すばるに恋して∞に堕ちて

新たに。また1から始めてみようかと。

STORY.28 BIRTHDAY DREAM

2009-09-27 18:00:24 | 小説・舞音ちゃんシリーズ
 やっとのことで、小説の更新ができます。

 お待たせ致しました。


 改めて、いささかの注意事項を。

 ここから始まる小説には、個人名は出てきません。

 作者の妄想がもととなっておりますので、
 モデルとなった人物は実在しますが、
 あくまでもフィクションであり、
 ただの小説ととらえていただくよう、お願いをします。

 お気に召しましたら、

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 ぽちっと押して頂けると、とっても嬉しいです。

 小説を書く張り合いにもなります。

 ご協力をお願いします。




では、続きから、本編です。



STORY. 28 BIRTHDAY DREAM




俺は、その年の誕生日を、舞台の上で迎えようとしてた。

当日は2回公演。
せやから、前日の夜は、出来るもんなら、
夜更かしもせんと、身体を休めときたいんが本音やった。

部屋に戻って、日付が変わった頃から、
ぽつりぽつりと届き始めた「おめでとう」メール。

友達が少なくて、
滅多にメールなんかせえへん俺でも、
こんな時のメールくらいは、届くもんで。

いっちゃん最初やったんが、おかんからのメールやったのには、苦笑ったわ。

相変わらず、
どんだけ息子が好きやねん。

ま、ええけど。

届いたメールを読んでるうち、
ふと、肝心なとこからメールが来てないことに気付いた。

「今日はもう、遅いしな。寝てもうてるんやろ」

俺は携帯のアラームをセットして、枕もとに置くと、
ベッドにもぐりこむ。

ひんやりとしたシーツ。

秋の気配は、こんなとこにも忍び込んでる。

今やってる舞台が始まった頃は、まだ、寝苦しい夜もあったのに、
今日なんかは、もう、涼しいを通り越してるわ。

頭になじんだ枕は、
俺を心地よい眠りに誘う。

緊張がほぐれ、身体を縛っていた糸が、次第に解かれていく。

かたい結び目、
緩い結び目、
ごつごつと身体にあたっていたそれらを感じなくなった頃、

俺は、深い闇に包まれていった。





夢の中で、俺は誰かとすれ違った。

ふわりと、薄い香りを嗅いだ気がした。

見たことない女やと思うたのに、
変に懐かしいカンジがした。

知ってる。

俺は、この女を、知ってるわ。

かわいくて、愛しくて、
どんなことをしたって、俺が守ってやらなアカン女や。

このカンジ、
なんや、どっかで前に・・・

そう思って、
このカンジを確かめよう思うて、振り向いた時には、
女の姿は、もう、消えていた。

代わりに、まばゆいばかりの光がそこにあって、
まぶしくてまぶしくて、俺は、手でそれを遮った・・・




カーテンから漏れた朝の光が、俺の顔に当たっていた。
眩しかったんは、そのせいや。

携帯を手に取り、時間を確かめる。

まだ、いつも起きる時間よりは、うんと早い。

しばらく、ベッドの中で、
もう一度眠気が来るのを待ったが、
一旦醒めた頭は、もう睡魔を連れてくることはなかった。

諦めて、ベッドを出る。

カーテンを一気に開ける。

窓の外は、見慣れた都会の喧騒。
動き出してる朝の風景。
遠くを行き交う車と、歩道には小さなシルエット。
祝日やのに、仕事へ向かってるサラリーマンやOL。
荷物を運ぶ業者。
人の流れに逆らうように、ゆっくりと動くのは、たぶん、年配の婦人。


ここは、静か、やな。


俺は、部屋を振り返った。

よそよそしい顔をしたホテルの一室。
舞台の間、
俺は日常から離れて、ここで過ごすことを決めたんやった。

俺の日常に溢れてる、舞音の音を遮断することで、
俺は舞台に集中しようと思った。

自らを生かす道と、
愛する者を救う道との交差点に立った「オレ」の決断を表現しきるための、
それは、
俺に出来るたったひとつの、方法やったと思うから。

せやけど。

こんだけ離れて暮らしてると、
無性に舞音のたてる音が恋しくなるんも事実やな。

普段は、うっとうしいくらいに煩くて、
どないかして、静かな環境に身を置きたいと思うのに、

今は、あの甲高い泣き声や、派手なおもちゃの音や、
何度も繰り返されて、耳についてもうたキャラクターのセリフなんかが、
懐かしくなってきてるわ。





決まった時間に、楽屋に入る。

見知った顔のいくつかが、楽屋を訪れてくれることもあるけど、
共演者のそこに比べたら、
俺のとこは、結構、静かなもんや。

扉を開けて、まず、目についたんは、
でっかい花束やった。

「お誕生日、おめでとう」のメッセージとともに、
旧知の奴らから、届いてた花束。

それとは対照的に、

1本の赤いバラだけが薄いセロファンに包まれて、
メイク用の鏡の前に置かれてた。

「これ、なに?」

カードもなんもなく、無造作に置かれてた花を手にとって、
近くにいたスタッフに尋ねる。

あ。

この香り、
夢ん中で嗅いだ匂い・・・に、似てる・・・

ああ、
でもちょっと違うか?


「それ、さっき小っちゃい女の子が、持ってて・・・」

「小っさい女の子?」

「はい」

俺の脳裏には、真っ先に舞音の姿が浮かんだ。

「それ、こんくらいの、ちまちまっとした細こい・・・」

俺は舞音の背格好を説明する。

「ああ、はい」

頼りない返事やな。

「ほんで? どこ、行ってん」

俺は、きょろきょろっと、あたりを見回した。
どっかに、舞音が隠れてるんちゃうかと、思って。

「帰られました」

なん? 帰った?

「ふう・・・ん」

俺は極力、動揺を見せんように、と思ったんやけど、
あかんわ、
あからさまに気分が落ちてくわ。

自分で思ってたよりも、
俺、
舞音に会いたかってんな。

今夜あたり、
一回、顔見に、帰ろかな。

ああ、でも、帰る頃には、もう、寝てたりするかな。
寝顔だけでも、見てこうかな。

いやいや、
そんなんしたら、なんのためにホテル取ったか、わからんようになるわ。

せっかく、ここまで、ええ調子で来ててんから、
これ、崩したらアカンよなあ。

いろんなことが頭ん中を、ぐるぐる駆け巡る。

と、
携帯が着信を告げた。

誰や、こんな時に。

ポケットに入ったままのそれを取り出して、
相手も確かめずに、出る。

「もしもし」

「ぱーぱッ!!」

聞こえてきたのは、片言の言葉。
舌っ足らずの、かわいい、高いトーン。

一瞬で、それが誰の声か、判断がつく。

「まのん、まのん!? なんで?」

「ぱーぱッ!! おちゃんび、めれと」

はい? なんて?

「ぷえしぇんと、しゅき?」

待て待て、待て、舞音。
意味がわからん。

普段、絶対に触らせてもらえん携帯を、
使わせてもらえて、
半ば、興奮状態の舞音が、容易に想像できた。

「まのん、ママは? そこに、ママ、いてるか?」

舞音に通じるように、ゆっくりと、問いかける。

「まま?」

「そうやで、いてるか?」

「まま、しゅき。おはな。ひとぉつ、あげゆかやね」

あー、
通じんかァ。

「ぱぱ、いいこでしゅね、だいしゅちよ」

あはは。
最後のんは、わかるわ。

いっつも、舞音が彼女に言われてる褒め言葉やわ。

『舞音、大好きよ、いい子ね』

言いながら、舞音のほっぺにキスしてる彼女の姿が、ふいに目に浮かぶ。
にこにこの笑顔で応えてる舞音の顔も。

自分が言われてうれしい言葉やから、
俺にも言うてんやろな。

この年になって言われても、なにげ、うれしいわ、やっぱ。

あ。
もしかして。

「まのん、もういっかい、言うてみて。おちゃ・・・なに?」

「おちゃんび、めれと、ぱぱ」

『お誕生日、おめでとう』や。
やっとわかったわ。

くすくす、くすくす。

舞音の後ろで、小さく笑う声がする。

やっぱ、そばにいてるやないか。
早よ、代わったれや。

「もしもし?」

笑いを含んだままの、彼女の声。

「なんやねん、おまえ」

「おちゃんび、めれと。ぱぱ」

「やめろや。恥ずかしいわ」

「舞音の言葉、通じたのね」

「ああ、わかった。『おちゃんび』も、『めれと』も、『ぷえしぇんと』もな」

「まだ、あるのよ? 聞きたい?」

「なに?」

「目を閉じて、ちょっと待ってて」

「目、閉じんの?」

「そのほうが、舞音の顔が浮かぶでしょ?」

そりゃまあ、そう言われたら、そうせんでもないけど。

俺は、素直に目を閉じた。

「・・・まのん、ほら、歌って・・・」

促されて、また、舞音の声がする。

「はっぴばちゅでい、ちゅうゆ、はっぴばちゅでい、ちゅゆ・・・」

かわええ。
言葉はちっとばっかし難ありやけど、
音は、外れてないわ。

一生懸命、覚えたんやろなあ。

それにしても、この声、やたらめったら、近くで聞こえてんねんけど。

うん?

足元に何かが抱きつく感触がして、
俺は目を開けた。

「うそやん、なんで?」

そこには、俺を見上げて、にっこにこの舞音がおった。

「ぱーぱッ! まのん、はっぴば?」

俺は携帯を置いて、舞音を抱き上げる。

「ちゃうやん、はっぴば、は、パパやで」

抱き上げた舞音から、ふわりと、薄い香りがたつ。

あ。
これや、
この香りや。

あの、夢の中の香りは、こっちや。

え、
ほんなら、あれ、
あの、夢の中の女って、舞音やったんか?

成長した、舞音・・・?

まじまじと、舞音の顔を見る。

いたずらな笑顔で立ってる彼女の顔と、
鏡に映ってる、舞音を抱いた俺の顔を交互に見比べる。

なんや、そうやったんや。

見知らぬ顔やのに、
どうしても守ってやらなアカン気がしたんも、
こういうことやってんな。

へえ、舞音。
大っきくなったら、べっぴんさん、になるねんな。
楽しみやな。
惚れてまうわ。

「ごめんね、舞台の前なのに、こんなこと」

彼女が、申し訳なさそうな顔をしてる。

「何、謝ってんねん。俺、うれしいんやから」

「でも・・・舞台・・・」

彼女には、家庭という日常を遮断したい理由を、説明してある。
せやから、ここまで、舞台も見に来てへんし、
電話の1本、メールの1通やって、よこさへんかったんやもんな。

「ほんまに嬉しいって」

「ほんまに?」

「ああ。舞音に会いとうて、しゃあない頃やってんから。
 さっきやって、舞音が帰ってもうたって聞かされて、
 めっちゃ気分、落ちてたんやで」

これは、ほんまのほんまや。

「会いに来てくれて、元気が出たわ。ありがとうな。これも」

俺は舞音を抱っこしたまま、
1本だけラッピングされた赤いバラを手に取った。

「これ、お前自身やもんな」

彼女が、じっと俺を見つめた。

「覚えてるの?」

「当たり前やろ」

赤いバラ。
俺が、初めて彼女のために買った花や。

あの時、俺、彼女に何をあげたら喜んでくれるか、
めっちゃ考えて考えて、

ベタなことやって、
今考えたら、恥ずかしいくらいやけど、

彼女の誕生花で、
俺の気持ちを代弁してくれるこれに決めたんやもん。

「おはな、まま。これ、しゅきって。まのんも、しゅき。ぱぱ、しゅき?」

「ああ、好きやで。大好きや」

俺は、舞音のほっぺにキスをする。

「まのん、ダイスキやで、ええ子やな」

俺は、彼女に手招きをする。

「もうちっと、こっち、おいで」

彼女の頬にも、軽くキスをする。

「やー、ぱぱ。まのんもー」

乞われるまま、俺は、舞音にも、もう一回キスをする。

「舞台、見てくか?」

「ううん、舞音がぐずるといけないから、帰る。
 もともとは、お花、置きに来ただけだし」

「そうか?」

「顔が見れて、嬉しかった。邪魔やって、怒られると思ったから」

「ん?」

「ここは、あなたの場所だから」

「あほぅ、気、使いすぎや」

彼女は、いっつもそうや。
あっちにもこっちにも、気を回し過ぎてるわ。
じれったいくらいに、な。
もっと、わがままでも、ええのに。

でも、そのおかげで、
俺は、俺の場所で、息が出来てる。

それは、最高のプレゼントなんやろな。


「俺ら、みんなからのプレゼントですからね」


声のする方を見れば、
今回の共演者や手の空いたスタッフらが、入り口付近にかたまって、
こっちを覗いてた。

「お前ら、いつから」

俺は、なんや恥ずかしなって、舞音を下に降ろした。

「最初から、です」

座長でもある共演者が、まじめに答える。

「そんな優しい顔、僕にも見せてくださいよ」

後輩の共演者が、ニヤニヤ笑う。

「帰るっていうの、引きとめたの、僕らですからね」

彼女が、小さくうなづいた。



「HAPPY BIRTHDAY!!!」



あちらからもこちらからも、俺の誕生日を祝う声がする。

照れくさい、な。

「ありがとう」

ひとこと言うんが、精一杯やわ。

「これからも精一杯、舞台を務めますんで、よろしくお願いします」

深々とお辞儀をする俺を見て、
舞音も、

「おねあいちあちゅ」

真似して、お辞儀をする。

それを見た共演者やスタッフから、拍手が起きた。


「小さなマネージャーさんの誕生ですね」

誰かが、ふと、つぶやいた。


なあ、舞音。

今日は俺の誕生日やけど、
小さなお前の、ちっちゃな社会デビューの日でもあるんやな。


「ぱーぱ? まのん、まのんね」


背伸びをして、俺に何か伝えたそうな舞音。

口元に耳を寄せた俺に、

「まのん、ぱぱと、ぱちぱち、もっと、ほちい」

そうやな、
いつか、あの、きれいに成長した舞音と舞台に立って、
親子で拍手がもらえたら、ええな。

「ああ、もらえるで、きっとな」

おれは、舞音の頭を、優しく撫でた。

こいつの中にも、俺の血が、流れてる。
どんな形でかは、わからんけど、
そんな日が来たって、おかしくないよな。


誕生日って、ただ、自分が生まれた日やと思ってたけど、
ちゃうねんな。

命がつながって、
夢が広がった記念日でも、あるんやな。

これからも、

小さな舞音の、夢の目標であり続けれるよう、
俺は、俺の場所で、がんばっていかなアカンねんな。

舞音の夢の先で、
風に向かって立ち続ける案内人の役が、
俺に与えられたってことか。

この舞台は、一生、降りるわけには、いかんな。


人見知りをしない舞音が、
共演者らにあやされて、ケラケラと、笑い声をたてた。

そばで、彼女が、ひっそりと立っていた。

きっと彼女は、これからも、ああして、傍にい続けるんだろう。

俺を見守り、
舞音を見守り、

ただ、ゆっくりと、微笑うんだろう。





               FIN.






STORY.20 桜、さくら、サクラ 後編

2009-05-05 00:05:38 | 小説・舞音ちゃんシリーズ
舞音ちゃんの続き、です。

あとがき、がわりに、少し。

当初、妄想した私と彼のお花見に、
当然のことながら、舞音ちゃんは出てきていませんでした。

それとは別に、
舞音ちゃんが、両手を広げて、走り寄る絵だけが、
私の中にありました。
そこに、舞い散る桜と、風と、彼の姿が、
アニメのセル画のように重なり、
今回の、お話になりました。

ここのところ、
甘い、甘い、恋愛話から、離れてきているような気も、
しないではありませんが、
数ある妄想小説の中、
こんな変り種なお話があっても、いいのかな、と思ってます。

自己満足のかたまりのような小説に、
貴重な時間を割いて、お付き合いくださっている方々に、
感謝をいたします。

では、

後編を、お楽しみくださいませ。



着替えた彼女が、リビングにやって来たのは、
15分ほどたってからだ。

彼女の姿を、やっと見つけた舞音が走り寄る。

「まーま、おはよごじゃましゅ」

「おはよ、まのん」

舞音にあわせてしゃがんだ彼女。
頬を合わせて、朝の挨拶だ。

「ああ。舞音の着替えだけ、させたって。
 こっちの仕度は出来てるけど、
 舞音の分は、全然、どないしてええんか、わからへん」

「うん。
 さ、舞音、お出かけ、するからね。
 お着替え、しようか。
 『めるちゃん』、どのお洋服がいい?」

「あ!! そうや、『めるちゃん』や」

「え?」

「いや、な。舞音のやつ、この人形、『まりゅちゃん』って、呼んだからな。
 なんや、ちょい、違わへんかなあ、思っててん」

「何回教えても、『まりゅちゃん』なの。
 おかしいのはね、私が『まりゅちゃん』って呼ぶと、
 『ちゃうもん、めるちゃんやもん』って、言い返すの」

「なんなん? それ」

「さあ。わかんないけど」

「へそ、曲がってるな」

「誰に似たんだろうね」

そう言って、彼女は、俺を見て笑った。
こいつ、確実に、俺、やと思うてるわ。

ちゃうやんな。
俺、へそなんか、曲がってへんもん。

せやけど。

日々の、小さな舞音の行動や、言葉。

そんなもんを、こうして、ちょっとずつ共有していく時間が、
俺らを、親にしていくんやろな。






陽だまりの中。
桜の花が、時おり、風に舞う。

はらり、くるり、
くるり、はらり・・・。

花びらやのうて、
一輪の花ごと、舞って落ちる姿は、

花の精が、桜の木から、飛び出すようや。


「ぱーぱ、たべゆ」

舞音が、俺の袖を引っ張った。

「お? おお。
 ほんなら、手をあわせようか」

言われたまま、ちっちゃな手を、合わせる舞音。

「いっただっき、まぁっす」

「いっただっち、まぁっしゅ」

ぺこり、と、小さなお辞儀をして、
おにぎりに手を伸ばす。

「おにぎちしゃん!」

シートに広げたお弁当箱。

おにぎりと、からあげと、ブロッコリーの茹でたやつに、
だし巻卵、ウィンナーに、
ベーコンと一緒に炒めたかぼちゃ。

なんや、定番やけど、
俺に作れるんは、限られてるし、な。

「ぱぱおにぎち、おいちぃ」

ほっぺたに、ご飯粒、くっつけて、
舞音が、にこにこ笑う。

「ほんと、おいしいね。
 ぱぱ、お料理、上手ね」

彼女も、舞音の隣で笑顔になってる。

ふたりの、この顔が見れるんやったら、
休日にお弁当作るくらい、やっすいもんや。



お弁当食べ終わって、
俺は、ごろり、と、身体を伸ばす。

煙草・・・は、あかんな。
舞音がいてる。

埋め尽くす桜の薄紅の隙間から、
空の蒼が、覗く。

「ありがとう」

「ん?」

俺は、顔だけ、彼女に向ける。

「せっかくのお休みだったのに、
 お花見、連れて来てくれて」

「なに言うてるん。
 お花見は、俺がしたかったんやから、ええねん」

「ほんまに?」

「ほんま」

「お弁当、おいしかった」

「すまんかったな、冷蔵庫のもん、勝手に使って」

「ううん、言うてくれたら、私、作ったのに」

「ええねん。
 たまには、俺にも、父親らしいこと、させろや」

「なに言ってるの。ちゃんと、いっつも、父親、でしょ」

「そうかぁ? 俺、舞音の父親、やれてるか?」

「舞音見たら、わかるじゃない。
 あんなに、ぱーぱ、ぱーぱって」

彼女が舞音に目をやった。

視線の先。

少し離れたところで、
なにやら、しゃがみこんでる舞音。

なにしてるん、あいつ。

「舞音も私も、貴方が、大好き、よ」

俺を覗き込んだ彼女の顔が、降りてくる。

阿呆。
照れるやん。



「ぱーぱ! まーま!!」

舞音の声。

身体を起こして、目をやると、

手のひらを握り締めたまま、
腕を広げて、
ちょこちょこ、走り寄ってくる舞音。

あかん、
転ぶ、転ぶ。

とっさに手を差し出して、
舞音を抱きとめる。

「あげゆ」

俺の腕に、転がるように飛び込んできた舞音。

その手の中には。

拾い集めた桜の花びらが、
くしゃくしゃになってた。

「ありがとう、な」

俺は、花びらを受け取りながら、
舞音の頭を、ゆっくり撫でてやる。

嬉しそうな舞音。

「ゆっくり、大きくなるんやで」

こんな小さな出来事の積み重ねがあって、
俺らは、ちゃんと、家族になれるんやな。

記憶の共有。

大人に近づくたび、忘れてしまう、
昔の、
小さな、なにげない日常でも。

親の俺が覚えてたら、
それは、
家族の思い出やんな。

な、舞音。

ゆっくり、ゆっくり、
俺にみせてくれるよな。

お前がオトナになっていく様。

俺らが、家族になっていく様。

いつか、俺が、じいさんになった時、
お前の子供に、話してやんねん。

お前が、どんだけ、やんちゃ、やったか、を。
どれほど大切な、俺の、お姫様やったか、を。

子供が、どれだけ親に愛されて育つもんか、を。

そのために。

ここに咲く、桜の花よりも多く、
お前が笑う記憶を、
彼女がくれる愛情を、
俺の中に刻み込んで、

言葉に変えよう、
声にしよう、
詩に残そう。

それが、お前ら二人に示してやれる、
俺が、俺である証、やから。


一陣の風が、

桜を揺らして、

駆け抜けていった。








  FIN.











STORY.20 桜、さくら、サクラ 前編

2009-05-04 22:30:53 | 小説・舞音ちゃんシリーズ
出来立て、ほやほや、の小説です。

彼の、「ちゃんとしたお花見って、したことあらへん」に、反応してみました。

自分が妄想したものとは、
文字にしていく作業の、早い段階で、
少し変わってきました。

なので、本当に、今さっき、出来上がった、
湯気の出ている妄想小説になります。

リライトの途中で、日付が変わりそうなことに気付きました。
ので、一旦、途中で、UPします。
後編は、日付をまたいで、UPいたします。

お付き合いくださる方は、続きからどうぞ。

携帯からご覧の方は、
その設定から、ページ数が増えます。

ご承知置きください。


一筋の、朝の光が、
カーテンの隙間から、こぼれる。

まだ、眠り足りない俺の隣で、
彼女は、小さな寝息を立ててる。

俺の腕に、縋り付くようにして眠る彼女の、
安心しきった、無防備な寝顔が、
可愛くて、

俺は、彼女を起こさないように、
そっと、
ベッドを抜け出した。

俺らのベッドの横には、
小さな白いベッド。

ほんの今、

目を覚ました舞音が、
泣こうか泣くまいか、思案げな顔してる。


「しーっやで、舞音」

俺は、舞音に向かって、口に人差し指を立てる。

「ママ、疲れてんねん」

一日中、このやんちゃ姫と顔つきあわせてる生活は、
きっと、彼女の神経をすり減らしてるはずや。

寝かせておいてやれるなら、
10分でも長いほうが、ええやろ。

幸い、
今日は、オフやし。
とりたてて、急ぎでやらなあかんことも、ないし。

のんびり、舞音の相手すんのも、
ええかもしれんしな。

「おいで」

なんも言わんと、
素直に、俺に抱かれる舞音。
こいつ、まだ、
ほんまは、起きてないんやな。

俺は、舞音を抱っこして、部屋を出た。




「さあて、と」

俺は、舞音をソファに降ろして、
窓辺に寄ると、
リビングのカーテンを開けた。

まぶしい光が、
ぱあっと、部屋の中に差し込む。

空は、快晴。
綺麗な、青い空だ。

この季節、
俺のアレルギーもあって、
極力、窓は開けたくないんやけど、

ほんでも、
この朝の空気を吸わへんのも、
もったいないような気がして、

俺は、鍵を開けて、ベランダに出た。


少し、まだ、冷たい空気が、
頬に触れた。

「寒いか?」

振り返って、舞音を見る。

舞音は、知らん顔で、
もう、おもちゃ箱の中から、
お気に入りの人形を引っ張り出そうとしてた。

「おいおい、散らかしたら、あかんで」

俺は、とりあえず、声だけ掛ける。

ここで、舞音のやってること止めたら、
大泣きになるんは、経験済みや。

舞音が泣いたら、
せっかく、あいつを寝かしとこ、思うたのに、
台無しやもんな。

俺は、視線を空に戻す。

青い、な。

夏の青のように、濃くはないけど、
吸い込まれるような透明感は、
この季節ならでは、やな。

ベランダから見える風景の中に、
所々、ピンクの塊があるのに、気付いた。

あれって・・・桜? ・・・だよな。

もう、咲いてんねや。

満開までは、まだ、間があるんかな。

いつものこの季節は、
新曲が出たり、アルバムが出たりで、
プロモーションに忙しい。
合間には、コンサートのリハもあるし、
ろくに休みもとられへん。

今年かて、それは同じやけど、

こないに、のんびり出来てるんも、
珍しいっちゃ、珍しいわ。


桜、か。


こんな日は、きっと、
お花見の人も多いんやろな。



「ぱーぱ?」

いつの間に、足元に来てた舞音。
俺のシャツのすそに手を伸ばす。

「おなか、ちゅいた」

舞音の片手には、抱き人形。

おかんが買い与えたやつやな。

洋服から、小物から、ハウスから、
なんやしらん、
ごっそり、おもちゃ箱に入ってるやつや。

ここんとこ、お気に入りで、
お風呂にまで、一緒に入りたがるって、言うとったな。

「なんや、もう、腹、減ったんか」

俺は、舞音を抱き上げた。

「舞音、このお人形さん、何て名前やったっけ?」

「まりゅちゃん」

ん?
そんなんやったか?
一文字、違わへんか?

その名前やと、
なんや、無駄にテンション高そうな人形ちゃうか?

俺は、舞音を抱いたまま、部屋の中に戻った。

そのまま、キッチンへ行くと、
そこで、舞音を降ろし、
冷蔵庫を開けた。

「いっつも、舞音は、朝、何、食べるん?」

舞音と朝食の時間が合うなんてこと、
滅多にあらへんから、
わからへん。

「ミユク、ちょーだい?」

「ミユク? ああ、ミルク、な」

小首かしげて、お願い、の表情や。

俺は、とりあえず、
牛乳を出して、
舞音のコップに注ぐ。

「ちょっとずつ、飲みや」

抱いていた人形ごと、
舞音を椅子に座らせて、
コップをもたせる。

「ありやと」

にっこり、笑った舞音。

あかん、可愛ええ。

と、思ったのも、つかの間。

舞音は、コップの牛乳を、抱き人形に近づける。

え?

俺があっけにとられてる間に、
舞音は、
そのまま、ミルクを人形に飲ませようとした。

「おいおいおいっ!!!」

寸でのところで、舞音の手から、
コップを取り上げた。

「なにすんねん!!」

つい、怒鳴りつけてもうた。

「ええか? お人形さんは、ミルクは飲まへんで」

少々、低めの声で、言い聞かす。

しもうた! と思うたんは、
次の瞬間や。

俺を見上げて、キョトンとしてた舞音の顔が、
見る見る間に、ゆがむ。

あかんあかん、泣くなや。
泣くとこ、ちゃうやろ。

叱られるようなことしたん、
舞音やねんぞ。

「うぃ、・・・うう・・・ま、ま・・・・ままぁ!」

俺の剣幕に押された舞音は、
彼女の姿を探して、部屋中を見回す。

いないと分かると、
泣き顔のまま、
椅子から降りようとする。

子供用の、高い椅子は不安定で、
舞音が動くたび、ひやっとする。

「危ないって!!」

俺は、舞音を抱き上げる。

「いや、いやぁ、ぱぱ、いやぁ」

のけぞって暴れる舞音。

ああ、もう!
大人しせえや。

「どないしたら、ええん?」

舞音の、泣き声のトーンが、
段々、上がっていく。

たまりかねて、俺は、舞音を降ろす。

こんなん、いっつも、
どうやって鎮めてるん、あいつ。

「あ。ほれ。まりゅちゃんのミルクなら、あっこにあるやん」

さっき、舞音が散らかしたおもちゃの中に、
小さな哺乳瓶を見つけた。

俺は、それを拾うと、
舞音に見えるように、人形の口に近づけて、
飲ませるマネをした。

哺乳瓶の中の白い液体は、
傾けると、少なくなっていく。
逆さにしたら、空っぽや。

へえ、よう出来てるな、これ。
ほんまに、飲んだみたいやん。

泣きながらも、
俺の手元を見ていた舞音。

「まのん、が、やる」

涙でくしゃくしゃの顔して、
俺の手から、哺乳瓶を取ろうとする。

「おお、そやな。舞音がやったら、ええわ」

俺から哺乳瓶を受け取った舞音は、
ミルクを人形に飲ませると、
嬉しそうな笑顔になった。

はあ。
やれやれ。

自分がおなか空いてたんと、ちゃうかったんや。
人形、やったんやな。

さて、と。

俺は、改めて、冷蔵庫の中を見る。

大概整理された食材は、
それぞれ、使い道があんのかな。

勝手に使ったら、
あとで、困るんかな。

ん~~~と。

あ。

そうや、ええこと、思いついた。





「おい、そろそろ、起きるか?」

薄暗いベッドルームのカーテンを、一気に開けて、
俺は、声を掛ける。

「んんんんん・・・」

小さく伸びをした彼女は、手元の時計を手に取った。

「えええっ!」

驚いたように、身体を起こす彼女。

「もう、こんな時間なの!?」

彼女に近い、ベッドの隅に、手をかけて、
俺は、彼女の顔を覗き込む。

「おはよう」

そのまま、左の頬と頬を合わせて、いつものあいさつ。

「おはよ」

もう片方も、軽くあわせる。

「起こしてくれたら、よかったのに」

「たまに寝坊すんのも、気持ちええやん」

ベッドサイドに腰掛けて、
俺は、彼女の手から、時計を受け取ると、
元に戻した。

「今日は休みやから、慌てて家事せんでも、ええよ」

「でも、舞音は? おなか、すかしてるでしょ」

「ああ・・・。おもろかったで。あいつ、な・・・」

俺は、今さっきの、ミルク事件を話してきかす。

「ごめんね」

ん?
なんで、謝ってんねん。

「舞音、ここのところ、自分の思い通りにいかないと、
 すぐにカンシャク起こすの」

「そんなん、お前のせい、ちゃうやん。
 謝らんでもええよ」

俺は、彼女の頭を撫でる。

「いや、ほんでな。
 ベランダに出たら、ええ天気やねん」

彼女は、窓の外に目をやった。

「みたいね」

「せやから、な、出かけよう」

「え? 今から?」

「おお。
 桜、見に行こうや」

「さくら?」

「お花見、お花見。お弁当持って、舞音連れて。
 近くの公園でええから、行こ」

「じゃあ、すぐに、お弁当の仕度・・・」

「あ、それは、ええねん」

「え、でも。今、お弁当持ってって」

「ふふん、もう、出来てるから、心配いらん」

「出来てる・・・?」

少し、間があって。

「それ、お母様?」

「なんで、そこで、おかんが出てくるかな」

「だって」

「だって、ちゃうわ。なんでやねん」

ツッコミは、俺の得意ちゃうぞ。
やらすなや。

「見たら分かるから。行く、やろ? 早よ、着替えて」

「う、うん」






後編へ続く。








STORY.17 バレンタインの夜に 後編

2009-03-07 09:00:01 | 小説・舞音ちゃんシリーズ
本編に入る前に、あとがきもどきを。

順調に書きすすめていた本編ですが、
最後の最後のキメのところで、

ぷつっと、

言葉が途切れてしまいました。
終われないまま、時間だけが過ぎていきました。

飛び出してくる言葉はあるものの、
どれも、しっくりこないまま。
結局、
最後に浮かんできたのは、
あまりにも、ありきたりな、平凡な一文でした。

やっぱり、最終的には、そこか、
と思いながら、
それを最後の文章にして、
お話の決着をみました。

舞音ちゃんは、相変わらず、自由です。

本編の中でもですが、
私の頭の中でも。

今回は、突如として、チョコでベタベタの手を広げて、
抱っこをせがむシーンから、始まりました。

次は、どんなことをやってくれるのか、
ちょっと、楽しみな作者です。

それでは、続きから、後編です。



せやから、ライブの日やろ。
毎年恒例の、バレンタインデーライブ・・・

あ!!

「バレンタインデーや!!」

「ご名答」

「あのチョコ、それか!」

「舞音が言ったでしょう?」

「へ?」

「言わなかったの? ちゃんと教えたのになあ。
 舞音、もう一回、パパに言ってごらん?」

促されて、舞音が、大きな声で叫ぶ。

「ばえちゃいん! ばえちゃいん!」

「それって、『バレンタイン』?」

「そうよ、ちゃんと、そう言ってるじゃない」

「おいおい、待てや。『ばえちゃいん』やぞ?
 そんなん、分かるかァ?」

「なんで分からんの?」

いや、そう言われても、やな。

「舞音のことなら、なんでも分かるって、豪語してんのに、
 そんなことで、いいんでしょうか?」

イタイとこ、突いてくるわ。

「すまん、悪かった」

そうや。
ここまで来て、もうひとつ、思い出したわ。

毎年毎年、ライブがあって、
一緒にはおられへん、この日。
二人にとっては、大切な記念日やったのに。

オレは、
自分の仕事ばかりが楽しくて、嬉しくて、

彼女に、寂しい思いさせてることすら、
忘れてた。

どんだけ、自分勝手やねん、オレ。

それに。

舞音が生まれてからは、
彼女は、生活のほとんどが、舞音中心になってる。

夜が遅くなるライブには、
舞音が眠くなりがちで、
ぐずったら周りに迷惑かけるし、気も使わせるから、

なかなか連れては出られへんって、

ため息交じりに言うてたのを、
今さらながらに、思いだしたわ。

ライブに限らず、

オレのステージを見るのが、
なにより楽しそうだった彼女の笑顔を、
もう、ここしばらく、見てないことに、
オレは、思い至った。

「今日が、なんの日か、思い出したみたいね?」

「ん。思い出した。結婚記念日や」

彼女が嬉しそうに、笑顔になった。

「はい、これ」

彼女が、手にしていた小さな小箱を、オレに差し出す。

オレは、それを受け取るために、
舞音を降ろそうとした。

「やんやん!!」

降ろされまいと、しがみついてくる舞音。

「ぱぱ、ちゅき、だいちゅき」

「おいおい・・・」

なんで、ここで、それ?

しかも、舞音。
おまえの手、たしかまだ、チョコでベタベタのままやんか。

「いっちょまえに、ヤキモチなんか、妬くなや」

舞音の気を静めるために、
オレは、舞音の顔中に、キスの嵐。

おでこ、ほっぺ、鼻の頭。
ちっちゃな、ピンクのくちびる。

最初は嬉しそうだった舞音の顔が、
次第にゆがんでくる。

「くちゃ・・・」

は?
なんや、それ?

「ぱぱ、くちゃい・・・」

なんやと?

「おりゆ」

自分からオレを突っぱねて、
降ろせと、仕草する。

なんやねんな、もう。

「ふふふ・・・」

笑いを我慢しきれずに、彼女が声を立てる。

「嫌われちゃったわね」

「わけわからんわァ」

「自分で、気付いてないの?」

「なにを、や?」

「お酒と煙草」

ん?

「私は、あなたの、その匂い、キライじゃないけど、
 でも、やっぱり舞音には、ね」

ああ。
そういうことか。

ライブ終わって、打ち上げでメシ行って。
しこたま、
食べて、飲んで。

歌う間は止めてる、アルコールも煙草も、
今日だけ、解禁やったわ。

オレの手から降りた舞音は、
今度は、彼女に抱っこをせがむ。

「ちょっと、待っててね、舞音」

軽く舞音を交わしながら、
彼女が小箱を差し出した。

「チョコ?」

「ううん、違うわ」

「開けても、ええ?」

オレは、小箱の細いリボンをほどく。
中には・・・。

「・・・ミサンガ?」

細く編まれた、薄黄緑色のそれを、
オレは箱から取り出した。

「なんで?」

「つけてくれる?」

「そら、つけてって言われたら、つけんこともないけど。
 ほんでも、なんか、意味アリやったら、訊いとかんと」

「ん~~。腕じゃなくてもいいのよ。
 持ち物の、どこか、隅っこに、つけてほしいの」

「せやから、意味は?」

「・・・わがまま?」

あのな。
答えになってへんやん。

「いっつも、一緒にいたいから」

お?

「今日だって、本当は、あなたのライブ、行くつもりでいたの。
 でも出かける寸前で、舞音がおねむになっちゃって、出かけられなくて」

彼女は、足元にいた舞音に声をかけた。

「ね? 舞音。
 ねむねむ、しちゃったもんね」

それで、こんな時間になっても起きてるんやな?

「だから、ね。
 今日みたいに、そばには行けないときでも、
 そのミサンガが、代わりをしてくれるんじゃないかなって」

ふうん。

「家族のしるし、ってやつか」

「そんな大げさなものじゃないけど」

オレは取り出したミサンガを、右手首に結わえた。

確かに。

音楽に入り込んでるときには、
彼女の存在も、舞音の顔も、
忘れてることのが多いからな。

これは、ちょうどいい、足かせ、なんかもしれん。

舞い上がってんと、ちゃんと、地に足をつけるための。



「おちょろい」

なに?

「こえ、まのん、の、おーくましゃん」

いっつも舞音が抱いてるクマのぬいぐるみ。
そのオレンジのスカーフ部分にくくられたミサンガ。

せやけど、これって。
これって。

「おい、これはないやろ」

オレは彼女の顔を見る。

「だって、舞音がどうしても、そこがいいって、言うんだもの」

苦笑する彼女。

分かってんのか? おい、舞音。
このぬいぐるみは。

だって、
ええ~~~?

「おーくましゃん、だいちゅき」

うそやん、なんでなん?

なんやしらん、
ぼや~っとした笑顔で、にっこり笑うてる、
メンバーの顔が、浮かんできそうやわ。

あかんやろ。

そんなオチ、ありか?
ええんか、これで。

少々、ヘコんでるオレに、彼女が言った。

「この子も、いつか、お嫁に行くわ」

いやいや、それは、あかん、で。

嫁になんか、やらへんわ。
ずっと、そばに置いとく、言うてるやんか。

「惚れた男と暮らせるんが、一番の幸せなのよ?」

うッ! しかし、やな。

「私みたいに」

オレを見上げた彼女が、ふんわり、笑った瞬間、
何かが、オレの中で、ポンッ!と、弾けた気がした。

オレみたいなんと生活するんが幸せと笑う彼女の、
この笑顔が、
やっぱり、オレは、大好きで、
手放したくは、なかったんや、と。

束縛は、するんもされるんも、嫌やけど、
でも、彼女は、
オレのそばで笑うことを選んでくれたんやって。

オレは、彼女を抱きしめて、
彼女の耳元に口を寄せる。

「オレも、や。
 おまえの笑顔があったら、どんなことでも、耐えられるわ」

腕の中の彼女は小さくて、
舞音よりも、たよりなくて。

ありきたり、だけど、
守りたい、
守っていかなアカン存在やってんな。

「やーー! 舞音も、舞音も」

足元で、またしても舞音が抱っこをせがむ。

オレは、腕の力を弱めるどころか、
さらにきつく、彼女を抱きしめた。

「え、ちょッ・・・」

戸惑う彼女が、オレを見る。

「たまには、ええやん。見せ付けてやろうや」

酒くさい、かな。
煙草の匂いが、移ってまうかな。

ええよな。
キライじゃないって、言うたよな、さっき。

「どっちが、コドモ・・・」

言いかけた彼女の口を、
オレは自分の口で、ふさいだ。

教育上は、よくないんもんかな、やっぱし。

目の端に、キョトンとした舞音の顔が入り込んできたとき、
ちらっと、そんなことを思った。

ほんでも。
両親の仲がええのは、悪いこと、ちゃうやろ。

な、舞音。

おまえも、いつか、大きくなったら、
オレと彼女みたいな、
ささやかな、小さな幸せのある家庭、築くんやで。

それまで、
たよりないかもしらんけど、
あんまり、力もないけど、
精一杯、
この腕で、ちゃんとおまえら守ってやるって、
このミサンガに誓うわ。

愛してるからな。








FIN.


STORY.17 バレンタインの夜に 前編

2009-03-03 00:05:06 | 小説・舞音ちゃんシリーズ
えっと、小説をUPしようと思っていた夕刻。

突然舞い込んできたニュースに驚いて、しばし、手が止まりました。

私たちには、なす術はなく、
彼を信じて、祈ることしかできませんが。



・・・前書きです。

このお話は、実を言うと、まだ、未完成です。

私の中で、終わらせ方を、思案している最中、というか。

でも、
時機を逸すると、どうでもいいお話になる気がして、

出来上がっているところまで、
UPさせます。

主人公は、いつもの小さな女の子です。

お付き合いくださる方は、続きから。



バレンタインの夜。

ライブが終わって、オレは、帰路に着いた。

心地よい疲労と、
歌いきった満足感を体中に感じながら。

溢れる音も、歓声も、
熱気も、情熱も、

昔からの仲間や、新しい仲間や、
偉大な先輩らとともに分け合えて、

オレは、この仕事に出会えた喜びと、
諦めずに続けることの大切さを、

何より、それを、
オレ自信が歌うことで、証明できるのが、嬉しかった。




マンションの玄関を開けると、
まだ、リビングに小さな灯りが残っていた。

『また・・・起きてるんや』

ふっと、
オレを襲う罪悪感。

待たせてることへの、それ。

そう感じてしまうオレ自身への、それ。


『先、寝てろって、いっつも言うてんのに』


なんや、腹立たしくなることが、嫌、やった。

頭では、わかってんねんけど、な。

あいつに、そんなつもりはないんやって。
ただ、
待ってたいから、待ってるだけで。

かけらも、
オレを責めるつもりも、
不審がるつもりもないんや、ってことは。

ただ。

オレの方だけを見てるあいつが、

時々、
無性に、
こう・・・・・・。

こんな気持ち、アカンよな。



カチャッ・・・



そおっと、リビングへ続くドアを開ける。

すると。


「パーパッ!!」


走り寄ってくる、舞音。


「な! まだ起きてたんか?」


オレは、荷物を降ろして、舞音を抱き上げる。


「ただいま、舞音。・・・・・・うぅわァッ!!!」


抱き上げた途端、甘い匂いがオレの鼻をつく。

いつもの、ミルクくさい舞音の匂いに混じった・・・。
これって。


「何、持ってんねん、舞音。手、見せてみ」


にこにこ顔で、舞音がちっちゃな手を広げる。

くしゃくしゃになった包み紙。
とろけて、はみだしてる、小さなチョコレート。

いつから、握ってたん?


「おまえ、こんなん食べたら、虫歯になるやん。アカンやろ」

「あげゆ」

「あげゆ、ちゃうわ」


言いながら、舞音の顔を見る。

別に、口の周りは汚れてへんな。
食ったんとは、ちゃうんやな。


「ばえちゃいん」


は? なんて??


「パパ、あげゆ」


あかん。なんや?
舞音の言葉は、まだ、オレにはわからん単語が、多すぎる。

とりあえず、
ベッタベタのチョコを、舞音から受け取る。


「たべて」


これはわかるぞ。
「食べて」や。

いやいやいや。
あかん、これは、食えんやろ。
ベタベタに溶けてるし。

そもそも、チョコみたいな甘いもん、キライやねんから。


「あとで、な。後で食べるわ」


舞音の顔が、みるみる間にゆがむ。

泣くぞ。
泣く前の、脅し顔や、これ。


「う・・・うぇ・・・」


待て待て。
こんな時間に泣いたら、あかん。
近所迷惑や。


「分かった、分かった。食うたらええんやな?」


オレは、渋々、チョコの包みを広げて、
中身を口に入れる。

甘ッ!!

甘すぎて、涙が出そうやわ。
なんで、こんな仕打ちを受けな、アカンねん。

そんなオレの気持ちを無視するかのように、
要求の通った舞音は、にこにこしてやがる。

オレは、包み紙をゴミ箱に向かって放り投げた。

片手で舞音を抱っこして、方向が定まらんかったせいか、

ひらひらしたそいつは、
ゴミ箱には入らずに、床に落ちた。


「メッ!!」


舞音が、ゴミ箱を指して、言う。


「はいはい」


オレはゴミを拾い直して、ゴミ箱に入れ直した。

言うとくがな、舞音。
パパは、仕事して帰ってきて、疲れてんねんで?

そもそも、なんでこんな時間に起きてるん?


「舞音、ママは? ママ、どこや?」


小首傾げた舞音。
まさか、舞音おいて、出かけたんとちゃうやろな。




「あ、帰ってたの?」


キッチン奥のパントリーから、彼女が姿を見せた。
手には、小さな小箱。


「お帰りなさい」


オレの頬に、彼女の頬が、軽く触れる。


「ん」

「舞音、パパに抱っこで、いいわね。あ!!」


なんや。


「舞音から、なにか、もらった?」


くすくす・・・
含み笑いの彼女。

なんで笑ってんねん。笑い事、ちゃうやろ。


「・・・溶けたチョコなら、むりくり、食べさせられたわ」

「むりくり・・・って」

「おまえ、アカンで。こんな小っちゃいうちから、あんなん持たせたら。
 絶対、虫歯になるやん」


オレは、思わず説教口調になる。

彼女の表情が、一瞬曇ったんが分かったんやけど、
あかんな。
舞音のことになると、歯止めが効かんくなるわ。


「ねえ。今日、なんの日だったか、知ってる?」


は?
何を、今さら。


「今日は、大事なライブの日やろ。
 あ、そう言うたら、おまえ、今日のライブ、見にも来んかったな」

「見てほしかったん?」

「オレの歌ってるとこ、舞音にも見せたかったのに」

「あ、私じゃないのね」

「いやいやいや、そこは、そんなん、夫婦やねんから、さあ。
 改めて言わんでも、わかるやん」


彼女の顔が、
ふっと、真顔に、険しくなる。


「あのね? お言葉を返すようですけれど。
 夫婦だからこそ、ちゃんと言わないと伝わらないってこと、
 ご存知かしら?」

「う・・・・」


こいつ、時々、正論でオレを攻めてくんねん。
しかも。
めっちゃ、丁寧語で。

こいつが、こんな言葉使いをするときは、要注意、やで。


「もう一度、聞いてもいいですか?
 今日は、何の日ですか?」






後編へ、続きますが。

少しお時間をいただけたら、と思ってます。
なるべく、今週中には、仕上げたいと思ってます。