下総(いまの千葉)の成田といいますと成田のお不動さんで知られたもので、交通不便の昔は江戸から成田まで参詣に行ってくるとなりますと、どうしても往復に三日はかかったものだそうです。
途中の泊まりは大概が船橋ですが、浮気男たちは普通の宿屋でなく女郎屋に泊まります。
そのため船橋の女郎のことを「八兵衛」と呼んだそうで、これは「行きにしべえか、帰りにしべえか」と悩むところから「しべえ」がふたつで八兵衛になったとか。
「おう、明日は早立ちだ、今夜は早寝するとしよう」
「そうだねえ……お前さん、成田詣ではいいけれど、船橋で八兵衛なんぞ買っちゃぁ駄目だよ」
「なあに、たかが三日の旅じゃねえか、そんなことするもんか」
「そんならいいけどさあ……」
「それより短くても旅ぁ旅だ。ひとつお暇乞いをしようじゃねえか」
「およしよ、まだ金坊が起きてるよ。それにお前さん、むこうへ行く前に垢離を取って体ぁ浄めなきゃいけないんだろ」
「なぁに、成田に着いてから浄めりゃ、かまやしねえよ。なあ、おい……」
てんで、その晩はお暇乞いをいつもより入念に済ませまして、さて翌日、いよいよ出立という時に、金坊が、
「お父っちゃん」
「なんでえ」
「うちの鶏も、一緒に行くのかい?」
「鶏なんぞ行きゃしねえよ、なぜだ?」
「だってほら、ご覧よ、あそこでお暇乞いをしてらあ」
途中の泊まりは大概が船橋ですが、浮気男たちは普通の宿屋でなく女郎屋に泊まります。
そのため船橋の女郎のことを「八兵衛」と呼んだそうで、これは「行きにしべえか、帰りにしべえか」と悩むところから「しべえ」がふたつで八兵衛になったとか。
「おう、明日は早立ちだ、今夜は早寝するとしよう」
「そうだねえ……お前さん、成田詣ではいいけれど、船橋で八兵衛なんぞ買っちゃぁ駄目だよ」
「なあに、たかが三日の旅じゃねえか、そんなことするもんか」
「そんならいいけどさあ……」
「それより短くても旅ぁ旅だ。ひとつお暇乞いをしようじゃねえか」
「およしよ、まだ金坊が起きてるよ。それにお前さん、むこうへ行く前に垢離を取って体ぁ浄めなきゃいけないんだろ」
「なぁに、成田に着いてから浄めりゃ、かまやしねえよ。なあ、おい……」
てんで、その晩はお暇乞いをいつもより入念に済ませまして、さて翌日、いよいよ出立という時に、金坊が、
「お父っちゃん」
「なんでえ」
「うちの鶏も、一緒に行くのかい?」
「鶏なんぞ行きゃしねえよ、なぜだ?」
「だってほら、ご覧よ、あそこでお暇乞いをしてらあ」