大阪地検特捜部検事のフロッピーディスクのデータ改ざん容疑事件にまで発展した「郵便不正事件」で、被告となった厚労省の元局長、村木厚子さんが、無罪判決のあとに記者会見に応じていた様子を見て、「この人は本当に立派だなぁ」と感心した。日本中のほとんどの人たちが、そう思ったに違いない。
やっていないことを、「やった」と決めつけられ、逮捕、勾留される。
その結果、無罪の判決が下される。
しかも、検事の証拠データの改ざんが発覚した。
こんなことって、ちょっとやそっとで許せることではないだろ。
僕なら激怒して、会見の席では検察に対して、憤懣をぶちまけるだろう。
しかし村木さんは怒りの表情を見せることもなく、淡々と、時には飄々として、感想を述べておられた。この人は、本当の意味で強い人なんだなぁ、と思う。
僕が好きな村上春樹の小説「海辺のカフカ」の一節が思い浮かぶ。
主人公のカフカ少年は、15歳の誕生日に家を出る。
世界で一番タフな15歳になるために旅に出たカフカ少年は、こう言う。
「僕が求めている強さというのは、勝ったり負けたりする強さじゃないんです」
そして…
「不公平さや不運や悲しみや誤解や無理解、…そういうものに静かに耐えていくための強さです」
本当の強さとは、そういうことなのだろう。
村木さんの会見をテレビで見ながら、そんなことを思った。