年末年始、大阪の実家で連続ドラマ「silent」のシナリオブックを読んでいた。僕は「ドラマのノベライズ」が嫌い。「台詞」あってのドラマ。生方美久さんのシナリオの台詞は、「身体の中までゆっくりと滲み渡る言葉」で綴られている。川口春奈と目黒蓮が手話でお互いの意思を伝える神々しい光景が僕の脳裏にどんどん浮かんでは消えて行く。
僕にとって、脚本家と言えば、山田太一さん。ほとんど全てのシナリオ集を持っている。早送りでドラマを観る術が無かったあの時代、僕たちは山田太一さんが原稿用紙に一マス一マス埋めた大切な台詞を心の底から味わった。台詞がピチピチと生きていた。「白魚の踊り食い」を必死で食べる様にテレビの前で全身を画面に集中し、一言も聞き逃すまいという思いで、ドラマを観た。
もう一人、宝石の様な台詞を書く脚本家がいる。向田邦子さん。彼女のシナリオが載っている新潮文庫を漁る様に買った。彼女のシナリオを読んでいると、山奥の極上温泉に浸かって少し肌寒い外気に当たりながら精神を弛緩させ、くつろぐ気分。そのシナリオには気が付きそうで気が付かない人間の細やかな機微がユーモラスに描かれている。夭逝したのが、本当に残念。
「シナリオ」という小説とは違った「文」の魅力に浸るのも時には良いのではないかと思う。