すばるに恋して∞に堕ちて

新たに。また1から始めてみようかと。

STORY.43 秋桜

2013-09-29 18:57:47 | 小説・舞音ちゃんシリーズ

やっと、できました。
長かった。

書き始めたのは一年前で。

途中なんともならなくて止まっちゃって。
そのまま放置。

つい先日、ようやく動き出してくれたものの。

相変わらずの表現力不足に追い込まれる私。

昨夜。
歌うまキッズを見つめるすばるの瞳が優しくて、優しすぎて、愛おしくて。

夜中に一気に進めたものの。

はぅー(>_<)
言葉って、難しい。

そんな作品ですが。

もしお読みいただけたら幸いです。






STORY.43  秋桜





小さな手をひきながら歩く散歩道。

乾いた風が、可憐な花の上を渡ってゆく。
濃い紅、薄い紅、ときおり混ざる白。

駈け出そうとする舞音の姿が、そこに溶けていきそうだ。


「あの歌は、こんな季節の歌だったのよね」


傍らで、ゆっくりと彼女がぽつり。

「あの歌?」

舞音を目の端に入れつつ、俺は彼女に問い返す。

「大好きだったの・・・」

彼女が花に視線を移す。

「でも、聞けなくなったし歌えなくなったわ。おかしいわね」

「なにそれ。わからへん。俺、知ってる歌?」

「どうだろう、もうずっと前の歌。それこそ、生まれるか生まれないかくらいの頃の」

「そんな古い歌、なんで知ってんねん」

「母が、口ずさんでた。こんな季節になると・・・」

「へぇ・・・あ!あかん!あかんで、舞音!! そっちは危ないって!」

わき道へ逸れようとする舞音を追いかけて、その会話はそこで途切れたままになった。

「ぱーぱ、あえ」

抱っこした舞音が指差した先に小さな教会。

華やかなドレスと、にぎやかな笑顔があふれる真ん中に。
ひときわ目立つ白い衣装。

「ああ。結婚式やな。お嫁さんや、舞音。奇麗やな」

「およめしゃん。まのも、あれ、きゆ」

「んあ? きゆ? 何を・・・あぁ、ウェディングドレスか」

「まの、きえゆ?」

「んー、着れるっちゃ着れるやろけど。もっとおっきィなってからやな」

「まの、おっきィ」

「いやいや、まだ、そんな急いでおっきィならんでもええで。ゆっくりでええから」

「まま、おっきィ」

「そやな、ママはおっきィな」

「まま、きた?」

「んー、ママか、ママはな・・・」

「着なかったわ」

俺の後ろから、彼女が舞音に話しかける。

「舞音は着れるといいわね」

そう言いながら、舞音の頭をくしゃくしゃっと撫でた。

「そしたら・・・」

彼女が言い淀む。

「そしたら、なに?」

続く言葉を聞きたくて、俺は尋ねる。

「あなたは花嫁の父ね」

話を遮るように、彼女が、笑って見せた。



なぁ。
やっぱり、着たかったはずやんな。

一生に一度の、ウェディングドレス。

俺は、着せてやれんかったもんな。

豪華な式も、祝いの席も、
二人きりの旅行さえ。

女の子が憧れるだろう、そのすべてを。
振り切って。

俺と「共に」と誓っただけで、一緒に暮らし始めた彼女。

あの時、それでいい、と彼女は言った。

「あなたが、そばにいてくれるだけで十分だから」と。

「幸せにする、なんて言わないで。
私は私で、幸せくらい見つけられる。
あなたがいたら、幸せをみつけられるから」

その言葉どおり。

彼女はいつも、幸せを描いたようにふんわり笑う。

我慢することも悔しいことも、しんどいことも、
すべて呑み込んで。

言葉や気持ちがすれ違う時ですら。
その静かな物言いは変わらない。

・・・・・・変わらない、っていうのはちょっと違うな。

すれ違うほど、より静かになっていくからな。

言葉や口調が、じれったいほど丁寧になってくよな。

実をいうと、あれ、
俺、ちょっと怖いねん。
感情ぶつけてくれた方が、なんぼかマシやな、って思うわ。



風が、カーテンを揺らした。

秋の陽が、リビングに降り注ぐ。
温かくもあり、涼しくもある、その陽だまりの中で。

お昼寝してる舞音に付き添って、
身体を横たえている彼女。

やんちゃな舞音につきあって、あれこれ世話焼いて。
毎日毎日、疲れてるんやろうな。

起こすん、可哀そうやねんけど。

時間的なこともあるしな。

「なあ、ちょっと、ええ?」

彼女の側に座り込んで、軽く肩を揺する。

「え? あ、ごめん、寝ちゃってた」

「風邪ひくで」

「う、うん・・・」

まだ、ぼんやりした頭で、目をこすりつつ彼女が俺を見る。

「どうしたの?こんな時間に。もう今日の仕事、終わったの?」

「んー、仕事は終わったっていうか・・・」

ほんまは、今日は仕事違うたんやけど。
それは、まだ、内緒や。

「舞音、今起こしたら泣くやんな」

「んー。起こしたくないのが本音だけど、なに?」

「ちょい、出かけへん?」

「今から?」

「手伝うて欲しいこと、あんねん」

「なに?」

「今日してた撮影のな、女の方のモデルがアカンことなってもうて」

「アカンことて?」

「ま、いろいろとな。で、その代役、手伝うてほしいねん」

「モデルなんて出来ないよ、私」

「ええねん、任せときゃええようにしてもらえるし」

「舞音、どうすんの」

「舞音も一緒や。舞音抱っこして、ちょい笑ってくれてたら、そんでええから」

「えー・・・?」

尻込みする彼女。
当たり前っちゃ、当たり前なんやけど。

「1回だけ、頼むから」

顔の前で両手合わせて、必死に頼む。

「しょうがないなぁ・・・じゃあ、舞音を起こして泣かなかったらOKしたげる」

「また、そんな無理難題だすなや・・・」

俺は、苦笑う。
せやけど、これ、引き受けんかったら話にならん。

「まのん?」

小さく呼びかけてはみたものの、起きる気配は無い。

俺は、そぉっと舞音の頭から頬のあたりを撫でる。

寝汗まではかいてへんけど、
ちいさな頬のじんわりとした温かさが手のひらに伝わる。

舞音の表情が少しだけゆがんだかと思えば、
ぱちりと、小さな目が開いた。

あかん。
泣くパターンか、これ。

きょとんと。
不思議そうな顔で、俺を見てる。

舞音、そのまま、そのままやで。
泣かんといてや。

くるんと体勢かえて腹ばいになったかと思うと。
なにかを探す舞音。

「まーまぁ・・・」

あー・・・
あかん。

俺は慌てて舞音を抱きかかえた。

「ただいま、舞音。よう眠れたか?」

いきなり抱きかかえられて、びっくりした舞音。
みるみる顔つきが歪む。

あかん。
抱いたん、失敗やったか?

「お出かけしよか? 舞音、お外好きやろ?」

いきなり本題入ってしもたやん。
子供相手に、なに焦ってんねん。

「あ、先になんか飲むか? ジュースか?ミルクか?それともお茶か?」

こらえきれずに。
俺の隣で、彼女がくすりと笑った。

「へたくそ」

なんやねん、下手言うなや。
下手、ちゃうわ。

「舞音、泣いてへんで。俺の勝ちやろ?」

先手必勝や。
泣き出す前に、こっちが勝ちやってことにしとかんとな。

「まぁ、泣いてはいないわね。しょうがない、付き合ってあげる」

よしよし。
うまいこといったで。

「舞音、パパとママとお出かけしようね」

そういって彼女は俺の手から舞音を抱きとった。

「汗かいてるから着替えだけさせるわね」

「あー、ええ、ええ、面倒くさい。どっちみち向こうで着替えるんやから、そのまんまでええわ」

彼女の腕の中の舞音をもう一度抱き取って、彼女を促す。

あっちの手こっちの手と渡されても、舞音はきょとんとしたままや。

ちょうどええ。
そのまま、大人しぃしとってくれよ。
頼むで、舞音。



貸し切ったのは植物園の中の小さなガーデンテラス。

木々の葉が、風に揺れて小さく音をたてる。

葉の影がゆらゆら。
足元に小さな影を作る。

時折あがる噴水の水は、夜になればライトを映して虹色に変化するらしいけど。
昼間の今はまだ。
太陽の光を集めて、ガラス玉みたいに水面に散らばってゆくだけ。


「お、用意出来たか?」

控え室のドアを少し開けて、俺は覗き込んだ。

『覗かないのよ!』

馴染みのメイクさんの声が飛んでくる。

「ええやん、ちょっとくらい。俺、主役やぞ」

『そのちょっとを我慢するのが男でしょう?』

苦笑混じりに言いながら、俺と入れ違いに部屋を出て行った。

部屋に入った俺は、
壁の大きな鏡の中に真っ白なドレスを着せられて、どこか不安そうな顔の彼女を見つけた。

「なんて顔してんねん」

近寄って話しかけようとしたとき、
足に思い切り鈍痛。

「痛ッ、なんや」

下を見ると、ニコニコの舞音が俺の足にしがみつくように体当たりしてた。

「ぱーぱッ!」

「お、舞音。べっぴんさんやな」

「まの、きえ?」

「きえ・・・?おぅ、綺麗やな、可愛いで」

「およめしゃん、みたい?」

薄いピンクのドレスを着せられた舞音。
髪までくるくる巻いてもらって、リボン付けられて。

「お嫁さんっていうより、お姫様やな。パパの大事なお姫様や」

俺は舞音を抱き上げて、彼女に近づいた。

いつもの笑顔は、そこにはなくて。
困ったような、戸惑ったような、不安そうな色。

「なんて顔や」

純白のドレスに不似合いな表情。

バレたか?失敗やったか?

「え、だって・・・これじゃ舞音抱っこできないじゃない」

そっちかぃ。
なんの心配やねん。

「舞音は俺が抱っこしてるから、ええやん。なー?舞音」

俺に顔を寄せて舞音がくしゃくしゃな笑顔になる。

「ほら、舞音みたいに笑ってみ?」

「笑うなんて出来ないもんー。撮影なんて、やっぱり無理ぃー」

「アホやな、いつもみたいにしてたらええねん。まんまでええから」

「まんまって言ったって、カメラ、慣れてないもん」

俺が言った撮影って言葉を、
疑いもなく思い込んでる彼女が、たまらなく愛おしいわ。

「そんなん、俺かて未だに慣れてへんわ。顔引きつってるなって、よう言われるし」

「・・・ああ、確かにね、そうね」

何かを思い出したかのように、彼女が少し笑った。

「あ、なんや笑うなや。笑うとこちゃうやん」

彼女が俺の顔をじっと見てくる。

「何や」

「そばにいてくれるのよね?」

「当たり前やん、俺がおらへんかったら意味あらへんし」

「うん。じゃあ、頑張る」

「・・・普通でええから。そのまんまが魅力なんやから」

俺は彼女の手を取って、上から包むように舞音の手と重ねた。

「俺だけやない、舞音も一緒や」

安心したように、彼女が微笑んだ。


『ご案内します』
頃合を見計らったかのように、スタッフの声がかかった。

俺はブーケを彼女に手渡す。

濃淡のピンクと白を取り混ぜて、
秋桜だけでアレンジした、素朴で可愛らしいブーケ。

「これ・・・」

彼女が俺を見上げる。

気づいたかな、気づかれたかな。

あの日、彼女が思い出した歌の、タイトルと同じ花やからな。



扉の前に立つ。

音楽が流れ始める。

まだ不思議そうな表情の彼女。

まぁ、わからんでもないが。

俺かて、ドッキドキやで。
うまいこと、いったらええねんけど。

俺は彼女を横目に、小声でささやく。

「大丈夫、俺がいてる」

彼女の手が強く握り返してきた瞬間、
扉が開いて、強い光が俺たちを包んだ。


シャッター音の代わりに耳に飛び込んでくるのは、
「おめでとう」の声。

強い光は撮影のライトではなく。

大きなガラス窓から注ぎ込んでくる、滲んだ赤い夕日。

目の前には。

俺のメンバーと。
少しのスタッフと。

それから、彼女の親。

びっくりしたんやろな。
彼女の動きが止まって、ピクリとも動かへんようになった。

「なに・・・これ・・・」

絞り出すような、震える声が漏れた。

「分からん?結婚式」

「・・・誰の?」

「アホやな、そんなん、聞くか?」

「撮影は・・・?」

「してるよ、ほら、あそこで」

小さなビデオカメラを片手に、メンバーが妙な動きでアピールしてる。

何してんねん、画面ブレるやろ。
ちゃんと撮らんかぃ。

ことを理解した彼女の瞳から、みるみるうちに涙が溢れ出す。

「ああああ、アカンて。泣くなや、泣き顔みたいんとちゃうんやから」

「まーま、ないちゃ、めーっよ」

小さな手で、舞音が彼女の涙を拭おうとする。

「まーま、きえいねー。およめしゃんみたいー」

「みたい、ちゃうで。お嫁さんや、パパの、自慢のな」

ああ。そうや。

こんな。
将来がどうなるかさえ漠然とした、不安定な。
そんな仕事をするしか能のない男のところに。

覚悟ひとつで嫁に来たんやもんな。

いつでもどこでも、誰にやって。
胸張って自慢したる。

俺の嫁や。

「大好きやで」

舞音越しに彼女にささやく。

「・・・ばか」

照れたように彼女は笑って。

「ありがとう」

俺の手を、もう一度握り返してきた。

伝わる温もりが優しく、俺の身体に流れ込んでくる気がした。

「だから、この花だったのね」

「お義母さんに聞いてん」

少ない出席者に隠れるようにして。
彼女の母は一生懸命に拍手をしてくれていた。

「秋桜・・・」

嫁ぎゆく娘と、送り出す母の。
ゆっくりとした愛情を紡いだ旧い歌。

いつか。
彼女も舞音と、そんな一日を迎えるんやろな。


ふんわり。
温かい。
柔らかな。
包み込む。

秋桜のような。

その笑顔を。

任せてくれるか?

頼られるんは苦手やった俺やけど。
どこまで出来るんか、頼りになるんかも分からんけど。

この手で。
守りきれるものなら全力で。
守りきってみせるから。


彼女の母の笑顔が、彼女に重なり。
彼女の笑顔が、
舞音に重なってゆく、命のつながり。


彼女の手の中の秋桜が、
かすかに揺れた。

まるで微笑っているかのように。




Fin.


2 コメント

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Unknown (のゆから、やっこさんへ)
2013-09-29 22:08:38
ありがとう。

赤い人の優しい瞳が後押ししてくれました。

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Unknown (やっこ)
2013-09-29 19:51:39
のゆさーん!!素敵なお話ね。泣いちゃった。
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