その小説を初めて読んだ時、雷に撃たれた様な衝撃を受けた。
黒澤明監督が好きで、「わが青春の黒澤明」という文庫を買い求めた。作者の植草圭之助は、黒澤明の幼馴染で、脚本家。黒澤明の名作「酔いどれ天使」の脚本を書いている。
この本のあとがきにあったのが、植草圭之助の「冬の花 悠子」という本があるという事実。黒澤明に関する本がとても面白かったので、即買い。
物語の発端は、戦争直前の東京・吉原。植草圭之助の自伝的小説だ。
圭之助は吉原遊廓を訪れた。そこで偶然出逢ったのが、遊女「紫」こと悠子。悠子に恋をした圭之助は、悠子と共に大胆にも吉原遊廓から足抜け(逃走)を試みる。
足抜けに成功した悠子だが、既に彼女の身体は結核に蝕まれていた。
敵機が東京上空を飛び始める戦局の中、二人の儚くも純粋な恋は最後の輝きを放っていた。脚本家と遊女の恋の行方は如何に。彼女が吉原遊廓の放った追手に捕まる事は無いのか?
この小説を初めて読んだ時、思ったのは、さすが脚本家が書いているだけあって、情景が目に浮かぶなぁーと言う事。そして、男女の機敏が繊細に描かれているという事だった。時を忘れ、夢中になって読んだ。
ちょっとシチュエーションは違うが、映画「小さな恋のメロディ」のマーク・レスターとトレーシー・ハイドの恋に似ていると思った。純愛なのだ。二人の恋が上手くいきます様にと祈る様な気持ちの僕。どこか、小説「冬の花 悠子」の「童話」の様なところが映画「小さな恋のメロディ」に似ているのかも知れない。その魅力が僕を惹きつけて離さないのだろう。
この「冬の花 悠子」はそんな気持ちにさせる一冊だった。眩ゆいばかりのラブストーリーを御所望なら、この一冊を推薦します。中公文庫。入手は古書のみ。
読んだ方はきっとこの作品を今、映像化して欲しいと思うだろう。僕もそう思う。
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