テレビ局に入って最初に見た芸能人は早見優さんだった。僕が入社してすぐ付いた桂三枝(現・文枝)さんの番組にゲストとして来たのだ。
デビュー曲「夏色のナンシー」を歌った。元気溢れるミニスカートで彼女は歌った。その肢体は眩しく輝いていた。アイドルと出会えた瞬間だった。
僕はテレビ局に入って良かったと単純に思っていた。
今は結婚してオーストラリア在住の河合奈保子さんにも局内で出会った。
そして、「11PM・おめでとう!全日本有線放送大賞」では新人賞を受賞した岡田有希子さんの姿もあった。フロアーディレクターをしていて、「胸が大きい子だなぁ」と思っていたのを未だに記憶している。
朝の連続ドラマでは、ミヤコ蝶々さん、中村玉緒さん、南田洋子さん、野際陽子さん、市原悦子さん、内藤剛志さん、ほか数々の大物俳優さんと出会った。皆さん、APの僕に本当に優しくしてくれた。
東京に出て来てからでも、鈴木京香さん、大沢たかおさん、緒形拳さん、佐藤浩市さん、室井滋さん、佐野史郎、中谷美紀さん、椎名桔平さん、渡部篤郎さん、石田ゆり子さんらとお仕事をさせて頂いた。中身の濃いお付き合いだった。
とりわけ、日劇ダンシングチーム出身で、黒澤明監督作品の常連、女優・根岸明美さんとの或る一日の事は忘れられない想い出として、僕の脳裏に刻まれている。
ロケで琵琶湖西岸「近江舞子」に行く事になった。
根岸明美さんの出番は午後から。
僕は根岸さんに、後から大阪より電車に乗って来てもらい、ロケの最寄り駅からタクシーで午後イチ現場入りする事をお勧めした。
しかし、彼女は
「午後から行くのは心配なので、朝からスタッフとロケバスに乗って行きます」とおっしゃった。
それでは午後イチまで何時間も彼女をお待たせするので、申し訳ないと伝えたのだが、彼女の意思は固かった。
朝9時から近江舞子でのロケが始まる。
僕は狭い控室で根岸明美さんの話し相手になる事を決めた。
彼女の生い立ちの話から聴き始めた。彼女は楽しそうに僕に話してくれる。
昼のロケ弁当も二人っきりで食べた。
午後は根岸さんが日劇ダンシングチームに入った時の話からスタート。
ロケの方は押しに押している様だ。午後イチに撮影現場に呼ばれるはずの彼女。日が傾き始めても助監督は呼びに来ない。
引き続き、黒澤明監督作品に出た時の話を伺う。普通では聞けない黒澤明監督の貴重な裏話をたくさん聞く事が出来、僕は感動していた。
ロケ開始の朝9時からだから、根岸明美さんと8時間以上話していた計算になる。
夜の帳が下りる午後5時半過ぎ、やっと助監督が呼びに来た。根岸さんは落ち着いた優しい顔で撮影現場に入られた。
その姿を見届け、僕は心底ホッとしていた。長時間の緊張で、脱力感が身体全体を支配していた。
根岸さんの撮影シーンはあっという間に撮り終わった。
彼女は控室でメイクを落とし、行きと同じ様にロケバスに乗り込んだ。
ロケバスが局に着くと、僕はタクシーを呼んでリーガロイヤルホテルまで根岸明美さんを送リ出す。
「今日はお疲れ様!」
と明るく言って、彼女はタクシーのドアを閉めた。
僕はタクシーが見えなくなるまで、頭を深く下げ続けた。
根岸明美さん、本当にカラッとした気性で男っぽく、僕は彼女の事がいっぺんで好きになっていた。
あんなに長時間、俳優さんと一緒にいて、話し込んだ事は後にも先にもあの日だけだ。
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