夜勤だろうとなんだろうとどんと来い!的な、めちゃめちゃなやる気とパワーを私達にアピールし、メンバー枠を勝ち取った。
彼女のこれまでの経歴を簡単に説明する。
四国在住の彼女は、30代中盤、東京に本社を持つIT系の会社の四国事業所に契約社員として入社。
入社時の『数年後には正社員として受け入れる』の約束は守らることはなく、契約社員という立場のまま、長くて2年、短期だと3ヶ月のローテーションで、約10年間、彼女は四国地区の中堅のあらゆるIT企業に特定派遣され続けた。
『こんな働き方で大丈夫だろうか?』
45歳を過ぎた頃、独り身の彼女は勿論不安になった。
契約社員である限り、特定派遣先がなくなれば簡単に切られるであろうことは想像がついた。
しかし、四国の田舎でこれ以上の給料(契約社員であってもITは賃金が高い)の仕事は望めない。今更別のIT系の会社といっても、45歳過ぎた女をほいほいと採用してくれる会社は皆無だろう。
どうしたもんかと思い悩んでいる内に2年が過ぎた。
そして47歳になった今年の7月、彼女は突然会社の上司から、所属する四国事業所が来月を以って閉鎖されることを告げられた。
彼女を含め、契約社員達は全員契約終了。
(つまりクビ)
正社員も関東の事業所への転勤を受け入れたものだけが残れるという、正社員だからといって決して安泰ではない条件だったそうだ。
彼女以外の契約社員の女性達は皆既婚者であったため、たちまち生活に困窮するわけではない。
「ひとまず家庭に戻ってのんびりパートでも探す」
と、会社側の無謀とも思える一斉の契約終了を、しかたない という姿勢で受け入れた。
「どんな仕事でもします!どこへでも行きますから仕事をください!」
と、懇願した彼女に、栃木の山奥の3ヶ月間だけのスポットの仕事が紹介された。
「東京の本社に掛けあってこの仕事を取ってあげたけれど、あなたが栃木に行ってる間にこの事業所はなくなるわけだから、四国に戻ってももうお世話することはできないからね。あっちに行ったら無理だと思うけど本社に掛けあうとか、派遣会社に登録するとか・・・。とにかくその後のことは自分でなんとかしてください」
正社員である上司からそう言われた彼女は勿論腹が立ったが、文句を言ったところでどうしようもないことは百も承知だった。
その上司も家庭の事情で関東への転勤は無理なため、8月末で自己都合退社になることが確定していたからだ。
上司だって職を失う大変な時なのに、自分に仕事をくれただけでも有難いと思った。
栃木での住まいは、受け入れ先の企業が山奥の現場から車で1時間強離れた街にマンスリーを用意してくれていた。
そして彼女は、自分の住んでいる四国のアパートはそのまま残し、生活するための最低限の荷物を持ち、栃木のマンスリーに移った。
10月末には仕事もなくなってしまう。
四国に戻っても仕事はない。
彼女は必死であらゆる派遣会社のいろんなお仕事にエントリーし、休みの日をすべて面接に当てた。シフト制で平日休みがハマるのもありがたかった。
(派遣会社の面接はたいていウィークデーなのだ。もし土日休みだったら面接はおそらく受けられない)
その内の一つに私が所属する会社があった。
ウチの北関東事業所の担当がたまたま
「関東や四国にこだわりますか?名古屋ならすぐに人を欲しがってるプロジェクトがあるんですが・・・」
と声をかけたのが今回の縁につながった。
彼女に初めて会った時、私は彼女から発せられる「必死さ」とか「やる気」とか、とにかく、体の底から溢れ出る「頑張ります」感に本当にびっくりした。
内定が決定してから彼女に会ったのだが、採用された事を心の底から有難いと思ってくれてるんだなぁ・・と、強く感じることができた。
名古屋での住まいはネットの情報だけで決めたと言うので
「不安じゃなかったの??」
とおもわず私が聞くと
「不安だなんてとんでもない!!お仕事がないっていう不安から解消されるんです。それと比べたら住む場所をネットの情報だけで決めるなんて、なんてことないです(笑)名古屋はすごいです。大抵の場所は30分も歩かなくても駅に着きますよね?間取りと駅まで何分・・・この程度の情報で十分です。こんな街に住めるなんて本当にありがたいです。」
四国のアパートはしばらく借りておき、引越し業者を頼まず、自分の車で少しずつ荷物を運ぶんだとか。
「駐車場代もかかるし、名古屋なら車は必要ないので、引っ越しが完了したら車は実家に置きに行ってそのまま置きっぱにします。栃木からそのまま名古屋に入ったので秋冬物の洋服が一枚もないんですよぉ(笑)最初の休みに四国に服を取りに行かなくちゃ!」
と笑う彼女を見て、つくづく頼もしいなぁ・・・・と思う。
今回、メンバを採用するにあたり、エントリーしてきた沢山の男子達と面接をしたのだが、不採用にした男子は勿論、採用したメンバであっても彼女ほどのやる気を見せた人間は一人もいない。
夜勤は嫌だの、残業はできればしたくないだのと、無職歴が長い20代とか、30半ばで実家に暮らし、会社を辞めてからはバイト・・・みたいな男ほど講釈をタレた。
(こいつらは勿論不採用(笑))
「前職は自分が本当にやりたいことではなかった。だから会社を辞めた。次は本当にやりたいことをしたい」
と言う39歳独身男子は、プロフィールを見るとIT的なスキルはまるでない。
ITが本当にやりたいことだったんですか?と聞くと
「ぶっちゃけ前の会社より給料が高かったから」
と平然と答えた。
(こいつも勿論不採用(笑))
男!大丈夫か? とも思う。
47歳のアラフィフ独身女子が必死になって辿り着いた今回の仕事を、そんな適当な理由や、適当な感覚で面接にやって来て、恥ずかしくないのか?
と言ってやりたくなる。
「1年を目処に正社員へと会社側は考えていますから。頑張って下さいね」
と私が言うと、彼女は『ありがとうございます』と頭を下げてからこう言った。
「でもね、もういいんです。正社員になれなくたっていいんです。今までのどんな仕事よりお給料が高いんですよ?すごいです。契約社員でこれだけ貰えて、これ以上を望んだらバチが当たるような気がします(笑)十分です。私本当に一生懸命働きます。一生懸命働いて、契約終了にならないように本当に本当に頑張ります!」
活き活きとそう告げた彼女に私は何も返せなかった。
独身の40代女子が生きて行くことは、独身の40代男のそれとは比べ物にならないほど厳しいと私は思う。
前にも書いたかもしれないが、やはりまだ、日本は男社会なのだと痛いほど思う。
この記事を読んだ人の中には
「結婚しないからそうなったんじゃん?結婚して旦那に食わせてもらうって人生を選ばなかったからじゃん」
と感じる方は多いかもしれない。
けれどそう感じることこそが、40代の独り身の女がいかに生きづらいのかを物語っている気がしてならない。
だから女は頑張るんだと思う。
自分の立場を嫌ってほど知ってるから頑張るしかないのだ。
栃木の山奥だって、なんのゆかりもない名古屋だって身一つで移って来る。
なんだかんだと偉そうに言ったところで、私は彼女のように強くない。
強くないから旦那をゲットし、自分のお給料でより豊かな暮らしができればいいなぁ・・・と都合よく頑張ってる欲の深い弱い女なのだ。
ホンマにがんばろっと。
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