なかなか見ない光景しかし、こんなせせこましい記者クラブはメディア環境としていかがなものか?同じ事件が米国であろうはずもない。勝谷なら鼻でせせら笑っていただろう。
前代未聞である。公官庁に設置された記者クラブで、ある社の報道姿勢やその後の対応をめぐり、他の加盟社が激怒。「出ていけ」と追放したのだ。ブースの使用を禁じられ、鍵の返却まで求められた社は、なんと公共放送のNHK。特ダネを報じたいがためにクラブの取り決めを破ったばかりか、“遺族心情”まで踏みにじったというのだ。
NHKに“追放処分”を下したのは、兵庫県警記者クラブ。5月27日に総会を開き、除名処分とした。処分理由は、「幹事社業務を怠り、遺族と報道機関との信頼を損ねた」。加えて、「説明責任を尽くさず、クラブの品位を傷つけた」ともある。今後、クラブが主催・共催のレクや記者会見への出席を認めず、クラブ内のブース使用も禁止。30日午前中までに荷物をまとめて鍵を返却するよう求めれ、すでにブースはもぬけの殻となっているという。
「発表日時に縛りがかかった情報を先んじて報じてしまった社に、『出入り禁止処分』が下されることはたまにあるが、『除名処分』は聞いたことがない」(某社社会部デスク)
確かに、各報道機関によって自由に行われるべき報道について、他社がここまで物言いをつけるのは滅多にないことだ。いったい何があったのか――。
問題となったのは、知床遊覧船の事故をめぐるNHKの報道である。なぜ北海道の事故について兵庫県なのかというと、遺族であるAさんが兵庫県在住だったためである。
同事故をめぐっては、加熱する報道に対して遺族側から苦情が入っていた。4月28日、札幌の報道各社で構成される「十日会」は、メディアスクラムを避けるため話し合いを持った。そこで「被害者家族や関係者の心情にかんがみ、例えば、代表者が取材を申し入れたり、各社の質問をとりまとめて代表取材したりするなど、各社で協力して、節度ある取材を進める」と申し合わせていた。
兵庫県警記者クラブでも同様の話し合いが持たれ、5月2日にAさんに対する代表取材を行った。取材したのは、幹事社だったNHKなど3社。
問題はその直後に、札幌支局に所属するNHKのB記者が、別途Aさんに電話取材した際に起きた。B記者はAさんと面識はなかったという。そもそもメディアスクラムを避けるために代表取材を行ったというのに、すぐさま個別取材をかけてくるNHKの取材姿勢に問題を感じるが、そこは一旦置いて話を進める。
個別取材の際、Aさんは遺族向け説明会などで得た情報を資料とともにB記者に託した。その際に「これは全社で共有してください」と伝えたとされる。だが、NHKは5月5日、その資料をもとに「KAZU I」は以前から不適切な運航をしていたという独自ネタを出すのである。
その後、Aさんが県警クラブ所属の別の社に「なぜ全社向けに渡した資料をNHKが独自で報道しているのか」とクレームを入れたことで、他社はNHKの“抜け駆け”を知ることになる。Aさんの動きを察知したのか、NHKは5日午後8時、報道の元となった資料を記者クラブに「出元不明の資料」として配布したという。
「他社が怒ったのは、抜かれたからではありません。ご遺族の心情を考え、みんなで話し合って代表取材としたのに、NHKが立場を利用してご遺族を裏切ったからです。しかも、NHKは幹事社だった。その後の対応もふてぶてしいもので、いくら説明を求めても、『取材に関するプロセスは言えない』などと説明責任を果たそうとしない。キャップ同士の話し合いではらちがあかず、支局長クラスでも話し合いが持たれましたが、最後まで納得する説明がなかった」(前出・デスク)
そして、“追放”が決まったというのだ。兵庫県警記者クラブは「デイリー新潮」の取材に対して、
「県警記者クラブの取り決めに反する行為があり、適切に対応しました」
とだけ回答。NHKにも取材を申し込んだが、期限までに回答はなかった。B記者が兵庫県警記者クラブに所属していなかったことに、話がこじれた原因がありそうだが、NHKの取材に遺族に寄り添う姿勢が欠けていたとは言えるのではなかろうか。