すばるに恋して∞に堕ちて

新たに。また1から始めてみようかと。

赤い靴 後編

2008-10-28 15:30:37 | 小説・舞音ちゃんシリーズ
『いや、何ィ、おるんやったら、早よ出てぇや』

「何の用や」

『あんた、今日、休みなん?』

「休みやと、あかんのか」

『機嫌悪そうやな。ケンカでもしたんか』

「ケンカなんか、せぇへんわ。何の用やねん」

『嫁はんは?』

「今、舞音連れて公園行ったとこや。
 買いもんしてくるって言うてたから、遅なるんとちゃうか?」

『あんたがおるのに、舞音ちゃん連れて買いもん行ったんか?
 ・・・あー、あんた、また舞音ちゃんに静かにせえ、言うたやろ』

「そんな言い方、してないぞ」

『けど、似たようなことは、言うてんな』

「・・・なんで、わかんねん」

『そら分かるわ。これでも、あんたら3人育てた経験者やで。
 で? 何があったん?』

俺は、しぶしぶ、今朝からの事の次第を話してやった。

『あほやな、あんたは』

おい、こら。
感想が、それかい!

『あんたが悪い』

「なんでや。俺、何もしとらんぞ」

『せやから悪いって、言うてんの。
 あんたが舞音ちゃんを抱っこしてやったら、一発で済んだ話やん』

「は?」

『まだわからんか?』

「わからへん」

『どんだけ察しが悪いねん。
 あのな、舞音ちゃんは、あんたと遊びたかっただけやねん』

「いやいや、朝から、部屋中、散らかしたいだけ散らかして、遊んどったみたいやで。
 あいつの怒る声かて聞こえたし」

『あんたは、その声聞いても、部屋から出てかんかったんやろ?』

「せやって、曲作りの最中やってんぞ。
 こっちは仕事やんか」

『あんたが部屋に籠もっとったら仕事。
 オトナには分かっても、まだ、2歳になるかならんかのあの子に、わかるかいな。
 普段から家におらん人が、たま~に家におったら、遊んで欲しいと思うんは、
 当然のことやと思うけど』

「遊び相手なら、母親がおるやろ」

『あー、それがそもそもの間違いやわ。
 母親は遊び相手ちゃうねん、お世話係や。無条件には、遊んでもらわれへん。
 ちょいちょい、教育的指導、しつけってやつが入るしな。
 それに、抱っこひとつにしたって、
 母親が抱くんと、父親が抱くんでは、違うもんなんやで』

俺は、あいつの腕の中で泣き叫ぶ舞音を思い出した。

「そんなもんかなあ」

『そんなもんやて。
 せやから、あんたが舞音ちゃん抱っこして、ほんの5分、相手してやったら、
 それであの子の気も済んだはずやわ。それに・・・』

「それに?」

『あんたの嫁はん、頑張ってると思うで。
 舞音ちゃんくらいの年の子が、一番手がかかるのに、
 ほとんどの家事、育児、近所との付き合い事、ひとりでこなして、
 あげく、あんたの機嫌までとって。
 大事にせんかったら、バチがあたるよ』

「あー、分かった分かった。説教なら、いらん。
 用事は何やねん」

『嫁はん、おらんのやったら、ええわ。またにする』

そう言って、いきなり電話は切れた。
ツーツーという音だけが、あとに残る。



俺は、改めて、部屋を見渡した。

小さなマンションの、さして広くないLDK。
よっぽどはっちゃけたんやろ、
足の踏み場もないくらいに散らかったおもちゃ、DVD、絵本。
舞音が描きなぐった、絵にすらならない、お絵かきの紙、クレヨン。
雑多な色に溢れた、子供と暮らす部屋。

けど、気付けば。

子供のもん以外は、きれいに整理されたリビング。
危ない物は、舞音の手の届かんとこへ片付けられたダイニング。
洗いものの1つも残されてないキッチン。
窓の外、ベランダには、今日の分の洗濯物が、風に揺れてる。

舞音は、誰に似たんか、もの凄い気分屋や。
イヤとなったら、てこでも動かんかわり、
一度スイッチが入れば、どこまでだって飛んでくようなとこがある。

今の俺自身やって、自分のこと、扱いにくい時があるのに、
小っちゃい舞音にしたら、なおさら、だよな。
そんな子を一日中相手にして、
そんでも、家のこと、こんだけこなしてるんやな。


『大事にせんと、バチがあたるよ』


オカンの言葉が、耳に響いた。

俺は、ベランダに出て、外を見た。

公園って、どこのことや?
買いもんって、どこの店まで行くん?

そんなことすら、よう知らんことに、今更ながら、気付いた。

目をこらして、まばらな人影を追う。

遠くに、見覚えのある後姿と、
小さな小さな、虹色のリュックを見つけた。





舞音が大好きなこの場所は、ブランコと滑り台と、小さなお砂場があるだけの、
公園とも呼べないような場所。
小さすぎて、あんまり子供も親も見かけないから、
人見知りの私でも、気兼ねせずに、舞音と遊んでやれる。

ブランコを見つけて、走り寄って行く舞音。

バーのついた小さい子用のブランコに乗せてやったら、大喜び。
さっきまでの不機嫌が、嘘のようだ。
何度も何度も、背を押してやる。
飽きるほど、何回、何十回。

一定のリズムじゃないと怒り出すんは、何でなん?
へんなとこにこだわるの、誰に似たんやろう?
でも、楽しそうやな。
もうしばらくは、このままブランコかな。
で、その後、滑り台を繰り返しやって、散歩がてら買い物。
時間、かけた方がいいかな?
遠い方のスーパーにしようかな。
お夕飯、何にしよう?
しまった。
何が食べたいか、聞いてくるの、忘れたわ。
どうしよう?
メールで聞いてみる?
でも、いらんこと聞くなやって、怒られるんも、シンドイしな。
眠たそうやったし、起こしちゃったら、それこそ大変なことになる。
せやけど、もし、あのまま寝てたら、風邪ひいちゃうかも。
どうしよう?
ああッ、もう! 
こんなことで、いちいち悩むの、私らしくない。
・・・あかん、落ち込んできた。
どうして、こんなふうになっちゃうのかな。
たまの、お休み、家族でお出かけ、したかったな。
ひとりの時間も必要なんやろうけど。
家で仕事も、仕方ないんやけど。
普通って、難しい、な。

ぼんやりとしていた私は、誰かに後ろから肩を叩かれた。

振り返ると、

「いつまでブランコさせる気なん?」

その声に一番反応したんは、舞音やった。
「パーパッ!」

「舞音、ブランコ、楽しいか?」

にこやかな彼が、舞音に話しかける。
舞音が、彼に向かって、身を乗り出すように手を差し出す。

「ああッ! 危ないって」

ブランコを止めて、彼が舞音を抱き上げる。

「買いもん、済んだんか?」

舞音を抱いたまま、私のほうを見る。

「え・・・、ごめん、まだ・・・」

彼は、私をじっと見据えた。

「いちいち謝ること、あらへん。怒ってるんとちゃうんやから」

「ごめん」

「ほら、また、謝った」

彼が苦笑する。

「な、今日、俺が夕飯、作ったろか?」

「え?」

「と言っても、作れるんは、焼きそばくらいやけど」

「やきちょば やきちょば

舞音がはしゃぐ。

「舞音、焼きそば、好きか?」

「ウン!」

「じゃ、決まりやな。買いもん、行こか」

彼が舞音を降ろして、手をつなぐ。

「行く・・・よな? 行こ?」

彼が、もう一方の手を私に差し出した。

戸惑いながらつないだその手は、とても、温かかった。

「両手に花、や」

彼が、ぼそっと言った。

「舞音が元気に育ってくれるんも、
 俺がなんも心配せんと仕事してられるんも、
 ぜんぶ、おまえのおかげや。感謝してる。
 こんな贅沢、ほかにないわ」

舞音に視線を落としたまま、私の手を握る彼の手が、少し、強くなった。

舞音にあわせて、ゆっくりと歩き出す。


彼の向こう側で、舞音の小さな赤い靴が、踊った。




         Fin.


続きで、あとがきです。

お付き合い、ありがとうございました。

ここのところ、作者の意思とは無関係に、勝手に動き始めた感のある舞音ちゃん。
この話も、最初、落ち着き先のないまま、舞音ちゃんが動くまま、見切り発車で書き始めたものでした。
そこへ、例のカットと発言があり、ようやく、形になりました。

他の、若い方たちの夢小説に比べたら、どうにもこうにも、昭和から抜け出せない、私の妄想たち。
今どきのセリフも、便利な道具も、使いこなせてませんが、
私には、これで、精一杯なのかも。
いいや、私の気が済めば。
開き直ってます。
開き直ったおばさんは、怖いもんなしです。
このまま、いけるとこまで、妄想し続けます。

よろしく、どうぞ。

さて、いよいよ新曲発売! 今から予約した分を一足先に、手に入れてきます。



赤い靴  前編

2008-10-27 16:30:52 | 小説・舞音ちゃんシリーズ
本日やってきたYou&Jの会報とともに、安田君の主演舞台が決定したとの案内が。
いいなあ、いいなあ、お仕事があって。すばる君は、ないのかしら?
今度こそ、娘を行かせてあげたいなあ。
詳細が待ち遠しいわ。


さて、今回も、妄想小説のUPです。

前書きです。

妄想の種は、過日のレコメンの、亮ちゃん生電話時のすばる君の発言と、
ポポロ12月号の、右手を差し出している小さなカットです。

ここのところ、勝手に動き出しちゃってる感のある舞音ちゃんですが、
これも、既婚者ならではの、妄想なのかも。

続きで、本編です。
久しぶりのお休みの日。

朝から自室に籠もっていた彼が、昼すぎになって、ようやく顔を見せた。

「ごめん、うるさかった?」

私は私で、機嫌の悪い舞音をなだめながら家事をしていたのに、
おそろしく不機嫌そうな顔の彼を見て、
思わず、謝っていた。

「んー・・・」

言ったまま、彼はリビングのソファに身体を投げ出すと、
クッションを抱えて、寝る体勢だ。

さっきまで、わけもなく、ぐずぐず泣いては癇癪を起こしていた舞音は、
彼の姿が見えた途端、
手にしていたおもちゃを投げ捨てて、彼に近寄っていく。

「あ、あかん! パパ、寝んねやって・・・」

私が止めるより早く、舞音はソファによじ登り、

「パーパ?」

彼にめがけて、ダイブする。

「うッ・・・! ちょっ・・・何すんねん!!」

不意打ちをくらって、彼がマジ顔で怒る。

彼の剣幕にビックリした舞音は、一瞬、息を止め、
すぐに、大泣きになってしまった。

「あーあ・・・」

私はため息をつく。

舞音が、朝からぐずぐず言ってた理由を、私は知ってる。
彼が家にいるのに、ずっと、顔を見せなかったからだ。

普段から仕事の忙しい彼は、舞音と顔を合わせることが少ない。
たいていは、寝付いたとこの舞音の寝顔を見るだけだ。

たまに、お昼寝が長かったり、時間がずれたりして、
舞音が起きてる夜には、
これでもかっていうくらい、二人でくっつきあってじゃれている。

舞音はパパが大スキで、
パパも舞音が可愛くて仕方がない。
ふたりとも、淋しがりで、甘えたがりやから、ね。

なのに、今日は。

朝からお家にパパがいる気配がするのに、顔を見せない。
パパのお部屋は入っちゃダメって言われてるから、
行こうともしないけど、
でも、中にいるなってことは、
物音がしたり、かすかに鳴るギターの音で分かるらしい。

パパがいるのに、
一緒に遊びたいのに、
姿が見えない。

それがどうしてなのかは分からなくても、
舞音なりに、パパに出てきてほしくて、
朝から小っちゃい頭で考えたんだよね。

おもちゃ箱ひっくり返してみたり、
突然、TVの音、大きくしたり、
普段なら絶対しないようなイタズラして、私に怒られてみたり。

「どないしてん、何してんねん、舞音おいで」

って言って、パパが抱っこしてくれるの、待ってたんだよね。

なのに、やっと顔みせたパパは、
舞音を見もせんと、ソファに寝転んでしまったから、
振り向いてほしくて、強硬手段に出たってわけ。

まぁ、でも、舞音?
いくらあんたが月齢のわりに小柄でも、
不意打ちダイブは、ちょっとパパが気の毒かなぁ。
パパの身体、細いねんから、折れたり怪我したりしたら大変やねんで。

「ちょお、舞音、黙らせて。
 今、せっかく言葉出そうやったのに、飛んでしもうた」

私は仕方なく、舞音を抱き上げる。

のけぞって抵抗する舞音。

そりゃ、そうやんな。
抱っこしてほしい相手はパパなんやから、
ママに抱っこされたって、泣き止むどころか、火に油やわ。

「うぇ・・・うぇん・・・、パ、パァ、うッ、ひッ・・・ひっく」

私の腕の中から落ちそうなくらい大暴れの舞音。

「な、舞音、お散歩行こ。公園行って、ブランコしよ?
 ついでに、お買い物も行こう。お外、気持ちええよ?」

舞音に言い聞かせてる振りで、その実、彼にも聞こえるように、
ちょっと大げさなくらい声をはりあげた。

せやって、放っといたら、お休みの日に一歩も外に出ないくらいのひきこもりさんやし。

新しい曲の詞、
言葉が出んときに、狭い家の中におったって、しゃあないやん。
外に出たら、ちょっとは気分も変わるん違うかなあ。

いらんお世話かなあ。

お気に入りのピンクの帽子かぶせて、
ちっちゃいジュースとお菓子とハンカチ入れた、虹色のリュック背負わせて、
真っ赤なお靴、履かせた頃には、

舞音も、ちょっとおとなしくなった。

泣き疲れたんか、
泣いてもあかんと思ったんか、
変に素直に、されるがままの状態や。

涙でぐしょぐしょの顔を、濡れたタオルで拭いてやったら、
ものごっつ、怖い顔で、こっち睨んでる。

舞音、その目、パパそっくりやねんけど。

ママ、何もしてへんやん。
ママを睨むんは、お門違いやと思うわ。

「行ってきまーす」

彼に聞こえるように、
玄関からリビングに向かって声をかけた。

でも、返事は返ってこんかった。






静かになった部屋。

俺はソファに身体を投げ出したまま、目を閉じていた。

頭の中に飛び交う、様々な思いと単語を紡いで、詞にする作業は、嫌いじゃない。
すんなり、苦もなく、吐き出すように出てくるときもあれば、
どんだけ頭をひねっても、ばらばらな単語が点在するだけで、
一向に形にならん時もある。

今日は後者や。

どっかで、なんかが引っかかってる。
それが何かが分からんくて、妙にイライラすんねん。


と、突然、家の電話が着信を告げた。


無視して放っといたら、留守電に切り替わった。

『何ィ、おらんのォ? 舞音ちゃーん、ばァばやでぇ』

けたたましい声は、聞き覚えのある声やった。
俺は、慌てて受話器を取る。

「オカン!?」



後編へ続く



寝顔 後編

2008-10-01 08:31:16 | 小説・舞音ちゃんシリーズ
彼に近づいて、寝顔を見る。

安心しきったかのように、無防備な寝顔、半開きの口。

アイドルが仕事とは思われへん。

「ねえ、もう、お肉、焼けるって」

そっと、声をかけながら、肩に触る。

「あ・・・」

寝ぼけたかのような声で、目を開けた彼は、開口一番、
「まのん、舞音は?」

「大丈夫。あっちで、ちゃんと他の人に抱っこされてるから」

体勢を整えた彼が、私の指さした方を見る。

「ああ、そうか。抱っこ、好きやからな、母親と一緒で」

もう! 寝起きで、なに、言うてんの。
本当なら、自分が面倒みなアカンとこやのに。

「怒ったらあかん。せっかくの可愛い顔、台無しやで」

言うが早いか、彼が私に、軽くキスをした。


「あーっ! 小っさいおっちゃんら、キスしてる」


メンバーの家の男の子が、目ざとく見つけて、はやしたてた。

「羨ましかったら、おまえも、早よ、嫁さん見つけろ」

だから。
子供相手に、なに言うてんの。

「そしたら、舞音ちゃん、嫁はんにする!」

ほら、逆襲に合うた。

「あかん、あかん。舞音は嫁にはやらん。俺のそばにずっと置いとくねん」

「そんなん、舞音ちゃんに聞くわ。舞音ちゃーん・・・」

「あ、待て! こら」



「舞音ちゃん、僕の嫁はんになる?」

「お。いきなりプロポーズか? 気ィ早いなあ」

舞音をずっと抱いてたメンバーが、舞音を降ろして言った。
キョトン、としてる舞音。

「抱っこ、したるで」

その男の子が、手を差し出した。

「待て、こら。舞音は渡さへんで。舞音、お父ちゃんとこ、おいで」

男の子の隣で、おんなじように、舞音に向かって手を差し出す。
にこォっと、笑った舞音。
迷わず、男の子の手を選んだ。

「ええーっ! なんでぇ?」

あーあ、ショック受けてるわ。

「おい、今からそんなんで、舞音ちゃん、嫁に行く時、どないすんねん」
「あーあ、これは、オトナになったら、男心をもて遊ぶなあ」

落ち込む彼を尻目に、舞音は、男の子に抱っこされて、ニコニコやん。
ちょっと、危なっかしい手つきやけどな。
落とさんとってや。

「あかん、フラレた・・・・・・」

落ち込みすぎでしょ。

「もう、これは飲むしかない! ヤケ酒やぁ!」

彼が叫ぶ。


それまでニコニコの舞音が言うた。
「ママ、パパに抱っこ」

は? なんて?

「ママと一緒、抱っこ」

おいおい。

周りがニヤニヤしてる。

「そうかあ、舞音ちゃんのパパとママ、ラブラブなんや」
「舞音ちゃん、羨ましかったんや」
「真似っこのつもりかあ」

たまに放つ一言も、父親そっくりのタイミングやん。
さすが親子。

違う、感心してる場合とちゃうわ。恥ずかしい。
顔、赤くなってきた。

彼が、男の子の手から、舞音を奪うように抱き上げた。

「舞音、ええか、覚えとけよ。
抱っこはな、大スキな人としか、したらあかんねんぞ」

「チュウは? パパ、ママ、チュウでしょ。 まのんは?」

舞音ちゃーん? お母さん、恥ずかしいんですけどォ。

「チュウも、や。大スキな人とだけやで。
 お父ちゃん、舞音のこと大スキやからな。チュウしよか」
「うん」

CHU!

あーあ、もう。皆、笑ってるやん。

「ああもう、めんどくさい、めんどくさい。 さあ、食うぞ」


舞音を抱いた彼が、私を手招きした。

「やっぱり、血は争えんな。舞音、おまえに似て、俺の心掴むの、上手いわー」

舞音は。
彼の腕に抱かれて、眠たそうに、目をこすってる。

「おまえも後で抱っこしたるからな」

彼がいたずらっ子のように、横顔で笑った。
さっきの、舞音のにこォっとした顔とおんなじやん。


「ええなあ、俺も早よ結婚しよっと」

まだ独身のメンバーが、大きな声で宣言した。
その場にいた皆が、笑顔になる。

彼の腕の中で、いつのまに寝息を立て始めた舞音の、その寝顔は、
うたた寝していた彼に、そっくり、だった。

そんな何でもない、当たり前の小さなことが、
なんだかとても嬉しい、夏の一日・・・。


                                               Fin.

続きは、あとがきです。
お付き合い、ありがとうございました。
妄想の種は、お気づきのとおり、ヨコちょの撮ったBBQの写真、あの小さなワンショットです。

できれば最初は女の子がいいなって、すばる君のコメント、10月号のヲタ誌にありましたけど、
このお話ができたのは、それが出るより前でした。
自分の姪っ子にすら、デレデレメロメロなすばるくん。実の子だったら、どうなるんでしょう?
女の人に、この人の子供を生みたいって、種としての本能があるように、
男の人にも、無意識に自分の遺伝子を残そうとして子供を欲する時期はあるようで。
今現在、∞のメンバーたちも、その途中にあるようなコメント続出してますよね。

いつかはみんな結婚して家庭を持つんでしょうけど、それまでは、夢のなかだけでも、夫でいてね。


寝顔 前編

2008-09-29 12:28:27 | 小説・舞音ちゃんシリーズ
夏の暑い一日。

たまたま取れたお休みに、彼の仕事仲間と連れ立って、BBQにやって来た。

準備は全部、彼の仲間がしてくれて、車も大きなワゴンを手配してくれて、
私たちは、迎えに来たその車に乗ればいいだけ。

昨日の仕事が深夜終わりだった彼は、車に乗ったら爆睡状態。
途中のスーパーで食材を買うときに目を覚まし、
あれこれカゴに入れたかと思うと、突然、花火を買うといいだした。

「アホか、おまえは。真昼間から花火やって、何が楽しいねん。戻して来い」

メンバーに言われて、しぶしぶ戻す。

「ほしたら、これは?」

手にしていたのは、虫取りの網。

「川で何がしたいねん、おまえは。泳いで、肉食って、そんでええんちゃうん?」

メンバーの言うことは、素直に聞くやんな。網も、とりあえず戻してきてるわ。
子供みたいにはしゃいで、なにげ、このBBQを一番楽しみにしてたんは、この人かもしらん。
ここんとこ忙しくて、ろくにお休みなかったし。
ドラマなんか撮ってたら、知らん人の中で随分、緊張もしてるんは、
そばにおったら、痛いくらいに伝わってくる。



あっちこっち、良さそうな場所、探して、荷物降ろして、炭の準備して、
実際に食べれるようになるまで、結構時間がかかる。

「ママぁ・・・」

私の足元にしがみついて来たんは、一人娘の舞音(まのん)。
ようやく2歳になるところ。

「なに? こっち来たら危ないって・・・」

さっきまで、彼と一緒にいたはずじゃ・・・・・・

「パパぁ、ねんねしたぁ」

は?

言われて娘が指さすほうを見れば、
キャンピングチェアに座った彼が、若干、体を傾けて、身動きひとつしない。

ちょっと、ちょっと。

みんな動いてんのに。
自分の子供くらい、面倒みてよ。

舞音を抱き上げて、彼に近づこうとした時。

「ええやん、寝かしてやれば」
「そうそう、疲れてんねん、きっと。今、ドラマの撮りの最中やろ」
「肉、焼けるまでは、あいつの出番はないわ」

彼のメンバーたちが言ってくれる。

「人見知りのあいつにしたら、ドラマの現場なんて、気疲れの連続なんやろ」
「舞音ちゃんやったら、俺が相手したるし。舞音ちゃん、おいで」

手を差し出されて、舞音は素直に、その腕に抱っこされる。

私も彼も、決して愛想のいいほうじゃない。
どちらかと言えば、人見知りで、話す相手の顔だって、よう見れん。
なのに、その娘は全然違って、誰にでも愛想がいい。

人見知りが始まる月齢になっても、全然平気で他の人に抱っこされてたくらい。

「親の欠点、補ってくれてるんやろ」

彼はそう言って笑ってたけど、母親の私にしたら、複雑やってん。
人見知りって、母子の関係がしっかり出来てたら、絶対するもんやって、育児雑誌にあったもん。
彼見てたら、そうかなあって、思うやんか。
結婚して、子供が生まれた今だって、オカン大スキやねんから。
でも、これは本人に言うたらあかんことやけど。
絶対逆ギレするもん。
「オカン好きで、何がアカンねん」って。
アカン、とは言うてないんやけどな。もうちっと、親離れしてやって、思ってるだけやねん。
私がオトナやからええけど。
普通やったら、嫁姑戦争の勃発やで。

「そろそろ、肉、焼けるで。子供ら、先、食べさせようか。
 あっちの寝てるんも、もう起こしたって」

「あ、じゃあ、呼んでくるね」

                                        後編へ続く