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2025年1月21日までに「H5N1鳥インフルエンザパンデミック計画」を日本国で実行する?

2024-12-29 00:05:00 | テロの危機
 

 鳥インフルエンザ、鳥から人に感染例…想定死者数64万人、国内のワクチンがゼロ | ビジネスジャーナル

これ以降、世界各地の家きんや野鳥に感染が拡がり、流行域を拡大したH5亜型のHPAIVは、A/goose/Guangdong/1/1996(H5N1)に由来するユーラシア型のHA遺伝子を保持しており、HA遺伝子の塩基配列により当初は0~9のCladeに分類され、その後HA遺伝子の変異が蓄積し、Cladeごとにさらに細かな亜系統に分類されるようになった。

 さらに他のA型インフルエンザウイルスとの遺伝子再集合を起こすなど、遺伝的にも多様化している。

 特に2005年以降はClade 2の亜系統が鳥類で流行したことに伴い鳥類からヒトへの感染例も増加し、2006年には欧州、アフリカ大陸でもヒト感染例が報告された。

 HPAIV(H5N1)のヒト感染例は2003年から2024年8月9日までで少なくとも906例が世界保健機関(WHO)に報告されているが、ほとんどは2017年以前の報告である。

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 2021年以降はClade 2.3.4.4bに属するHPAIV(H5N1)の世界的な感染拡大に伴い、2023年には南極地域で初めて鳥類での感染例の発生が報告され、オセアニアを除く全世界から報告があったほか、水生動物を含む野生の哺乳類や農場のミンクなどの感染例、散発的なヒト感染例が世界各所で継続的に報告されている。

 加えて2024年3月には、米国からヤギおよび乳牛でのClade2.3.4.4bに属するHPAIV(H5N1)感染例、および未殺菌乳(生乳)からの同CladeのHPAIV検出が報告され、接触者の調査中にヒトの感染例が確認された。 

 また、Clade 2.3.2.1cに属するHPAIV(H5N1)の局地的なヒト感染例も報告されている。


 近年のHPAIV(H5N1)のヒト感染例の報告は限られるが、鳥類や哺乳類で流行が拡大していることから、2020年以降の状況について、HPAIV(H5N1)感染事例の疫学情報の更新およびリスクアセスメントを行った。

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疫学的所見

 1.事例の概要

■国外の状況

 国外の鳥類(野鳥、家きん)における発生状況

 H5HA遺伝子のClade 2系統から派生したClade 2.3.4.4bの HPAIV(H5N1)は、2020年後半に欧州北部で同定されたのち、渡り鳥により世界各地へと広がった。

 鳥類における感染事例が確認された地域は、2021年から2022年にかけては欧州が主であり、北米にも拡大した(WHO. 2022)が、2023年には南米に広がり(OFFLU. 2023)、さらに2023年末から2024年2月にかけては南極大陸を含む南極地域にも拡大した(CSIC. 2024)。


 例年、鳥類におけるA型インフルエンザウイルス感染事例の報告数は、9月が最も少なく、10月頃から増加し始め、2月にピークを迎える(WOAH. 2023)。

 しかし、2021/2022シーズン※は例年報告数が減少する時期にも、欧米を主として報告数が減少しないままに2022/2023シーズンを迎えた。

 このため、2021/2022および2022/2023シーズンの鳥類におけるHPAIV感染事例は例年にない規模となった(ECDC. 2024a、CDC. 2024a)。

 2022/2023シーズンは2023年7月から9月、例年と同様に報告数が減少した(ECDC. 2024a)。


 2023/2024シーズンは、例年より早い1月に報告数がピークを迎え、その後減少し、2019/2020シーズン以来最少の状況となった(図1)(ECDC.2024a)。

 事例は主に欧米から報告されたが、日本を含むアジアからも報告された(図2)。


 2024年10月時点、世界的に報告数は増加傾向にあるものの、2023/2024シーズン、2022/2023シーズンと比較すると少なく、欧米を中心として鳥類におけるHPAIV感染事例の報告が継続している(WOAH. 2024)。

※インフルエンザのシーズンの定義は地域などによって異なり、WHOなどは第40週(日本では第36週)から翌年の第39週(日本では第35週)までの1年間を1シーズンとしてカウントする。

a)野鳥

241212 H5N1 Fig1a

 

(b)家きん

241212 H5N1 Fig1b

図1. 欧州における野鳥・家きんでのHPAIV検出状況
    (2019年10月1日~2024年9月20日) (ECDC. 2024a)

  241212 H5N1 Fig2

   図2.鳥におけるHPAIV(H5N1)感染事例の報告状況
(2024年6月15日~2024年9月23日) (ECDC. 2024a)

 

 国外の哺乳類における発生状況

 哺乳類におけるHPAIV(H5N1)感染事例は、2003年から確認されるようになり(Plaza PI. et al.. 2024)、主に、鳥類におけるアウトブレイク発生地で、野鳥を捕食することがある哺乳類を中心に発生していた(CDC. 2024a)。

 
 ヒト以外の哺乳類におけるH5N1感染事例の発生国は、2003年から2019年までの17年間では10ヵ国に留まっていたが、2020 年から2023年10月までの約4年間で26ヵ国(欧州17ヵ国、南米5ヵ国、北米2ヵ国、アジア2ヵ国)と急増した(Plaza PI. et al.. 2024)。

 さらに、2023年12月には、南極地域においてもゾウアザラシのHPAIV感染が確認されており、哺乳類におけるHPAIV感染事例の発生地域は拡がっている(ECDC. 2024a、OFFLU. 2023)。


 H5N1感染が確認された哺乳類は2020年から2023年10月までに48種以上と、多様な哺乳類における感染が確認されるようになった。

 2019年以前は陸生動物、半水生動物の感染が報告されていたが、2020年以降は水生動物(アザラシ、アシカ等)の感染も確認されるようになった(Plaza PI. et al.. 2024)。


 哺乳類におけるH5N1感染事例は、野生動物に限らず飼育動物でも発生している。

 2022年10月にはスペインの大規模なミンク農場における複数のミンクの感染事例が報告された(Aguero M. et al.. 2023)。

 また、2023年にはフィンランドの複数の毛皮農場(ミンク、キツネ、タヌキ)における大規模感染等が報告された。

 このうちの多くは2023年9月から開始された後ろ向きの血清学的調査により探知された事例であり、死亡個体や有症個体が検出された農場は一部であった。

 このため、無症状で探知されていない事例があると考えられている(ECDC. 2024c)。


 飼い猫(ポーランド、韓国、米国)、飼い犬(イタリア)における感染事例も報告されている(CDC. 2023)。

 中でも、2023年6月から7月にかけて、ポーランド国内複数地域から25匹の飼い猫のH5N1感染が確認された事例では、感染鳥類との屋外での接触だけでなく、エサとして与えられていた鶏肉も感染源の一つとして推察された(Domańska-Blicharz K. et al.. 2023)。

 また、2023年7月に韓国の2カ所の猫保護施設における数十匹の猫のH5N1感染事例では、市販のペットフードが感染原と考えられた(Kim. Y. et al.. 2023)。


 哺乳類における感染事例の多くは、単数もしくは少数個体の事例であるが、2022/2023シーズンには、アザラシ、アシカ等で数十頭から数百頭規模の大規模感染事例が報告され、哺乳類間での伝播が起きている可能性が示唆された(ECDC. 2024a、Puryear W. et al.. 2023)。

 また、南米のペルー、チリでは感染したアシカやゾウアザラシの大量死が報告されており、一部の地域で、その致命率の高さも懸念されている(OFFLU. 2023)。


 米国のミネソタ州において、2024年3月20日、哺乳類の家畜では初となる、Clade2.3.4.4bに属するHPAIV(H5N1)のヤギでの感染事例が報告された(Minnesota Board of Animal Health, 2024)。

 3月25日にはカンザス州とテキサス州における乳牛の感染事例および未殺菌乳(生乳)からの同CladeのHPAIV(H5N1)検出が報告された(USDA. 2024a、CDC. 2024a)。

 4月5日時点で6州(テキサス、カンザス、ミシガン、ニューメキシコ、アイダホ、オハイオ)において乳牛からのHPAIV検出の報告があり、テキサス州の事例では農場の調査中に農場内で斃死したネコや野鳥からもHPAIVが確認された(USDA. 2024b、Cornell University. 2024)。

 その後も、米国内の複数州から乳牛の感染事例の報告が相次ぎ、11月19日時点で、15州において乳牛からのHPAIV検出が報告された(USDA. 2024c)。

 米国における地域的な感染伝播の継続については、家畜の移動に加え、人、車両、その他の農機具の農場間での移動が要因と考えられている(USDA. 2024d)。

 また、米国のオレゴン州では、10月30日、家きんでH5N1が検出されていた非営利農場において、豚からH5N1の検出が報告された。

 これは米国で初めての豚のH5N1感染事例である。

 ともに遺伝子型はD1.2であり、この地域の渡り鳥のサンプルのゲノム配列と非常に類似した配列を示すことから、この農場の豚や家きんは、乳牛や他の家畜ではなく、感染した渡り鳥との接触により感染した可能性が高いと考えられている (USDA. 2024e)。


 世界的な哺乳類における感染拡大の背景には、H5N1ウイルスの遺伝的変異が関与している可能性が示唆されているが、現時点で、ヒトへの感染力が高まったとする報告はない(CDC. 2024b)。

 

 国外のヒトにおける発生状況 

 WHOに報告されたヒトにおけるHPAIV(H5N1)感染事例は、2003年から2024年11月18日時点で合計949例あり、少なくとも464例(49%)が死亡している。

 このうち、2017年までの報告が860例(うち死亡454例(53%))と多くを占め、2018年以降の報告数は大きく減少しているものの、HPAIV(H5N1)はヒト症例が報告されている鳥インフルエンザの中でも報告された症例数が多く、また致命率が高いウイルスである(表1)(WHO. 2024a、ECDC. 2024a、ECDC. 2024b)。


 ヒト感染例は、2020年1月から2024年11月18日までに12ヵ国から88例が報告された(表2)。

 ほとんどの症例に、病気または病気の疑いがある動物や、死亡した家きんとの接触があった。

 このうち、ベトナム、カンボジア、オーストラリア以外の9ヵ国から報告された68例においては、検出されたHPAIV(H5N1)の Cladeはすべて2.3.4.4bであった。


 鳥類および哺乳類におけるHPAIV(H5N1)感染事例の報告数が増加した2021/2022および2022/2023シーズンにも、ヒト感染例の著明な増加は確認されなかった。

 2023年/2024シーズンおよび2024年/2025シーズン(2023年9月以降か2024年11月時点)におけるヒト感染例は、ベトナム、中国、カンボジア、オーストラリア、米国、カナダから報告があったが、米国からの報告が最多であった。

 また、国外で報告されたヒト感染例の多くは感染した家きんや乳牛との接触歴があり、ヒト-ヒト感染を示唆する情報は確認されていない(CDC. 2024a、 WHO. 2024c)。

 2024年にHPAIV(H5N1)のヒト感染例が報告された国のうち、カンボジア、米国、オーストラリア、カナダでの発生状況や事例の詳細について以下に示す。


 カンボジアでは2014年から長期間、鳥類からのClade 2.3.2.1cの検出が続いているが、2015年から2022年まではヒト感染例は確認されていなかった。

 しかし、2023年2月以降、15例のヒト感染例が報告されており、情報のない症例を除き、検出されたHPAIV(H5N1)のCladeはすべて2.3.2.1cであった。


 米国においては、2024年4月にヒト感染例が報告された。

 症例は農場の従業員で、HPAIV感染が推定される乳牛への接触の後に、結膜炎症状を呈し、結膜の拭い液および咽頭拭い液からHPAIV(H5N1)が検出された(Texas DSHS. 2024)。Cladeは2.3.4.4bで、同じ農場の乳牛から検出されたHPAIVの遺伝子配列と近似していた。(CDC. 2024f)。


 2024年4月に乳牛に関連した症例が報告されて以降、2024年11月18日までに7州53例の HPAI(H5)に感染したヒト症例が報告されている。

 感染源としては、21例はHPAIV(H5N1)に感染した家きんとの接触、31例は感染乳牛との接触、1例は不明であった。

 症状はいずれも軽症で、結膜炎や軽度な上気道症状を呈していた (CDC. 2024g) 。

 2024年6月から8月に、ミシガン州とコロラド州の感染牛が確認された酪農場の従業員を対象としたHPAIV(H5)の血清学的調査によると、115人中8人(7%)でウイルスに感染していたことが確認された(CDC.2024h)。


 オーストラリアにおいて、2024年5月に国内初のヒト感染例が報告された。HPAIV(H5N1)のCladeは2.3.2.1aであったが、同様のCladeが過去に鳥類で検出されているインドへの渡航歴があり、現地で曝露した可能性が高い(WHO. 2024b)。

 
 カナダにおいては、2024年11月にヒト感染例が報告されたが、HPAIV(H5N1)のCladeは2.3.4.4bであった。

 遺伝子型がD1.1であり、米国の乳牛で発生している遺伝子型B3.13とは違い、カナダ国内の家きんで発生しているHPAIV(H5N1)との関連が示唆された。

 しかし、症例における家きんとの接触は確認できていない(WHO. 2024c、WPRO. 2024、PHAC、PAHO. 2024)。


 2024年11月18日時点でH5N1以外のHPAIV(H5)のヒト感染例はH5N6で93例、H5N8で7例、H5N2で1例が報告されている(表1)(ECDC. 2024a)。

 また、H5以外の鳥インフルエンザでは低病原性鳥インフルエンザ(LPAIV)(H7N9)とHPAIV(H7N9)を合わせて1568例、HPAIV(H7N7)で94例、LPAIV(H9N2)で132例のヒト感染例の報告があるほか、少数ではあるがH3N8、H5N2、H6N1、H7N2、H7N3、H7N4、H10N3、H10N5、H10N7、H10N8の各亜型のヒト感染例が報告されている(WHO. 2019、WHO. 2023、WHO. 2024d、ECDC. 2024a、CDC. 2024e、Belser J. et al.. 2009、Puzelli S. et al.. 2013)。

 

 

 

 ■国内の状況

 国内の鳥類(野鳥、家きん)における発生状況

 2024/2025シーズンは、野鳥、家きん、それぞれ、2024年9月30 日と10月17日に国内1事例目が確認され、2023/2024シーズンと比較すると1事例目が確認された時期が早かった(農林水産省. 2024a)。
 

 2024/2025シーズンの国内の鳥における高病原性および低病原性鳥インフルエンザ感染事例は、2024年11月19日時点で、野鳥では11道県から32事例(うち、H5N1は11道県31事例)が、家きんでは7道県から9事例(うちH5N1は7道県9事例)が報告され、約110万羽が殺処分対象となった。

 飼養鳥においては、2024年11月1日時点での報告はない(環境省、農林水産省.2024a)。

 

 国内の哺乳類における発生状況

 2022年4月に北海道札幌市において、キタキツネ(アカギツネ)およびタヌキでのHPAIV(H5N1)感染事例が国内で初めて確認された(磯田ら. 2022)。

 2023年4月と6月には同市において2例のキツネでのH5N1感染(死亡個体からの検出、6月探知例の検体採取月は同年2月)が探知された。

 周辺地域ではハシブトカラスのHPAIV(H5N1)感染事例が続発しており、キタキツネおよびタヌキに感染していたHPAIV(H5N1)は、ハシブトガラスから検出されたウイルスと遺伝的に類似していた(Hiono T. et al.. 2023)。

 キタキツネについては、HPAIV(H5N1)に感染した野鳥を捕食してHPAIV(H5N1)に感染した事が死因と考えられた。

 タヌキについては、他の病原体による感染も認められ、HPAIV(H5N1)感染が直接の死因か不明であった(磯田ら. 2022)。

 また、2023/2024シーズンにおけるHPAIの発生に係る疫学調査では、11事例中4事例で家きん舎内の環境材料を用いた検査において検体からHPAIVが検出されている。

 このうち、広島県の発生事例では、発生鶏舎の隣の鶏舎で死亡していたクマネズミからHPAIVが検出されており、。

 これは対応する発生農場の家きん由来HPAIV(H5N1)と同一遺伝子型で、対応する農場由来ウイルスとの間で99パーセントを超える極めて高い一致率を示した(農林水産省. 2024a)。


 2024年11月1日現在、今シーズンは哺乳類においてHPAIVは確認されていない。

 

 国内のヒトにおける発生状況

 国内ではこれまでにHPAIV(H5N1)を含め、鳥インフルエンザウイルスに感染して発症したヒト感染事例は確認されていない。

 

2.治療薬、ワクチン、検査について

  抗インフルエンザ薬、特にノイラミニダーゼ(NA)阻害薬やポリメラーゼ阻害薬に対する耐性を獲得しているHPAIV(H5N1)の流行は認められていないため、これらの薬剤による治療効果は期待できる

鳥インフルエンザ・サミット:パンデミックワクチン産業が鳥インフルエンザワクチン接種を推進するために2度目の会合を開催|Spiderman886
 近年、ヒト感染が確認されているClade 2.3.4.4bのH5ウイルスは、

・WHOが提示したH5亜型のワクチン候補株(WHO. 2024c、WHO. 2024d)のうち、同じClade 2.3.4.4bのA/Fujian-Sanyuan/21099/2017 (H5N6)、A/chicken/Ghana/AVL-76321VIR7050-39/2021(H5N1)およびA/Astrakhan/3212/2020(H5N8)と抗原類似性を有しているほか、A/American wigeon/South Carolina/22-000345 -001/2021-like、

・日本から登録されたA/Ezo red fox/Hokkaido/1/2022-like(H5N1)もワクチン候補株として選定されている。

 また近年、ヒト感染が確認されたClade 2.3.2.1cのH5ウイルスについては、同じClade 2.3.2.1cのワクチン候補株としてA/duck/Vietnam/NCVD-1584/2012(H5N1)がある。


 HPAIV(H5N1)を含むA型インフルエンザウイルスの検出に関しては、呼吸器検体を用いたコンベンショナルRT-PCRもしくはリアルタイムRT-PCR法によるウイルス遺伝子検出検査の実施が推奨されている。

 検査に使用する検体は鼻腔スワブ(鼻の奥)、口腔咽頭スワブ(喉)、鼻咽頭スワブ(鼻咽頭)に加え、鼻咽頭吸引液や気管支吸引液などが有用とされている(WHO. 2021)。

 

ウイルス学的所見

 Clade 2.3.4.4bのHPAIV(H5N1)は、2020年後半に欧州北部で同定された後、渡り鳥により世界各地へと運ばれ、様々な国・地域で遺伝子再集合(他のA型インフルエンザウイルスとの遺伝子分節の交換)した多様な遺伝子型のHPAIV(H5N1)が分離されている(Leguia M. et al.. 2023、Alkie TN. et al.. 2023)。

 ただし、遺伝子型の違いによるウイルス性状の違いはよく分かっていない。


 鳥類から分離されたClade 2.3.4.4bのHPAIV(H5N1)からは、哺乳類での病原性や増殖能力の獲得に寄与するPB2タンパク質のE627K変異を持つウイルスや、HAタンパク質の受容体結合部位にヒト型受容体(α2,6結合したシアル酸)への結合能力の増強の可能性が示唆されるアミノ酸変異を持つウイルス(例えば、S137A, T160Aなど)等がまれに報告されている(ECDC. 2024a)。


 2022年10月にスペインのミンク農場のミンクから分離されたClade 2.3.4.4bのHPAIV(H5N1)には、哺乳類由来細胞内でのポリメラーゼ活性の上昇に関与するPB2タンパク質のT271A変異が認められた(Agüero M. et al. 2023)。

 また、2022年4月から7月にかけてカナダの野生のアカギツネ、スカンク、ミンクから分離されたClade 2.3.4.4bのHPAIV(H5N1)の40株全てのウイルスのHAタンパク質にS137AおよびT160A変異が認められ、そのうちの17%は、哺乳類への適応に関与するPB2のE627K、E627V、D701Nのいずれかのアミノ酸変異が認められた(Alkie TN. et al. 2023)。

ロシアで鳥インフルエンザの鳥からヒトへの感染が確認される......新たなパンデミックの懸念|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
 2024年3月に米国テキサス州の乳牛でHPAIV(H5N1)感染例が世界で初めて報告された。感染牛の口腔咽頭ぬぐい液、生乳からClade 2.3.4.4b(遺伝子型B3.13)のHPAIV(H5N1)が検出された(Burrough et al.. 2024)。

 また、感染牛と同じ農場内で死亡したネコと野鳥からも類似したゲノム配列を有するHPAIV(H5N1)が検出され、ネコへの感染は病牛の初乳を与えられたことによる水平伝播であることが示唆された。

 哺乳類間の水平伝播は、既報のネコ(Kuiken T et al.. 2004)およびフェレット(Herfst S et al.. 2012)への感染実験でも証明されている(Burrough et al.. 2024)。


 生乳およびネコから検出されたHPAIV(H5N1)と過去に陸生および海生哺乳類から検出されたウイルスの遺伝子配列を比較したところ、生乳およびネコから検出されたウイルスではHAタンパク質内にヒト型レセプターとの結合親和性を高めると考えられているアミノ酸残基S137A、N158N、T160Aの各アミノ酸変異が確認されたが、T192I、G225D、G228Sを含むものはなかった(Yamada S et al.. 2006, Gao Y, et al.. 2009, CDC. 2024d)。

日本上陸までに知っておきたい、H7N9型鳥インフルエンザウイルスの基礎知識 | WIRED.jp

 これらのアミノ酸変異は、過去の陸生および海生哺乳類から分離されたHPAIVで多く観察されたものと同一であった。

 以前から哺乳類での病原性や増殖能力の獲得に寄与することが知られているPB2のアミノ酸変異T271A、I292V、Q591K、E627K/V/A、D701Nは、当該分離株すべてには見られなかったが、テキサス州における乳牛からの感染が推定された最初のヒトの症例から分離されたHPAIウイルスはPB2にE627 K変異を示した(Gao Y, et al.. 2009, Suttie A et al.. 2019, Bordes L et al.. 2023, Hatta M et al.. 2007, Kong H et al.. 2019, Hu et al.. 2024)。


 ウイルスのゲノム配列の定期的なモニタリングとスクリーニングでは、HPAIV Clade2.3.4.4bに哺乳類適応のアミノ酸変異はほとんど見つかっておらず、2024年7月18日現在、米国の乳牛でウイルスの循環が続いているにもかかわらず、HA遺伝子の受容体結合能の変化に関連するアミノ酸変異は確認されていない(WHO. 2024e)。


 コロラド州の養鶏場従業員のヒト事例から検出されたウイルスは、Clade 2.3.4.4bのHPAIV(H5N1)であり、ミシガン州の症例から検出されたウイルスと類似していた(CDC. 2024g)。

 この配列は主に鳥類に感染するHPAIVの遺伝的特徴を維持しており、ウイルスをヒトに感染させたり、ヒトの間で拡散させたりするような適応性を高めるような変化は見られない。

 また、PB2のM631L変異があり、これは乳牛から検出されたウイルスの99%で確認されている哺乳類への適応に関わるアミノ酸変異と同じもので、ミシガン州の最初のヒト感染例でも確認された(CDC, 2024g)。

 一方、このゲノムには、テキサス州の症例のウイルスに見られたPB2 E627K変異は確認されなかった(CDC. 2024g)。


 テキサス州からの生乳およびネコ由来8株のHPAIVとヒト事例から検出されたこれらのHPAI (H5N1)ウイルスの遺伝子配列には、いずれも、現在、米国食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration : FDA)が推奨している抗ウイルス薬に対する感受性を低下させる既知のアミノ酸変異は含まれていなかった(Hu et al.. 2024, CDC. 2024i)。


 上述した鳥類や哺乳類から分離されたClade 2.3.4.4bのHPAIV(H5N1)に認められる、哺乳類適応やヒト型受容体への結合能に関与する可能性のあるアミノ酸変異によるヒト感染への直接的な影響についてはよく分かっていない。

 現在までのところ、Clade 2.3.4.4bのHPAIV(H5N1)の効率的なヒトーヒト感染は報告されておらず、これらのウイルスがヒトからヒトに持続的に感染する可能性は低いと考えられる。


 カンボジアでは2023年に6例、2024年に10例のHPAIV(H5N1)(8/20現在)の感染が報告された(うち、死亡例は6例)。

 ウイルスの遺伝子解析結果が判明している起因ウイルスのHA遺伝子は、Clade 2.3.2.1cに属していた(WPRO. 2024)。

 Clade 2.3.2.1cのHPAIV(H5N1)は、2020年以降アジアの家きんで限局的に報告されている(GISAID. 2024)。

 Clade 2.3.2.1cのHPAIV(H5N1)についても持続的なヒトーヒト感染は報告されていない。

 

日本国内の対応

1. 国内における鳥インフルエンザウイルスのヒト感染事例の探知と対応について

 鳥インフルエンザ(H5N1)は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)で定める二類感染症の「特定鳥インフルエンザ」の一つとして政令で指定されており、医師は鳥インフルエンザ(H5N1)の患者、無症状病原体保有者、疑似症患者を診断したとき、また、感染症死亡者の死体、感染症死亡疑い者の死体を検案したときは、感染症法第12条に基づき症例を届け出なければならない。

 届出を受けた都道府県知事等は感染症法第15条に基づき積極的疫学調査を実施することができる。

 積極的疫学調査については、特に重症の患者の見逃しを防ぐために「鳥インフルエンザ(H5N1)に関する積極的疫学調査の実施等について(依頼)」(感感発第1212第1号通知)(厚生労働省.2024)において、その目的、実施体制を含めた技術的助言がなされている。

 この中では、近年の鳥インフルエンザ(H5N1)の発生状況に基づき、感染したヒト、鳥類に加え、哺乳類との接触がある場合、排せつ物や未殺菌の肉、生乳等との接触がある場合についても要観察例として積極的疫学調査の対象とすることを推奨している。

 

2. 国内における鳥インフルエンザウイルスの動物感染事例の探知と対応について

 獣医師又は感染鳥類の所有者は、鳥インフルエンザ(H5N1)に感染している、若しくはその疑いのある鳥類を認めた場合は、感染症法第13条に基づき届け出なければならない。

 届出を受けた都道府県知事等は、感染症法第15条に基づく調査および法第29条に基づく措置等を行う。

 この際の対応については「国内の鳥類における鳥インフルエンザ(H5N1)発生時の調査等について」(健感発第1227003号通知)に基づき実施する(厚生労働省. 2006)。


 2024年10月以降、国内複数地域での鳥類における感染事例の発生を受け、環境省ではレベル3(国内複数個所や近隣諸国での発生時)の対応として、鳥類生息状況等調査による監視強化、死亡野鳥等を対象にしたウイルス保有状況調査を強化している。


 また、2022/2023シーズンは鳥類におけるHPAIV(H5N1)感染事例が継続して発生し、かつ例年以上の頻度で確認されたことから、専門家から「全国的に環境中のウイルス濃度が非常に高まっている」と指摘された。

 これを受け、農林水産省では、2022年12月に、全国の養鶏に携わる関係者および都道府県等の行政関係者に対して、最大限の緊急警戒を呼びかけ、家きんでの高病原性鳥インフルエンザが発生した道県において、家きん農場の緊急消毒が実施された。

 2023年3月には、家きんでの本病の発生が確認されていない都府県においても、家きん農場の緊急消毒が実施された。


 2023/2024シーズンは2023年12月20日に開催された第88回家きん疾病小委員会・令和5年シーズン第1回高病原性鳥インフルエンザ疫学調査チーム検討会合同会合において、

「高病原性鳥インフルエンザの発生を踏まえた今後の発生予防対策に関する提言」

が取りまとめられており、この中では全都道府県に対し、

・飼育衛生管理の徹底、

・過去発生のあった農場やその周辺地域の飼養者におけるリスク低減策、

・都道府県における飼養衛生管理の状況の確認と指導、

・水場等の野鳥が多い地域などでの警戒、

・早期発見・早期通報の徹底、

環境省や農林水産省のウェブサイトなどでの定期的な情報収集を行うよう示している(農林水産省. 2023)。


 2024/2025シーズンは2024年10月18日に開催された第91回家きん疾病小委員会において、全国各地で環境中ウイルスが増加し、発生リスクが高まっていることから、基本的な飼養衛生管理の徹底等を含む今後の防疫対応の徹底について、取りまとめを行った。

さらに2024年11月21日には鳥インフルエンザ防疫対策緊急全国会議を開催し、今後の対策強化の4つのポイント

①飼養衛生管理の「隙」を埋める対策、

②再発対策(既発農場・地域への指導強化)、

③大規模農場対策、

④発生時の速やかな防疫措置、

について発信し、国・都道府県・現場が一体となって緊張感を持って取り組んでいくこととした。


 また、米国の乳牛におけるHPAIV(H5N1)感染例が確認されたことをうけ、農林水産省は2024年4月3日に都道府県や畜産関係団体に対し、米国の事例の共有および国内飼養牛において乳量の減少や食欲低下等がみられた際の対応、HPAI等の野鳥からの感染防止を図るための飼養衛生管理の徹底について、通知を発出した(農林水産省.2024b)。

 

 

国立感染症研究所におけるリスクアセスメントと推奨

 

【海外渡航者が感染するリスク】

  • 海外でのヒト感染例の多くは感染した家きん類等との接触による散発的な感染であり、効率的なヒトーヒト感染を示唆する情報はないことから、鳥類への曝露機会がない海外渡航者が感染する可能性は低い。
  • 海外渡航者は、家きん市場や生きた鳥類、鳥類や哺乳類の死骸に不用意に近づかないように注意すべきである。
  • 発生地域において鳥類との接触があり、渡航後に発熱を認めるなどの体調の変化があった場合には、医療機関の受診時に渡航歴および鳥類との接触歴を伝えることの啓発が必要である。

 

 【国内で鳥類、哺乳類への接触者が感染するリスク】

  • これまで国内で明らかなヒト感染例の報告はなく、ヒトへの感染性が高くなったという証拠は無いことから、鳥類への曝露機会がない人々への感染リスクは低い。一方、国内でも鳥類でのHPAIV(H5N1)検出事例が継続して報告されていることから、生きた鳥類や鳥類の死骸に不用意に近づかないように注意すべきである。
  • 同様に哺乳類からヒトが感染するリスクも低いものの、国外で哺乳類の感染例の報告が増加していること、国内でも限定的ながら哺乳類での検出事例の報告があることから、哺乳類の死骸にも不用意に近づかないように注意すべきである。

 

 【HPAIV(H5N1)がヒトへの感染性を獲得するリスク】

  • HPAIV(H5N1)について、哺乳類への適応やヒトへの感染性が高くなるウイルス学的性質の獲得に関する証拠は限定的であり、疫学的にも効率的なヒトーヒト感染の証拠はない。
  • ただし、動物で感染が拡大する中でアミノ酸変異が蓄積して、ヒトへの感染性がより高くなったウイルスが今後出現する可能性は否定できないことから、引き続き動物での発生動向を監視する必要がある。

 

 【HPAIV(H5N1)がヒトでパンデミックを引き起こすリスク】

  • HPAIV(H5N1)は効率的にヒトからヒトへ感染する能力を獲得しておらず、現時点ではヒトでのパンデミックに至る可能性は低いが、世界的に鳥類での感染拡大が認められ、哺乳類の感染例も多数報告されていることから、HPAIV(H5N1)へのヒトの曝露機会が増加しており、今後も散発的なヒト感染例が報告される可能性は高い。
  • 鳥類や哺乳類とヒトとの接触頻度や感染リスク、そこからウイルスが効率的にヒトからヒトに感染する能力を獲得するリスクを定量的に見積もるには十分な知見がないが、今後も感染動物とヒトとの接触機会を極力避けつつ、継続して発生動向を監視し、適時にリスク評価を行う必要がある。

 

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