日本では北朝鮮の人工衛星打ち上げを「事実上のミサイル」と記述するが、
海外のニュースサイトではどう表現されているかと調べてみると面白いことがわかった。
U.S. Condemns North Korean Satellite-Launch Plan
(米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの記事)
Japan military on alert over North Korea's planned rocket launch
(国際ニュース通信社ロイター通信(アメリカ)の記事)
North Korea, Defying Warnings, Prepares to Launch Long-Range Rocket
(米紙ニューヨーク・タイムズの記事)
South Korea, Japan condemn planned North Korea satellite launch
(CNNのニュース動画)
North Korea reveals plans for satellite launch later this month
(ロシア・トゥデイの記事)
北朝鮮の衛星発射計画の通告にアメリカと韓国の反発
(イランラジオの記事)
海外の記事には、
「事実上のミサイル」という表現が見当たらない
のである。
かろうじてニューヨーク・タイムズの記事が「長距離ロケット」と表現しているが、
本文は次のようになっている。
----------------------------------------------------
In a new dare to the United States and its allies,
North Korea has notified the United Nations agency responsible for navigation safety
that it is planning to launch a long-range rocket this month to put a satellite into orbit.
The agency, the International Maritime Organization, said Tuesday that
it had received a notification from the North Korean authorities of
a multistage rocket launch between the hours of 7 a.m.
and noon local time, on an as-yet unspecified day between Feb. 8 and 25. An agency spokeswoman, Natasha Brown, said North Korea’s notification described the payload as an Earth observation satellite it called Kwangmyongsong, which translates as Lodestar.
If the launch goes as planned, the notification said,
the rocket’s first stage will fall in waters off the west coast of South Korea,
and the second stage in waters east of the Philippines.
The notification came after warnings to North Korea advising against a launch
from the United States and allied nations, which consider such a step a cover
for developing an intercontinental ballistic missile that can deliver a nuclear bomb.
Under a series of United Nations Security Council resolutions,
North Korea is barred from developing nuclear weapons or ballistic missile technologies.
----------------------------------------------------
このように、「人工衛星を軌道に乗せるための長距離ロケット」
「多段式ロケット」「地球観測のための実験観測機」といった風に、
北朝鮮は人工衛星を打ち上げようとしているが、アメリカと同盟国が
「核弾頭の運搬が可能な大陸弾道ミサイルの開発につながる」と考え警告していると書いている。
ニューヨーク・タイムズもいろいろと批判されている新聞ではあるが、
少なくともこの記事においては自分たちと政府との距離を離して報じていると言えよう。
他方で日本の新聞はどうか?サンプルとして朝日新聞の記事を以下に示す。
-----------------------------------------------------
日米韓、ミサイル警戒
北朝鮮「発射」通告で破壊命令
北朝鮮が国際機関に「衛星」打ち上げと称して事実上のミサイル発射を通告したことについて、
日米韓など関係各国は、北朝鮮への非難を強め、強力な制裁も視野に連携する方針を示した。
日本政府は、ミサイルの破壊措置命令を出したことを公表した。
2日に北朝鮮が国家海事監督局長の名で国際海事機関(IMO,本部ロンドン)に通告した資料によると、
「光明星」と名付けた「地球観測衛星」を打ち上げるという。
発射は8~25日の期間中、午前7時から正午(日本時間午前7時半から午後0時半)に実施。
機体の落下予想海域はそれぞれ、1段目が韓国西南部・全羅道の西方沖、
「衛星」をカバーする先端部が韓国済州島の西方沖、
2段目がフィリピン・ルソン島の東方沖となっている。
中谷元・防衛相は3日午後、ミサイル発射に備え
破壊措置命令を出したことを初めて記者団に明らかにした。
命令の期間は25日まで。地対空誘導弾パトリオット3(PAC3)を
首都圏と沖縄県の一部に配備し、今後、飛行経路と予想される先島諸島にも展開する方針を示した。
安倍晋三首相は3日午前の衆院予算委員会で、北朝鮮の通知について
「実際は弾道ミサイルの発射を意味する。北朝鮮が弾道ミサイルの発射を強行することは、
明白な(国連)安保理決議違反で、我が国の安全保障上の重大な挑発行為だ」と非難。
「関係国と連携し、北朝鮮が発射を行わないよう強く自制を求めていく」と述べた。
http://www.asahi.com/articles/ASJ233D74J23UTFK004.html
-----------------------------------------------------
このように完全にミサイルが発射されることになっている。
事実と大きく異なるのは言うまでもない。
政府の意向に強く反映された表現だ。
こういう記事を偏向報道・プロパガンダと言うのである。
カギ括弧つきで「地球観測衛星」「衛星」と称して、いかにも現物は違うかのように書くが、
「人工衛星と称した事実上のミサイル」というくどい表現は日本語でしかお目にかかれない。
Japan placed its military on alert on Wednesday to shoot down a North Korean rocket
if it threatens Japan, while South Korea warned the North will pay a "severe price"
if it proceeds with a satellite launch that Seoul considers a missile test.
これはロイター通信の記事の一部だが、
ここでも「韓国はミサイル実験だと思っている」という書き方になっており、
あくまでも、北朝鮮が飛ばすのは人工衛星であるという認識の下、記事が構成されている。
--------------------------------------------------------
North Korea has told UN agencies that
it is going to launch a satellite later this month.
The country insists that the satellite will have a purely scientific function.
~中略~
At the end of January, US officials said
North Korea was preparing for some kind of a space launch
citing satellite imagery.
The news of a looming satellite launch comes just weeks after North Korea claimed that
it successfully tested its first hydrogen bomb which sparked international outrage
and calls for new stricter sanctions against the country.
North Korea carried out its last rocket launch in 2012 saying
that the rocket carried a Kwangmyongsong-3 weather satellite.
The country was however accused by the US, South Korea and Japan
of testing a long-range ballistic missile.
--------------------------------------------------------
ロシア・トゥデイの記事では上のように完全に人工衛星の発射として捉えられている。
末文では「北朝鮮は光明星3号という気象衛星の打ち上げに成功したが、
アメリカや南朝鮮、日本は長距離弾道ミサイルのテストだと非難した」と説明している。
実際、その通りなのだが日本語で読める記事のほとんどは、
そのような正しい認識が出来ていない(新聞だけでなくちょっとお堅い新書や月刊誌でも)
再び、先述のニューヨーク・タイムズの記事を読んでみよう。
--------------------------------------------------
North Korea asserts that
its rocket program is peaceful,
intended to launch satellites
to gather data for weather forecasting
and for other scientific purposes.
北朝鮮はロケットの計画は平和的なものであり、
人工衛星は気象予報その他の科学的用途のデータ収集のために打ち上げられると主張した。
But after
the country put a Kwangmyongsong satellite into orbit
by using its Unha-3 rocket in December 2012,
だが、同国が2012年12月に銀河三号ロケットを用いて人工衛星「光明星」を軌道に乗せた後、
the United States worried that
in the process,
the North was also moving toward acquiring the ability
to deliver a nuclear warhead on a long-range ballistic missile.
アメリカ合衆国は「人工衛星を打ち上げる経過で、
北朝鮮は長距離弾道ミサイルで核弾頭を運搬する能力も得るようになる」と危惧した。
--------------------------------------------------------
このように、あくまでも第三者として、つまり客観的に記述するタイムズと
政府側の見解をそっくりそのまま伝え、政府と一緒になって危機を煽り立てる朝日新聞。
イエロー・ジャーナリズムというぐらい、向こうのメディアもなかなかのものではあるが、
日本のジャーナリズムの堕落ぶりが非道すぎるので、とても正常に見えてしまう。
再三の指摘だが、人工衛星とミサイルは別物である。
多段式(切り離し式)ロケットの場合、燃料が空になったロケットは
人家のない海上あるいは砂漠地帯に落下するように計算されて打ち上げられる。
日本製のH-2A固体ロケットブースターの場合、安全のために、
ロケット落下地点は立ち入り禁止区域に指定して警備艇で監視される。
他方、核ミサイルの場合、ダミーとなるデブリが同時にばら撒かれ、広範囲に展開するので、
これを迎撃するには複数のデブリと核弾頭を一気に打ち落とす迎撃ミサイルが必要になる。
このように、人工衛星用のロケットと核ミサイルでは具体的な安全対策が全く違う。
わざわざ自衛隊に破壊するよう発令することが如何に大げさであり的外れかがよくわかるだろう。
歴史改竄や軍拡に奔走する日本政府が強硬姿勢を取るのは自然であり、また必然な反応だが、
それに同調して政府と共に危機を叫ぶNHKや朝日、他メディアは何なのだろうか?
いじめ抜いて自殺に追い込みたいのか
http://blog.goo.ne.jp/tbinterface/ebb31ca13809f5bfe66c115b5d2e3564/a4
しかしながら、新聞社やテレビ局よりも深刻なのは、この国の知識人だろう。
評論家の藤永茂氏は威嚇しているのはアメリカのほうだと主張する数少ない人物だが、彼は
「北朝鮮の核軍備について、また核兵器の使用について真剣に考えようとするならば、何よりも先ず、
朝鮮戦争という歴史的事件についての我々の知識の貧しさを反省しなければなりません。」と語る。
だが、白井聡氏の『永続敗戦論』などを読むと、日本の主流左翼は、
北朝鮮がどれほど欧米が主導する国際政治の場において理不尽な仕打ちを受けているのかを
知っていながら、それでもなお北朝鮮を敵視しようとしているのではないかと思えてくるのである。
実際、『永続敗戦論』では北朝鮮は世界から孤立したどこの国とも国交がなく、
中国にも地政学的理由で渋々生存が認められている欠陥国家であるかのように語られている。
同書は、2013年に発売されたもので、この間に金正恩政権が政治・経済改革に着手し、
特に食糧に関しては2000年代前半と比べ飛躍的に向上し、イランやキューバなどの
自国と同じく悪の枢軸と呼ばれたアメリカの被害にあった国々とも親交を深めたわけだが、
こういう事情を一切無視して北朝鮮悪漢論に同調し、日本が民主主義国になれたのは
北緯38度線で共産化が止まったからだと主張している。なお、本書は民主主義の本である。
北朝鮮研究の泰斗であるブルース・カミングス氏の著作を引用して朝鮮戦争に言及してなお、
後半部分で右翼の北朝鮮批判にも一理ありと評価を下す本書は、戦後民主主義を点検したものであり、
総じて左翼には絶賛、右翼には非難された(『脱永続敗戦論』などという反撃本まで売られている)
2015年には『マンガでわかる永続敗戦論』などというゴミまで売られる始末だから、
相当読まれているのだと思う。ネットでも書評でも左派からの絶賛の声が多い。
もともとレーニン研究から出発したとはいえ、政治思想を専攻とする研究者が
戦後民主主義を反省する本において、日本の対米従属を批判しておきながら、
当の自分がアメリカの利益に沿った北朝鮮論を展開しているのはどうなんだろうか?
北朝鮮の脅威というものは集団的自衛権の容認をはじめとした軍拡や植民地支配に関する歴史改竄、
朝鮮民族に対する蔑視を正当化させる最大の口実だと言える。少なくとも朝鮮学校については
北朝鮮のスパイ養成機関という偏見により無償教育の対象から外されているのは確かである。
こういった事態に対して北朝鮮との無関係性を強調することで在日コリアンを救おうとしているのが
今日(といっても、20年以上前からだが)の主流左翼だ(反共左翼と私は呼んでいる)。
そこには北朝鮮は独裁国家であり、民主化しなければならないという意識が見え隠れする。
欧米は今から100~200年前の19世紀~20世紀半ばにおいて「文明化」、
つまり野蛮な国家を導き、文明国家へと変えさせなければいけないという理屈の下、
アフリカや南米、アジアの弱国を次々と植民地化・保護国化していった。
「文明化」が「民主化」に変わっただけで、やってることは同じなのだが、
日本の主流左翼はこういう継続する植民地主義・帝国主義について、徹底的に戦おうとするどころか、
アラブの春や北朝鮮、シリアに対する攻撃を称賛している。これは彼らの自由意志に基づく。
彼らと比べるとロシアのニュースサイト『スプートニク』に寄稿する
アンドレイ・イワノフ氏やタチヤナ・フロム氏が光り輝いて見える。
両氏に限ったことではなく、アンドレイ・ラニコフ氏やアレクサンドル・ジェビン氏など、
ロシアの北朝鮮やウクライナ、シリア、イェメンその他に関する言説(特に欧米の批判)は、
イスラム教や社会主義などのイデオロギーを基軸とする国家を敵視するように教え込まれた日本左翼の
それと比べると桁違いのレベルで、白井氏が目指すところの対米従属から解放されていると言えよう。
皮肉なことに、民主主義が行き届いていないはずのロシアのほうが正しい指摘をしている。
逆を言えば、それだけ日本の民主主義信仰と反共思想、朝鮮人蔑視は根深いと言わざるを得ない。
私は、民主主義というイデオロギーは絶対の武器ではなく、逆に民主主義を尊重することで、
かえって差別が助長されたり看過されたりもすることを念頭に置きながら研究をしているが、
歴史的に見れば、民主主義を尊重してフランス革命や独立革命を行ったであろう米仏のほうが
中東やアジアに対して相当ドギツイことをしていることがあまり指摘されないことに不満を抱いている。
(特に現代史、現代政治に関連する言説において)
このような世界観や歴史観の克服ができない限り、いつまで経っても日本の主流左翼は
北朝鮮の人工衛星を政府と一緒になって事実上のミサイルだと騒いでいるのではないだろうか?
『永続敗戦論』について言えば、左翼が書いて左翼が絶賛したという大きな目で見れば
左翼の自己満足の領域を出ない本である。こういうレベルから論壇が上昇しない限り、
あるいは出版物や放送に露出する権利を持つ左翼が変身しない限り、
現状は大きく変わらないだろうし、ズルズルと軍拡、改憲に向かっていくのではないだろうか?
そう思えてならない。
海外のニュースサイトではどう表現されているかと調べてみると面白いことがわかった。
U.S. Condemns North Korean Satellite-Launch Plan
(米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの記事)
Japan military on alert over North Korea's planned rocket launch
(国際ニュース通信社ロイター通信(アメリカ)の記事)
North Korea, Defying Warnings, Prepares to Launch Long-Range Rocket
(米紙ニューヨーク・タイムズの記事)
South Korea, Japan condemn planned North Korea satellite launch
(CNNのニュース動画)
North Korea reveals plans for satellite launch later this month
(ロシア・トゥデイの記事)
北朝鮮の衛星発射計画の通告にアメリカと韓国の反発
(イランラジオの記事)
海外の記事には、
「事実上のミサイル」という表現が見当たらない
のである。
かろうじてニューヨーク・タイムズの記事が「長距離ロケット」と表現しているが、
本文は次のようになっている。
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In a new dare to the United States and its allies,
North Korea has notified the United Nations agency responsible for navigation safety
that it is planning to launch a long-range rocket this month to put a satellite into orbit.
The agency, the International Maritime Organization, said Tuesday that
it had received a notification from the North Korean authorities of
a multistage rocket launch between the hours of 7 a.m.
and noon local time, on an as-yet unspecified day between Feb. 8 and 25. An agency spokeswoman, Natasha Brown, said North Korea’s notification described the payload as an Earth observation satellite it called Kwangmyongsong, which translates as Lodestar.
If the launch goes as planned, the notification said,
the rocket’s first stage will fall in waters off the west coast of South Korea,
and the second stage in waters east of the Philippines.
The notification came after warnings to North Korea advising against a launch
from the United States and allied nations, which consider such a step a cover
for developing an intercontinental ballistic missile that can deliver a nuclear bomb.
Under a series of United Nations Security Council resolutions,
North Korea is barred from developing nuclear weapons or ballistic missile technologies.
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このように、「人工衛星を軌道に乗せるための長距離ロケット」
「多段式ロケット」「地球観測のための実験観測機」といった風に、
北朝鮮は人工衛星を打ち上げようとしているが、アメリカと同盟国が
「核弾頭の運搬が可能な大陸弾道ミサイルの開発につながる」と考え警告していると書いている。
ニューヨーク・タイムズもいろいろと批判されている新聞ではあるが、
少なくともこの記事においては自分たちと政府との距離を離して報じていると言えよう。
他方で日本の新聞はどうか?サンプルとして朝日新聞の記事を以下に示す。
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日米韓、ミサイル警戒
北朝鮮「発射」通告で破壊命令
北朝鮮が国際機関に「衛星」打ち上げと称して事実上のミサイル発射を通告したことについて、
日米韓など関係各国は、北朝鮮への非難を強め、強力な制裁も視野に連携する方針を示した。
日本政府は、ミサイルの破壊措置命令を出したことを公表した。
2日に北朝鮮が国家海事監督局長の名で国際海事機関(IMO,本部ロンドン)に通告した資料によると、
「光明星」と名付けた「地球観測衛星」を打ち上げるという。
発射は8~25日の期間中、午前7時から正午(日本時間午前7時半から午後0時半)に実施。
機体の落下予想海域はそれぞれ、1段目が韓国西南部・全羅道の西方沖、
「衛星」をカバーする先端部が韓国済州島の西方沖、
2段目がフィリピン・ルソン島の東方沖となっている。
中谷元・防衛相は3日午後、ミサイル発射に備え
破壊措置命令を出したことを初めて記者団に明らかにした。
命令の期間は25日まで。地対空誘導弾パトリオット3(PAC3)を
首都圏と沖縄県の一部に配備し、今後、飛行経路と予想される先島諸島にも展開する方針を示した。
安倍晋三首相は3日午前の衆院予算委員会で、北朝鮮の通知について
「実際は弾道ミサイルの発射を意味する。北朝鮮が弾道ミサイルの発射を強行することは、
明白な(国連)安保理決議違反で、我が国の安全保障上の重大な挑発行為だ」と非難。
「関係国と連携し、北朝鮮が発射を行わないよう強く自制を求めていく」と述べた。
http://www.asahi.com/articles/ASJ233D74J23UTFK004.html
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このように完全にミサイルが発射されることになっている。
事実と大きく異なるのは言うまでもない。
政府の意向に強く反映された表現だ。
こういう記事を偏向報道・プロパガンダと言うのである。
カギ括弧つきで「地球観測衛星」「衛星」と称して、いかにも現物は違うかのように書くが、
「人工衛星と称した事実上のミサイル」というくどい表現は日本語でしかお目にかかれない。
Japan placed its military on alert on Wednesday to shoot down a North Korean rocket
if it threatens Japan, while South Korea warned the North will pay a "severe price"
if it proceeds with a satellite launch that Seoul considers a missile test.
これはロイター通信の記事の一部だが、
ここでも「韓国はミサイル実験だと思っている」という書き方になっており、
あくまでも、北朝鮮が飛ばすのは人工衛星であるという認識の下、記事が構成されている。
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North Korea has told UN agencies that
it is going to launch a satellite later this month.
The country insists that the satellite will have a purely scientific function.
~中略~
At the end of January, US officials said
North Korea was preparing for some kind of a space launch
citing satellite imagery.
The news of a looming satellite launch comes just weeks after North Korea claimed that
it successfully tested its first hydrogen bomb which sparked international outrage
and calls for new stricter sanctions against the country.
North Korea carried out its last rocket launch in 2012 saying
that the rocket carried a Kwangmyongsong-3 weather satellite.
The country was however accused by the US, South Korea and Japan
of testing a long-range ballistic missile.
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ロシア・トゥデイの記事では上のように完全に人工衛星の発射として捉えられている。
末文では「北朝鮮は光明星3号という気象衛星の打ち上げに成功したが、
アメリカや南朝鮮、日本は長距離弾道ミサイルのテストだと非難した」と説明している。
実際、その通りなのだが日本語で読める記事のほとんどは、
そのような正しい認識が出来ていない(新聞だけでなくちょっとお堅い新書や月刊誌でも)
再び、先述のニューヨーク・タイムズの記事を読んでみよう。
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North Korea asserts that
its rocket program is peaceful,
intended to launch satellites
to gather data for weather forecasting
and for other scientific purposes.
北朝鮮はロケットの計画は平和的なものであり、
人工衛星は気象予報その他の科学的用途のデータ収集のために打ち上げられると主張した。
But after
the country put a Kwangmyongsong satellite into orbit
by using its Unha-3 rocket in December 2012,
だが、同国が2012年12月に銀河三号ロケットを用いて人工衛星「光明星」を軌道に乗せた後、
the United States worried that
in the process,
the North was also moving toward acquiring the ability
to deliver a nuclear warhead on a long-range ballistic missile.
アメリカ合衆国は「人工衛星を打ち上げる経過で、
北朝鮮は長距離弾道ミサイルで核弾頭を運搬する能力も得るようになる」と危惧した。
--------------------------------------------------------
このように、あくまでも第三者として、つまり客観的に記述するタイムズと
政府側の見解をそっくりそのまま伝え、政府と一緒になって危機を煽り立てる朝日新聞。
イエロー・ジャーナリズムというぐらい、向こうのメディアもなかなかのものではあるが、
日本のジャーナリズムの堕落ぶりが非道すぎるので、とても正常に見えてしまう。
再三の指摘だが、人工衛星とミサイルは別物である。
多段式(切り離し式)ロケットの場合、燃料が空になったロケットは
人家のない海上あるいは砂漠地帯に落下するように計算されて打ち上げられる。
日本製のH-2A固体ロケットブースターの場合、安全のために、
ロケット落下地点は立ち入り禁止区域に指定して警備艇で監視される。
他方、核ミサイルの場合、ダミーとなるデブリが同時にばら撒かれ、広範囲に展開するので、
これを迎撃するには複数のデブリと核弾頭を一気に打ち落とす迎撃ミサイルが必要になる。
このように、人工衛星用のロケットと核ミサイルでは具体的な安全対策が全く違う。
わざわざ自衛隊に破壊するよう発令することが如何に大げさであり的外れかがよくわかるだろう。
歴史改竄や軍拡に奔走する日本政府が強硬姿勢を取るのは自然であり、また必然な反応だが、
それに同調して政府と共に危機を叫ぶNHKや朝日、他メディアは何なのだろうか?
いじめ抜いて自殺に追い込みたいのか
http://blog.goo.ne.jp/tbinterface/ebb31ca13809f5bfe66c115b5d2e3564/a4
しかしながら、新聞社やテレビ局よりも深刻なのは、この国の知識人だろう。
評論家の藤永茂氏は威嚇しているのはアメリカのほうだと主張する数少ない人物だが、彼は
「北朝鮮の核軍備について、また核兵器の使用について真剣に考えようとするならば、何よりも先ず、
朝鮮戦争という歴史的事件についての我々の知識の貧しさを反省しなければなりません。」と語る。
だが、白井聡氏の『永続敗戦論』などを読むと、日本の主流左翼は、
北朝鮮がどれほど欧米が主導する国際政治の場において理不尽な仕打ちを受けているのかを
知っていながら、それでもなお北朝鮮を敵視しようとしているのではないかと思えてくるのである。
実際、『永続敗戦論』では北朝鮮は世界から孤立したどこの国とも国交がなく、
中国にも地政学的理由で渋々生存が認められている欠陥国家であるかのように語られている。
同書は、2013年に発売されたもので、この間に金正恩政権が政治・経済改革に着手し、
特に食糧に関しては2000年代前半と比べ飛躍的に向上し、イランやキューバなどの
自国と同じく悪の枢軸と呼ばれたアメリカの被害にあった国々とも親交を深めたわけだが、
こういう事情を一切無視して北朝鮮悪漢論に同調し、日本が民主主義国になれたのは
北緯38度線で共産化が止まったからだと主張している。なお、本書は民主主義の本である。
北朝鮮研究の泰斗であるブルース・カミングス氏の著作を引用して朝鮮戦争に言及してなお、
後半部分で右翼の北朝鮮批判にも一理ありと評価を下す本書は、戦後民主主義を点検したものであり、
総じて左翼には絶賛、右翼には非難された(『脱永続敗戦論』などという反撃本まで売られている)
2015年には『マンガでわかる永続敗戦論』などというゴミまで売られる始末だから、
相当読まれているのだと思う。ネットでも書評でも左派からの絶賛の声が多い。
もともとレーニン研究から出発したとはいえ、政治思想を専攻とする研究者が
戦後民主主義を反省する本において、日本の対米従属を批判しておきながら、
当の自分がアメリカの利益に沿った北朝鮮論を展開しているのはどうなんだろうか?
北朝鮮の脅威というものは集団的自衛権の容認をはじめとした軍拡や植民地支配に関する歴史改竄、
朝鮮民族に対する蔑視を正当化させる最大の口実だと言える。少なくとも朝鮮学校については
北朝鮮のスパイ養成機関という偏見により無償教育の対象から外されているのは確かである。
こういった事態に対して北朝鮮との無関係性を強調することで在日コリアンを救おうとしているのが
今日(といっても、20年以上前からだが)の主流左翼だ(反共左翼と私は呼んでいる)。
そこには北朝鮮は独裁国家であり、民主化しなければならないという意識が見え隠れする。
欧米は今から100~200年前の19世紀~20世紀半ばにおいて「文明化」、
つまり野蛮な国家を導き、文明国家へと変えさせなければいけないという理屈の下、
アフリカや南米、アジアの弱国を次々と植民地化・保護国化していった。
「文明化」が「民主化」に変わっただけで、やってることは同じなのだが、
日本の主流左翼はこういう継続する植民地主義・帝国主義について、徹底的に戦おうとするどころか、
アラブの春や北朝鮮、シリアに対する攻撃を称賛している。これは彼らの自由意志に基づく。
彼らと比べるとロシアのニュースサイト『スプートニク』に寄稿する
アンドレイ・イワノフ氏やタチヤナ・フロム氏が光り輝いて見える。
両氏に限ったことではなく、アンドレイ・ラニコフ氏やアレクサンドル・ジェビン氏など、
ロシアの北朝鮮やウクライナ、シリア、イェメンその他に関する言説(特に欧米の批判)は、
イスラム教や社会主義などのイデオロギーを基軸とする国家を敵視するように教え込まれた日本左翼の
それと比べると桁違いのレベルで、白井氏が目指すところの対米従属から解放されていると言えよう。
皮肉なことに、民主主義が行き届いていないはずのロシアのほうが正しい指摘をしている。
逆を言えば、それだけ日本の民主主義信仰と反共思想、朝鮮人蔑視は根深いと言わざるを得ない。
私は、民主主義というイデオロギーは絶対の武器ではなく、逆に民主主義を尊重することで、
かえって差別が助長されたり看過されたりもすることを念頭に置きながら研究をしているが、
歴史的に見れば、民主主義を尊重してフランス革命や独立革命を行ったであろう米仏のほうが
中東やアジアに対して相当ドギツイことをしていることがあまり指摘されないことに不満を抱いている。
(特に現代史、現代政治に関連する言説において)
このような世界観や歴史観の克服ができない限り、いつまで経っても日本の主流左翼は
北朝鮮の人工衛星を政府と一緒になって事実上のミサイルだと騒いでいるのではないだろうか?
『永続敗戦論』について言えば、左翼が書いて左翼が絶賛したという大きな目で見れば
左翼の自己満足の領域を出ない本である。こういうレベルから論壇が上昇しない限り、
あるいは出版物や放送に露出する権利を持つ左翼が変身しない限り、
現状は大きく変わらないだろうし、ズルズルと軍拡、改憲に向かっていくのではないだろうか?
そう思えてならない。