Epigenetic modulation may underlie the progression of diabetic nephropathy (DN). Involvement of TGFB1 in mesangial fibrosis of DN led us to hypothesize that Tgfb1 DNA demethylation contributes to progression of DN. In primary mesangial cells from diabetic (db/db) mouse kidneys, demethylation of Tgfb1 DNA and upregulation of Tgfb1 mRNA progressed simultaneously. USF1 binding site in Tgfb1 promoter region were demethylated, and binding of USF1 increased, with decreased binding of DNMT1 in db/db compared with control. Given downregulation of Tgfb1 expression by folic acid, antioxidant Tempol reversed DNA demethylation, with increased and decreased recruitment of DNMT1 and USF1 to the promoter, resulting in decreased Tgfb1 expression in db/db mice. Addition of H2O2 to mesangial cells induced DNA demethylation and upregulated Tgfb1 expression. Finally, Tempol attenuated mesangial fibrosis in db/db mice. We conclude that aberrant DNA methylation of Tgfb1 due to ROS overproduction play a key to mesangial fibrosis during DN progression.
平成26年度の国民医療費40兆8,071億円のうち、腎不全の医療費が1兆5,346億円を占めている。
糖尿病性腎症は、一度発症すると、その後血糖値を正常化しても、進行をくい止めるのが困難な事が知られており(メモリー効果)、その背景にはエピジェネティックス異常の存在があると考えられます。エピジェネティックス異常の中でもDNAのメチル化修飾は、一度修飾を受けると安定して固定化されるため、病態により大きな影響を与えると考えられています。そこで、本研究ではDNAメチル化異常について検討を行いました。
糖尿病性腎症の最も重要と考えられている組織学的な変化は、腎臓糸球体の硬化性変化(メサンギウム細胞の線維化)です。エピジェネティクス異常は細胞固有の変化であり、腎臓は多種類の細胞から構成されているため、メサンギウム細胞に注目し、糖尿病モデルdb/dbマウスからメサンギウム細胞のprimary culture細胞を作製して実験を行いました。
研究チームが線維化に関連する遺伝子のDNAメチル化状態を調べたところ、成長因子の遺伝子、炎症関連遺伝子、angiotensin II受容体遺伝子にDNA脱メチル化異常が誘導されていることがわかりました。これまでの報告から成長因子のTGF betaの活性化が糸球体硬化に重要であることが示唆されていたため、Tgfb1遺伝子のDNA脱メチル化の機序に焦点を絞って研究を進めました。
その結果、Tgfb1遺伝子promoter領域の転写因子Usf-1の結合部位への、DNAメチル化酵素DNMT1の結合が減弱することで、DNAメチル化が減少し、Tgfb1の発現亢進が誘導されていることが明らかとなりました。さらにDNAメチル化修飾を誘導する葉酸を投与する実験により、DNA脱メチル化異常が発現亢進の原因であることを証明しました。また、血糖を正常化しても良くならなかったDNAメチル化異常と腎機能障害が抗酸化薬TEMPOLの投与にて改善したことから、DNAのメチル化異常には酸化ストレスの亢進が重要な役割を演じていることを突き止めました。
本研究は、糖尿病性腎症の進行を抑制するためには、エピジェネティク治療薬の開発が重要であることを実証したものであり、糖尿病による腎機能障害の医療に貢献するものと期待されます。
【論文情報】
雑誌名:「Scientific Reports」(オンライン版:2018年11月5日付)
論文タイトル: Aberrant DNA methylation of Tgfb1 in diabetic kidney mesangial cells
著者: Shigeyoshi Oba, Nobuhiro Ayuzawa, Mitsuhiro Nishimoto, Wakako Kawarazaki, Kohei Ueda, Daigoro Hirohama, Fumiko Kawakami-Mori, Tatsuo Shimosawa, Takeshi Marumo, and Toshiro Fujita
URL: https://doi.org/10.1038/s41598-018-34612-3
平成26年度の国民医療費40兆8,071億円のうち、腎不全の医療費が1兆5,346億円を占めている。
糖尿病性腎症は、一度発症すると、その後血糖値を正常化しても、進行をくい止めるのが困難な事が知られており(メモリー効果)、その背景にはエピジェネティックス異常の存在があると考えられます。エピジェネティックス異常の中でもDNAのメチル化修飾は、一度修飾を受けると安定して固定化されるため、病態により大きな影響を与えると考えられています。そこで、本研究ではDNAメチル化異常について検討を行いました。
糖尿病性腎症の最も重要と考えられている組織学的な変化は、腎臓糸球体の硬化性変化(メサンギウム細胞の線維化)です。エピジェネティクス異常は細胞固有の変化であり、腎臓は多種類の細胞から構成されているため、メサンギウム細胞に注目し、糖尿病モデルdb/dbマウスからメサンギウム細胞のprimary culture細胞を作製して実験を行いました。
研究チームが線維化に関連する遺伝子のDNAメチル化状態を調べたところ、成長因子の遺伝子、炎症関連遺伝子、angiotensin II受容体遺伝子にDNA脱メチル化異常が誘導されていることがわかりました。これまでの報告から成長因子のTGF betaの活性化が糸球体硬化に重要であることが示唆されていたため、Tgfb1遺伝子のDNA脱メチル化の機序に焦点を絞って研究を進めました。
その結果、Tgfb1遺伝子promoter領域の転写因子Usf-1の結合部位への、DNAメチル化酵素DNMT1の結合が減弱することで、DNAメチル化が減少し、Tgfb1の発現亢進が誘導されていることが明らかとなりました。さらにDNAメチル化修飾を誘導する葉酸を投与する実験により、DNA脱メチル化異常が発現亢進の原因であることを証明しました。また、血糖を正常化しても良くならなかったDNAメチル化異常と腎機能障害が抗酸化薬TEMPOLの投与にて改善したことから、DNAのメチル化異常には酸化ストレスの亢進が重要な役割を演じていることを突き止めました。
本研究は、糖尿病性腎症の進行を抑制するためには、エピジェネティク治療薬の開発が重要であることを実証したものであり、糖尿病による腎機能障害の医療に貢献するものと期待されます。
【論文情報】
雑誌名:「Scientific Reports」(オンライン版:2018年11月5日付)
論文タイトル: Aberrant DNA methylation of Tgfb1 in diabetic kidney mesangial cells
著者: Shigeyoshi Oba, Nobuhiro Ayuzawa, Mitsuhiro Nishimoto, Wakako Kawarazaki, Kohei Ueda, Daigoro Hirohama, Fumiko Kawakami-Mori, Tatsuo Shimosawa, Takeshi Marumo, and Toshiro Fujita
URL: https://doi.org/10.1038/s41598-018-34612-3