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個別指導塾でブラックバイトが横行するワケ 苛烈な勤務体系に学生講師が悲鳴を上げる

2015-07-04 | 労働ニュース
都内の大学に通うAさんは、疲れた表情で話し始めた。「バイト中心の大学生活になっていてつらい。ただ、担当している生徒に思い入れもあるので、辞めたくても辞められない」。

 この春大学生になったAさんが、現在勤めている個別指導塾でアルバイト講師として働き始めたのは、3カ月前。教員になる夢があり、就職活動にも有利と聞いたからだ。

 ところが、職場の現実は、Aさんの想像とは懸け離れていた。週3日、計9コマの授業を受け持っているが、給与が支払われるのは授業時間分だけ。授業前の予習や授業後の質問対応、報告書記入は給与支払いの対象外だった。授業前後の拘束時間も含めた勤務時間で、給与を割ると、最低賃金を下回ってしまう。

 大学の時間割を職場の上司と一緒に決めたところ、バイトのシフトが優先され、教員免許の取得に必要な授業を取ることができなかった。自宅周辺のコンビニに張られたバイト募集の案内をうらめしく眺める毎日だという。

 こうした悩みを抱える学生はほかにもいる。NPO法人POSSEが立ち上げた「ブラックバイトユニオン」に2014年以降、寄せられた相談のうち3割超が教育業界からのもの。中には、Aさん以上にひどい例も散見される。

 たとえば、大学4年生のBさんは就職内定先のインターンに参加したり、卒業論文を書いたりするため、バイトを辞めたいと申し出た。すると「責任感ないの?」「そんなんじゃ社会人としてやっていけない」とまくし立てられた。

 さらに悪質なケースになると、雇用契約書に「遅刻した授業の給与は無給」「後任者が決まる前に退職すれば、損害賠償を請求する」、と記していた塾もある。東京法律事務所の井上幸夫弁護士によると、この記載は労働基準法16条(賠償予定の禁止)に抵触する可能性が高いという。

 こうした事態を受け、6月4日、バイト塾講師の大学生とブラックバイトユニオンが中心となり、「個別指導塾ユニオン」を結成した。

 同日、「明光義塾」を展開する明光ネットワークジャパンと、そのフランチャイジーであるワールドオーエー、さらに「代々木個別指導学院」を運営する日本教育協会の3社に対し、団体交渉を申し入れた。今後も同様の活動を進め、計10社程度と交渉していく構えである。

 彼らが特に問題視しているのは、授業単位で給与を支払う「コマ給」という給与体系だ。個別指導塾ユニオンの坂倉昇平氏は「コマ給は賃金を安く固定しているようなもの。そのうえで仕事量を増やし、責任を負わせ、辞めにくい環境を作り出している。塾バイトのブラックさを象徴する制度だ」と指摘する。

 事態を重く見た厚生労働省は3月27日、全国学習塾協会など7つの業界団体に、「労働時間の適正な把握、賃金の適正な支払等について」という要請文を出した。「教育産業への監督指導件数は、製造業よりも少ないが、問題の質がよくない」(労働基準局)。

 ユニオンから申し入れを受けた3社は「団体交渉まで意見は差し控えたい」としたうえで、「真摯に対応し、改善すべきは改善する」(明光ネットワークジャパン)と弁明した。

 塾側にも言い分がある。「コマ給は、業界に昔からある、一般的な賃金体系。予習や授業後の質問対応も含めて、一つのサービスという感覚」(業界団体の幹部)。

 従来型の集団指導塾の講師であれば、一度に教える生徒が多いうえ、問題の出し方などに独自のノウハウが必要なため、給与水準は高い。だから拘束時間で換算しても、最低賃金を割り込むことは少ない。

 これに対し、個別指導塾では、1人の講師が1コマで教えるのは1~3人程度。生徒に問題を解かせ、解説をするだけなので、それほどのスキルも要しない。当然ながら、給与水準は低くなる。

 前出の業界団体幹部はこう代弁する。「競争が厳しくなる中、勝ち残るにはコストを抑えるしかない。だから、体育会的なノリで過度な要求をしてしまうのではないか」。

 業界の現状について、塾大手の幹部は「個別をやっていない塾がないほどの状況」と明かす。集団型に比べ小ぶりな設備で済むので、出退店は容易。少子化が進む中、集団と個別を併設し、両方を受講してもらえば、生徒単価も上がる。一方、苦手分野を克服できたり、時間の調整に応じてくれたりと、生徒と保護者にとってもメリットは多い。

 需給のニーズが合致したことで、2000年代前半に3000億円台前半だった個別指導塾の市場規模は、直近で4000億円台前半まで成長した。だが、ここ数年は都市部を中心に飽和状態に陥り、市場規模も頭打ち。こうした中で、講師の給与にシワ寄せが来ている。

 「今は時給の概念が一般化しており、拘束時間に見合った体系にする必要がある。ただ、個別には1対1の塾もあれば、1対3の塾もある。業界として足並みをそろえにくい」(前出の業界団体幹部)

 6月末から7月上旬にかけて、ユニオンと塾3社の団体交渉が始まる。“学びの場”の名にかけて、病巣を切り出すことができるか


個別指導塾でブラックバイトが横行するワケ 苛烈な勤務体系に学生講師が悲鳴を上げる
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