私たちは住む場所や移動する国を自由に決めることができ、条件さえ満たせばそこで経済活動をすることができます。
それは誰もが持っている権利ではありますが、必ずしも移動先の国がそれを受け入れてくれるとは限りません。
しかし生活に苦しむ人の中には、その状況を脱するために決死の覚悟で移動してくる人もいます。
それが移民であり、そのような人々は世界中に存在しています。
移民が移動してくることで、様々な問題も起こっていますが、それに対しての政策も行われています。
移民とは
移民問題を考える上で、移民とは何なのか知っておく必要があるでしょう。
国際的な人の移動に関する活動を担っている国際移住機関(IOM)は移民を次のように定義しています。
「本人の法的地位や移動の自発性、理由、滞在期間にかかわらず、本来の居住地を離れて、国境を越えるか、一国内で移動している、または移動したあらゆる人」
移民そのものに明確な定義はありませんが、この定義を基準として考えられています。ここで重要なのが移民と国内避難民、難民との違いです。
移民は全般的に居住地を離れ、国境を越える、あるいは一国内を移動している、移動したあらゆる人を言います。
その中でも紛争や迫害など、やむを得ない理由で移動を強制させられた人を国内避難民や難民と呼称します。
そのうち、国境を越えず居住地と同じ国内を移動した人を国内避難民、国境を越えて移動した人を難民と言います。
移民には、不法を加えた「不法移民」という言葉があります。
不法移民は、国境を越えた移民あるいは難民が、不法に入国し、在留資格を持たないまま国に留まっている人を言います。
また合法的に入国したとしても、在留期間を過ぎて資格を失った後も滞在国に居続けた際も使われます。
不法移民は、このような条件を満たした不法滞在者を指す言葉として用いられています。
- 国際移住機関(IOM)は移民を「本人の法的地位や移動の自発性、理由、滞在期間にかかわらず、本来の居住地を離れて、国境を越えるか、一国内で移動している、または移動したあらゆる人」と定義している
- 移民の中でも、紛争や迫害など、やむを得ない理由により移動を強制させられた人を国内避難民や難民と呼称する
- 「不法移民」とは、不法に入国し、在留資格を持たないまま国に留まっている人、在留期間を過ぎて資格を失った後も滞在国に居続けた人を指す
なぜ移民問題は起こってしまうのか
世界では各地に移民が存在し、先進国ではその移民がしばしば問題となることがあります。
特にアメリカやヨーロッパでは、移民の受け入れを大量に行っていることから、問題が深刻化している地域もあるほどです。
世界に広がる移民問題は、先進国を中心として世界中で取り組まなければいけない問題となっています。
移民が発生する主な理由は求職や貧困であり、居住していた国内あるいは地域では生きていけないことから、他国やほかの地域へと移動し、職を求めて貧困から脱しようとします。
あるいは国内の身分制度など、自由に職業選択ができないことから他国で自由に職に就きたい、学びたいという思いで国を脱出する人もいるようです。
移民問題は、このような人々が他国へと大量に流入し、不法移民として滞在した際や、合法的に入国したとしても居住先や就業、所得、社会保障など様々な問題が起こります。
実際に2019年までに多くの移民や難民が先進国へと流入し、様々な問題が起こったことが分かっています。
2019年の統計によると、これまで国際移民を最も多く受け入れているのがヨーロッパで約8,200万人、次いでアメリカやカナダなど北米で約5,900万人、北アフリカや西アジアで約4,900万人と言われています。
これを国別に見ると、一国ではアメリカが最も多く、全世界の国際移民の19%にあたる5,100万人をこれまでに受け入れています。
それに次ぐのがドイツとサウジアラビアで、ともに1,300万人を受け入れています。
また世界でも最大の移民排出国はインドで、約1,800万人が海外へと移動しています。
その次に多いのがメキシコの1,200万人、中国の1,100万人です。
移民が増えることによって起こる問題
移民による問題は、主なものとして3つ挙げることができます。
その一つが不法移民による非正規移住です。移民の中には貧困から移って来る人も少なくないですが、正式な移民条件を満たせないことで不法に入国する人も多いです。
そのような人は就職もできず、住居も定まらないことから、貧困から脱せられず、人身売買や、非正規に雇われ、雇用主からタダ働き同然の扱いを受け、虐待されるなどの要因になります。
このような不法移民が増えることで、移民政策への反対意見が増加し、さらに受け入れが難しくなる状況や、移民に対しての風当たりが強くなる傾向にあります。
また非正規な雇用は、外国人労働者の違法雇用問題として取り上げられます。
弱い立場である移民は、劣悪な雇用条件や給与格差があったとしても生きていくために受け入れざるを得ません。
そうなれば薄給で過酷な労働に従事させられる移民も出てきてしまいます。
同様に違法雇用や、仮に正規の雇用を受けられたとしても移民という理由から社会保障を受けられず、医療保険もない、結婚もできない国や地域もあります。
自国の国民とは異なり、移民は恒久的にその国に住むとは限らないため、医療保険や生活保障などを適応することが、自国の負担を増大させるという考えがあります。
そのため、移民が納税していたとしても社会保障を適用しない国もあります。
最後に、移民の流入は受入国の治安を悪化させるという見方があり、それを理由に受け入れを制限する国も少なくありません
。
上記のような雇用や待遇などに不満を持つ移民が、暴動を起こした例もいくつかあります。
また、母国語が通じない異国の地で、移民や不法移民が苦しい生活を強いられることによる反発も起きる可能性があります。
- 移民問題は、居住先や就業、所得、社会保障など様々なことが挙げられる
- 国別に見ると、一国ではアメリカが最も多く、全世界の国際移民の19%にあたる5,100万人を受け入れている
- 移民の増加による問題として、不法移民による非正規移住、外国人労働者の違法雇用、受入国の治安を悪化の可能性などが挙げられる
日本における移民政策
中国からの移民が流れ着く先には日本も含まれます。
そのため日本でも移民への政策が行われていると考えられますが、実はそうでもないのです。
日本においては「移民」と「外国人労働者」は別のものとして区別しており、政府では2018年時点で、移民政策をとらないスタンスを表明しています。
ただし外国人労働者は受け入れる体制を作り、労働力の確保を政策として進めています。
ここで政府が示す「移民」とは国籍取得を前提とするものであり、在留期間を制限して、家族の帯同を基本的に認めない姿勢をとっています。
あくまでも移民政策ではなく、外国人の人材を受け入れ、外国人労働力の確保を拡大するために、短期的な移住における在留資格を設けて対応するものでした。
つまり、外国人労働者を受け入れているだけであり、移民の受け入れは行わない考えの下、政策を進めています。
世界基準で見れば、多くの外国人が日本に来て在留し労働している以上、移民を受け入れていることになります。
日本からすれば移民政策は行っておらず、移民の受け入れは基本的にしていないスタンスなのでしょう。
- 日本においては「移民」と「外国人労働者」は別のものとして区別しており、移民政策をとらないスタンスを表明している
- 外国人労働者を受け入れているだけであり、移民の受け入れは行わない考えの下、政策を進めている
移民大国アメリカの政策
日本は移民を受け入れていないスタンスではあっても、OECD諸国の中では2016年の年間の外国人受け入れは第4位に入っています。
しかしそれ以上に受け入れているのがアメリカです。移民となった人の行き先は、本来住んでいた国や地域にもよりますが、多くはヨーロッパやアメリカに移動しています。
先述したように、一国の移民受け入れ状況を見ると、アメリカが最も多く、全世界の国際移民の19%にあたる5,100万人をこれまでに受け入れています。
年間の受け入れであっても2017年時点で、ドイツの138.4万人に次ぐ112.7万人を受け入れており、第2位の移民受け入れ国となっています。
アメリカは移民によって発展してきた国ではありますが、その誕生から今まで無条件に移民を受け入れてきたわけではありません。
アメリカの移民政策の歴史の中には厳しい規制のもと、移民を受け入れないといった時代も存在しており、政権が変わることでその政策も変化してきています。
1776年にイギリスから独立したアメリカは、独立と建国が移民によって行われたものであることから、その後も移民を無制限に受け入れる国となりました。
しかし人口増加に伴い、1880年代になると徐々に受け入れに制限を設けるようになったのです。
また第二次世界大戦により世界が疲弊したことで、アメリカへの移民は特にヨーロッパ出身の人が急増していきました。
その後も世界規模で発生する移民や難民がアメリカに大量に流入し、アメリカでの永住権を獲得することで、労働人口などが増加していきましたが、1970年代以降になると不法外国人労働者が増加する結果となりました。
アメリカに流入する移民や難民は増加し、特に非合法移民が急増したことが、大きな政治問題にまで発展しました。
これらの問題に対して、いくつかの法整備を行い、移民政策に乗り出したものの、根本的な問題の解決にならないものや、新たな問題などが噴出し、対応に追われることとなったのです。
やがて総移民数の増加がアメリカの不況時期に重なったことによる福祉負担の増大が起こり、批判が相次いだこと、そして2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件以降は、移民を厳しく制限するように議論が巻き起こりました。
移民排斥運動の動きや、テロリズムの摘発や防止を行うための適切な対策を提供することが必要となったのです。
2020年時点もトランプ政権下で、移民政策は行われており、2017年の就任以降特定国からの入国禁止令や、2018年には非合法の移民を例外なく起訴する不寛容政策、2019年には不法移民の一斉摘発と強制送還などが行われています。
- アメリカは年間の受け入れであっても2017年時点で、ドイツの138.4万人に次ぐ112.7万人を受け入れており、第2位の移民受け入れ国
- アメリカは移民によって発展してきた国だが、政権が変わることでその政策も変化してきた
- アメリカの不況時期による福祉負担の増大やアメリカ同時多発テロ事件以降は、移民を厳しく制限するように議論が巻き起こった
移民を受け入れるメリット
移民の受け入れは多くの問題を引き起こすとして、敬遠されている部分もあります。
しかし一方で、受け入れを行うことによるメリットも存在しています。
その一つが労働力の確保にあります。
2020年時点、特に日本は少子高齢化と人口減少によって労働力人口が減少傾向にあります。
実際に主要先進国と比べても、総人口に占める労働力人口の割合は、日本が60.1%、アメリカが62.8%、カナダが65.7%、ドイツが60.9%、イギリスが63.5%とどの国と比べても低くなっています。
そのような状況を打開するためにも移民を受け入れることにより労働力を確保できるというメリットが生まれます。
日本では移民ではなく外国人労働者を受け入れているスタンスですが、この恩恵を受けるために、入国管理法を改正して新しい在留資格を創設するなど、積極的な姿勢を見せています。
移民を受け入れることは、外国人の雇用により自国民の職が奪われる危険性も浮かび上がりますが、外国人の増加により、新たなニーズが生まれることも期待されています。
それは国内にも新しい産業や雇用が生まれることにもつながるため、これまで国内にはなかった職が生まれるかもしれません。
労働力の確保だけに留まらず、ビジネス面においてポジティブに働く可能性が高いことが伺えます。
移民の受け入れが、グローバル化への一助となる可能性があることもメリットです。
日本では言語の壁などによる国際競争力の低さが懸念されていますが、移民を受け入れることで、言語の壁についても障害を取り除き、この競争力を高める可能性も出てきます。
また日本人と外国人との間に生まれた子どもの中には、外国語と日本語を使い分けているケースもあり、今後そのような子どもがグローバル社会の中で活躍できる場も生まれます。
あるいは純粋な日本人であっても、外国人とコミュニケーションを行う場が増えるためグローバルな視点を持つこともできるでしょう。
- 日本では労働力の確保のため、入国管理法を改正して新しい在留資格を創設するなど、積極的な姿勢を見せている
- 移民の受け入れは新しい産業や雇用が生まれることにもつながることから、ビジネス面においてポジティブに働く可能性が高い
- 移民の受け入れにより、外国人とコミュニケーションを行う場が増えるため、グローバル化への一助となる可能性がある。