一級建築士の「住宅のヒントと秘訣」

注文住宅を考えたら「住宅の考え方が180度変わる」住宅勉強会やセミナー、他では聞けない住宅や建築がわかるブログ。

構造面の心配相談など…

2008年12月03日 12時12分50秒 | お勧め(建築編)
▲カナダ、5階建ての2×4工法工事中 の写真


みなさん、こんにちは。ミタス一級建築士事務所の清水です。

メールで相談がありました。
基本的なことですので、ここで回答いたしましょう。


「地震保険の保険料が2×4は半額(来秋から)との記事がありました。

在来工法と2×4工法ではそんなにも耐震性に差があるのでしょうか?
清水さんは在来工法、2×4工法いずれもOKとのことですが、
工法は地形や地盤、2階・3階建てといった特徴によって決めるのですか?
それとも予算でしょうか?

また、外壁が軽量気泡コンクリート(ALC)の木造建物は保険料が上がるそうです。

インターネットで調べたのですが、理由がわかりません・・・
普通に使用されている物と印象を受けましたが、
なぜ保険料が上がるのでしょうか?」

という内容です。


まず、在来工法と2×4工法に耐震性の差があるのかどうかですが、
最後まで読んで頂くことを前提に結論を最初にお話しますと、
保険屋さんの立場で考えれば、当然、差があります。

一般的な2階建ての木造住宅は、阪神大震災を経た今でも、

建築確認申請で筋交いの書類提出をしなくていいのです。ノーチェックです。
ですから、正しい知識がなくても感覚だけで設計できてしまう危険性がある
ということです。

そのため、最近でも新築建売で数百棟という大量な戸数の耐震壁量の不足が
一度に指摘されました。完成後です。でも、氷山の一角かもしれません。

ノーチェックですから、ユーザーの要望を短絡的に解決するため、

南側はできるだけ大きな窓で明るく、あっちもこっちも窓で、
1階リビングを大きくして開放的にという構造面を犠牲にした
安易な間取りができてしまうのです。

その結果として、耐震性が犠牲にされているのです。

テレビの大改造、劇的ビフォーアフターでも、
ほとんどそうだったですよね?

私が匠として設計と監理をした住宅は番組始まって以来、
初めて壁が増えたとディレクターに言われました。

ついでに、耐震補強についての説明や字幕スーパーを
出してもらったのも、私が初めてだということでした。




では、2×4工法はどうでしょうか?
2×4工法を日本に輸入し、許可したとき、耐震性を含めて
さまざまな制約を付けました。

その制約を守ると、何でもできてしまう在来工法と比べると
耐震性が良くなります。

建築基準法の耐震面の基準とは関係なく、
その前の時点で構造やプラン上の制約があるのです。


よく言われている、線と面での違いはどうでしょう。
正確な説明や内容は別にして、この点でも面の方が有利です。

日本においては、制約がなくて自由に造れてしまう在来工法と
制約があってその中で造っている2×4工法、どちらが地震に強いかというと
一般的には、あくまで一般的にはですが、制約のある2×4工法です。

カナダでも2×4工法をたくさん観ました。

カナダの2×4工法は耐震面での制約が少な過ぎて、
日本ではOKになりませんし、あれなら日本の在来工法と比べても
同程度以下だろうという建物はたくさんありました。

あちらは、それほど大きな地震が来ないから、それでいいのでしょう。


保険屋さんが心配で、在来工法の地震保険を2×4工法と比べて
高くする理由がお分かりでしょうか?

一般的に構造面よりユーザーの希望プラン重視で造られやすい在来工法が、
日本ではたくさん造られているのですから、統計学で保険料を決めると
高くなるのは、当たり前でしょう。


ですが、阪神大震災以降、2×4工法の耐震性の面で良い点は、
既に在来工法に充分取り入れています。構造用面材や水平面の剛床などの
考え方です。

この考え方に、平面状のバランスと、上下階のバランス、耐震壁の連続性、
耐震壁のブロック別、耐力壁の加算や基礎、地盤の強化を行えば、
耐震性に違いはでませんし、どちらが強いとはいえません。


そこまで考えて、設計をしている人が少ないだけの話です。

ミタス一級建築士事務所で言えば、そこまで考えて設計と監理をしています。

プランや地盤にもよりますが、むしろ在来工法の方が、必要であれば
さらに実質的な耐震強度を上げることが可能だと思います。
かなりのレベルですので、一般的には気にすることはないと思います。

この理由は、保有水平耐力という考え方と在来工法と2×4工法の違いを
良く理解している専門家にしか説明できないので、ここではカットします。

同じ壁倍率でも、在来工法と2×4工法では、実は根本的な考え方の部分で
異なっています。



ミタス一級建築士事務所では、
通常の2階建てであれば、指定がなければ在来工法を選択します。
地下室などが付けば、2×4工法で外壁は2×6を使って設計します。

その他、ご質問のようにプランの特徴により工法の変更を提案します。

指定があればどの工法も行いますが、それぞれのメリットと
デメリットを、お話して納得して頂いて最終決定しています。

ではなぜ、2階建てであれば在来工法を選択するのかというと、
対応できる工務店や職人が断然多いことと、
将来的な改築にも構造的にかなり対応しやすいからです。

大工さんも私の感覚ですが、

2×4工法の方がすぐに一人前の大工さんに成れるがゆえに、
現場での造作を頼んだり、難しい加工を頼んだりしにくい大工さんの
割合が多くなってしまうからです。

大工さんによっては、年輩の方でも造り付けや現場加工ができない
大工さんもいます。

我々のような設計事務所の面倒な設計では、
それだとお互いに非常に苦労しますし、断念することもあります。

ローコストや海外のデザイン性を売りにした2×4工法に、
かなりクレームが多いという印象を受けていますが、
その理由には、職人さんへの単価やレベルの差があるような気がしています。


また、設計監理の面でおいても在来工法の方がチェックしやすい
ということがあります。

といっても、この工法でなければならないと決め付けているわけではありません。
何事にも必ずメリット、デメリットがあります。

価格交渉でも、2×4工法の方が安いといわれていますが、
実際は、交渉選択の工務店が限られる2×4工法より
在来工法の方がメリットがある気がしています。


また、ALC版の木造住宅の保険料があがるということですが、
地震保険は火災保険と一体が条件です。

今までALC版の木造住宅は、火災保険も地震保険も安かったようです。
その安かった地震保険の部分を上げるという意味だと、メールから私は理解しました。

ALC版の木造住宅が地震に強いという理由は、ALC版とは関係の無い
ところで決まります。ですから本来、地震保険が安くなる理由はありませんね。

敢えてあげれば、地震時の火災には強いということが、あるでしょう。
そういったことを含めて、今までは安かったのだろうと推定しました。
この保険の部分は、すべて私の推定です。

真相は保険屋さんに聞かないとわかりません。


さて、今回に関係して

昨日、私の不在時に、現在設計監理している建物についての耐震性について
大丈夫だろうかと心配しているような、お電話を頂いたようです。

理由は、フラット35の申し込みをしていて、耐震性の部分での申請を
しなかったからです。


結論から申し上げますと、

フラット35の求めている耐震性能や
性能表示制度の最高ランクである耐震等級3のレベルにあるかどうかいという、

低いレベルでの設計や監理は、ミタス一級建築士事務所ではしていません。

この方の新築の例では、性能表示制度では耐震等級3までしかありませんが、
もしそれ以上の等級があると仮定すると、計算上は耐震等級5になるレベルです。


これについては、既にかなり長くなっているので、
理由を含めて明日かあさっての次のブログでお話しましょう。



横浜市 設計監理  

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先月の勉強から…

2008年12月01日 18時32分11秒 | 建築家の日記
▲海外の有名建築家の設計です。

飛び出したスカイラウンジは、地震が来なければ大丈夫でしょうし、
例え来ても計算上は大丈夫なのでしょう。でも、私はこういう設計はしたくないです。

計算上は大丈夫だった、1本足の見るからに不安定な阪神高速道路が
どうなったか、皆さんはご存知ですよね。

……………………………………………………………………………


みなさん、こんにちは。ミタス一級建築士事務所の清水です。

今年の締めくくりとなる12月がスタートしました。


先月末までの1ヶ月の間に、朝から夕方まで合計まる8日間、
都内で大学の先生から構造について勉強させてもらっていました。

木造などや2階建て、3階建てという建物よりは、30メートル以上、
マンションでいえば10階建て以上の建物の考え方が主です。

私はこういう大きな建物の構造設計をする気は、全くありませんが、
構造設計の仕事だけをしている専門家に混じって、学んできました。


建築基準法での構造計算の方法では、阪神大震災などの検証を経て
問題点や矛盾が生じてきていることは、いくつかわかっているのですが、
全面的に改定したくても簡単に改定できない理由があります。


大学の構造専門の先生は、日々研究しているので、最新の考え方や情報が
入ってきます。それらを知りたかったのです。

普段、戸建ての設計をしていると、そういう情報や考え方までは必要ありません
し入ってきません。

しかし、300年住宅や鉄筋コンクリート造の建物で、
「大地震が来ても絶対に倒れない建物に」というリクエストを受けることが
あります。

大自然相手に絶対にというお約束はできないのですが、そういう方には
少なくとも廻りが全部倒れても最後まで残っているという建物を最低限、
目指すつもりで設計します。


しかし、本当に最新の考え方と矛盾せず、正しい考え方をしているのか
どうかも確認したかったですし、

意匠上の設計変更をする場合でも、そういったことを知らないと構造的に
問題がないかどうか判定もできなければ、確信も持てません。



わかりやすい例えでは、

建物の材料の品質や強度が良くなると、構造的には問題が少なくなる気がしますね。

それでも新たな想定外の問題が生じることがあるのです。


鉄骨や鉄筋コンクリート造でも、接合部分の想定外の破壊が
阪神大震災の被害で多く出ました。
その理由が、部材材料の強度や品質が上がったため、
壊れないと想定していたはずの接合部が耐え切れず壊れたのです。

この理由や対策を知って設計や工事監理をしないと、
鉄骨や鉄筋コンクリート造は地震に強いと思われているのですが、
真実ではなくなるのです。阪神大震災ではそうでした。


構造計算というのは、実験を繰り返しデーターを集めて解析し、
近似値や近似方程式を得るという前提でスタートしています。

そのため条件や状況が少し変わっても、想定していなかった状態になることも
あり得ます。

構造計算はあくまで、仮定した前提条件の上での計算でしかありませんし、
その根本的な前提条件とその限界を少しでも理解しておくべきなのです。


大切なのは、

構造計算がどういう考え方でなされているのか、
注意すべき問題点は何なのか、
基準法には規制されていなくてもクリアーすべき事項は何なのか、
望ましい構造計画はどういうものなのか

などを知ったうえで、構造設計をすべきなのです。

構造について正しい知識や洞察力も無いのに、
意匠や見栄えのするプランだけを優先し追求する設計は避けるべきだと思っています。


木造はもちろん、鉄筋コンクリート造でも、鉄骨造でも、コンピューターを使えば
そういうことを知らなくてもどんどん構造計算はできます。

繰り返しますが、計算上はOKでも、本当に強いのかどうかは、
それだけでは実は不明です。

構造を知った上で、もっとアナログ的で基本的な考え方と思考で
チェックをすることが大切です。


構造計算の考え方で、疑問に思うことを先生にいろいろ質問をしてきました。
問題じゃないかと思うことは、やはり問題であったり、問題だと認識してはいるが
それを規制するには…など、いろいろ難しいようです。

鉄筋コンクリート造や鉄骨造で問題では?と感じることは、
やはり木造でも問題です。

また、逆もそうでした。


木造はもちろん、鉄筋コンクリート造や鉄骨造の建築基準法の構造計算の方法は、
1981年以来ほとんど変わっていません。

阪神大震災で、あれだけ問題や被害が起こっても簡単には変えられないのです。

現在は、新しい建物に関しては、強制力の無い推奨とか、
補足的な追加チェックを加えることで

問題のないレベルまで引き上げているようです。


以前訪れたカナダのバンクーバーでは、設計を行う建築士に対しては、
日本のように義務と責任はあるけど権限は無い、というのではなく、

義務も責任もある代わりに考えられないくらい権限もありました。

大切なのは、建築基準法では大丈夫だというチェック以外に
専門家として胸を張って構造面は大丈夫といえる設計をしているかどうかだ
と思います。




今年、一番大切な仕事に真剣に取り掛かっています。

10月のオーストリアツアーに続いて、
その後の1ヶ月の間にまる8日間の日を費やすのはスケジュール的に大変でしたが

この仕事を自信をもってやり遂げるためにも、今回の勉強はタイムリーでしたし、
必要なことでした。


ユーザーの皆さんのお陰で、
こうやって時間を割いて学びながら仕事をさせて頂いていること、

そして、私やみなさんを支えてくれているスタッフや工事業者の人に
心から感謝しています。


明日は、戸建ての構造についてメール質問が来ていますので、
このブログで、その質問にお答えする予定です。



P.S
ホームページの10万クリックは、11月28日の夜に私が講習会から
帰ってきて見ると、既に越えていました。最後の2~3日は思ったよりペースが
速かったようです。ありがとうございました!ジャスト10万のカウンターを
見た人はいないようですね…。



横浜市 注文住宅  

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