- 過酸化水素(H2O2)は、漂白剤や消毒剤として重要な化学物質であり、燃料電池発電の燃料となるエネルギーキャリア※1として有望視されているが、水素ガス(H2)を生成させることは困難であり、水素キャリアとしては利用できないと考えられていた。
- 本研究開発において、リン酸(H3PO4)とメタルフリー粉末触媒※2をH2O2水溶液に加えて太陽光を照射する方法により、H2O2からH2を生成させることに成功した。
- H2O2を水素・エネルギーキャリアとする新エネルギー社会の実現に向けての社会実装が期待できる。
研究の背景
H2O2は燃料電池発電のための燃料として利用できるため、再生可能エネルギーの貯蔵・輸送を担うエネルギーキャリアとして注目を集め始めています。H2O2をエネルギーキャリアとして社会実装するには、水素キャリアとしても利用できる必要があります。すなわち、H2O2からH2を生成させる光触媒技術(H2O2→H2+O2, ΔG○=+131kJ mol-1))を開発する必要があります。これには、光励起により生成した正孔によるH2O2の酸化(式2)と、励起電子によるH+の還元(式3)を進めることが必要です。ところが、H2O2の還元(式4)がH+の還元よりも優先して進行するほか、通常、光触媒として用いられる金属・金属酸化物触媒を用いた場合には、表面でH2O2が分解されてしまいます(式5)。そのため、これまでH2O2水溶液からH2を生成させた例はなく、H2O2を水素キャリアとして利用することはできないと考えられてきました。
特記事項
本研究成果は、英国時間2020年7月7日(火)10時(日本時間7月7日(火)18時)に英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました。
タイトル:"Photocatalytic hydrogen peroxide splitting on metal-free powders assisted by phosphoric acid as a stabilizer"(リン酸を安定化剤とするメタルフリー粉末触媒上での過酸化水素の水素と酸素への光触媒的分解反応)
著者名:Yasuhiro Shiraishi, Yuki Ueda, Airu Soramoto, Satoshi Hinokuma, and Takayuki Hirai
DOI: 10.1038/s41467-020-17216-2
本研究は、JST戦略的創造推進事業個人型研究(さきがけ)「再生可能エネルギーの輸送・貯蔵・利用に向けた革新的エネルギーキャリア利用基盤技術の創出」、および科学研究費助成事業(新学術領域研究(公募研究))「光合成分子機構の学理解明と時空間制御による革新的光-物質変換系の創製」(いずれも、研究代表者: 白石康浩大阪大学太陽エネルギー化学研究センター准教授)の支援により実施されました。