miss pandora

ONE KIND OF LOVE

愛にはいろいろ種類があるの
全部集めて地球になるの

「美術におけるオリジナリティーの起点教育」または、美術潮流の最末端が担うこと

2015-09-30 12:23:24 | エッセイ

私は、20年以上まえから小さな町の主催する小さな公募展の審査員をさせてもらっている。今回も、審査をおえて展覧会は無事にはじまったが、ここに来て、私にとって課題だと思ったことを書き留めようと思う。

昨今の社会的な美術の環境において、ジェンダー(
生物学的性別に対し、「社会的・文化的に形成された 性別」)に関する事象(物としての作品)について公に現す時に作家は、特に構図を吟味しなければならない。

例えば、ひとつの風景画が、瞬間的な風景の切り取りではなく、スケッチの積み重ねによる構図の鍛錬と切れのいい筆使い色使いで完成され、主題なり主張がフォーカスされて見る側の感覚を呼び覚ましたり、癒したり、考えさせたり、はたまた目を背けざるを得なくなったりという「印象」として残る。構図の重要性は、風景画の生い立ちに象徴されるとする。
ここで具象対象が風景ではなく人物になった場合・・・構図はポーズを軸として考えられる。さらに以下の社会的なこと(制約を含む)が付随される。

モデルがいるとすれば承諾を得ているのか。万が一雑誌などを切り抜いてモデルに使った場合、それが描き手のオリジナルになるまで表現が高まっているか。今、子供たちの間では変な顔を写真にとるのが流行っているらしいのだが、この「変顔」の写実系作品を出品した高校生を材料にワークショップの時には話す。
「君さ、この変顔の友達にはここで作品が公開されるって承諾を得ているの?」
スマートフォンの普及に伴って、あまりにも簡単に他人の画像を使おうと思えば使えるようになってしまったことは、美大へ行ったり、特にデザイン系に進むと訴訟問題にもなりかねない。昨今の学生の中ではスマホアプリを駆使して原画を作り拡大したものを「塗り絵」する方法も増えている。簡単に完璧に近く「元絵」が出来るため、生徒たちの手探りの悩みや手仕事の悩みやそもそもの達成感に不足を感じる。アプリでの変換や構成は、誰かが決めたアルゴリズムであって偶然ではない。しかも同時に、人間の感覚は記録され分析されて数字に置き換えられる時代になった。心地よいもの悪いものの境界線すら芸術を介さなくても、説明がつくのだ。手探りである手仕事の積み重ねは、観手にとって突き詰めるさきにけっしてうすっぺらなものには映らない。真のオリジナリティーとは、なるべく起点ゼロからの出発であってもらいたい。

「芸術とは?」という問いがある。辞書を開くと「人間の本能、生理が公にふさわしいかたちで洗練されること、または事象」とある。洗練は、素材・技術・感性・分析・人間の五感全てに渡る。洗練そのものには、ブームがあり時代時代のグループや潮流を総括する評論家が定義づけ、資本家(美術品を買う人)が世俗的権威を決定づける。過ぎ去ったブームは「古典派的」「印象派的」「ポップアート的」のような系や的を付けられて再構築されてもいる。それは歴史と物語に満ち溢れた「作家」個人があったわけで、それらを含んでの価値があるからだ。

さて、今まで書いたことを忠実にお行儀よくやると、実はだいたいが懐古的なつまらないものになってしまう。そこで芸術家はタブーに挑戦する。わかりやすい例の一つとして、版画界をあげる。制作の方法として他人の写真や作品を再校正して自分の版種に置き換えて手を加え、サインを入れるというものがある。今は版画界一般で認められているが、この「他人の写真や作品を再校正してもいいのか」というタブーを破った時には様々な論争をくぐっている。小さな町の公募展ではこの手法が他部門作家から「完成度の高い」作品として評価されることも多い。
昔、自画・自刻・自刷りの3点セットで今までは職人の分野で芸術と認められていなかった版画を芸術として認めてもらおうという「創作版画」運動があった。むろん芸大に版画学科が存在する以前の話である。だからこそ、版画作家は「自画」のことでもこだわったし、この街にはインターナショナルに有名な一原有徳(抽象)や金子誠司(具象)がいた。(二人とも今わたしが携わる小さな公募展や北海道版画協会の創立会員でもあり死ぬ間際までオリジナリティーと表現の自由に感覚的に知的に理性的にこだわっていた) この街では今となっては、とても重い話である。アートというカタカナ語は芸術を生活に密着させて創るもの見るものの母数そのものを拡大していったが、公募展関係者でこの話をすると「貴族的で善くない。芸術は理屈ではないからこそ、一期一会が大切であって審査のファーストインプレッションは最も重きをなす」という人がいる。私は、私たちの最大公約数のファーストインプレッションが何を意味するのかということを、一期一会で考える。考えることが私にとって「自画」にストレートに関わることだからだ。

公募展のエロ問題

日本には「エロかわいい」文化というのが存在し、世界に発信している。本当は、「カワイイ」文化なのだけれど、あえてエロを付け足してみる。それは、自由奔放な無知と作為的な媚の高次元とでもいえるエロが混在して島国ならではの、何とも言えないマニアックなブランディング(立ち位置)となっている。鳥獣戯画→漫画の流れにおいて、100年以上前から高質のものがすでに出回っていた浮世絵春画をニュージーランドの美術館収蔵庫で見せてもらった時には感動した。一緒に見ていたキュレーターは、若い女性で少しはにかみながら「なぜ、キッチュにここまで性器を強調させるかなぁ?でも、一点ものではなく軽く100枚以上刷られた板目木版画としてここまで技術性や独創性、物語性を含めて芸術価値が高いものは他の文化圏ではないんだよね。肉筆浮世絵とは違う、印刷物としてのある意味軽さと圧倒的な職人技の重さを兼ね備えているのよ。」と言っていた。ヒキメカギバナの日本画の流れをくむ一連の版画は、漫画の感覚で「抽象化」されているにも関わらず、事象としての具体性がすごい。その具体性から見手が想像をさらに膨らませるという手腕は、現代アートの社会の端々をえぐるモノをはるかに超えるパワーがあった。戦後の諸々で、春画は地下に潜り海外へ散ったりしたけれど、ここ20年で「エロかわいい」として巻き返していると私は位置づける。

1セクシー→豪華さ豊穣や知性も含まれる
2エロい→ほぼ健康的な思春期を引きづっている感じ
3卑猥→要モザイク

今後卑猥のカテゴリーが街単位の生涯学習課が管轄する展覧会でOKになるかというと、なりえない。むしろ、ジェンダー差別などの括りでより厳しいコンプライアンスが求められる。それは、個展や作家同士のグループ展やキュレーターというプロがついた展覧会ではないからだ。この度、私はある作品をそのポーズを卑猥として問題にした。

但し、停滞した不景気な街でファインアートの「タブー」をこの場で破ると、ある意味観客も本人も含めてやる気が出、ますます面白く本当に芸術的な作品が出てきたり、観客も描きたくなったり、発表したくなるかもしれないきっかけになる。としたら、受賞するのはもうひとつ面白いムーブメント(潮流)を呼び覚ますことになる。市の括りである団体として品位を含めての審査であり、図らずも街の公募展としての権威もあるわけだから慎重に話し合い「会」としての今年の立ち位置を決めていこうと、討論が続いたわけだが、難航した。審査とは、好き・嫌いでもないし「よく描けている・いない」でもなく、審査員は、フラット(先輩後輩なく)でフランク(きやすく)に討論すべきことはして、「芸術」の本質を考えて選び、「空間」を創っていく集団だと考えていたが、審査員同士の上下関係やわだかまりを避けたいからと意見を言わない傾向もあり、賛成反対者の互いの十分な認識のないままに、受賞作となってしまった。元画がグラビア写真との疑惑もあったので描き手「オリジナリティーの起点」の謎もあった。

私には今回の学びがある。以前から気になっていたネット上の「むきだし系」の画が自然な形で、この街にも出てきた。過半数の審査員が早い段階から自然に支持した。続く討論では、「グラビア系ポーズの画像にたいする慣れ」「グラビアポーズだからこそ悪い」「画家的技術があるから善い」「画家的技術があるからますます悪いし表現に責任がある」「本能的に引かれる」「本能的に拒否る」とに別けられた。さらに、私の中では所謂草食系が謳歌するなか肉食系な眼を感じたとともに、「絵描きは人物が描けて一人前」という人物画信仰や本当に純粋に「上手いものを尊重」する眼もまた貴重に思え、この感覚は作家として賛否それぞれに大きな意味があり、大切にしていかなければならないとした。また、展覧会がはじまり青少年を抱える一般市民が問題と考えたり討論したりの現場も見た。Showとして始ったからには、その話題性が良きにつけ悪しきにつけ重要なのだ。同時に「オリジナリティーの起点」について、繰り返し考えなければならないし、伝えなければいけないと思った。


2015年9月30日




追記* 非常に残念なことに問題の作品の元画がプロのモデルをプロカメラマンが撮影していたグラビアであったことが判明した。ファーストインプレッション・・・過半数の審査員が惹かれたのには、2重3重にプロが介在していたという理由があったのだね。とても辛いや。

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*画像・エスキース/パステル・紙 2015 ナカムラアリ

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