公開メモ DXM 1977 ヒストリエ

切り取りダイジェストは再掲。新記事はたまに再開。裏表紙書きは過去記事の余白リサイクル。

今読んでる『愚者の毒』宇佐美まこと

2017-12-19 19:01:35 | 今読んでる本
『「毒で死ぬ人もいれば 、同じ物質が薬となる人もいるんですね 」 「その通り 。利用の仕方によって変わる毒素は 、千変万化の霊薬ですね 。だからね 、達也さん 」達也はすっと顔を上げた 。 「身の内に毒をお持ちなさい 。中途半端な賢者にならないで 。自分の考えに従って生きる愚者こそ 、その毒を有用なものに転じることができるのです 。まさに愚者の毒ですよ 」先生は 、由起夫さんを受け入れて共に暮らすと決めた時 、愚者に徹することにしたのだ 。でも先生の身の内にあった毒は 、奥様には薬になって命を延ばした 。』

薬が毒ということもある。ミステリー小説なので中身については触れないが タイトルからしてニーチェの格言を下敷きにしているのだろう。自分の考えに従って生きる愚者になるには自分のイマジネーションを信じる力が重要になる。この国では世間から独立した知識を持っているだけで苦痛なのだ。『火花』又吉直樹のえがいた世間と神谷との乖離は、知識とイマジネーションの世間との乖離である。この場合笑いが愚者の毒に相当する。この苦痛を乗り越えるには何故苦痛なのか正面から凝視する必要がある。

多くのことを中途半端に知るよりは何も知らないほうがいい。
他人の見解に便乗して賢者になるくらいなら、
むしろ自力だけに頼る愚者であるほうがましだ。
―「ツァラトゥストラかく語りき」―



本作品は 2 0 1 6年 1 1月 2 0日 、祥伝社文庫より刊行された。そこに収載された杉江松恋の解説によれば、

『複雑な犯罪計画の顚末を激しい感情のうねりと共に書き 、その中では伏線の埋設と回収に代表される技巧を駆使して第一級のミステリ ーに仕立て上げた 。作者の技量には全幅の信頼を置いていいと思うが 、読みながら特に心に残ったのは 、登場人物の声が聞こえてくる第三章だった 。この個所における作中人物の語りは 、愚かにしか生きられない人間の哀しみを代弁し 、同時に精一杯生きる者たちへの心からの共感を表明するものだ 。その語りの余韻を耳に感じながら 、静かに本を閉じる 。また一冊 、よい小説を読んだ 。』
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