昭和30年代後半の社会現象に「蒸発」というのがありました。
ある日、家族・知人が突然いなくなり音信不通になってしまうのです。
朝、「行ってきまーす」と言って家を出たきり夜になっても帰って来ないのです。
事故か事件に巻き込まれたのか、どこかで元気に暮らしているのか、皆目見当がつかないので不安になった家族の方も全国的にはいらっしゃったみたい。
今では「特定失踪者」とか「行方不明者」という事なんでしょうが、当時は皆が訳のわからない状態で「蒸発」と言っていました。何の前触れもなくですからね。
加えて今のように通信手段が発達していませんから警察に届ける他には手の打ちようがない状態。
私と仲の良かったS君の父親がある日「蒸発」してしまい、周囲の人たちの話題になり可哀想でしたよ。
S君の元気をなくしたその寂しそうな顔が何年も続いたのを覚えています。S君のお父さんは依然として音信不通のままでしたが、 私はその少し後に引越しをしたので蒸発の事は次第に忘れるようになりました。
その後どこから聞いたのか母親が「Sくんの蒸発したお父さんが帰って来たみたいだよ」と言ったのは、5~10年後の事でした。思わず、「おぉ、良かった。」と母に言いました。住んでいる地域が離れていたので会いには行けなかったけど。
蒸発して戻ってきた人の話では、「世の中が嫌になった」とか「家庭が嫌になった」けど、死ぬのは怖いから蒸発してみたそうです。 蒸発期間は人により様々で、数日~数年でした。
あまり大きな声では言えないんですけど、実は私も何回かプチ蒸発をしたことがあるんですよ。半日~20時間くらいですけど。(ここだけの話)