AERAは感染研の姿勢が問われているというが(確かに世界の趨勢を知った時に何か動くべきだったがそうしなかった)、しかし感染研の消極的な説明責任は果たしているようだ。ただ今回の変更で、自ら無能でしたと表明することまで問われるのであれば、朝日新聞こそ赤字に陥り無能でしたと姿勢が問われるところだろう。
自分達には他人を批判する無制限の資格があるので自分自身を否定するとこの世から国民の財産=知る権利という正義の権能が失われるので自己否定できない。これを正義原理主義の欺瞞という。
国立感染研「空気感染」と明記し波紋 専門家は「感染対策をミスリードした可能性はある」と指摘
国立感染症研究所(感染研)が、新型コロナの主な感染経路として、「エアロゾル感染」(空気感染)があると明記したことが波紋を呼んでいる。これまで感染研は「飛沫感染」と「接触感染」を主な感染経路として説明し、飲食店などでもその認識に基づいた対策を行ってきた。しかし、アメリカなどでは昨年から「空気感染」を主な感染経路として認め、換気などの対策に重点を移してきている。コロナ対策は今後どう変わるのか。
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3月28日、国立感染症研究所のホームページに「新型コロナウイルス(SARS−CoV−2)の感染経路について」と題した記事が公表された。そこにあったのは、次の説明だ。
<(感染の)経路は主に3つあり、(1)空中に浮遊するウイルスを含むエアロゾルを吸い込むこと(エアロゾル感染)、(2)ウイルスを含む飛沫が口、鼻、目などの露出した粘膜に付着すること(飛沫感染)、(3)ウイルスを含む飛沫を直接触ったか、ウイルスが付着したものの表面を触った手指で露出した粘膜を触ること(接触感染)、である>
いま専門家らの間で「なぜ今まで明記しなかったのか理解に苦しむ」とまで言われているのが、(1)のエアロゾル感染について。感染研はこれまで主な感染経路として「飛沫感染」と「接触感染」を挙げていた。それは2022年1月に感染研のホームページで公表された「オミクロン株について(第6報)」にも記載されている。
<従来株やデルタ株によるこれまでの事例と比較し、感染・伝播性はやや高い可能性はあるが、現段階でエアロゾル感染を疑う事例の頻度の明らかな増加は確認されず、従来通り感染経路は主に飛沫感染と、接触感染と考えられた>
こうした説明は世界の認識と異なっている。世界保健機関(WHO)は当初、空気感染を否定していたが、21年4月、ホームページで公開されている主な感染経路の解説に空気感染も明記。同年12月に更新された最新版でも「エアロゾルが空中に浮遊したままになるか、あるいは会話をするときの距離よりも遠くに移動する」として空気感染に注意を促している。
米疾病対策センター(CDC)のホームページでの解説でも、21年5月に主な感染経路の筆頭に「感染するウイルスを含んだ非常に小さな飛沫やエアロゾル粒子を運んでくる空気を吸うこと」と公表していた。
こうした世界の動向を踏まえ、国内でも感染研の態度に疑問を呈する声が上がっていた。22年2月には、東北大の本堂毅准教授ら国内の感染症や物理学などの専門家8人が「世界的なコンセンサスが得られている考え方と一致しない」として、感染研に対し公開質問状を出す事態になっていた。
「空気感染」を明記しなかったことで、どういった弊害が生じるのか。長崎大の森内浩幸教授は「飛沫感染と接触感染の対策で十分とミスリードした可能性はある」と見る。
例えば、飛沫感染の対策として挙げられるのが、飲食店のパーテーションやマスクだ。接触感染の対策では、手指やテーブルの消毒などが挙げられる。空気感染には換気が重要だが、森内教授は「軽視することにつながった可能性は否めない」と指摘する。
「飛沫感染と接触感染という言葉だけでは、『パーテーションを設置して、消毒をしているから対策は大丈夫』と思えてしまう。しかし、主な感染経路が空気感染となれば、換気も絶対にやらないといけない話になります。換気がしづらい飲食店ではいまだに十分な換気の対策が取られていないところはある。本来であれば、国が補助金をつけて換気対策を後押ししなければならない。感染研の不十分な説明が、対策の不徹底につながった可能性はあります」
しかし、いま米国ではさらに踏み込んだ意見が出てきており、注目を集めている。ホワイトハウス科学技術政策局長で大統領副補佐官のアロンドラ・ネルソン氏がホワイトハウスのホームページに22年3月23日に投稿した記事だ。
記事冒頭で「新型コロナが人から人へ感染する最も一般的な経路は、感染者がいた後、数分または数時間もの間、室内の空気に漂っているウイルスを含んだ小さな粒子です」と断言した。ホワイトハウスが「空気感染が最も一般的な経路」という認識を示したのは、初めてと言われている。福岡市の病院に勤務する感染制御医の向野賢治医師はこう説明する。
「WHOやCDCは空気感染を認め、さらにはモノの表面から感染することはほとんどないとして接触感染はリスクが低いと見ている。アメリカ政府はさらに一歩踏み込んで、空気感染が最も主要な感染経路だとして、これまでの対策を、空気感染を中心とした対策に転換していこうとしているところです」
今回、感染研が空気感染を明記した背景には、こうした米政府の動向が影響していそうだ。今後の感染対策はどう変わっていくのか。向野氏はこう見る。
「人ごみの中ではマスクをつけたほうがいいが、一人で散歩をする程度なら、屋外でのマスクは不要ですね。パーテーションは空気の流れを計算して設置しないと、空気の流れを阻害し、感染リスクを高めてしまう。飲食店でも適切に換気されて、正しい空気の流れがあれば、頻繁なテーブルの消毒などは過剰な対応ともいえます」
感染研はこれまでなぜ空気感染について明記してこなかったのか、そして、今回、エアロゾル感染について記した経緯は何か。感染研に尋ねると、次のような回答が書面で返ってきた。
「今回の文書は、新型コロナウイルスの感染経路についてまとめたものになります。これまで当研究所では、さまざまな文書のなかで新型コロナウイルスの感染経路について言及してきました。今回は、それらの知見を整理し、はじめて独立した文書としてまとめたものになります。従いまして、これは既存の知見を整理したものであり、新たな見解を述べたものとは考えておりません」(広報担当)
理由や経緯について回答がなかったので、改めて尋ねると、次のような回答がきた。
「今後とも、状況によりどの感染経路が優勢かが変わり、どのような状況でどの感染経路が優勢となるかは丁寧に議論していく必要があります。個々の感染の現場でそれらを測定することはできないことが多く、明確にどの感染経路が多いかについて特定することは困難な面があります」「また、エアロゾルと飛沫の定義について(特にその大きさの定義について)国際的なコンセンサスが得られていないことから、用語の定義に関しても国内外で多くの関係者を巻き込んで議論していく必要があります」(同前)
新型コロナと向き合っていくためには、科学的で明確な情報が不可欠だ。感染研の姿勢が問われている。
(AERA dot.編集部・吉崎洋夫)