大義名分(朱子学)のため1800人も犠牲を出した水戸藩士の中でイギリスに密航した者はいない。有名な長州ファイブ井上聞多、遠藤謹助、山尾庸三、伊藤俊輔、野村弥吉の他、薩摩だけでも19名、最終的に25名がイギリスに密航している実績と対照的である。 ここに謎解きのヒントがある。桜田門外ノ変が大久保利通の島津久光公への進言によって高橋多一郎が連携する薩摩大坂挙兵が頓挫したことも単なる偶然ではない。明治維新の舞台は日本から出たものではないところに秘密がある。
雲なき坂の上の時代あとは転がってゆくだけ
もしも自分が100年前に生まれていたら(今より100歳年上なら)何をしていただろうか。有名人で言えば血盟団事件で暗殺される團琢磨と同世代だったら、秋山真之は10歳年下。秋山好古は同学年だったら。。。坂の上の雲の時代は大きな変化の時代だった。こう考えるのは21世紀現代が同じような環境変化、しかも雲なき坂の上の時代だからだ。
1858年 0歳 吉田松陰は前年に処刑されすでにいない。藤田東湖はすでに伝説の人
1868年 京都紫宸殿で戦った水戸藩郷士の肉親を慶応4年に依上村に帰郷し、祖父を迎えるのは10歳の時、物心と正義をみる心は備わっているだろうが、何事も起こし得ない無力の少年。もし裕福であれば福沢諭吉の英語塾、慶応義塾と名を変える学校に憧れていた事だろう。福沢は好古と同じく崇敬の存在であった。富国強兵の時代ゆえ、おそらく親の影響を受けて軍人をめざしていたことだろう。
この時、東郷平八郎はまだ薩摩の戦艦春日の三等士官砲手になったばかり。
1877年 19歳 西郷が自決する。青春期に大きなショックを受けるとともに、西郷の因果と応報を考えた事だろう。陸軍を目指していれば陸軍士官学校3期となるだろう。
1878年 20歳 大久保暗殺。 この年東郷平八郎は英国留学から帰る。海軍を目指していれば東郷が目標だったろう。この年の竹橋事件では自由民権の影響を受けた陸軍の不満分子の大叛乱がおきている。たった10年で日本は明治維新を否定し始めていた。民主主義的政治は始まりそうになかった。
1881年 大隈重信参議罷免 日本がイギリスのような立憲君主国にはならないと決まる瞬間。落胆を感じたことだろう。
1884年 加波山事件 1882年自由党結成 自由民権運動が激化する様を県下のそばで見ることになる。激であれば、5歳年上の鯉沼九八郎や国会開設運動の自由党、11歳年上の下館の富松正安に会っていたかもしれない。
1889年 大日本国憲法発布
1918年 60歳 11月11日第一次大戦終了
このような時代の中であれば、30歳まではどんどん変化する新しい社会に乗り遅れまいと猛勉強した事だろう。そして勉強するほどに、他方で大きく矛盾する社会に怒りと焦りをつのらせていただろう。5年後の日清戦争までの矛盾に引き裂かれた國のなか、小さな市民は明日を生きる事しか考えられない。それでも自分は軍人をつづけただろうか?やはり福沢の影響(脱亜論)を受けて亜細亜の後進性に見切りをつけて、日本一国で先進国になろうとしていたことだろう。誰もが考えた結論が20世紀に入り、思いもしなかった自己運動を始めてしまう。頭山、伏見宮など日本を狂わせたのも坂の上の雲の世代、遅れてきた世代だ。
- 1859年(安政6年) - 常陸国下館藩士の家に生まれる。
- 1884年(明治17年) - 加波山事件を起こし逮捕される。
- 服役を終えた後は郷里の下館に戻り、剣道塾を開設する。
- 1905年(明治38年) - この年に刊行された『東陲民権史』の資料収集の中心的役割を務める。
- 1949年(昭和24年) - 没。享年91。
1910年膨張し巨大化した軍事費と2010年膨張した国債費は相似形の桎梏となって国民を苦しめている。どちらも無批判に国家の成功体験を追従したために膨らみ上がった桎梏だ。だから何度もコースを変えるべきという議論はあったが、目の前の環境変化に適応できない階層の声が大きく國のコースを決めていた事によって大きな過ちを放置した。同じ敗戦が起きようとしている。團琢磨は公費留学第一世代で、その技術的知識を活用して財閥三井に三池炭坑開発を通じた成長に貢献したが、経済成長は一本調子ではない。そのときに團も成功体験を捨てきれない。現代日本も過去の栄光を捨てきれていない。歴代の大蔵官僚は、いつか赤字国債を発行しなくてもいい経済が還ってくると期待する政治家に呼応して公共事業に税金を突っ込んで来た。
両者は無責任というよりは、外部環境に大きな軍事的/経済的な不安をかかえており、国家として選択肢の無い状態が継続する事に耐えられなかった。その後の歴史を知る者から見ると、変わらなければならなかった世代が、まさにその最先頭にいた坂の上の雲の世代だった。
「継続的に成功したい者は、時代とともに自分の行動を変えなければならない。」
マキャヴェッリ