目に見えないものをそこにあるかのごとく祀るのは宗教や教義ではなく、国民の在り方。いわば日本という國に生まれた民草のこの世に生きる指針、万世一系の国是の本質が民是である秘密は、そこに神があるかのごとく祀る心を持つことが日本人にある。日本人は知情意のパワーは個人の力ではなく別の次元(先祖、神、山、海)からやってくると、正しく考えていた。それが万世一系であって、実在する人間の神祀りではない。つまり自然神をも含めて立体的に人間同胞を生成論で包みこむことが日本人の精神性なのだ。日本人は論理を突き詰めると、真・美・善は死に至ることを知っているから、日本的な世界であればあるほど物事を直線的に考えない。嫡流皇統も同じである。皇統もまた生まれ生成するものである。守破離の能楽の古来の教えも同様に結論を固定しない生成論で成り立っている。
「機関説は芟除(さんじょ)されるべし」と二次國體明徴宣言が出て不穏な空気が充満してきた。
天皇即国家と戦前の右翼思想家が主張した契機は上杉慎吉がそれまで自ら支持していた国家法人説(天皇機関説と同じ)を放擲したことに始まる。上杉慎吉『帝国憲法講義 : 国民教育』147頁。ではなぜ放擲したのか?ここに隠された陰謀が見えてくる。国家を盗むという計略を立てた連中に与したエージェントに必要な条件は国家がまるごと天皇の所有《統治權所在の體樣を國體といひ》管轄であるという状況が必要だった。貴族院議員であった美濃部達吉が辞職に追い込められ天皇機関説事件に始まる大学粛正運動の理論的指導者であり、滝川幸辰、大内兵衛らの追放、津田左右吉の古代史著作発禁事件も、蓑田胸喜の批判論文が発端であった。蓑田も操られていたのかといえば、其うではない。
『國體の本義』には、「大日本帝國は、萬世一系の天皇皇祖の神勅を奉じて永遠にこれを統治し給ふ、これが萬古不易の國體である』とし『國體の本義 精解』において國體の意義について次のように注釈が附されている。
こゝに謂へる國體は、國の成り立ち、平易にいへば、「國がら」の意味である。と
しかし、法律上では、政體に對する用語となつてゐる。卽ち、統治權所在の體樣を國體といひ、統治權の活動形式を政體と名づけ、國體を分ちて、政體を分ちて、君主國體 ・ 民主國體の二とし、立憲政體・專制政體の二としてゐる。
荻野富士夫『文部省の治安機能:思想統制から『教学錬成』へ』小樽商科大学〈平成15年度~平成18年度科学研究費補助金〉、2003-2006年。155頁
文部省の外局である教学局は『国体の本義解説叢書』全13冊を1937年12月から1943年3月にかけて刊行する。この叢書は文部省『国体の本義』の思想を拡充するものであり、例えば紀平正美『我が国体における和』(1938年3月刊)には、日中戦争全面化を踏まえて、次のように説く[486]。
天に代つて不義を討つ、忠勇無双の我が兵が、歓呼の声に送られ、すでに父母の国を出で立った時に、もはや私(わたくし)はない。私の父母もなければ、私の家も、私の業務もない。ただ公(おおやけ)の祖先があり、父母があり、家があり、郷里があり、国があり、最後に天皇が存します。かくて心の内は如何に豊かに、いかににぎやかであろうかよ。〔…〕我が神国日本の将卒のみには、天に代っての将卒でなく、直接に自らが神兵である。かかる大和合(だいわごう)の力こそ、常に十数倍の敵に対してよくその守りを失わず、彼の隙に乗じては、攻撃に転じ、更に彼を制圧し、進んで追撃に移る。追撃又追撃、敵に少しの余裕をも与えない。
杉本中佐遺書より杉本五郎『大義』当時よく売れたらしい。
天皇は国家のためのものに非ず、国家は 天皇のためにあり。
此の大自覚は、世上的価値を倒換して、永遠悠久の 天皇に唯一最高の価値を認むる時、単純極めて明白に現れ来る。魂の救い永遠の幸福が究竟の目的ならば、 天皇は手段方便にして最高の存在に非ず。自己の学殖・職業乃至生活程度によりて、尊皇の程度に上下あらば、そは自己中心の人物なり。唯々身心を捨て果てゝ、更に何物をも望むことなく、只管に 天皇に帰一せよ。
杉本 五郎(すぎもと ごろう)
明治33年(1900年)5月25日 ~昭和12年(1937年)9月14日)は、日本の陸軍軍人。陸大を忌避して戦死を選ぶ。
《この縄文人骨1個体の全ゲノム配列をもとに,現代の東アジア人,東南アジア人,8~2千年前の東南アジア人など80を超える人類集団や世界各地の人類集団のゲノムの比較解析を実施した結果,現在のラオスに約8千年前にいた狩猟採集民の古人骨と日本列島にいた約2千500年前の一人の女性のゲノムがよく似ていることが分かりました。
このように,本研究は,縄文時代から現代まで日本列島人は大陸南部地域の人々と遺伝的に深いつながりがあることが,独立した複数の国際研究機関のクロスチェック分析(※5)によって科学的に実証された初めての研究として位置付けられます。
特に,縄文人骨のゲノム解析は,覺張隆史特任助教,北里大学医学部の太田博樹准教授,国立歴史民俗博物館の山田康弘教授を中心とした『縄文人ゲノム解読プロジェクト(※6)』の成果の一つとなります。
これらの知見は,日本列島に居住していた各時代の人々の起源の解明に将来活用されるだけでなく,広く東アジア・東南アジアにおける人類集団の起源と拡散に関する研究に大きな寄与をもたらすことが期待されます。
本研究成果は,2018年7月6日に国際学術誌「Science」に掲載されました。》