東京大学の黒山和幸助教、平川一彦教授、荒川泰彦特任教授、權晋寛特任准教授らは、「半導体量子ドット」と呼ばれる電子の個数が制御可能なナノ構造(ナノは10億分の1)を導入し、数個の電子とテラヘルツ電磁波のハイブリッドな量子状態を生成、観測することに成功した。量子情報の伝送や、大規模な固体量子コンピューターなどへの応用が見込める。
研究チームは「スプリットリング共振器」と呼ぶテラヘルツ帯域(テラは1兆)に共鳴周波数を持つ半導体基板上に作製した光共振器と、ヒ化ガリウム製の半導体量子ドット中に閉じ込めた電子を強く相互作用させた。その結果、光と電子の両方の性質を持つハイブリッドな量子結合状態を生成できた。
ハイブリッドな量子状態を使えば、電子が持つ量子情報をテラヘルツ電磁波を介して遠方に運べる。半導体量子ドットを用いた量子コンピューターの大規模化のほか、高速な情報処理や高温超電導物質の探索、高機能な化学材料の開発につながると期待される。
中国の量子コンピューター開発が、また一歩前進した。
本源量子計算科技(Orijin Quantum Computing Technology)が開発した第3世代超伝導量子コンピューター「本源悟空(Origin Wukong)」は1月6日、オンラインでの運用を正式に開始し、世界中のユーザーに期間限定で無料公開された。同社の発表によると、2月1日午前11時時点で、94カ国・地域のユーザー延べ100万人がアクセスし、14万2233件の演算が完了している。うち、米国からのアクセスが最も多かった。
本源量子は中国初の量子コンピューティング企業で、すでに自社開発した第1世代と第2世代の本源悟空を中国国内のユーザー向けに提供している。また、中国初の量子チップ生産ラインを設けている。
次世代計算機「光量子コンピューター」の計算を担う素子「量子ビット」にエラーを訂正する機能をもたせることに成功したと、東京大や情報通信研究機構(NICT)などのチームが発表した。実用的な量子コンピューターの実現につながる成果だという。論文が19日、科学誌サイエンスに掲載される。
量子コンピューターは従来のコンピューターの計算能力を上回ると期待される一方、計算エラーが頻繁に生じる。計算途中でエラーを訂正する仕組みが必要だが、そのためには大量の量子ビットを必要とした。
光量子コンピューターは、量子ビットとして、超伝導材料などの物質ではなく光を使う。光方式は室温で動作し、大型の冷却設備が不要で、小型の装置で大規模な量子計算ができるメリットがある。しかし、ほかの方式と違い、誤り訂正の仕組みがないのが課題だった。
チームは、高性能な光子検出器を開発し、「GKP量子ビット」という特殊な光の状態を作り出すことに成功。計算のぶれを量子ビットで修正する手法を開発した。研究を率いる東京大の古澤明教授は「大規模な量子コンピューターで誤りを訂正できる段階に来た。時代の変わり目だ」と意義を強調。成果の事業化に向け、9月をめどに新興企業を設立する方針を明らかにした。
北海道大の富田章久教授(量子情報科学)の話「従来は難しいとされてきた、光方式での誤り耐性型量子コンピューターの実現に一歩近づく成果だ」
引用元 小芦研究室のページ
量子系におけるランダムなダイナミクスは、古くは量子カオスとの関連において研究されてきました。近年、そのような「量子ランダムネス」は量子情報処理の極めて有用な資源であることが判明し、量子通信・量子計算・量子暗号・量子技術の実験検証など、多岐に渡って応用されています。また、素粒子物理や強相関系の物理においても量子ランダムネスが重要な役割を果たすことが徐々に明らかになってきており、その文脈では「量子ランダムネス」は「情報スクランブリング」と呼ばれています。本研究室では、量子ランダムネスや情報スクランブリングの理論発展と、量子情報および基礎物理への応用を見据えた研究を行っています。具体的なテーマは以下の通りです。
- 量子ランダムネスを用いた量子誤り訂正
量子ランダムネスを用いると、性能のよい量子誤り訂正符号を生成することは古くから知られています。この「ランダム符号化」と呼ばれる手法は長らく証明のための一手法として使われており、実際にそれを実装するということは考えられてきませんでした。しかし、近年の量子ランダムネスの理論進展と実験技術発展によって、ランダム符号化を実際に実装すると言う可能性も議論され始めています。本研究室では、その方向性を更に推し進めるために具体的な数値計算等を用いた研究を行っています。
- 量子カオスと量子誤り訂正
量子カオスは量子ランダムネスを実現する典型的な例になっています。一方で、上述の通り、量子ランダムネスと量子誤り訂正は密接な関係にある訳です。このような状況に着目し、本研究室では、量子カオスと量子誤り訂正を直接的に結びつける研究を行っています。
- 量子ランダムネスと量子ホログラフィ原理
量子ホログラフィ原理とは、「重力理論」と「重力のない量子場の理論」の間の双対関係に関する予想で、AdS/CFT対応を主な具体例として基礎物理学において盛んに研究が行われています。その予想に基づき、近年、古典的なブラックホールの双対は量子ランダムネスを持つカオス系である、という提案がなされており、その提案に基づいてブラックホールの情報喪失問題などの研究が進められています。本研究室では、(その双対関係の仮定の元で)量子ランダムネスを用いた"ブラックホール"の解析を進めています。
量子力学の法則に基づいて動作する量子コンピュータ(QC)は、素因数分解や量子多体系のシミュレーションなど、いくつかの計算タスクにおいて古典的なコンピュータよりも高速になることが期待されている。過去10年間で、量子コンピュータの研究開発は急速に進展した。現在では、何百もの物理的量子ビットが自由に利用できるようになり、特定の計算タスクにおいて古典コンピュータを凌駕する驚くべき実験をいくつも見つけることができる。その一方で、QCの典型的な利用法がどのようなものであるかは不明である。ここでは、arXivのquant-phセクションに投稿され、そのアブストラクトでQCを使用したと主張している論文について広範なサーベイを行う。QCの研究開発の現状を理解するために、採用されている量子ビットの数、QPUベンダー、応用分野などの記述統計量を評価した。その結果、年間の論文数は増加傾向にあり、量子容積(QV)の増加に伴い、採用されている量子ビットの数は6~10個程度であることがわかった。プレプリントの多くは、量子機械学習、凝縮系物理学、量子化学などのアプリケーションに費やされており、量子エラー訂正と量子ノイズ緩和は他のトピックよりも多くの量子ビットを使用している。これらのことは、QVの増加が基本的に重要であり、量子エラー訂正や、より多くの量子ビットを持つ浅い回路を用いたノイズ緩和の実験がより多く行われることを示唆している。
A comprehensive survey on quantum computer usage: How many qubits are employed for what purposes?
Quantum computers (QCs), which work based on the law of quantum mechanics, are expected to be faster than classical computers in several computational tasks such as prime factoring and simulation of quantum many-body systems. In the last decade, research and development of QCs have rapidly advanced. Now hundreds of physical qubits are at our disposal, and one can find several remarkable experiments actually outperforming the classical computer in a specific computational task. On the other hand, it is unclear what the typical usages of the QCs are. Here we conduct an extensive survey on the papers that are posted in the quant-ph section in arXiv and claim to have used QCs in their abstracts. To understand the current situation of the research and development of the QCs, we evaluated the descriptive statistics about the papers, including the number of qubits employed, QPU vendors, application domains and so on. Our survey shows that the annual number of publications is increasing, and the typical number of qubits employed is about six to ten, growing along with the increase in the quantum volume (QV). Most of the preprints are devoted to applications such as quantum machine learning, condensed matter physics, and quantum chemistry, while quantum error correction and quantum noise mitigation use more qubits than the other topics. These imply that the increase in QV is fundamentally relevant, and more experiments for quantum error correction, and noise mitigation using shallow circuits with more qubits will take place.
東京大学大学院理学系研究科の山崎隼汰助教と同大学大学院工学系研究科の小芦雅斗教授は、量子コンピュータの高効率性と高速性を両立するために、誤り耐性のある計算手順の新しい仕組みを提案しました。
大規模な量子コンピュータでは、ノイズの影響で量子ビット(注1)に生じるエラーを訂正しながら誤り耐性のある計算手順を踏むことが不可欠です。この手順は一般に複雑で、さらに多数の量子ビットを追加する必要があるため、そうした中で量子ビット数の高効率性と計算速度の高速性を両立した計算手順を設計しなければならないという難しい課題がありました。初期に提案された手法は、1個の量子ビットをノイズから守る単純な符号(注2)を入れ子構造にして使うことでエラー訂正能力を高めていましたが、大量の量子ビットが必要で効率が悪いという問題がありました。最近では、多数の量子ビットを守る複雑な符号を入れ子にせずにそのまま使うことで効率性を高める提案もありますが、複雑な符号を使うために計算速度が大きく低下してしまうという問題がありました。今回の研究では、複数の量子ビットを守る符号を特殊な入れ子構造にして使う手法を新たに開発することで、高効率性を達成しつつ高速性も損なわない計算手順を初めて見出しました。誤り耐性のある量子計算の高効率化・高速化を同時に達成した本研究の成果は、全世界的に進んでいる量子コンピュータ開発における基盤技術として今後の幅広い活用が期待されます。
※以下は添付リリースを参照
リリース本文中の「関連資料」は、こちらのURLからご覧ください。
参考画像
https://release.nikkei.co.jp/attach/666838/01_202401111510.png
Time-Efficient Constant-Space-Overhead Fault-Tolerant Quantum Computation
Nature Physics (2024)
概要
量子コンピュータを大規模化し、古典計算を大幅に高速化するためには、フォールトトレランス(耐故障性)が必要である。従来、フォールトトレラント量子計算のためのプロトコルは、論理量子ビット1つに対して多くの物理量子ビットを使用するため、過剰な空間オーバヘッドを要求していた。低密度パリティ検査符号の量子アナログを用いた最近のプロトコルは、論理量子ビットの数に応じて増加することなく、一定の空間オーバヘッドで済む。しかし、このプロトコルを実装するために必要な処理時間のオーバーヘッドは、計算ステップ数に応じて多項式的に増大する。このような問題点を解決するために、本研究では、量子低密度パリティチェックコードを1つだけ使用するのではなく、複数の小さなサイズの量子コードを連結して使用することで、コンスタントスペースオーバーヘッドのフォールトトレラント量子計算を実現する手法を提案する。本研究では、異なるサイズの量子ハミング符号を連結する技術を開発する。その結果、一定の空間オーバヘッドと準対数の時間オーバヘッドを同時に達成する低オーバヘッドのプロトコルを構築した。このプロトコルは、既存のコンスタントスペースオーバーヘッドプロトコルとは異なり、デコーダの実行時間が一定でない場合でもフォールトトレラントである。このコード連結アプローチにより、空間オーバヘッドが実現可能な範囲で制限され、時間オーバヘッドが無視できるほど短い、大規模な量子高速化が可能になる。
時間周期系(フローケ系)は最も興味深い非平衡系の一つである。時間に依存しないハミルトニアンのエネルギー固有値や固有状態の計算は、古典計算でも量子計算でも中心的な問題であり、準エネルギーやフローケ固有状態は重要なターゲットである。しかし、これらの計算には時間依存性があり、Sambe空間形式論によって時間非依存の固有値問題にマッピングすることができるが、その代わりに無限次元空間を追加する必要があり、時間非依存の場合よりも計算コストが高くなるようである。時間非依存の場合と同じように効率的に計算できるかどうかはまだ不明である。本研究では、この問題を解決するために、望ましい精度を達成するためのSambe空間のカットオフを厳密に導出し、そのカットオフに基づいて準エネルギーとFloquet固有状態を計算する量子アルゴリズムを構成する。量子アルゴリズムは、時間依存ハミルトニアンのエネルギー固有値と固有状態を出力する最適アルゴリズムである量子位相推定(QPE)のように、保証された精度で準エネルギーとフローケ固有状態を返す。時間周期性はサンベ空間に追加次元を与え、固有状態を急峻にする一方で、アルゴリズムのクエリ複雑度はオールワブルエラーでほぼ最適なスケーリングを達成する。さらに、これらのアルゴリズムの副産物として、Floquet固有状態準備のための量子アルゴリズムも整理し、好ましいギャップFloquet固有状態を、ギャップにおいてほぼ最適な問い合わせ複雑度で決定論的に実装することができる。これらの結果は、時間依存の困難さにもかかわらず、準エネルギーとフローケ固有状態が時間依存の場合とほぼ同等の効率で計算できることを示しており、量子コンピュータ上での非平衡系の正確で高速なシミュレーションに光を当てるものである。
Nearly optimal quasienergy estimation and eigenstate preparation of time-periodic Hamiltonians by Sambe space formalism
Time-periodic (Floquet) systems are one of the most interesting nonequilibrium systems. As the computation of energy eigenvalues and eigenstates of time-independent Hamiltonians is a central problem in both classical and quantum computation, quasienergy and Floquet eigenstates are the important targets. However, their computation has difficulty of time dependence; the problem can be mapped to a time-independent eigenvalue problem by the Sambe space formalism, but it instead requires additional infinite dimensional space and seems to yield higher computational cost than the time-independent cases. It is still unclear whether they can be computed with guaranteed accuracy as efficiently as the time-independent cases. We address this issue by rigorously deriving the cutoff of the Sambe space to achieve the desired accuracy and organizing quantum algorithms for computing quasienergy and Floquet eigenstates based on the cutoff. The quantum algorithms return quasienergy and Floquet eigenstates with guaranteed accuracy like Quantum Phase Estimation (QPE), which is the optimal algorithm for outputting energy eigenvalues and eigenstates of time-independent Hamiltonians. While the time periodicity provides the additional dimension for the Sambe space and ramifies the eigenstates, the query complexity of the algorithms achieves the near-optimal scaling in allwable errors. In addition, as a by-product of these algorithms, we also organize a quantum algorithm for Floquet eigenstate preparation, in which a preferred gapped Floquet eigenstate can be deterministically implemented with nearly optimal query complexity in the gap. These results show that, despite the difficulty of time-dependence, quasienergy and Floquet eigenstates can be computed almost as efficiently as time-independent cases, shedding light on the accurate and fast simulation of nonequilibrium systems on quantum computers.