時事解説「ディストピア」

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『ありえへん∞世界スペシャル』番組後半で右翼番組と化す

2016-03-08 23:51:01 | 中国(反共批判)
世界で活躍している日本人を紹介したり、
逆に日本に技術を学びに来た外国人に取材する番組が数年前からヒットしている。

一歩間違えれば、単にナショナリズムを煽るだけの内容になるわけだが、
たとえ愛国心を知らず知らずのうちに植えつけるようになったとしても、
この手の番組は「日本人凄い!」というナルシスな主張から一歩外に出ることはなく、
そういう意味では健全なものと呼べるのかもしれない。

むしろ性質が悪いのは、池上彰のニュース解説番組をはじめとした、
「中国間違い!韓国悪い!日本被害者!」と悪感情を煽る番組だろう。



書店に向かえば、中国や韓国の人間を面白おかしく罵倒するヘイト本が並んでいるが、
この手の本がターゲットを右翼に絞っているのに対して、
テレビのヘイト番組はゴールデンタイムに家族を対象に放送されている。


こういうのは一般的にプロパガンダと呼ばれる類のものだ。


今日(2016年3月8日放送)の『ありえへん∞世界スペシャル』は、
この手の番組の危険性を説明するのに、丁度よい教材になるであろう内容だった


番組の途中までは『ペンギンの足は本当は長い』
『みかんは見栄えを良くするためにネットに入れて販売される』といった豆知識が披露されていた。


問題は後半の「間違いメイドインジャパン」である。

世界で売られている面白パチモンを紹介するという内容で、
「パナソニック」ならぬ「パワーソニック」とか「YAMAHA」ならぬ「YEMAHA」など、
これはこれで中々楽しめる内容だったのだが、番組後半から

日本のパクリ製品の半分以上が中国製
という根拠の怪しげな主張が飛び交い始め、その証拠と言わんばかりに
大芬油画村(だいふんゆがむら)を「コピー絵画で生計を立てる村」と紹介していたのだ。


モナリザなどの名画の複製画を描く人間が映された後、
「なぜ、コピー絵画が問題にならないのか」とモデルの佐藤栞里に出題、

「彼らはモナリザが有名な作品であることを知らないから」
という回答がテロップでデカデカと表示されてから、
著作権が切れている作品を扱っていることを伝えるのだが、
この際にも「著作権が切れていることを良いことに」
と、まるで法の目をかいくぐって村ぐるみで贋作を売りさばいているかのように説明し
ダメ押しとばかりに「展示物が全てパクリ絵画で出来た美術館」を映し、VTRが終了した。


大芬油画村とは、実際はどういう村なのだろうか?

以下の文章に目を通して頂きたい。

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中国の香港の向かいの深圳市にある大芬油画村(だいふんゆがむら)を紹介する。

8千人の絵描きがゴッホやモネなどの複製画を年間100万枚生産し、
世界の複製画市場の6割を占める。


大学で美術を学んで、中学で美術教師の経験もある女優の木野花が訪ねる。

モネを複製を手がける張は、
「モネは自然の光と色の微妙な変化を繊細な筆さばきで表現した。模写するのはとても難しい」
と語る。

モネの緑は多彩で、張は絵の具の配合を工夫した。2時間半でモネの複製を描き上がる。
モネの晩年は白内障で絵の彩度が落ちていたので、本物よりも色鮮やかでクリアーに描いた。

張は大芬油画村から500km北にある江西省の農家出身で10年前にここへやってきた。
初めは売れなかったが、故郷の田んぼの睡蓮を思い出しながら、
モネの睡蓮を20枚描いたところ画商に認められた。今は台湾から100枚の注文を受ける。

複製画が著作権を侵害してないかスタッフが見回る。原則として死後50年経ってないといけない。
また画家のサインが書き込まれていると贋作と見なされる。


24年前は大芬油画村は300人ほどが暮らすひなびた農村だったが、
1989年に香港の画商が20人の職人を連れて移住した。

ある時、アメリカから一度に10万枚を超える風景画の大量注文があり、
中国全土から若者を集めて流れ作業で制作した。
若者には構図、色彩、明暗など美術教育を施し、レベルアップを図った。


中国では複製画を描く人は画工、自分のオリジナル作品を描く人を画家と呼ぶ。

画家になるには深圳市の公募展で3回入選する必要がある。大芬油画村に画家は143人いる。
村には画家だけが住める高級マンションがある。

画家の銭鐡石は中国トップクラスの美術大学を卒業後、8年前にこの村にやって来た。
ルノアールなどの複製画を描きながら、わずか1年で画工から画家になった。

絵筆を使わずにペインティングナイフだけで
絵の具を大胆に塗り重ねる独創性にあふれた画風が高く評価され、
香港や台湾の画商の間で1枚10万元(180万円)以上の値で取り引きされている。


公園での太極拳で知り合った陳さんに絵の指導をする。陳は画家志望で風景画を得意とする。
村の目抜き通りに店を構え、すでに公募展に2回入選している。

今回は画風を広げるために人物画に挑戦するが、師匠の銭は厳しい評価を下す。

「画家になるという事は、単にオリジナル作品を描けばいいという意味ではないのだ。
 風景画だろうが人物画だろうがそこに何かメッセージがなければ画家にはなれない。
 あなたが感動していなければ、他の人を感動させられるわけがない。
 創作には信念が必要です。自分が本当に何に感動しているかを描き出す力です」

銀波藝術創意館では動物などのオリジナルの絵画が大量生産されている。
「まねる」と「まなぶ」という言葉は同じ語源、
コピーの村からオリジナルの村への変化しようとしている。

http://blog.livedoor.jp/konnnatv/archives/35249460.html
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絵画の世界において、レプリカを作ることは違法でも何でもなく、
ホテルや飲食店、オフィスのインテリアとして、ごく普通に売買されている。

絵画販売専門店 アートギャラリー南青山


①屋内インテリアとして、絵画のレプリカはごく普通に売買されている。
②著作権の侵害を行っていないかどうか、きちんと管理されている。
③大芬油画村は画家を目指す人間の登竜門になっている。


少なくとも上の3点は確実に説明されていなかった。

客観的に言って、大芬油画村は村全体が美大のようになっている場所で、
画商が先導したというエピソードからもわかるように、この村には世界各地から画商が訪れ、
目当ての絵画を数千枚単位で購入していく。やましいことは何も行っていないのである。


ところが、番組では村人全員がパクリ絵画で生計を立てていると強く印象付けていた。

この特集番組全体が海賊版商品を世界に売りつける中国というテーマだったのだが、
いわゆる海賊版と単に名前が酷似している別製品は全くの別物である。


例えば、ロレックスの時計と称して偽者を売りつけるのであれば、それは違法である。
だが、ロレッケスというメーカーが全く別のデザインの時計を売るのなら話は変わってくる。


出版社にも岩波書店という会社と岩崎書店という紛らわしい名前の会社が存在するが、
仮に岩波文庫の『法の精神』と称して岩崎書店が中身をコピーした本を売るならこれは問題だ。

だが、岩崎書店が岩崎文庫と称して別の訳者に頼み、フォント、字体、装丁、値段を別にして
『法の精神』を売るならば、これは別に問題にならない(『法の精神』は1748年の著作)。


つまり、この番組は複製画のような恥じる必要のないものと
日本のメーカーと名前が激似の企業から売られる商品と
明らかな海賊版を一括りにして「パクリ商品」と呼んでいるのだ。


番組の終わりのほうに海賊版を取り締まる会社が紹介されたあたりから見て、
番組の趣旨としては、中国が偽物を売りつけて金稼ぎをしているという意図があるように見える。


パリの景観を再現したのが売りの新興都市「広廈天都城」を
「エッフェル塔をパクった街」と説明しているあたりからも、そのことは伺える。


(なお、この手のテーマパークの考え方を取り入れた都市は住みにくいのか、
 ゴーストタウンと化している場所も少なくないようである)


以上、ザッと説明したが、この番組、
全体的に中国が世界中で偽物を売りつけているかのように報道しており、
大芬油画村を村人全員が有名絵画をパクっている場所と説明する凄すぎるものだった。


無論、中国でも贋作は製造されているわけで、それはそれで問題なのだが、
そのような啓発というよりは、面白おかしく中国のマイナスイメージを煽り立てて
視聴者の笑いを誘おうとする、より低レベルな目的の下に製作された印象が強い。


こういう番組を一般の家庭が見て中国人の印象を下げるのは、ごく自然の反応だろう。
あわせて池上彰のニュース番組を見れば、保守政党に票を入れること疑いなしだ。

現在、日本の改憲や軍拡、歴史改竄は中国や中国人に対する偏見によって支えられている。

この『ありえへん∞世界スペシャル』は、世にはびこるヘイト本と同質のもの、
つまり、中国に対する蔑視を助長させるものだ。

池上彰のように「中立的意見」と称しながら政府見解をそっくりそのまま伝える男もヤバいが、
今回のように完全な間違いを真実としてCMのように気軽に流すのもまた大いに問題があるだろう。


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