自分が帰る幻想の旅路の終着点のような存在の女たちが無機質で白いだけのシネマスクリーンをその場から離れがたい夢へと変える。その秘密は作品以上に女優自身が放っている。女優の人生が滲み出る。吉原の裏を返すにもそういうテクニックがあった。それは男が求める、可愛い、綺麗を超えた、女優性の実践
太夫の印象が、明りのあて方ひとつで『初会』とはがらりと変ってしまう。女は気分ひとつで、顔まで変ってしまう不思議な生物である。化粧、着衣でも別人になる。明り(照明)はその変化を強調する役を果たす。つまり客は同じ花魁に『別の女』を見つけ出すことになる。それこそ『裏』における吉原者の狙いだった
隆慶一郎. 吉原御免状(新潮文庫) (Japanese Edition) (p.135). Kindle 版.