公開メモ DXM 1977 ヒストリエ

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KININARU 技術 38 ビスマスフェライトに Mn を微量添加することで発生電圧が飛躍的に向上する

2020-09-26 04:55:00 | 経済指標(製造業)

【研究成果のポイント】
ビスマスフェライトに Mn を微量添加することで発生電圧が飛躍的に向上。
-193℃において 852 V、室温において 280 V の電圧発生を確認。
ビスマスフェライトに Mn を添加することで、酸素空孔に起因する準位が減少し、フェルミ準位が低下することを実験的に解明。

【概要】
兵庫県立大学工学研究科の中嶋 誠二 准教授、藤澤 浩訓 教授、清水 勝 特任教授、東京理科大学理学部 樋口 透 准教授、高輝度光科学研究センター 保井 晃 主幹研究員、木下 豊彦 主席研究員らの共同研究グループはマルチフェロイック材料注1)であるビスマスフェライト(BiFeO3)にMn を微量添加することで、バルク光起電力効果注2)により発生する電圧が飛躍的に向上することを発見し、また発生電圧向上のメカニズムを解明しました。

バルク光起電力効果は現在市販されている Si を用いた pn 接合型太陽電池とは全く異なるメカニズムで発電する効果で、中心対称性を持たない結晶に光を照射することで誘起される「シフト電流注3)」により発生することが近年明らかにされ、注目されています。また、従来の pn 接合型太陽電池の性能を凌駕する可能性があることが示唆されています。本研究ではペロブスカイト型構造を有するマルチフェロイック材料であるビスマスフェライト(BiFeO3)に Mn をドープすることで、バルク光起電力効果により発生する電圧が飛躍的に向上することを発見しました。その結果、Mn を 0.5 at%ドープした BiFeO3 薄膜では、わずか 260 μm の間に青紫色レーザー光を照射することで、-193℃において 852 V の電圧発生が確認できました。これは従来の Si 太陽電池の発生電圧 0.5 V の約 1700 倍に相当します。またこれは、BiFeO3に Mn をドープすることでその電子構造が変化するためであることを、放射光を用いた軟 X 線および硬 X 線光電子分光法注4), 注5)、軟 X 線吸収分光法注6)により解明しました。

これらの結果は、従来の pn 接合型太陽電池とは異なる、新たな太陽電池の創出に貢献するものです。また、光で駆動する光アクチュエータ等の新規デバイスにも応用できる技術です。

本研究成果は、2020 年 9 月 21 日(イギリス標準時間午前 10 時)付で、英国 Springer Nature が発行する科学誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載される予定です。

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用語

  • 注1) マルチフェロイック材料
    強誘電性、(反)強磁性、強弾性といった複数のフェロイック特性を有する極めて多機能な材料です。
  • 注2) バルク光起電力効果
    従来の太陽電池での光起電力効果はp型半導体とn型半導体を接合したpn接合を形成する必要がありますが、バルク光起電力効果は単一材料に光を照射するだけで光起電力が発生します。このメカニズムは長年未解明でしたが、近年「シフト電流」によるものであることが明らかにされ、注目を集めています。  
  • 注3) シフト電流
    バルク光起電力効果のメカニズムとして、近年明らかになった現象で、結晶構造の非対称性に起因して、電子が光エネルギーによる励起と緩和を繰り返しながら移動していく現象です。従来の太陽電池の変換効率を超える可能性が示唆されており、注目されています。
  • 注4) 軟X線光電子分光法
    低いエネルギー(3 keV未満)のX線を物質に照射し、飛び出してきた電子のエネルギーから電子構造を評価する手法です。物質表面の情報が得られ、電気的特性に重要な価電子帯の情報を得ることに適しています。
  • 注5) 硬X線光電子分光法
    高いエネルギー(3 keV以上)のX線を物質に照射し、飛び出してきた電子のエネルギーから電子構造を評価する手法です。深い位置(< 20 nm程度)の情報が得られることから、埋もれた界面や物質内部の情報を得ることに適しています。本研究ではAu/BFO界面における測定を実施し、より正確な電子状態変化の観察に成功しました。
  • 注6) 軟X線吸収分光法
    X線光電子分光法は電子が存在する準位の情報が得られますが、電子が存在しない準位の情報は得られません。一方、X線吸収分光法は、電子が励起された先の情報が得られます。このことから、半導体や絶縁体の電気伝導に関係する伝導帯の情報が得られる手法です。
  • 注7) 大型放射光施設SPring-8
    兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っています。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来します。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、指向性が高く強力な電磁波のことです。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジーやバイオテクノロジー、産業利用まで幅広い研究が行われています。
  • 注8) フォトンファクトリー
    茨城県つくば市にある、大学共同利用機関法人・高エネルギー加速器研究機構(KEK)のつくばキャンパスにある放射光施設です。PFリング(2.5 GeV)、アドバンストリング(PF-AR, 6.5 GeV)という、2つの放射光専用の光源加速器を有し、世界最先端の研究の場を提供しています。
  • 注9) フェルミ準位
    物質中に存在する電子がもつ最大エネルギーに相当します。このエネルギーは物質の電気伝導特性を決める重要なパラメータです。

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