参考元
論文要旨:アラキドン酸に代表されるω 6- 多価不飽和脂肪酸(PUFA)代謝物は炎症反応を誘導・助長する役割を担っている。
一方,エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)に代表され
るω 3-PUFA は抗炎症作用を示すことが知られているが,その詳細な抗炎症作用誘導メカニズムについては長らく不明であった。
近年,ω 3-PUFA 由来の脂質代謝産物の同定が進み,ω 3-PUFA である EPA や
DHA から代謝されて生じる脂質メディエーター(レゾルビン,プロテクチン,マレシンなど)に強力な抗炎症・炎症収束作用が見いだされ,ω 3-PUFA 摂取による抗炎症作用の実効分子になっていることが明かに な っ て き た。
Yokomizo, T., Izumi, T., Chang, K., Takuwa, Y., and Shimizu, Tらは1997年に世界で最初のロイコトリエン受容体の発見となったBLT1のcDNAクローニングをNature誌に発表しました。さらに2000年BLT2低親和性タンパク質発表した
Yokomizo, T., Kato, K., Terawaki, K., Izumi, T., and Shimizu, T. A second leukotriene B4 receptor, BLT2: a new therapeutic target in inflammation and immunological disorders. J. Exp. Med. (2000) 192: p421-432興味深いことが見つかりました。
1)BLT2へのLTB4の結合は、これまで開発されてきたBLT拮抗薬の一部では阻害されないこと。これによってBLT2は薬理学的にBLT1とは異なった受容体であることがわかり、新しい創薬のターゲットになり得ます。
2)BLT2のタンパク質翻訳領域(ORF)は、BLT1の転写調節部位(プロモーター)と重なっており、Promoter in ORFの構造を取っていました。これは、細菌や、ウイルスで報告されている構造ですが、哺乳動物では初めて発見されたことになります。
清水孝雄教授、横溝岳彦
その後2016年,12- ヒドロキシ -ヘプタデカトリエン酸(12-HHT)が BLT2 の高親和性リガンドとして再発見された。
Ishii, Y.; Saeki, K.; Liu, M.; Sasaki, F.; Koga, T. et al. FASEB J. 30, 933-947(2016).
最 近,EPA 代 謝 産 物 の 1 つ で あ る 17,18- エ ポ キ シ エ イ コ サ テ ト ラ エ ン 酸(17,18-EpETE) を 抗 ア レ ル ギ ー 性 脂 質 メ デ ィ エ ー タ ー と し て 同 定 し た。 さ ら に そ の 後 の 研 究 か ら17,18-EpETE は G タンパク質共役受容体(GPR)である GPR40 に作用し,好中球の遊走を抑制することで
抗炎症性の脂質メディエーターとしても機能することも明らかにしている。また,ω 3-PUFA は腸内細菌叢にも影響を与えることが知られるようになり,腸内細菌叢の変動を介する事でも宿主免疫制御作用を発揮することが示唆されている。そこで本稿では,脂質摂取により生じる脂質代謝産物の変化,または腸内細菌叢の変動に起因する疾患の制御について紹介する。
ω3-PUFA は ω6-PUFA 代謝系との競合作用だけではなく,生体ならびに腸内細菌に積極的に働くことで疾患抑制に働いていると言える。そこで本稿では,脂質摂取により生じる脂質代謝産物や腸内細菌叢の変化が宿主免疫系の制御を介して,疾患の発症や病態の進展に与える影響について紹介する。
ω3-PUFA 摂取がヒトの腸内細菌叢に与える影
響について,DHA と EPA の混合物(4 g)をカプセル
もしくは飲料の形態で 20 人の健常者に 8 週間投与した
試験により報告されている 41) 。
この試験では ω3-PUFAの摂取形態によらず,Bifidobacterium,Oscillospira 属
の存在量が増加し,さらに飲料の形態での摂取で Rose-buria,Lachnospira 属が増加した 41) 。一方,Coprococ-cus,Faecalibacterium 属の存在量が減少していた 41)。
このことから,腸内細菌叢に与える影響は ω3-PUFA 含有脂質の摂取形態によって異なることが示唆された 41)。
41)Watson, H.; Mitra, S.; Croden, F. C.; Taylor, M.; Wood, H. M. et al. Gut 67, 1974-1983(2018)
さ ら に,ω3-PUFA の 摂 取 に よ り Bifidobacterium,Lachnospira,Roseburia 属など酪酸産生菌が増加することが明らかになった 41,
43)Noriega, B. S.; Sanchez-Gonzalez, M. A.; Salyakina, D.;Coffman, J. Case Rep. Med. 2016, 3089303(2016).
酪酸は腸内細菌による食物繊維の発酵産物であり,GPRs を介して免疫系や代謝系を制御している 44) 。また,炎症性腸疾患の発達もしくは炎症の持続には腸内細菌による酪酸産生量の減少が寄与していることが示されている 5,44,45) 。従って,ω3-PUFA は酪酸生産菌を増加させることによって炎症性腸疾患の改善効果を示す可能性があると考えられる。さらに,ω3-PUFA は腸内細菌叢を変化させることから,
プレバイオティクスとしても機能していることが示唆された。今後,摂取する脂質の質,腸内細菌叢,疾患発症との関係を明らかにすることで,疾患の新たな制御方法の確立が期待できる。
44)Sun, M.; Wu, W.; Liu, Z.; Cong, Y. J. Gastroenterol. 52,1-8(2017)
45) Louis, P.; Flint, H. J. FEMS Microbiol. Lett. 294, 1-8(2009) .
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— EduardoCorrocio (@EduardoCoroccio) December 3, 2024